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外伝26話 信長Take666 (;´ρ`) 本能寺が変

毎回4/1は2話投稿しているのでもうひとつ別の未来を作りました!

【天正10年 山城国/本能寺】


「さーて。早いモノで500回目の本能寺な訳ですが……」


 本能寺の寝室に信長が一人。

 誰に向かって話しているのか、信長は、まるで精神が病んでいるかの様に上の空であった。

 いや、実際に病んでいるのだろう。

 溢れる覇気も今は昔。

 信長とは思えない淀んだ目をし、よく見ると着物の衿も涎で濡れている。


《……ょっと! 待ってください帰蝶さん!!》


《何だぁ? 騒がしいなぁもう。うるさいぞ~?》


《信長さん、逃げて!》


 Take666のこのやり直し。

 本能寺到達は500回目の今日。

 今回の信長と帰蝶は、方針を巡って度々対立を繰り返していた。


 そのお陰なのか、その代わりなのか、今回の人生では何と誰も織田家を裏切っていない。

 弟の信行も柴田勝家も、浅井長政も松永久秀も荒木村重も織田家の忠臣として働いている。

 こんな本能寺突破の千載一遇の絶好機なのに、全くそんな気配がしないのは2人が事ある毎に対立したからである。


 Takeを重ねた結果など家臣は知る由もないが、人生経験豊富で洗練された信長と帰蝶の先進的な方針と、神懸かり的な先読み。

 しかし、何故か病んでる精神の危うさが却って神秘性をアシストし、2人は早くから神格化され崇められてしまっていた。

 すでに『信長教』も生まれていたが、更に『帰蝶教』もついでに生まれた。


 2人の対立は激しかった。

 ある時は―――


「武田が怖い!? いつまでアレルギー発症してるんですか!! 鉄砲兵1万いても怖いんですか!?」


「やかましい! 武田完全騎馬隊をちゃんと調べてから物申せ! 絶対に戦わんぞ!」


 またある時は―――


「本願寺? 比叡山? 知らぬわ! 東大寺も法隆寺も全て燃やし尽くしてしまえ!」


「無理に虐殺した結果がアレ(本能寺)だとなんで気づかないの! 殺すのは武士が先でしょう!?」


 またまたある時は―――


「茶道具? 平蜘蛛釜? あんなマズイ飲み物を作る道具なんか私が爆破してやる! 茶人は死刑よ!」


「貴様!? この茶と釜で城が買えるんだぞ!? 血迷うたか!? や、やめろーーッ!!」


 その他にも真剣な事からバカバカしい事まで、大小様々な対立を繰り広げており、しかし、不思議と離縁だけはしない2人に家臣は健気に付き従った。 

 そんな2人を懸命に補佐すべく、信長派と帰蝶派で対立はすれど、織田家を割ってまで反乱を起す様な事はしなかった。


 危ういながらも躓きそうで躓かないまま、何とか辿り着いた本能寺。

 いつもなら外が騒がしいのがパターンなのだが、今回はなぜか寺の中が騒々しい。

 しかし聞こえる声は、いつもの通り森乱丸であった。 


「の、濃姫様お待ちを!」


「お下がりなさい乱丸? どうせ今回もダメなのよぉッ! それなら妾が終わらせてやりますわぁッ!」


 乱丸が無礼にも濃姫の腰にしがみ付き、歩みを妨害するが、まるで意に介さぬが極く帰蝶は止まらない。

 お陰で乱丸は、引き摺られるがままである。


「の、濃姫様ご乱心!!」


 その悲痛な叫びに呼応する声が響く。


「退け。乱丸。そ奴の相手はワシでなければ務まらぬ……!」


 いつもなら乱丸が開ける襖を、信長自らが開いた。

 先程のボケた表情からは一変、急に眠りから覚めたような豹変で信長は覚醒していた。


「う、上様!?」


 濃姫乱心の報告に、信長は慌てるでも怒るでもなく、しかし、烈風の如く吹き荒れる殺気を自制する事もなく帰蝶の前に立ちはだかる。


「あら。上様。ようやくヤル気になったのですね? ウフフ!」


