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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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90話

◆Side ジンタ◆



「所長からそのようなことを……」


 クリスティの家にやってきたおれは、手紙を渡してジギーに会ってきたことを伝えた。


 今まで育ててもらった人にそんな仕打ちをされることになれば、悲しくもなるだろう。


 おれも伝えるかどうか迷ったけど、クリスティを守るために事情は把握してもらっていたほうがいいだろうと判断した。


「……おれが『下降線(グロウダウン)』を使わなかったら」


「そんなことありません、カザミさん。きっと貴方が弱体化の呪術を使わなければ、私は今でも貴方に戦いを挑み続けていたことでしょう。きっとこれは、私が機関と決別する良い機会だったんです」


「そう言ってくれると助かる。……シルヴィにもこのことを伝えてあるから、警戒を強めてくれると思う」


 ありがとうございます、とクリスティは力無くお礼を言った。

 やっぱりショックだったんだろう。


「シルヴィの近衛騎士たちと、ジギーの機関……どっちも王国直属なのよね? 戦うことになったらどうなるのかしら?」


 言われてみればそうだ。

 リーファの疑問にクリスティが答えた。


「魔神対策機関は、国王とごく一部の人しか知らない機関ですから……近衛騎士に何かしら指示があって、衝突しないように手配するかもしれません。だから、前触れなく派手に動く、というようなことは出来ないと思います」


 ジギーの話になると、クイナは思いつめたように唇を噛んでいる。


「突発的な攻撃は仕掛けられなくなるが、ここらを警戒させたとしても、近衛騎士や警備兵はさほど役に立たない、ということか……」


 シャハルがまとめるように言った。


 逆に言えば、速攻こそこちらの虚を突くチャンスでもあるんだよな。


 ちょんちょん、とひーちゃんがおれの袖を引いた。


「ご主人様。ボク、町の中じゃ戦えないの……」

「それもそうだな……。ドラゴン化すれば、むしろそっちのほうが大騒ぎになりそうだ」


 王都にドラゴンが突如出現すれば、大事件に発展しかねない。


「私が所長のところへ行って話をつけてきます。これ以上、皆さんにご迷惑はかけられません」


「待て待て。おれが話した感じじゃあ、クリスティの存在自体が邪魔になった、ってふうだったぞ? だから、クリスティがいなくなるまでこれは続くと思う」


「……ですが」


 何か言おうとするクリスティをクイナが遮った。


「話し合いでどうにかなるような甘い方ではないです。……クリスティさんが、それは一番よくわかっているのではないですか?」


 もしかすると、それをわかった上でのクリスティの提案だったのかもしれない。

 けど、自分一人が犠牲になれば、なんて考え、おれは認めない。


「せっかく『勇者』でも『世界最強』でもなくなったんだ。変なことを考えるのはよそう。おれたちは、そんなことは望んじゃいない」


「はい…………カザミさん、ありがとうございます」


 ごそごそ、と天井から音がして、動いた板の隙間からジェラールが顔を出した。


「僕は気遣う必要はないと思うよ、クリスティ。育ててもらった恩は確かにあるんだろうけれど、意に沿わなかったからって始末するだなんて、あんまりだ」


 声にクリスティは天井を見あげた。


「ジェラール……。確かにそうかもしれないですね」


 スルーするんだ。


 気にならないんだ。


 天井から顔出してるのに。


 あ――ヤベ。目が合った。


「ジンタ君、僕はずっと君を見守っているよ! フフ、のぞくっていうのもなかなか興奮するね」


 変態が天井のおかしな使い方を覚えてしまった。


 ぱたぱた、とひーちゃんがちっちゃな翼をはためかせて飛ぶと、板を元に戻そうとする。


「ちょ――ひーくん、何をするんだい!? 僕はこうしてジンタ君を見守っているっていうのに――」


「お行儀悪いの。……ドラゴンンンンンン――ぱんちっ!」


 ごん!


