137話 四本の矢と謀神への道
【河内国/芥川山城 三好家】
「ようこそ。審判の間へ」
「フフフ。審判の間とはまた大仰な。……そう油断した者は皆死んでいったのですかな? その割には血の匂いはしませんな?」
「フン。審判の間と言ったが、それはワシが居る場所で一対一の場合に自動的にそうなるだけじゃ。幸いにしてまだ誰も死んでおらんがな。まぁ、この場に案内される人間は厳選しておるしのう」
「ほうほう? それは三好殿の家臣の場合の話ですかな?」
「そうじゃ。問うに値する人間かどうか? 値しないと最初からわかっとる人間は絶対に呼ばぬし、値するも死なす可能性のある人間も絶対に呼ばぬ。それに呼ばぬからと言って無価値と言う訳でも無い。役目がある人間を死なせる訳にもいかん。呼ばれるから特別扱いと言う訳でも無いし、呼ばぬから不要と捨てる訳でも無い。ワシも全身全霊を掛けて見定めておる。志向の違う人間を全て殺していては、最後には自分一人になってしまうわ。毛利殿はそう思わんか?」
三好長慶と毛利元就は一対一で対峙して居た。
僅かな供で三好家に乗り込んで来た元就は、型通りの挨拶もそこそこに別室に通された。
親子程に年の離れた二人であるが、若い長慶は元就に対して全く引けを取らない覇気を放出し、元就も若い長慶を侮らず、己に匹敵する実力者であると舌を巻くと共に、楽しくなる気持ちを懸命に抑えた。
「いやいや全く。全くもってその通りですな。究極的には己を理解するのは己のみ。志向の違う人間を束ねてこそ為政者でありましょう」
「その通り。戦国の世にあって勘違いする者が多くて困る。力があれば他者を屈服させられると。力はかくも人を狂わせるのかとな。出来の良し悪しに関わらず大切な家臣であり民なのだからな」
「成程成程。家臣や民は確かに大切です。……では他家の人間は? 遠く安芸の国にも噂は聞こえてきますぞ? 『三好は深淵に至る策を練っている。その助けとなる大名を値踏みしている』と」
「深淵の策か。一体どんな噂か気になる所であるが。まぁ良い。それにしても値踏みか。そうじゃな。否定はせんよ。我が家臣でも片手で足りる人間しか値踏みしておらぬが、他家の人間では毛利は6番目じゃな」
「6番目でしたか。これは随分出遅れてしまいましたな」
今川、織田、斎藤、長尾、北条、その次が毛利であるが、毛利が認められるかどうかはまだ不明なので、名前は伏せられた。
「出遅れてはおるが、安心するが良い。出遅れた者には遅れたなりの役割がある。これは早ければ良い、遅ければ悪いと言う訳では無い」
「ほう?」
「じゃが、気を付ける事じゃ。先程『志向の違う人間を殺しては最後は自分一人となってしまう』と言ったが、力を持つ者は別じゃ。特にこの乱れた世においてはな。下らぬ志向を持つ者は生きてこの部屋を出られぬ。幸いにして全員生還したが、言葉一つ間違えたら、お主が最初の一人になる可能性は十分あると肝に銘じよ」
「ハハハ! これは気を引き締めなければなりませぬなぁ!」
元就の笑顔共に全身が邪気を帯びる。
『さぁ、かかって来い』
そう言っているのだ。
長慶もそれを受け取り問答が始まった。
「では問おう。この乱世の原因は?」
「それは―――」
元就は己の考えを語った。
長慶と様々な問答が繰り広げられる。
問答が終わり長慶は天を仰いだ。
「残念だ」