「一度貴様とは、どちらが上か決着をつけねばならんと思っておった所よ……!」


「あら嬉しい!! じゃあ……遠慮なく殺して差し上げますわ! ハァッ!!」


 帰蝶がそう言うや否や、淀んだ毒沼の様な殺気が濁流の如く溢れ出す。

 そんな2人の殺意全開の殺気を、至近距離で浴びた乱丸は、ショックで事切れた。


「ファハハハハッ! 戯けが! 貴様なんぞに殺られると思うてか! 我が手にかかる事を光栄に思い5次元のファラの元へ行けぃッ!」


「アハッ! アハハッ! そう! その殺意こそ妾の望み! その殺意を喰いつくし飲み込んで愛して差し上げますわ! アッハハハハ!」


 そう言って不意に帰蝶は嗤いながら両手を広げ、淑やかな姫の動きで歩み寄り、信長に抱き付く様にしな垂れかかる。

 遠目からみれば抱き合っている様である。


 しかし、信長の背中に回されていた両手が、いつの間にか腹に添えられていた。

 完全に虚をついていた。

 帰蝶の右足の指から、体を連動させて捻ると共に、短く、しかしタップリと息を吸い込み、深く腰を落とし左足で床板を踏み抜く。

 耳を(つんざ)く震脚から生み出された反作用エネルギーが、帰蝶の全身で増幅され、信長に添えられた両手に伝わり衝撃として襲い掛かる。

 人が人を殴った音とは思えない衝撃音と共に、信長はもんどり打って襖に激突し、さらに勢い余って本能寺の庭まで転がり倒れた。


「ゴハァッ!!」


《今のはまさか、はっ、発勁!? いつのまにそんな技術を!? 発勁とは身体操作を極め生み出した力をロスする事なく発せられる力! 発勁とは別に未知のエネルギーでも魔法でもなく云々かんぬん―――》


 ファラージャも知らない拳法の極意を帰蝶は実戦で使ったい、聞かれてもいない事を解説しだした。


「あらあら? こんな攻撃で死んだら私の愛が伝わらないじゃないです……かぁッ!!」


 いつの間にやら信長の背後に張り付いていた帰蝶は、耳元で囁いた。

 帰蝶は、緩やかな動きで信長の右肩に手を添える―――と同時に帰蝶の足元の土が震脚で弾け信長も弾け飛んだ―――様に見えたが、信長は力に逆らわず体を回転させると共に、振り向き様に帰蝶の右手を掴む―――


 その間合いを本能的に嫌がった帰蝶は、手を振り払おうとして、顔から地面に自から猛烈な勢いで突っ込んだ。


「ぐぺぇッ!?」


 人が地面に激突した音とは到底思えない、地震の如き衝撃音が本能寺に響く。


《あ、合気!? いつのまにそんな奥義を!? 合気とは人間の無意識の反射に付け込んだ究極の身体操作! 合気とは別に超能力でもインチキでも何でもなく斯く斯く云々―――》


「これが発勁とやらか。やるではないか……!!」


 袖で血を拭いながら、信長は帰蝶の技量に驚き称えた。


「……合気ですか。こんな技を持っていたなんて。でも今の隙に首を踏み折らなかった事を後悔しますよ?」


 地面に倒れた相手には止めを。

 戦場の常識である。

 地面に横たわったまま信長を見上げる帰蝶の顔は、擦り傷だらけで年齢を感じさせぬ美しい顔が台無しだが、そんな事はまるで気にせず信長の愚かな行動を嘲笑した。


「フン。貴様の目が死んでおらぬ。訳も分からぬ内にファラの元へ送っては、貴様も己の愚かさを自覚せぬであろう?」


「ウフフフフフ! さすが敬愛する上様! 確かにその通り! 私が間違っていない事を骨身に染みて知ってから逝きなさい!!」


 帰蝶は全身のバネで仰向けの状態から、逆立ちの様に飛び跳ねると共に信長の顎目掛けて蹴りを見舞う。

 しかし信長も、上空に跳ね上がり蹴りの威力を相殺する。


 2人は完全に病んでいた。

 Take666と言う事は666回も死を経験したのである。

 その中には病死や、死んだ事すら気づかぬ即死など様々であったが、いずれにしても人智を超えた経験は精神を蝕んでいった。


 一種の魂の牢獄とでも言うべきか?


