123話 追撃戦と撤退戦
【信濃国/武田晴信軍】
深志盆地の戦場に到達した晴信は、予想と掛け離れている光景に作戦の失敗を悟った。
その後、弟信繁からの伝令によって、長尾景虎の抜け駆けによる策の崩壊である事を知るが、景虎が、何故こんな事をしたのか分からないが、それを詳細に考える暇も無い。
前方には混乱した戦場、後方には織田信長と朝倉宗滴が猛追してきている。
敵を包囲するはずが、このままでは逆に混乱に巻き込まれて押し潰されかねない。
晴信は今すぐに決断しなければならない。
「信繁と北条に戦場から離れる様に伝令を出せ！」
「はッ！ ……あの、長尾には出さないのですか？」
「奴にはッ！ この戦場の責任を取ってもらうッ！」
「戦場を離脱しつつ、深志城方面に退かせろ！ ただし退却ではない！ 体勢を立て直すのだ！ そこで改めて敵を迎え撃つ！ 我等も向かうぞ！」
晴信の指示に、伝令が各所に飛ぶ。
敵の混乱もあって追撃も無く、指示が伝わった部隊から潮が引くように戦場を離脱する。
その光景を見て、晴信は即座に次の行動の準備にも入る。
退く味方軍勢を迎え入れ、敵に睨みを利かすべく気勢を上げさせるのであった。
【信濃国/深志盆地 武田信繁軍、北条氏康軍、長尾景虎軍】
帰蝶と信繁の激闘が一旦仕切り直しとなり、怒りの道三の槍が唸りを上げる中、武田軍から退却の伝令が届く。
「退却！？ いや丁度良い！ 左馬助様（信繁）を後方に下げよ！」
信繁は肩を負傷し、信繁軍全体も戦場の混乱に押され体勢を崩しつつある。
今が立て直し可能な最後のタイミングであり、それを遠方から素早く判断した晴信の勘は流石と言うべきなのだろう。
信繁配下の武将達は、半ば引き剥がすかの様に信繁を後方に下げると、深志城方面へと退くのであった。
北条軍にも晴信からの伝令が届き、ほぼ同じタイミングで移動を開始する。
「仕方あるまい。こんな混迷した戦場で、援軍の身で損害を出すわけにはいかん。速やかに移動せよ！」
北条氏康は、長尾景虎とは違い積極的に戦場に介入していない、と言うよりは、これが援軍として正しい姿なのだろう。
仕事を放棄せず、しかし、積極的に成果は出さず、旨みだけを掻っ攫う。
これぞ強欲な戦国大名である。
おかしいのは長尾景虎なのである。
そのおかしい長尾景虎は、またしても理解できない行動を取った。
武田信繁と北条氏康は、伝令を受け取ったので退くのは理解できる。
この戦場を混乱に陥れた張本人、長尾景虎が率いる長尾軍は、晴信に生贄として敵軍に置き去りにされるハズが、伝令が届いていないのにも関わらず、信繁軍、北条軍と足並みを揃えて深志に退いた。
「大方、責任を押し付けようとしているのであろうが、そうはいかん。この戦場の責任は取ってやるが、それは今ではない。後で存分にな！ 深志城に移動せよ！」
晴信の建て直しを予期していたのだろうか。
まるで伝令が届いたかの様に、長尾軍は信繁軍、北条軍と共に整然と移動を開始した。
【信濃国/深志盆地 織田、斎藤軍】
「敵が退きました！ 追撃をなさいますか！？」
この場の最高責任者の一人である織田信秀に、配下が進言する。
「……いや、こちらも立て直す。一旦距離を空けて体勢を整える。晴信が来たからには三郎（信長）もまもなく到着しよう。斎藤軍同じ様に立て直してもら……」
そう命じようとした矢先、斎藤軍からの伝令が飛び込んできた。
しかし、大声で内容を叫ぶ事は無く、眼で信秀に訴えかける。
人払いを望んでいる様であった。
「伝令ご苦労！ 不破殿ではないか？ ……こちらに参られよ」
現れたのは、斎藤家の道三に近しい、不破光治である。
