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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
14章 弘治4年(1558年)力の見せ所
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127話 長尾輝虎

《あいつ自由過ぎるじゃろ……。ワシらとは別口の転生者と言われたら信じるぞ? 前々世と今世の合算でようやく奴を理解したわ》


《そうですね……》


 信長とファラージャは、去り行く背中を見ながらそう思った。

 信長をして『自由過ぎる』と評された人物は、もう豆粒ほどの大きさまで遠ざかった。


 その自由過ぎる人物とは帰蝶の事ではない。


 帰蝶は帰蝶で自由を謳歌しているが、今は負傷療養中であり、そもそも自由のベクトルが違う。

 帰蝶は知らぬ事を貪欲に求める余り行動が自由なのに対し、件の人物は野望故の自由奔放さが溢れ出ていた。

 信長とファラージャの言う自由人とは、長尾輝虎の事である。


 昨年の飛騨、深志での戦から引き上げた長尾景虎は、家臣を放置し家出をしてしまったが、あろうことか、その足で尾張まで単身やってきた。

 護衛も何もいない正真正銘の一騎駆けで、嵐の様に来着し、嵐の様に去っていった。


 上杉謙信になる前の輝虎が、こんな人物だとは思いもよらなかった―――

 輝虎が帰った後に思った率直な感想であった。


《さて、面倒な事になりそうじゃ。どうすべきかな……?》


《考えましょう。考える事が道を切り開くのです!》


《……何をやっても奴の掌で遊ばれそうな気がする。しかしこの狙ったかの様な来訪は出来すぎじゃろ? 奴はどこかで機会を狙っていたのではあるまいな? おい、本当に転生者じゃないだろうな?》


《そんな事は……無いハズです。戦国時代に転生させる事が出来るのは、私しかいないのです!》


 ファラージャは5次元空間で確認を取るが、信長達以外に転生した形跡は見られない。

 転生は1億年先の未来の最先端技術にして、ファラージャしか成し得ない成果。

 未来では転生技術よりも宗派の争いが盛んで、そもそも転生技術は余人が知る技術ではない。

 それはつまり、長尾輝虎は生粋の戦国時代の人間であり、確かな野望と意志をもって生きていると考えるしかない。

 信長とファラージャは長尾輝虎について、丁丁発止の言葉を交わしたが、まさに()()()こんなやり取りをしている最中であった。

 まさに噂をすれば影―――


 輝虎が来る直前、信長とファラージャは上杉謙信について話し合っていたのだが、その噂の主が、まさに噂をすれば影とでも言うべきタイミングで来訪したのであった。



【尾張国/人地城 織田家】


 その先程―――

 昨年末の死闘から幾日も経過し、徐々に情報が集められ長尾家の暗躍の全貌が明らかになりつつあった。

 長尾が、織田と武田の争いに電撃参戦したと思ったら、即座に武田を裏切るが、その裏切りで織田連合軍は九死に一生を得た事実。

 だが、飛騨の一向一揆の勃発。

 しかも信長弟の信行に飛騨一揆情報を持たせ上での開放と、飛騨で武田を圧倒した織田軍が、深志で退却するのも、完璧に計算予測してのけた鮮やかな見極め。


 これらの事実から導き出される事は何なのか?

 信長は前々世の事実も踏まえて考え込む。


《……分からん》


 率直な答えであった。


《結果から察するに、もう本当にやりたい放題やったのじゃろう。ではその先に奴は何を見ておる?》


《さ、さぁ……?》


 歴史を知るファラージャでも理解できず、曖昧な相槌を打つが、信長は返事を期待して問うた訳ではなく、一人でブツブツ話し始める。


《何も目的が無く、単なる思い付きなら凶人そのものじゃが、上杉謙信はそんな愚かな奴ではない。そんな奴なら前々世でも楽な相手じゃ。ならば絶対に何か思惑があるはず。だが、それは奴にとっては大博打。しかし奴は博打に負けても良いと思ってる節がある》