 2人の精神は人生の重みに耐えられなくなりつつあった。

 しかしその代わり、約2万年の人生経験は伊達ではなく、それぞれが格闘技の奥義を自然と身に付けた。


 これが所謂『本能寺が変』と称される夫婦喧嘩が始まり、2人は燃え盛る炎の中に消えた。


 その後―――


 本当に本能寺を襲う予定だった軍は、燃え盛る本能寺の前で呆然と立ち竦むのであった。



【5次元空間/時間樹】


 一方、5次元空間ではファラージャが古今東西ありとあらゆる言葉や言語を駆使して、2人を叱って叱って叱りまくった。

 病んだ精神もこの場に来れば元通りで、2人は己の過ちと行動を信じられない思いで恥じ入っていた。


《す、すまぬ……》


《も、申し訳ありません……》


《ハァハァ……喉が渇きました。魂の状態なのに……》


 時間の流れとは隔絶された5次元空間で、長時間の説教を終えたファラージャはやっと一息ついた。


《なぁ。ファラージャさんや……?》


 そんなファラージャをみて信長は恐る恐る声をかける。


《何ですか!?》


《ひぇッ!? あのその……所でここ最近、肉体に復帰すると死の痛みと恐怖と不安がシャレにならん位に襲い掛かって来る気がするんじゃが……》


《あっ! そうそれ! 分かっているのに自分が狂っていくのが抑えられません!》


 信長の申請に帰蝶も同意した。

 狂う感覚を自覚するのに止めるに止められない、もどかしい感覚から逃れられず、さっき死ぬまで殺し合いの激闘を演じた2人である。

 別に殺したい訳でも、本当に憎い訳でも無いのにである。

 ただ、どうしても、その時は間違った判断を正しいと納得してしまうのである。


《……止むを得ないのかもしれませんね。やり直しすぎた弊害かも。難しい事は省きますが、脳内物質であるセロトニン等が不足するんでしょうね。これは根性ではどうにもなりません。じゃあ精神だけは壊れない様に魂にプロテクトを施しますから。今度は冷静な判断をお願いしますよ?》


 さっき散々叱り倒したファラージャであるが、ずっと観察はしていたので原因は即座に特定した。

 ファラージャは、かつてテレパシー能力を与えた時と同じ様に、魂に干渉し精神防壁を施すのであった。


《よし。それで、もう一つ頼みがあるんじゃが、た、例えばじゃが、少しだけ未来知識を解禁するのはどうじゃろう?》


《そ、そうですね。このままでは埒があきません……》


 2人の声は尻すぼみに小さくなる。

 普通に突破する事を諦める事。

 ソレを許されるか判らなかったからだ。


《666回もやり直して、本能寺は500回も燃やしてそれでも突破できん……。これはもう人知の及ばぬ何かがあるんじゃないか?》


《あれですよ。歴史修正力が絶対に本能寺を突破させまいとしてるのでは?》


 ここぞとばかりに2人は畳みかける。

 もう死にたくない思いがそうさせていた。


《……それは私も考えてました。確かに歴史を覆すにはこのままじゃ無理そうですね。……じゃあ一つだけ。どんな分野でも一つだけ教えます。考えてください》


《それはずっと考えておった! 例えば……鉄砲をまっすぐ飛ばす事は絶対に無理なのか?》


 信長は常々考えては不可能と結論付けていた事を尋ねた。

 ひょっとしたら可能な事なのか確認する意味を込めて。


《できますよ。ライフリングといいますが、鉄砲の命中精度を飛躍的に向上させる技術で……》


 あっさりファラージャは答えた。


《あ、あるのね。でもこれで一方的に攻撃できるのですから本能寺を突破できますね!》


《うむ!》


 こうして信長達はTake667に向かって、技術を持って転生をする事になる。

 しかし、その後1000回以上転生しても技術を得ても突破できないのはご存じの通りで、今回以降、転生する度に新技術を携えるのであった。

次回は普通の外伝です。

4月中には投稿する予定です。

宜しくお願いします( ノ;_ _)ノ


●4/30追記

現在、新型コロナの影響が私生活にも及んでおり、執筆の時間があまり確保できておりません。

しかもPCも不調という泣きっ面に蜂状態であります…!


申し訳ありませんが次話はしばらくお待ちください。

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[一言] 二人は一体何をやっているんだw
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