光治自ら伝令に来る程の、何かマズイ事があったと信秀は察した。
普段なら人払いをすればいいが、今は本陣も慌しい状態であるので、信秀自身が適当な場所に移動して報告を促した。
「感謝します……。まず1点目。……帰蝶様が負傷し退きました」
「何と！ 大事無いのか！？」
「はい、一命は取り留めております」
武将でもあり女でもある帰蝶が負傷したが、今、要らぬ心配をされまいと、必要最低限の情報だけでとりあえず報告をした。
このあともっとマズイ報告があるのだから。
「不幸中の幸いか。……この報告は1点目だったな？ ……まだ何かあるのじゃな？」
「はッ……。主、道三様が帰蝶様の救出に向かい……負傷しました」
光治の声質が、周りに気取られない様にする態度に、非常事態である事が充分察せられる。
信秀も一言だけで確認する。
「……！ 重いのか？」
「……残念ながら。今、敵にも味方にもソレを知られる訳にはいかぬと、明智殿と某で協議し、斎藤軍の大半は織田軍と歩調を合わせつつ、守勢に徹します。まもなく三郎様が到着されるであろうから、今後を協議して欲しいとの事」
「わかった。今の内容は当面ワシだけの秘匿とする」
「ありがとうございます。某はこのまま残り、三郎様が到着した際に斎藤軍代理として出席します」
一旦仕切り直しとなった深志盆地の攻防は、信長の到着と共に日没となり、幸か不幸か両軍共に今後の戦略を練る時間が出来たのであった。
兵士達は休憩に入り、例年よりは暖かいとは言え信州の寒風に耐えるべく準備を整えるが、武将級はそうはいかない。
織田信長、朝倉宗滴、織田信秀、不破光治ら大将級と武将らが集まり軍議が始まった。
「……なるほど。色々仕組まれておったが、敵も意思の疎通がチグハグだった故に助かったか」
飛騨の攻防戦は武田の偽装退却で、まんまと釣り出されていた事。
しかも長尾景虎の予想外の援軍には、信長は前々世の経験も相まって驚愕の表情を隠さなかったが、その他の武将は、その当の長尾景虎の拙攻で助かった事実に眉をひそめる。
「我等が陣営にも少なくない損害がでておる。それに飛騨は守り通したのだから成果が無い訳ではない。しかし、これ以上敵の思惑で戦うには不利極まりない。従って夜明けと共にワシと朝倉殿が通った道にて退却する。その道には佐久間信盛に命じて既に退却用の防衛陣を敷いてある。異存は無いな？」
「ワシ等朝倉軍は、既に三郎殿と意思疎通は済んでおる。此度の撤退の殿は、まだ損害が無い三郎殿と朝倉で引き受ける。備後守殿（信秀）の織田軍と斎藤軍は夜明けと共に退却をするがよかろう」
信長と朝倉宗滴の言葉に、信秀は退却を決意した。
「では、ワシは斎藤軍を率いて撤退を始めるとしよう。不破殿も明智殿とその旨を共有し準備してもらいたい。負傷した道三殿と濃姫殿をいち早く美濃に搬送する。明日は飯を作る暇が無かろう。兵に命令し食料を作り配っておく様に」
「左京（信虎）。当初とは予定がかなり変わったが、討ち取る事は叶わぬだろうが、今回は妨害で溜飲を下げると言う事で納得してくれ」
「はっ。お任せあれ！ 邪魔であれ何であれ、奴が苦しみ悔しがるのが本望！」
織田、朝倉、斎藤連合軍の方針は決まった。
逃げると決まったのであるからには、余計な武功を狙わない。
助平心を出して抜け駆けもしない。
一目散に逃げる事が、殿を務める軍の負担も減らし、全体の生存率を高めるのである。
《しかし……あの上杉謙信が、こんな戦いをするのか？ 正直、奴が暴走してくれなければ終っておったかもしれぬ》
《まぁ……。まだ長尾景虎ですし、成長途中なのでは？》
史実の上杉謙信とは違いすぎる稚拙な行動に、信長とファラージャが不信感を覚える。