 本人以外、味方も含めて他人の視点から見ると、景虎の行動は行き当たりばったりココに極まれりとでも言うべき暴走である。

 何か一つ間違ったら、長尾家は深志で滅んでいたかもしれない。

 そんな無謀や無茶が理解できない景虎ではない事は信長も理解している。

 だが、それでもなお景虎が承知の上での行動ならば、それは最早、景虎は家が滅んでも良いと判断しているとしか思えないのが、信長の最終判断であった。


《会ってみたい。何とか接触出来ぬか……?》


 信長は、どうしても景虎と接触してみたかった。

 手強い敵と認識しているが、前々世以上に俄然興味が湧いてきたのである。

 そんな信長の希望は即座に叶えられた。


「と、殿! 来客なのですが……!」


 人地城の兵士が、慌てて駆け込んで報告をする。

 本来なら小姓なりを通じて伺いを立てるのが礼儀であるが。

 前々世でも礼儀には厳しい信長であったが、今の織田家ではそんな時間ロスに繋がる行為は既に禁じていた。


 そんな礼儀にこだわるのは、もっと超勢力になってからで、しかも超勢力になったとて場合によっては許すつもりでいる。。


 何故なら、信長からして大した報告ではなくとも、兵士なりの考えがあった上での行動で会えり、善意なのだから罰したりはしない。

 罰を恐れてスピーディな意思疎通が出来ない事の方が、遥かに損失が大きいと信長は判断している。


 よく『報連相』が大事だと言われるが、報告、連絡、相談は上が下に『報連相』しろと命じたりするモノではなく、下の為に報告、連絡、相談をしやすい環境を整えるのが上の仕事である。

 コレを勘違いした組織ほど、現代でも致命的で信じられない凡ミスが生まれる。

 信長は、それを前々世以上に理解し実践を試みていたのである。


「来客? 今日は約束もないし都合が悪いが……。誰だ?」


 今日は、信行が明から持ち帰った情報を精査する為に、家中の主要な人間と話し合う予定であった。

 しかし、兵士がここまで慌てて来る報告には興味が沸いた。


「そ、それが、長尾景虎と名乗っております……!!」


「長尾景虎!?」


 噂をすれば影である。


『どこの馬鹿が、この乱世に当主自ら敵のど真ん中にやってくるのか!?』


  なんの冗談かと信長は思った所で、当の己が斎藤道三や今川義元と会談した事を思い出した。


「(ワシも馬鹿の一人だったわ……だが)ま、まさか一人ではあるまいな?」


 敵地訪問と言う意味では、足利義輝も細川晴元を伴ってやってきたが、先の戦で、敵として戦った相手の領地にやってくるのは自殺行為に等しい。

 信長はそんな馬鹿は居ないと思いつつ、確認せずにはいられなかった。


「そのまさかです!」


「……あッ!? と言う事はここで家出か!?」


 信長は歴史的事実から、今回の単身訪問は景虎の家出だと判断した。

 そこから、先ほどまでの推察が当たっていると確信し、しかし、さらに『家出』という衝撃の出来事が、ある一つの可能性をも浮き上がらせた。


《まさか……まさか、奴は家中を纏めていない状態で先の戦に関わったのか!? なんたる事じゃ! 大博打どころではない!! 何もかも(なげう)って臨んでおったのか!!》


 あれ程の結果を、長尾家一丸となって成したのなら理解が及ぶが、景虎の家出は、歴史的事実に照らし合わせれば『現在の長尾家は一枚岩ではない状態』である。

 そんな状態で、策謀に敵対に情報漏洩に一向一揆に関わっているとすれば、長尾家は途中で自滅してもおかしく無い状態なのに、景虎は全ての賭けに勝ち、一枚岩では無い状態のまま事を成し遂げた。


《恐ろしい!! ワシには到底真似できぬ! 負けを恐れておらぬ! まさに狂人よ!》


《その『負け』ってのは家出による家中統制に失敗する事ですか?》


 史実において、家臣の勝手な行動や、武田晴信との争いに嫌気が指した景虎は出家を企み、家臣の忠誠心を試したと言われている。

 家臣は景虎の常軌を逸する行動に振り回され、ついに観念し誓紙を差し出させる事に成功した。


《それも含めて全てじゃ! 今回の家出博打も勝つじゃろう。史実と違う部分も多数あるが、少なくとも家中統制を失敗するとは決めつけられん。これこそ転生の恩恵による判断で成功すると断じるべきじゃ! ……長尾景虎。狂人の極致よな! さっきやりたい放題していると言ったが、全然表現が足りんかったわ!》