「ぶはっ!?」


 そっと板を元に戻して、ひーちゃんはおれの膝に戻ってくる。

 ひと仕事終えたような、良い表情をしていた。


「あ。そうだ。アイボの中にいてもらうっていうのはどうだろう? 日中はおれたちが護衛出来るけど、夜もずっとってなると、さすがにこっちだって体力的にも精神的にも疲れてくる。居心地が悪いんなら他に何か考えるけど」


「いいじゃない、それ。アイボの中は居心地良くもないし悪くもないわよ?」


 アイボ最多入場回数のリーファが言うんなら間違いはないだろう。


 アイボ――魔法の空間があることをクリスティに伝え、夜はそこに入ってもらうことになった。


「カザミさんは便利な物を持っているんですね」

「これなら、交代しながら見張るなんてことをしなくて済む」


「そうなれば、妾たちはしばらく小娘とここで暮らせばよい、ということだな」


 シャハルが話をまとめると、ひと段落したせいか少しだけみんなの空気がゆるんだ。


「お腹空いちゃったし、わたし、何か作るわね?」

「では、私もお手伝いします」


 二人が立ちあがってキッチンへむかうっていると、ごんごん、と玄関扉がノックされた。


 ゆるんだ緊張の糸が再び張り詰めた。


「――な、何だい君たちは――!?」


 ドガ、ドス、と物音が天井からすると。


 ドガァーン、と天井板を突き破ってジェラールが落ちてきた。


「ジェラール!?」


 クソ、こいつ……幸せそうな顔をしてやがる。


「あんな子たちでも、気持ちいいなんて、変態失格だよ……」


 ……変態の自覚、あったんだ。


 ガク、とジェラールは気絶した。

 結局、こいつは強いのか弱いのかさっぱりわからないな。


 天井から数人が降りてくると、窓や玄関からもさらに数人が家に入ってきた。


 侵入者はいずれも七、八歳くらいの子供だった。

 全員が黒っぽい制服を着て、短剣を逆手に握っている。


 だいたい一〇人ほどいた。


「所長とやらに、先手を打たれたらしいな、ジン君」

「ああ……」


「カザミさん――この子たちは機関でプログラムを受けている子たちです……」


 子供を使ってくるとは、クソな手段だな。

 一人は、今日おれを案内してくれた男の子だった。


「ご主人様、ボク、ドラゴン化するの」

「ブレスと咆哮はダメだぞ? あと、ちゃんと手加減するんだぞ?」

「がう!」


 ひーちゃんの体がぴかり、と光って仔ドラゴンが現れた。


「がるう!」


 子供たちは眉ひとつ動かさない。

 それどころかほとんど表情すらない。


 音もなく一斉に子供たちが動きだした。

 狙いはもちろんクリスティだ。


「クリスティ、こっちに! みんなは、足止めを頼む!」


 前列でリーファが杖を振るい、隣のクイナが威力の低い風魔法を使う。


「もう、子供だなんて――! やりにくい――っ!」

「すばしっこい……当たりません――」


 ひーちゃんは壁を作るようにおれたちの前に横たわって、尻尾や爪で牽制を繰り返している。


 そのわずかな間に、おれはクリスティを抱えてアイボに放り込む。

 よし、収納出来た。


 おれも鞘のままの剣を構えて攻撃していく。


 うぅ……子供相手ってすげぇやりにくい。

 手加減を第一に考えないといけないし、すさまじく小回りが利くから、当たりにくい。


 しかも家の中。

 剣を振れば仲間にぶつかりそうで、使いにくい。


 奥では、いつの間にかシャハルが悪魔のバアルちゃんを召喚していた。

 ビシッとこっちを指差す。


「妾たちの出番ぞ、バアル。あれは使えるのだろう?」

「あれくらいならオーケーや。まったく、悪魔使いの荒い魔女やで。ジン君避けてやぁー? ――そーれっ、『遅滞(スロウ)』!」


 灰色の魔力が、霧のようにぶわぁっと広がった。

 その霧が子供たちとリーファたちもろとも覆っていく。


 すげ。霧がかかった場所だけ、のろのろ動いている。


「効果は三秒っきりや! やるなら(はよ)ぅ!」

「うむ、ジン君今ぞ――!」