《どうなのでしょう……。成長途中とはいえ雑過ぎとも感じますが……》
そこに帰蝶が割って入った。
《於濃！ 大丈夫なのか？》
《喋ると傷に響きますが、テレパシーなら問題ありません。応急処置は済ませましたし痛みますが戦えます！》
《ここが拠点なら休めと言いたいが今は敵地。殿に加わる必要は無いが、自力で飛騨まで退けるな？ お主は義父上と共に先に行け。大将たるもの姿を見せるのも仕事。負傷していても健在であるならば士気への影響も最小限になろう》
《はい……。申し訳ありませんが退かせて頂きます……》
【信濃国/深志陣地 武田軍】
「明日は、敵が攻めようが退こうが我等のやる事は変わらん。攻めあるのみ。ここで決定的な損害を与えなければ飛騨を攻め取る事など適わぬ。逃がすのは持っての他。これを北条軍と長尾のバカタレにも伝えよ」
「兄上……。長尾を信用なさいますか？」
「信用できる訳あるか！ しかし、口惜しいが今は貴重な味方の軍。なるべく奴を激戦区に向かわせる様に采配を取りつつ、我等と北条で各個撃破をしていく。……それよりも肩は大丈夫なのか？」
「肉は切られましたが、骨や筋は大丈夫です。完治すれば問題ありませぬ。今は槍働きは難しいですが、采配には問題ありません」
「よし。不幸中の幸いか。こんなバカな戦でお主を失う訳にいかん。お主は後方で後詰の指揮をせよ。特に長尾が妙なマネをしないか睨みを効かせておけ」
「はっ」
「一旦、破綻してしまった戦じゃ。飛騨の奪取は諦める」
「……仕方ありますまい」
破綻した作戦を遂行するなど、行き当たりばったりよりも危険な行動である。
苦労して漕ぎ着けた飛騨侵攻作戦であるが、武田兄弟はそんな無茶を押し通す愚将ではない。
諦める時はスッパリ諦める。
その上で、次に繋がる行動を取るだけである。
「次の最善手は、可能な限り敵に損害を与えて武田の力を見せ付ける。敵将を討ち取れば儲けモノぐらいの気持ちで戦う。敵軍に対する乱取りとでも言うべきか？ むしろ武田の諸将を考えれば其方の方が力を発揮するやも知れぬな」
「そうですな。今回飛騨は諦めても、やれる事はやりましょう」
「うむ。ワシの部隊は損害は極めて軽微。夜明けと共に動くからそのつもりで備えよ！ 特に騎馬隊！ 訓練の成果の見せ処ぞ！」
「はっ！」
「よし。全ての準備が整ったら景虎を生贄にして追撃をする！ このままでは飛騨から負けて追い出されただけじゃ！ 正念場じゃ！」
【翌日夜明け 深志盆地戦場】
「撤退開始！」
「突撃開始！」
奇しくも信長と晴信の号令は、同じタイミングとなった深志盆地の戦場。
斎藤軍と信秀軍は一斉に撤退に入り、朝倉軍と信長軍は撤退をアシストするべく防御陣にて警戒をする。
一方武田連合軍は一斉に動き出す。
いや、一部は動かない。
晴信が主戦力と見込む騎馬隊は動かない。
【武田連合軍】
晴信はある戦法を試す気でいた。
騎馬100％部隊の運用を。
ただ、大した数は揃えられないし、今回試すつもりではなかった戦法である。
故に、今移動している部隊を抜き去って一撃を与えた後に即座に離脱し、後続部隊が二撃目を連続して与える、現時点で出来る騎馬の新戦法であった。
「撤退する様だが、背後を守りながらでは支えきれまい！ ここが功績の稼ぎどころぞ！」
【織田、朝倉軍】
既に斎藤道三、帰蝶、織田信秀軍は撤退し始め、殿として戦場に残るのは朝倉宗滴と織田信長の軍だけである。
既に2つの軍が抜けたので数の上では圧倒的に負けているが、ここは山間部の街道で、昨日深志盆地に駆けつける為に通過してきた道である。
つまり、大軍を相手にするにはうってつけの地形である。