《こんな家出のついでに訪問してくるなんて……》


「《そんなうつけ者がワシ以外に存在するのか!》よかろう! 本物なら会う価値はある! 勘十郎(信行)を呼べ!」


 信長は別室に景虎を通すように指示し、自分は途中の廊下と部屋が見渡せる庭先に潜んだ。

 前々世も含め直接対面するのは初めてで、信長個人としての関わりは、精々が書状のやり取りである。

 織田家としては北陸方面軍の柴田勝家が対応し、時には同盟し、時には対立し争った間柄である。


《正直言って予測がつかな過ぎる。少しでも情報が欲しい》


《気持ちは解りますが、遠目に見て分析できるんですか?》


 信長の性格は大胆に見えて、実際は綿密に予防と慎重さこそが真骨頂である。

 準備の時点で勝負を決めるのが信長流である。

 その結果が派手に見えるのは、世間が『ソコまでやるか!?』と勝手に騒ぐからで、信長としては万全を期したに過ぎない。


《雰囲気だけならな。行き当たりバッタリよりかはマシじゃろう。今なら死んだ道三の気持ちが理解できる》


 史実における斎藤道三は、娘の帰蝶と信長の婚姻同盟時に、信長と会談を行ったが事前に様子を伺って情報収集に努めた。

 その情報収集がある意味失敗だったのだが、信長はその道三の気持ちが痛いほど理解できた。

 なお今回の歴史でも偵察を行い、今度はある意味成功し、しかし大失態を犯している。(8、9話参照)


《それに、意味不明なモノは怖いからな》


《え。それは意外と言うか何と言うか、信長さんがソレを言いますか?》


《何をいまさら! 散々うつけ策を見てきたであろう? 大胆不敵に振舞うのは対外的な見かけじゃ。真意を悟らせぬ為にな!》


 うつけ策を大活用してきた信長である。

 その言葉には説得力があった。


《よしファラよ、上杉謙信について教えよ》


《今更語る事も少ないですけど、病弱な兄から家督を―――武田信玄との川中島の戦い―――柴田勝家との手取り川の戦い―――》


 ファラージャは未来に伝わる伝説を語り始めたが、とくに目新しい事はなかった。

 一つを除いては。


《女性説がけっこう有力視されているのですが……違いますよね?》


《女!?》


《信長さんも女性用の着物を送ったとか、風習として女性に贈るのが普通の屏風を送ったと記録されてますが……》


 上杉謙信には女性説が存在する。

 謙信は衆道が性的嗜好だが、それは女だからこそ普通である―――

 毎月決まって腹痛を訴えていた―――

 書状の謙信に対し『叔母』と表記されている―――


 嘘か真かそんな説が根強く生きており、現代の創作においても女謙信が多数表現されている。


《着物……屏風……? 思い出した。別に奴が女だからではないぞ? 屏風も着物も源氏物語にが好きだったと聞いておったしな。変わった趣味とは思ったが、趣味など人それぞれだしな。誰か女に送るつもりだったのかと思っておったわ》