その言葉と同時に、自身の左側に置いた刀を抜き放ち、横一線に薙ぎ払う。
「貴様は天下に、この世に必要な人材では無い。ここで死んでもらう!」
いくら謀聖毛利元就と言えど、既に老境著しい体である。
長慶の抜刀を躱せる身体能力は、とうの昔に失って久しい。
こうして毛利元就は、三好長慶に殺されたのであった。
【出雲国/月山富田城 尼子家】
元就の惨殺から数日後。
尼子義久は石見銀山の防衛と真新宮党の訓練をしていたが、父の晴久が転がり込んで来た。
義久を呼びつける刻も惜しんだのか、随伴する家臣を何馬身も引き離し、ほぼ単身である。
「ち、父上? 一体何事ですか?」
「元就が死んだ!」
「元就が死んだ? そうですか。元就が没したのですか。それを伝えにわざわざここへ? 真新宮党を使って倒したかったですが仕方ありますまい。流石の元就も歳には勝てませぬな」
晴久の余りの狼狽ぶりに義久は只事では無い雰囲気は察した。
察したが、流石に元就が死んだのは想定内であった。
そもそも元就は高齢者である。
いつ死んでもおかしくない。
それを、こんなに慌てふためいて報告に来る父の判断の衰えを心配したが、もちろん晴久は衰えていない。
義久の範囲外だったのは、死因と原因である。
「三好長慶が殺りおった!」
「……は? 長慶が元就を殺した!?」
死因は斬殺。
原因は三好長慶。
元就は芥川山城で三好長慶に殺された。
流石にこれは想定外であった。
「そうじゃ!」
「一体何故……? 三好はむしろ毛利と組む公算が高かったはず!」
三好が尼子を牽制するには、毛利は最高の勢力だった。
誰がどう考えても、三好と毛利は組むと考えられていた。
だからこそ、尼子はそうはさせじと組まれる前に毛利に止めを刺すべく動いていたのに、三好の失策も失策、大失策の暴挙で三好毛利の同盟は消えてしまった。
そんな事も理解出来ない三好長慶とは思えないが、現実として起きてしまった事件である。
「分からん。全く分からん! 内乱で毛利が騒がしく動いておると思ったらこの有様じゃ。しかしこれは絶好の好機!! 毛利を取り込むは今ぞ!!」
「取り込む? 滅ぼすのではなくて? 最大の障壁である元就が死んだのなら、毛利を滅ぼす事など容易では?」
てっきり出陣の命令が来ると思っていた義久は、肩透かしを食らい疑問を口にした。
当然と言えば当然の疑問であった。
「たわけ! 全く違う!」
そんな義久の意見を一喝する晴久。
「単に元就が病死とかであれば今すぐにでも攻め込むが、長慶に殺されたのなら話は変わる! 毛利の怒りを三好との戦いに利用しないでどうする!? 確かに真新宮党を使って毛利を倒す命を下したが、過去の命令に固執するは大間違いぞ!」
命令を『遵守するな』とは理不尽な言い分かもしれないが、刻一刻と状況は変わるものである以上、しかも千載一遇の好機である以上、後で弁明するなりして、例え命令違反で咎められても毛利を取り込む判断をして欲しい。
晴久は義久に対しそう説いた。
確かに命令は絶対である。
自分勝手に気ままに動いては統率もクソも無い。
だが、最前線の現場の判断と言うのも、重要なファクターであるのも間違い無い。
命のやり取りが常日頃の戦国時代である。
命令と共に沈むか、自己判断で浮上するか?
命令を守って大望を成し遂げるか、自己判断で崩壊するか?