何故なら、どれだけ数を揃えた所で、実際に戦闘ができるのは限られた人数になってしまう。
狭くて軍が展開できないからである。
ここに防御陣地を構えた織田信長の戦略眼は流石と言うべき、というか常識の戦法だ。
「さて……。今のところは順調と言った所か？」
「そうですな。まずは織田軍で敵に一撃を与えて怯ませます。その隙を宗滴殿と左京（武田信虎）で掻き乱し敵を足止めさせたら次の防御陣地に逃げ込む。基本的にはこの繰り返しです」
「お主の鉄砲隊と、その新兵器とやらか。鉄砲はワシ等も身を持って知ったから信頼しておるが、新兵器は大丈夫なのか？」
かつて朝倉浅井軍と信長が争った時、信長は虎の子の鉄砲隊を披露した。（78話、81話参照）
その時は確かに鉄砲の威力を持ってして戦況を有利にしたが、雨森城の攻防戦でも、高時川砦の攻防戦でも、朝倉宗滴に散々にやられて披露の場を台無しにされたのは内緒である。
その台無しにした張本人である宗滴が鉄砲の力を認めているので、ソコに関しては問題視していない。
問題なのは新兵器である。
「理屈は分かった。成る程と思うたよ。だから足軽部隊中心なのだろう。しかしのう……。老人の価値観では何とも言いがたい。左京殿はどう思われる？」
「はっ。そうですな……」
信虎も老人であるが、宗滴の前では親子程の差が有るので『自分も老人じゃ！』とは言えず考え込む。
「ワシは行けると思います」
それに自分より老人に老人扱いされるのも釈然としない。
若者らしく振舞うべく新戦法を受け入れた。
正直な所、信虎にとっては鉄砲隊も半信半疑だが、異を唱える段階は当に過ぎている。
ならば足並みを崩すよりはと異論は心の奥に封じ、その上で自分の案を出した。
「その上で献策します。とはいっても策と言うほどのモノではありませぬが―――」
信虎はその策を説明し、信長と宗滴は邪悪に嗤った。
「左京殿！ それは面白い！」
「そうじゃな！ 今回の策の後押しになる事、間違いあるまいて」
信長ははるか前方に蠢く武田連合軍を前に、撤退の成功をより一層確信するのであった。
「よし！ 佐久間隊は父上達の退却を支援しつつ、街道の防御陣地の最終点検と迎撃準備を整えよ！」
「はっ！」
「ようし！ 今回は前とは違いだいぶ早いが長篠を再現してくれよう！」
（長篠……？）
（長篠とは……？）
各軍の各陣営が進軍と退却と防御を整え、歴史上初めて織田信長と武田晴信が直接対決する瞬間が訪れる。
強烈な鉄砲発射音と共に。
信長は眼前にせまる武田騎馬隊に鉄砲隊を一斉発射させる。
その経験した事のない雷鳴の如く轟音に、馬は嘶き、文字通り浮き足立つ。
騎馬隊の後方にいた足軽隊も、長尾軍も北条軍もその音を聞き天を見た。
天候が変わったのかと勘違いしたのである。
もちろんそんな事はなく、鉄砲隊の作り出した発射音だとは思いもしない。
その鉄砲をモロに浴びてしまった騎馬武者は、振り落とされまいと必死に馬を宥めるが、それも無駄な足掻きであった。
今度は激烈な爆音と共に、馬に振り落とされ落馬する者が大多数となった。
その二度目の大音響に、遠くに見える富士山が爆発したのかと勘違いする兵が多数いたが、爆発音とは正反対の富士山に眼を向ける程の激烈な爆音とは何か？
それが信長の新兵器である『焙烙玉』である。
素焼きの器に火薬を詰め、導火線をつけた簡易手榴弾とでも言うべき兵器。
その中身には火薬しか入っていないので、爆発した所で素焼きの器が飛び散るだけで殺傷能力は低い。
だが、信長も焙烙玉を殺傷兵器としては期待していない。
期待しているのは、音響兵器としてである。
対武田騎馬隊の奥の手として考えていた兵器である。