《そういう事ですか》


《ともかく、ここまでの戦果と謀略を組み立てる奴が女だったら、それはもう恐怖じゃがな……行くか!》


 信長は一通り観察した後、信行を伴って会談に臨んだ。

 信行は景虎に拾われ、一向一揆の機密を流させられた唯一景虎と接点のある織田の人間である。

 本物か否か判断できるのは信行しかいない。


 信長が襖を開け放つ、と同時に、冷気が、熱気が、溢れ出すかの様に強烈な覇気が信長を襲う。

 信行は脂汗が滲み出てうろたえた。


《こ奴! 猪口才な!》


 信長は負けじと景虎の覇気を歩みで押し返す。

 信長にとってはいかに将来の上杉謙信とは言え、前々世でその脅威を跳ね返し続けた相手である。

 戦の強さはともかく、人間としては負けるつもりは微塵も無い。


「(こ奴!)お初に御目にかかる。長尾平三景虎、この度、将軍から『輝』の字を賜り輝虎と名乗っておる。お見知りおきを」


 さっそくの先制パンチである。

 将軍派の武田の行動を妨害しておきながら、将軍からの偏諱を賜い名を変更するなど不遜の極みであろう。


《おい! どうみても男じゃろう!》


《そうですよねぇ?》


《それに……こ奴! 将軍から一字拝領だと!?》 


「織田三郎信長に御座る。弟を救って頂き、また、先の戦では世話になりましたな?」


 信長も負けじと攻撃を繰り出す。

 戦の世話とは皮肉も皮肉な言い様だが、敵対した上で結果的に助けられた訳であるが露骨に話題として振った。

 信行も同席させての2連撃である。


「長尾様、織田勘十郎信行と申します。あの時は密命を帯びた身であり偽名を名乗った事、お許し下さい」


「なんと!?」


 続いて信行が挨拶を述べる。

 輝虎もカンロンと似ているとは感じていたが、身形が全然違うし、まさかこの場に現れるとは思っておらず、少なからず驚いていた。


「織田の関係者だとは思っておったが、まさか織田殿の実弟とはな。さすが兄弟。よう似ておるな。息災で何よりじゃ。お主の伝令働きあってこそ我が策が成ったのじゃ。礼をいうぞ」


 輝虎は流石にカンロンを信長の実弟とは見抜けず、また、そんな身分の者が明からの船で来日し、しかも難破事故に遭遇する境遇に驚きを隠せなかった。

 しかし、その程度で怯んではいられない。

 むしろ『もっと恩を感じろ』と言わんばかりの慇懃無礼で応じた。


《殺したい!》


《信長さん!》


《冗談じゃ! しかし勘十郎が認めると言う事は本物か。伝令を託した話にも嘘は感じられん。そうか。こいつが上杉謙信か!》


 庭先から覗いていた時から、半ば本物だと予感はあったが、改めてあの上杉謙信が眼前に居る事に驚く信長であった。

 あの武田信玄相手に一歩も退かぬ圧倒的な強さなど、戦いにおける能力は常軌を逸する相手である。

 今も最初の挨拶から牽制パンチの応酬であるが、改めて面倒な相手であると再認識した。


《さて、なんの話をしにここに来たのか? 家出のついでに揺さぶりを掛けに来たのか?》


《とりあえず聞いてみましょう》


「それでは用件を聞こう。あらかじめ言うておくが、織田として長尾に何か要求する事も無ければ、聞くつもりも無い。勘十郎救助の件は先の戦で相殺として考えておるしな」


「相殺! それは結構に御座るな。この乱世、自国内でも争うのであれば他国との衝突など日常茶飯事。相殺に異論は無いがソレは最後に判断して頂きたい」


「最後に判断? まぁそうじゃな。相殺と考えている以上、敵でも味方でもない。必要なら誰とでもワシは手を組む。必要と判断すればな」


 信長の言葉を聞いて輝虎は頷いた。

 信長は信行を見た。


「勘十郎、すまんが席を外せ」


「は、はい……」


 信行も内容は気になるが、命に関わりそうな話である事を察し、また息苦しいこの場から退散したい気持ちも強く、足早に出て行った。


「助かる。無闇に広げて良い話ではないのでな。では話しましょう。我の大望と織田殿の野望、乱世に対する我の見解を」


《我の大望? ワシの野望? 乱世に対する見解? ……こいつ何を言い出すのじゃ?》


 信長はもう少し地に足をつけた同盟くらいの話が来ると思っていた所に、望みや乱世に対する話題となり信長もファラージャも戸惑った。


《上杉謙信は割りと変人と伝わってますけど、どうやら本格派の変人っぽいてすねぇ。でもこれが一兵士なら妄言に過ぎませんが、あの上杉謙信が語るとなると笑い飛ばす事はできませんね》


《そうじゃな……。ワシも天下布武などとぬかしておるからな。人の事は言えんか》


 長尾輝虎は己の主張を述べに述べた。

 それはもう本当に『そんな事を考えているのか!?』と疑いたくなる事ばかりであるが、それを裏付ける行為を先の戦で証明しているので、世迷言と断ずる事も出来ない内容であった。

 その内容は、あの三好長慶が信長と密室で会談した内容に匹敵する、爆弾発言であった。


「―――我はここで殺されても別に良いと思っておる。別に死を望んでいる訳ではないが、それはそれで良いとも思う自分がいる」


「……そんな所まで博打なのか? 今の言葉、嘘では済まされぬぞ?」


「事を成すにはもう時も暇も無い。これが最善と我は考えておる」


「……」


 信長は顎に拳を当てて考え込んだ。


《前々世から厄介じゃったが、さっきから再認識しっぱなしじゃ! ワシの見立ては全然甘かった。まさかココまで厄介な奴だったとはな! ワシらの転生が怪物を作ったかもしれん……!! いや、前々世でも十分怪物じゃったが、こんなのは予測がつかぬわ!》


《本当に信じられないというか、あれが上杉謙信なのですね。伝説通りというか伝説と違いすぎるというか……》


 信長とファラージャは、史実と同じなのか違うのか迷った。

 上杉謙信―――になる前の長尾景虎、もとい輝虎という規格外の男の存在が。


 これこそが輝虎の本領なのか?