そんな究極のケースバイケースを、五感で判断するのも武将の役割であろう。
「……悪かった。余りの好機に興奮してしまったが、しかし―――」
ただ、確かに理不尽過ぎる叱責である。
まだまだ若造の義久にその判断を求めるのは酷であると、我に返った晴久は謝った。
「いえ、お気になさらずに。その考えに至らぬ某が愚かでした。確かに毛利と三好はこれで敵対関係。敵の敵は味方。三好は墓穴を掘ったと言う事ですな?」
「そうじゃ。これで中国地方の統一は成った! 真新宮党は暫く待機し毛利と交渉に入る。破格の条件を提示してでも取り込んで見せる!」
「後は交渉役ですな?」
「陶を行かせる。志願して来おったわ」
真新宮党が設立され、当初毛利担当だった陶晴賢は、実は立場が危うくなっていた。
ここで存在感を示さねば、煙の如く歴史から消えてしまう恐れがあった。
「対毛利の役目がお主に移って焦っておるのじゃろう。とは言え奴は毛利と共に戦い、時には争い、毛利を一番理解しているのも間違い無い。毛利に対し破格の条件を飲んでも良いと言ったが、そこは交渉事。どこに落とし穴があるか分からん。矜持を傷つけず、状況を把握させ、利害を解き、膝を折らせる理由を示す事が出来るのは、自身も我らに下った奴が適任じゃ」
「ここで功績を挙げるなら使い道があるし、ダメなら使い潰すのみ、と言う事ですな?」
「その通りじゃ」
晴久は義久の答えに満足して頷いた。
これが天下を目指す勢力の天運なのだろうか。
思わぬ形で面倒な障害が消えた事に、流れを感じる尼子親子であった。
【安芸国/吉田郡山城 毛利家】
元就が三好長慶の面会に赴く前の話である。
元就と息子達は散々議論を重ねたが、元就の翻意を促すが叶わずとうとう折れた。
『―――父上を止める事能わず、か。これぞ毛利元就なのだろうな』
『経久翁も超える存在か。想像もつきませんな』
『日ノ本に謀聖は数あれど、謀神と称えられるのは父上だけとなりましょう』
隆元、元春、隆景は父の説得を諦め、最後の望みを叶えさせるべく見送る決意をした。
『よし。では三好に会うて来るのだが……。これから話す事は遺言と思って聞け』
元就は、背後に準備をしていた矢を取り出すと、無造作に折った。
『矢は一本では容易く折れてしまうが、三本合わせれ簡単には折れぬ』
今度は三本の矢を折ろうとして出来なかった。
老齢の元就には、既に矢を折る力が失われていた。
それを見た隆元、元春、隆景らの兄弟達は父の老いに軽くショックを受けた。
これがつい先日まで、領国内を駆け回っていた男の腕力なのかと。
故に、父を安心させる為にも考え答えた。
『確かに。折るには何かしらの工夫や力が必要ですな』
『うむ。……ん?』
『では太郎兄上(毛利隆元)と、某が矢の両端を持ち、力に優れる次郎兄上(吉川元春)が手刀で叩き折るのはどうでしょう?』
『成程。3人の力が合わされば束ねた矢とて折る事も能うと。尼子に降った後も協力と工夫で困難を打ち破れと言う事ですな?』
3人は父の遺言を、兄弟での協力の重要性と捉えた。
『……うん。そう言う事を言いたかった訳では無いのだが……ん? そう言う事で良いのか?』
折る事を主軸に置いた話では無く、束ねた矢の折れ難さに準えて、3人協力して一致団結をして欲しいが故の例えをしたかった元就であった。
『……いや、まぁ協力の重要性を説こうと思っておったのは違い無いが。今のはワシが悪かったのか?』
導き出された答えは正に『協力』なので、元就は肯定も否定も出来ず困惑した。
息子達には呆れるやら頼もしいやらであったが、ただ、これから死にに行く覚悟が、覚悟を持ったまま随分和らいだのは確かであった。
毛利元就と言えば『三本の矢』と、誰もが答えるであろう有名なエピソードがある。
臨終間際の元就が、隆元、元春、隆景の3人を呼び、三本の矢に例え結束の重要性を説いたと言われる。
皆様ご存じの通り、力を合わせ矢を折る事に結束を例えたのではなく、束ねて頑強にする事を結束の例えとした故事である。
なお、これは創作の可能性が非常に高い。
史実では、毛利隆元は元就よりも先に亡くなっている。
従って、臨終間際の元就が、隆元を含めた兄弟を呼んだと言うのはあり得無い。
ついでに言えば、元春も出陣中で死に際には間に合わなかったと伝わる。
そんなエピソードを、この歴史上初めて兄弟が揃った状態で話す元就。
もちろん、他の歴史でそんなエピソードがある事など知る由も無い。
知る由も無いが、史実の創作話とは違った解釈で、本来話したかった事とも若干違うが、これからを思えば誤差の範囲であろう。
『いや……。今後の毛利を考えれば、お主らの解釈で間違い無い。3人協力し工夫すれば、どんな束ねた矢であろうとも容易く折れるだろう。それについては教訓状を訂正する』
元就は書状を取り出した。
ビッシリと書き記された教訓状が、兄弟達の前に広げられた。
(長い……)
(なっが!)