馬はとても臆病で、鉄砲を鳴らそうモノなら簡単に足を止める。
前々世の長篠の戦いでは鉄砲を殺傷兵器として期待し運用し、期待通りの効果を出したが、もう一つ意外な効果を出した。
それが音である。
数千丁の鉄砲が奏でる轟音は、弾丸以上の効果を出した。
馬は恐慌状態に陥り、武田の中核を成す騎馬隊は機能不全に陥った。
それを前々世で気が付いた信長が、今回の人生で対武田の必殺兵器として使用するべく、歴史を前倒しして考案したのが『焙烙玉』である。
本来は毛利に組する村上水軍が、海戦兵器として開発したのが始まりとされ、織田水軍を散々に痛めつけた歴史がある。
それに対抗すべく、信長は鉄甲船を編み出すのは余談であるが、実は焙烙玉も新兵器と言う程に新しい兵器ではない。
日本で始めて焙烙玉の原型が使われたのは、およそ今の信長の時代から280年前の元寇の時である。
元軍の使う『てつはう』が、日本の騎馬武者を散々に混乱させたのである。
この時、日本の科学力では火薬や爆発する物質など、想像範囲を遥かに超える未知の兵器であった。
それが、戦国時代に鉄砲伝来と共に火薬の製法が伝わり、爆発する物質がある事を知った。
信長はそれを戦国時代に復活させたのである。
だから正確には新兵器ではなく再現復活兵器であるが、誰も知らないのであれば関係無い。
また、今は火薬知識序盤も序盤の戦国時代なので、火薬の大爆発はまだまだ未知の現象同然であり、そんなモノを喰らった武田騎馬隊は堪ったものではなかった。
「これは……！！ これは寿命が縮まるわ！ 老人を殺す気か！？」
「まことに！ 本当に！ しかし凄い！！」
宗滴と信虎は眼前の惨状に唖然とするしかなかった。
「爺様達！ 何を呆けておるのか！ 今が蹴散らす好機ぞ！ 左京！ 策を実行せよ！」
「おお！ いかんいかん！ ようし！ 朝倉軍でるぞ！」
「信虎隊！ 出撃！ 愚息の軍を蹴散らせ！ 武田の旗を掲げよ！！」
信虎は己の旗印を掲げた。
信虎の策とは、まさに武田の旗を掲げる事であった。
敵もまさか、織田軍から武田の旗が出現し、しかも突撃してくるとは思いもよらない。
「あ、あれは、大殿の旗！？」
武田軍は、かつて追放した主君である武田信虎の旗印に困惑した。
馬の制御もままならず、大爆発で浮き足立ち、さらに武田前当主と、越前の大妖怪朝倉宗滴の突撃である。
これには、長尾軍も北条軍も成す術がなかった。
その隙を突いて、悠々と織田連合軍は退却していった。
一方、武田連合軍は、追うにしても爆発と突撃で、指揮系統がズタズタで命令不能に陥っている。
【武田本陣】
「……ッ！？ な、なん……！！」
武田晴信はこの日の為に新調した『風林火陰山雷』の軍配をへし折り叩き付けたが、もうどうにもならない。
損害を与えるつもりが大損害を喰らってしまい、悠々と逃げられた現実に怒りの逃がし所が分からなくなっていた。
「あ、兄上……」
「な、何じゃ！？」
「越後殿（長尾景虎）と相模殿（北条氏康）が来ておりますが……」
「暫し待て……！！」
晴信は己の顔を自ら殴った。
猛り狂う己の心を静める為に。
「いいぞ！」
大損害と大混乱に陥った武田連合軍で、今後をどうするかの協議が行われる事となった。
しかし、この協議にて武田連合軍に更なる問題が発生するのであった。
【織田連合軍】
「敵が攻めてこないな？ もう諦めたか？」
「と、殿！ その、伝令？ が来ておりますが……その……」
歯切れの悪い報告に信長は嫌な予感を覚える。
「何か？」
「そ、その伝令は勘十郎信行と名乗っております」
「勘十郎じゃと？ 戻っておったのか？ ……直ぐに会う！」
こうして織田連合軍にも問題が持ち込まれるのであった。
