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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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89話



「ご主人様、どこ行っていたの? ボク、心配したの」


 シルヴィの屋敷に戻ると、部屋のベッドの中にひーちゃんがいた。


「何でベッドに入ってるんだよ」

「ご主人様どうせ起きないから、一緒に寝ようと思っただけなの」


 気づいたら大抵はつまみだすからなあ。


「ちょっと用事があってな」

「ご主人様が早起きするなんて、ボク色々と心配なの。ヨクナイことが起きそうなの」


 やれやれ、とおれはベッドに座ってひーちゃんの頭を一度撫でる。


「クリスお姉ちゃんのところへ行く必要がありそうなんだ」

「がう!? そ、それは嫌なの……!」


 クリスティはひーちゃんと遊ぶとき、『クリスお姉ちゃん』と無理に呼ばせていた経緯がある。

 敬遠するのも無理ないか。


 おれが帰ってきたことを知ったみんなが部屋へ集まってきた。


「ジンタ様? どちらへお出かけだったのですか……?」


 クイナがすごく悲しそうに訊く。


「わ、わたしは、じ、ジンタが、フツーだって、信じてるから……」


 もにょもにょとリーファが言った。


「……だがしかし、女人の入り込む余地がないというのも、なかなか甘美なものがある……!」


 と、シャハルが続ける。


「? ……??」


 シルヴィだけはきょとんとしている。


「みんな何かと勘違いしてないか? おれは手紙をもらって出かけてたんだ」


 おれは懐からジギーにもらった手紙を見せる。


 ざざ、とクイナ、リーファ、シャハルが背をむけた。


 額を突き合わせてこそこそとしゃべりはじめる。


「やっぱりおかしいです、ジンタ様が誰よりも早く起きて屋敷を抜け出すなんて」


「うむ。やはり逢引の可能性が高い。妾らの誰でもない、その上、手紙をやりとりする相手……」


「ええ……。ひーちゃんが言っていた通り、寝たと見せかけて夜こっそり……?」


「? ……??」


 やっぱりシルヴィはきょとんとして輪の外からみんなの様子を窺うだけだった。


「誰と会ったと思ってるんだ、みんな」


「「「ジェラール」」」

「何でだよ!」


 シルヴィは納得いかなさそうに首をかしげている。


「何が悪いのだ。友と夜を明かして語り合うことだってあるだろう?」

「シルヴィ、ちょっと集合」


 ちょいちょい、とリーファが手招きして、とことこ歩いていったシルヴィを輪に加えた。


「友達の枠を越えそうだからいけないのよ」

「枠を越える?? それは一体どういう……」


「よいか、小娘。男と男でも……――」


「はっ、ハレンチだ! いやしかし男同士だとハレンチではないのか……!? あれっ、あれれ??」


 シルヴィが顔を赤くして目を回しはじめた。

 妄想がたくましいな、女子たちは。


 おれが呆れていると窓の外から声が聞こえた。


「そうッ! BがLする、ジンタ君と僕の素敵な関係っ!」


 窓ガラスにジェーラルが貼りついていた。


「うわ!? 出た変態! どうやってここまで……ここ、四階だぞ……!?」

「フフフフ、愛さえあればそんな物理的なこと、関係な――」


 気づいたひーちゃんが、窓ガラスを手のひらでぺんぺんと叩きはじめた。


「ご主人様を困らすのはダメなの」


 ぺんぺん。

 ぺんぺん、ぺんぺんぺん。


「あ、ひーくん、ちょ、そんなに衝撃を与えると、こっちにも響いて――」


 つるん。


「あぁあああ――っ!?」


 悲鳴を残してジェラールの姿が消えた。


「シルヴィ、裏庭に燃えないゴミが落ちたから、掃除よろしく」

「ああ、メイドにそう言っておこう。……か、カザミ! ハレンチはダメだぞ、ハレンチは。……だ、だが、男同士ならセーフだと思うぞ?」


「アウトだろ。余計悪いわ」


 話がずいぶんと脱線しちまった。

 おれはみんなに今日届いた手紙を見せて、ようやく誰と会ったのか理解してくれた。


 ただ、クイナだけは手紙を見てフリーズしている。

 たぶん名前に見覚えがあるからだろう。


 目を泳がせながらリーファはうなずく。


「そ、そうよね。……わ、わたし、ジンタのこと信じてたから」

「ウソをつけ、ウソを」


「それで、ジン君。この所長に会ってどうであった? 何か勇者について情報を得られたか?」


 シャハルの問いかけにおれは首を振った。


「いや、条件を出された。……おれが勇者になれば情報は開示してくれるらしい。ただ、どうにもむこうの指示は聞かなきゃいけないみたいで、勇者っていう人形が欲しいみたいなんだ。それで、一旦考えるとは伝えた」


