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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
9章 天文22年(1553年)支配者の力
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90-3話 帰蝶のお勉強 信長の驚愕

90話は4部構成です。

90-1話からよろしくお願いします。


《まぁ、そんな事より、上洛の供回りには誰を連れていきます?》


 信長の苦悩をよそ眼に、帰蝶はどうしても確認しなければならない事を聞いた。


《……前々世では義輝に謁見する為上洛した時は500程で向かったが、今回は斎藤が同盟しておるし向こうも軍勢を出す。周辺地域もそこまで荒れておらん。250もあれば充分じゃろう。人手も足りんしな》


 今の尾張、というより東海地方では人手がどこも足りない。

 立って歩けて物が持てて話が通じるなら、誰であっても貴重な人手になりえた。

 仮にどこか不自由があったとしても、それでも構わない程に人手が足りない。

 信長の号令で始まった尾張、伊勢、志摩の大内政改革は一種の特需を生み出し、人が集まり銭が動き産業が活発化し、兵士として派遣できる人数は少なければ少ない程助かるのであった。


《付き従う親衛隊指揮官は?》


 帰蝶の目が眼光鋭く光った。


《……?! そうじゃな。佐々成政、前田利家を連れていくか。奴らは内政に向いておらんしな》


 信長は二人の名を挙げて指揮官として連れていくとした。

 内政に向いていないと信長は言ったが、2人に特別才能が無い訳ではない。

 どちらかというと血気盛んな若者故の為に、ガス抜きを兼ねて連れ出す意味合いが強かった。

 信長はそう自分に言い聞かせるかの様に、目を泳がせながら言った。

 しかしソレを見逃す帰蝶ではなかった。


《……わざと言ってます?》


《……何をじゃ?》


 信長は『何をじゃ?』と言いつつ冷や汗を流した。

 考えが見破られたからと悟ったからである。

 帰蝶の目が更に鋭くなる。

 兄を倒した胆力も備わって、かかなりの迫力である。


《直子殿も指揮官として同行させて下さいね? 分かってますね!?》


《……わかった。わかったが、じゃあせめて、義父上と義兄上に何か言伝を考えてくれ!》


《仕方ないですねぇ……。本当に何も無いんですけど……。じゃあ、適当に路傍の花でも摘んで、『これを私だと思って』とでも伝えてください》


《雑すぎですよ帰蝶さん!》


 余りにもあんまりで、ぞんざいな扱いにファラージャが思わず突っ込んだ。


《はぁ。しょうがないですわねぇ。じゃあ殿が食べる為に育てている柿の木を、1本美濃に進呈しても宜しいですか?》


 実は信長は好物の干し柿を作るために、種から自分で育てていたのであった。

 多趣味で様々な事に精通していた信長だが、どちらかと言うと政治的側面も多分に含んだ趣味であった。

 だが、それだと心から趣味を楽しむ事が出来なかったので、今回は100%完全趣味として柿の栽培を選んでいたのだった。

 その柿の木が芽を出し、腰の高さまで育った木が何本かあったので、それを帰蝶からの進呈という事にして抜けた魂を呼び戻す事にしたのである。


《まぁ、仕方あるまい。その程度であれば安い物よ。直子の件も忘れずにおこう。別にワシも嫌っておる訳ではないしな》


《もちろんです! 嫌ってるなんて許しませんよ!?》 


 帰蝶が上洛の件で、直子を連れて行けと念押ししたのには理由がある。

 史実では来年、信長にとっての初の子供である織田信正が生まれ、その母親が直子なのである。


 ただし、歴史が大幅に変わった今、信長との間に子供が史実通りの信正として産まれるか全く予測がつかない。

 女が生まれるかもしれないし、男が生まれたとしても信正としての資質が無いかもしれない。

 あるいは、信正よりももっと才能がある子が生まれる可能性もあるし、歴史の修正力が働いて史実通りの信正が生まれる可能性もある。


 色んな可能性が考えられる中、確定しているのは父親と母親が史実通りなだけで、残りの全ての要素が史実に反する。

 史実から逆算すれば、京での滞在期間にもよるが、そろそろ()()を起こさないと間に合わない。

 そんな諸々の事情があり、帰蝶は直子を連れて行けと言っているのである。


 むろん、帰蝶が歴史改変を警戒して、人体実験や検証的理由で望んでいる訳ではない。

 病身の前世で世話になったり、元気づけられた直子の子である信正に、ちゃんと元気な姿で接したい気持ちが99%。

 残り1%については、人生をやり直している数奇な運命の都合上、どうしても払拭できない不安である。


 なお子供についての意見は信長、帰蝶、ファラージャの三人で意見が割れた。


 史実通りに生まれる、即ち歴史の修正力を信じているのが帰蝶。

 史実通りにならない、即ち自分達が知る子供は出来ないと考えているのが信長。

 ファラージャは二人の折衷意見で、史実通り生まれるが才能や資質は未知数と考えている。


 いずれにしても史上初の試みには違いないので、協議を重ねた結果、せめて生まれる順番くらいはコントロールして、子供に関しては史実通りに出来るところは史実に沿おうと方針は決まったのである。