(筆マメ過ぎる……)
(眩暈がしてきた)
なお『三本の矢』は創作であるが、元ネタとなったであろう『三子教訓状』との現存する書状がある。
1557年に書かれたその書状は、約3mの超長文になる元就の教訓であり、毛利家の在り方、天下の放棄、兄弟の結束、母の供養など様々な事がクドイ程に書き連ねてある。
この歴史では厳島の失敗で、1557年に書かれる事が無かった三子教訓状は、今この時に合わせて書き上げられた。
史実と若干内容の違う教訓状を兄弟の前に広げる。
たった今訂正された協力の例えも、元就は小さな隙間に書き始めた。
『毛利はこれから天下を目指す。その為にはワシは死なねばならぬ。先程言うた通りだ。厳島の失敗のケジメとしてな』
元就の己の自殺宣言に息子達は反対しなかった。
もう既に散々反対して反対して、それでも元就の意見を覆す事が出来ず、さらに天下を目指す上でも、毛利家存続の上でも最良の手段だと納得してしまったからである。
『三好長慶は各地の大名と面談し色々画策しておるらしい。死を掛けた面談らしいが、その真偽は実際に面談しなければ分からぬがな。もし真実ならワシはそこで死ぬ。殺されるのが最良じゃ。その上で尼子の接触を待て。必ず好待遇で迎えられるハズだ。三好に対して我らの怒りを利用したいからじゃ』
元就の策とは、己の命を犠牲にした毛利家存続と天下への道である。
尼子に中国地方を統一させ、その勢力に加わる。
しかし毛利家から頼み込んでは、不利な条件を飲まなければならないし、使い潰されるのは目に見えている。
しかし、尼子から接触させられるのなら話は違う。
尼子の頼みを聞く有利な立場で交渉を進められるし、対三好に使いたい毛利の力を削ぐ真似は極力しない。
その結果、毛利家は尼子家内の最大勢力として振舞える。
その上で、尼子と協力し三好を倒し、更に尼子の内部から食い破るのが、元就の考えた今の不利から逆転する為の策である。
大友や三好に助けを求めた所で、尼子に対しての防壁や牽制に使われた挙句に、そのいずれかの勢力に使い潰され、滅ぼされるのは目に見えている。
しかし尼子に組する事だけが、天下に繋がる道となる。
老人一人死ぬだけで、尼子は中国地方統一に苦労せず、三好と天下を争う事に集中出来る。
毛利家本体の損害も、老い先短い元就一人の最小限で済む。
『人柱計とでも名付けるか。建築物への人柱など無意味極まり無いが、策に対する人柱は極めて有効じゃとワシの命をもってして証明してやろう。この策でワシは経久翁を超える!』
4人は元就の言葉に頷いた。
『さて陶殿。貴殿とは争った間柄だが、共に大内の家臣として切磋琢磨した仲でもある。かつて隆元の命を救ってくれた事。この元就、忘れておらぬ。此度の計画への合力、頼みましたぞ』
『承ろう』
尼子家に取り込まれた陶晴賢も、密かにこの場に居た。
先程、三子教訓状に眩暈を覚えたのは晴賢である。
『まさかこんな日が来るとはな。縁とは不思議なモノよ。厳島で切腹を思い止まって本当に良かったわ』
毛利家が大内家の家臣時代の話である。
居城が尼子家に攻められ落城寸前になった時、大内家の人質であった隆元は、自分の存在が毛利家の邪魔になると考え自害を目論んだ。
大内家に自分がいると、毛利は降伏出来ないとの判断である。
それを止めたのが陶晴賢であった。
毛利が大内から離れるのを止める目的もあっただろうが、自害を思いとどまらせ元就の救出に向かった経緯があった。
また、吉川元春との親交もあり、義兄弟の契りを交わしており、陶晴賢と毛利兄弟は太い接点で繋がれた間柄であった。
『毛利と貴殿の力があれば将来的には尼子の傀儡も可能。元春の義兄弟なら義理の息子とも言えるだろう。貴殿は毛利にとって4本目の矢じゃ』