「任せろ!」


 おれは子供たちに当て身を軽く食らわせて気絶させていく。

 全員でちょうど一〇人。

 眠っているところだけ見れば、あどけない子供たちだ。


「ちゅーか(ていうか)シャハルちゃん、何もしてへんクセに、めっちゃ偉そうやな?」

「妾はバアルを召喚した魔女ぞ。偉そうにして何が悪い」


「足止めしたんはノロノロになった三人。呪術使ったんはウチ。何とかしたのはジン君。シャハルちゃん、何もしてへんやん」

「うぐ……ジ、ジン君は妾のことを守ってくれると約束した」


「口約束の上にそうやってあぐらかいてるワケやな? 経験からして、これは愛想尽かされるパターンやな……」

「え? え? それは、どういう――」

「ジン君、ほんじゃあウチ帰るわぁ~」


 ちゅ、とおれに可愛く投げキッスしたバアルちゃんはパッと消えた。


「ま、待て、バアル――! ワケを、ちゃんとワケを説明し――、バアル!」


 と、誰もいないところにむかってシャハルは言うけど、バアルちゃんは戻ってこなかった。


 さっきの魔法の効果が切れて、リーファたちも元に戻った。


「ノロノロになったあれは、バアルちゃんの仕業だったのね?」

「子供たちがすばしっこいから、それでスキルを使ってくれたみたいなんだ」


 おれはクリスティをアイボから出す。


「どうにか、防ぐことは出来た」

「カザミさん、ありがとうございます」


 ぺこり、とクリスティは深くお辞儀をする。

 眠っている子供たちを見て、悲しげに目を細めた。


「プログラムを受けたものの、勇者候補になりきれなかった子たちです、きっと。……候補生をこんなことで外には出しませんから」


 そういう才能の有無は、所長が見て決めているそうだ。


「私、それが普通だと思っていたんです。ダメな子は、ダメなりの『用途』があるって……。けど、今ならわかります……こんなの酷いです……」


 冒険者としてそれなりに世界のことを知り、常識を覚えたから理解出来たんだろう。


 天井は一部壊れているし、窓ガラスも割れている。

 床では変態が気絶しているし。


 明日から拠点は変えたほうがいいだろう。


 子供たちは縄で縛って一応捕まえている。


 シルヴィのバルムント家にご厄介になるのが一番かもしれないけど、さすがに迷惑はかけられない。


「このままでは後手に回り続けるぞ、ジン君」


「王都南側にある林の中に家があります。機関に繋がる隠し階段がありますから、そこから所長のところへ行けるはずです」


 おれが今日行った家だ。


 戦闘後の家はかなり滅茶苦茶になっていて、リーファたちが料理する間、簡単に掃除をした。


 思いつめているのは、クリスティよりもクイナのほうだった。


「ジンタ様。……わたくしの言葉が届くかはわかりませんが、兄は、わたくしが止めないといけないのだと思います」


 夕食後、クイナに呼び出されこっそり相談された。


「兄の非道をこのまま見過ごすわけにはいきません」

「おれも行く」


「ジンタ様の手をわずらわせるワケにはいきません。これは、わたくしたちの問題ですので」

「つってもなあ……」


 大丈夫かな、クイナ。

 って思ったのが顔に出たらしい。


「ご心配、ありがとうございます、ジンタ様。貴方が優しいから、何かあれば、わたくしたちは甘えてしまうのです。頼りにならないのは承知していますが……それでも、わたくしは……」


 わしわし、とおれはクイナの頭を撫でた。

 ここまで言うのは珍しい。


 胸に秘める覚悟みたいなものがあるんだろう。


「わかった。お兄ちゃん、説得出来るといいな?」

「はいっ」


 魔神対策機関は少人数って話だ。今日の襲撃を退けたから、また行動を起こすには時間がかかるだろう。


 それまでに、クイナが説得出来るかどうかってところだな。

 けど心配だから、ひーちゃんにこっそりついて行ってもらおう。


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