 特に信長の二番目の子供として誕生する信忠に関しては、本能寺にも随伴した重要な役割がある。

 何の計画性も無く子供を作ってしまった結果、全く男子が生まれない非常事態が起こっては、ある意味、凄まじいまでの歴史改変が起こる可能性も考えられる。


 歴史改変を目指す信長、帰蝶、ファラージャであるが、息子娘達の存在を抹消したいとは思っていない。

 帰蝶は史実で子供を生む事は無かったが、しかし全員血がつながっていなくとも愛しい息子娘と認識している。


 子供の出生に関しては可能な限り史実を再現し、それでも生まれなければ仕方ないが、出来れば史実通り産まれ、共に本能寺の先の未来へ行きたいと願っていたのである。

 もちろん、仮に史実に存在しなかった才能や性格、性質を持って産まれたとしても粗略に扱う、という訳ではない。


《信正……信正か。初めて子が出来た時はどんな子供になるか、色々想像して楽しんだというか期待したというか。しかし、仮に正真正銘信正が産まれる場合、そういった想像や期待で楽しむ親の特権を味わう事が出来んのだな。既に確定しているのだから。転生故の欠点か》


《まぁ……そうなりますかねー。でも史実に存在しなかった側し―――》


《は?》


 ファラージャの『側室』と言いかけた言葉に、帰蝶がすかさず威圧を込めて聞き返した。

 帰蝶は史実での信長の側室に対しては嫌な顔どころか、自ら側室に引き入れる行動力をみせたが、史実に存在しなかった側室を迎えるのには難色を示している。(外伝7話参照)

 帰蝶の複雑な女心であった。


《だいたいですね!? そんな面倒な事しなくても、私との子を授かれば良いのですよ! 存在しなかった人間を産むのです! これこそ究極の歴史改変! こんな計り知れない事はありませんよ!?》


《ッ!! ってそりゃそうですよね!》


《ただ、いくら待っても授からないんですけどね》


 帰蝶は憤慨して言った。


《そりゃ今のお主は、ワシにとって絶対に欠かせぬ存在。子供を授かるとしても、もう少し余裕ができた時にだな……。大体、何もしとらんのだから授かるハズが……ん? ……いくら待っても授からない? ……おい、ファラ?》


《わ、私は教えていません。斎藤家では……あ》


《なんじゃ?》


《なに?》


《帰蝶さんの前世は、病弱でとても子供を望める状態ではありませんでしたよね? 織田斎藤両家とも、それは承知の上での婚姻同盟だったのですよね? ならば不要な知識として誰も教えなかったのでは……?》


《ッ! 成程!?》


《何を?》


《子供を授かる方法です》


 ファラージャの推測は正しかった。

 両家とも帰蝶の負担になると判断し、良かれと思い教えなかった事が、奇跡的に48年+5年+8年と今の今まで性に関する情報から、帰蝶を遠ざけてしまっていたのである。


 帰蝶は帰蝶で子を授かるには、男も女もお互いを求める事については何となく察してはいたものの、確信に至る情報も偶然遮断され、肉体的にも病気でそれ所では無かった為に、積極的に知る行動も起こさなかった。

 転生後は奥に引っ込む様な事はせず、常に前に出ていた為に知る機会に恵まれなかった。

 今、その悲劇が発覚した。


《と言う事は!? お主、野盗討伐を父上に許された時、覚悟を問われたのを覚えておるか!? アレの本当の意味を理解しとらんかったのか!?》(11話参照)


 信秀は戦場に行く以上、陵辱に対する覚悟を問い、帰蝶は『勿論です。覚悟の上です!』と答えた。


《え? 捕らえられ奴隷にされ酷い扱いを受けると……》


《その酷い扱いの内容じゃ!》


《……え?》


 その後、ファラージャと信長は四苦八苦しながら緊急で性教育を施し、帰蝶は赤面し地面をのた打ち回るのであった。


《つ、疲れた……。まだ決めねばならん事があるのに》


 すっかり魂の抜け落ちてしまった帰蝶を横目に、信長は声を張り上げた。


「誰ぞある! 勘十郎(信行)と新五郎(林秀貞)を呼べ!」

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