かつては毛利と争った敵だが、今は大内の旧臣をまとめつつ、尼子内の対毛利として動いていたが、最近は真新宮党の発足もあり、動きは少ない。
しかし少ない動きとは言え、暇では無い。
尼子を出し抜く野望は衰えておらず、その為なら毛利と手を組む事も厭わない。
その宿敵元就が死を以てして策を完遂させる。
その策に自分が重要な役割として求められている。
興味が尽きない所の話では無い。
尼子内で苦汁の日々を送っている晴賢にとって、魅力的過ぎる話である。
『毛利殿の読み通りなら何れ尼子晴久が接触して来るだろう。その読みが当たるなら陶家としては協力を惜しまぬ。共に尼子を食い潰し三好に対抗しようぞ』
自分の境遇も策に絡めているのは理解出来る。
あわよくば陶家すら、踏み台に過ぎないのと考えているのも理解出来る。
『その通りじゃ。しかしワシが作るのはあくまで筋道。息子達が頼り無いなら使い潰せば良い。息子達も陶家に組み込まれたくなければ懸命に我が死に対し怒りを燃やせ。いや、燃やす演技をしつつ機会を待て。これで天下への道が見えるだろう』
ここまでの覚悟と策を見せられて応えぬ様では、男が廃るとも考える晴賢であった。
『かつて争った毛利殿と手を組む。これ程心躍る出来事は今後もあるまい。兄弟方。過去の遺恨はワシも忘れる。今この時よりな』
『うむ。それには陶家に毛利家との交渉役を務めてもらわねばならぬ。尼子家から誰が派遣されるかは分らぬが、陶殿以外では色良い返事をしない。その面倒くさい毛利との交渉を取りまとめ功績としてもらう』
まずは陶晴賢を尼子の中での地位を盤石にさせる。
毛利との仲を取り持つのであるから功績は随一となる。
『尼子は獅子身中の虫を抱え、三好も西に我等、東で将軍と六角の包囲と勢力を分散させねばならぬ。ならば最後に勝つのは我等である!』
【河内国/芥川山城 三好家】
時間は冒頭に戻る。
(―――こ奴!?)
抜刀する瞬間、三好長慶は毛利元就の口元の笑みを見逃さなかった。
明らかに異変である。
だが、刀は止められなかった。
『貴様! ワザと斬らせたな!?』
『ググッ……! グググ……ッ!! クッ! ……クックック!!』
体勢を崩し倒れた元就は、床に伏しながらも笑っていた。
床から見上げるその眼光は、恐ろしいまでに鋭く輝く。
見下ろす長慶が、思わず怯む程の眼光であった。
『何がおかしい!?』
『我が……最後の策が成ったのだ……! これを……喜ばんでどうする……?』
『何じゃと!?」
『これで……毛利は……尼子に屈する大義名分を得た……。お主のお陰じゃ……』
『……ッ! 貴様! 先程の問答、ワザとフザケタ事を言ってワシに斬らせるつもりだったのか!?』
流石の長慶も、自殺行為が策だとは読めなかった。
『これで三好は毛利の仇……。これで心置きなく膝を折る理由が出来た……。後は尼子の内部から再度毛利を盛り立てていけば良い……。 隆元も一人立ちした今、毛利に後顧の憂い無し……! 我が子達は何れ貴様を凌駕する……』
元就はそこまで言葉を吐いて静かになった。
先程まで長慶を圧倒していた眼光は光を失った。
『毛利元就! ……見事だ。だが、思い違いをしてもらっては困る。尼子と毛利が組んだ所で我等を倒せると思っておるなら、後悔で身を裂かれてもらおう!』
中国地方を制した尼子家は、これで日ノ本で最大勢力を誇る覇者となった。
だからと言って、権謀術数渦巻く中央で長年勝ち抜いて来た三好の力は、支配地域以上の力がある。
『予定を早めるか。もう少し苦しんで欲しかったが、仕方あるまい』
長慶は筆を取り、指示書を書き上げるのであった。
次回の投稿ですが、明日コロナワクチンの2回目を摂取します。
副反応での寝込み具合によっては期間が空くかもしれません。
Twitterにて進捗具合は報告していますが、次回はしばらくお待ちください。