 それとも元々そういう性質なのか?

 歴史のうねりが作り出してしまったのか?


《ワシらが歴史を引っ掻き回した結果なのじゃろうな》


《とんでもないバタフライエフェクトですよ、これは!》


《何じゃその『ばたふらいえふぇくと』とやらは》


《バタフライはある南蛮の言葉で蝶を意味しますが―――》


 バタフライエフェクトとは『ブラジルで蝶が羽ばたけばアメリカで竜巻がおこるのか?』という問いの総称で、要約すれば、『ほんの些細な出来事が、遠い将来で多大な差を生み出す』事をいう。

 日本の諺で例えるなら、『風が吹けば桶屋が儲かる』が近いのだろうか。

 信長の転生がブラジルの蝶の羽ばたきなら、長尾輝虎は間違いなくアメリカの竜巻に相当する存在となっていた。


《―――そんな例えなのです。ちなみにファラージャもとある古代国の蝶を意味する言葉ですよ》


《ほー。面白い例えで聞き入ってしまったか、それは未来知識じゃないのか?》


《……あっ!? い、いや、まぁ、これは知識と言うより概念みたいなモノで今までやって来たことの追認みたいなモノでもあって影響は軽微というか無きに等しいというか……!》


《ククク! 軽微か。バタフライエフェクトが起きねば良いな?》


《ああああッ!》


《バタフライエフェクトか。ワシが若くして勢力を拡大したから三好も長尾も動いたのじゃな。おもしろい!》


 信長は顎から拳を離し、長考しているフリを解き話し始めた。


「―――長尾殿の考えはわかった。そうじゃ。三好殿もワシも同じ考えをもっておる。その為に足掻いておると言っても過言では無い」


「それはよかった。我が胸中を明かして正解で御座った」


「よかろう。三好殿に紹介状を書こうではないか。ソレを持って尾張からの船で堺に向かうが良い」


「恩に着る。まぁこれから後の話は我が長尾から追放されない事が大前提であるがな。そうじゃ。このまま追放されたら織田家に仕官したいのじゃが?」


「……出来れば丁重にお断りしたい」


「ハハハ! 冗談よ! 我と織田殿は必ず争う間柄となろうて。それでは」


「長尾殿。これは此度の件に対する礼として親切心で言うが、三好殿は当代一の傑物じゃ。舐めてかかると死ぬぞ? 比喩ではない。その首と胴が切り離されたくなければ心して挑むことじゃ」


「……心得ておこう」


 輝虎はそう言い残して人地城を去り、熱田の港へ向かった。

 残された信長は改めて考えた。


《あいつ自由過ぎるじゃろ……。ワシらとは別口の転生者と言われたら信じるぞ? 前々世と今世の合算でようやく奴を理解したわ》


《そうですね……》


 信長とファラージャは、去り行く背中を見ながらそう思った。

 前々世で振り回された宿敵の一人である上杉謙信。


《今、理由を聞いて初めて前々世での対立が理解できたわ。変人過ぎる。そりゃ狂人にしか見えんわ》


 信長率いる織田家が急成長したこの歴史のお陰で、後の上杉謙信である長尾輝虎の心中を理解した信長。

 輝虎は一体どんな行動理念を持っていたのか?

 それが判明するのは、まだ暫く後の事である―――

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― 新着の感想 ―
[一言] 信行が明に行ったのは何?難破して終了?アホじゃん! 長慶との話しの時も引っ張って大した事なかったし、話し引っ張って大した事ないのに謙信とも引っ張って、どうせ大した事ないんだろうな!構成悪過ぎ…
[良い点] まず話が面白い! 織田家の躍進を中心に周辺勢力がどんどん影響を受けて躍動する様は本当に歴史のうねりを見ているようです。 信長、帰蝶、ファラージャの脳内会話も楽しい! うっかりファラちゃん可…
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