 みんな考え込むように黙ってしまった。

 そりゃ、急に勇者だなんて言われても、どうしていいかわかんないよな。


「あと……クリスティを切り捨てるようなことを言ってたんだ。弱者は不要だって言って」


「それって……クリスティ、危ないんじゃないの?」

「うむ、リーの言う通りであろう」


 しかもクリスティは時間が経つにつれどんどん能力がさがっていく。

 それをむこうも知っていた。


「酷いです……!」


 絞り出すような声でクイナがつぶやいた。


「……うん、だからおれたちは、しばらくクリスティの護衛をしようと思うんだ」


 今回の件を急いでクリスティに伝える必要がある。

 あと……不本意だけどジェラールにも協力を仰いだほうが良さそうだ。


「シルヴィ、城下町の警備を強化してもらえないか? ちょっと荒事になりそうなんだ」

「わかった。そういうことであれば、彼女の家近辺は巡回の数を増やすなどして対応しよう」


 シルヴィが部屋を出ていくと、支度を整えるためクイナ以外の三人も自室へ戻った。


「……ジンタ様。所長……ジギーと書いてありますが、どのような人物でしたか?」

「エルフ……だったよ」

「やはり……お兄様、なのですね」


 おれがうなずくと、二人きりの部屋でクイナはぽつぽつしゃべった。


「お父様が言うには、王国の官僚をしているという話だったのです。所長という片書きがあるくらいなのですから、官僚という話自体は間違いではないのでしょう……」


「ジギーとは、仲良くないのか?」


「……ずっと前に、わたくしたちの里を出ていったきりで、顔を合わすことも連絡を取ることもありませんでした。きっと、お兄様には森や族長という地位は小さすぎたのだと思います。とても頭の良い方でしたので。あのときも……あんなことが起きたあの場で、何もせず去っていって……」


 沈痛にクイナは唇を噛む。


 あの場……?

 おれは深いことは聞かず、優しく肩を叩いた。


「とにかく、おれたちはクリスティを守ることをまず考えよう。対策はそれからだ」

「はい。ジンタ様――」


 クイナはおれに体を預けた。


「少しだけ、このままでいてください」

「ああ、うん」


 されるがままのおれの背に、クイナは手を回す。

 きゅっと抱きしめられた。


「クイナ?」

「うふふ……今はジンタ様成分を補給しているところです」

「何だよ、それ」

「わたくしを元気にしてくれる世界でただひとつの成分です。この補給はとても重要なのです」


 おれが笑いながら頭を撫でると、クイナが顔をあげた。


「わたくし、ジンタ様に痛いことをされるのも好きですけれど、優しくされるほうがやはり好きかもしれません」

「まともな神経に戻りそうで良かったよ」


「大好きです、ジンタ様。――愛してます」

「な、何だよ、急に……」


 顔を離すと照れくさそうにクイナは笑って、くるりと背をむける。


「わたくし、支度してきます」

「え、あ、ああ……」


 ピンと横に伸びた耳の先は赤い。


 動揺しているのか、部屋から出ようとしたはずなのに、クローゼットの扉を開けている。


「あ」


 目が合うと、おれたちは笑みをこぼした。

 ぺこり、と一礼して部屋からクイナが出ていった。


「……リーファさん? もう支度はすんだのですか?」

「えっ――!? え。……うん………………」


 二人の声がして、たたたたた、と足音が遠ざかっていった。


「あ。リーファさん――?」


 おれも気になって扉から顔を出すと、ぽかんとしているクイナと遠ざかるリーファの背中が見えた。



◆Side リーファ◆



「シャハル、シャハル――シャハルぅううううううう――っ」


 わたしはシャハルの客室に飛び込んだ。


「騒がしいな、どうかしたか?」

「ふぃいいん、ふええぇぇぇ……、ぐすん……っ」


 涙が溢れて止まらなかった。

 見ちゃった……。

 もうジンタ支度出来たかな、と思って部屋に行こうとしたら、ちょうど開いてた隙間から……。


「ジンタが、ジンタがぁあ……」


 何をどう説明していいかわからなくて、とりあえずジンタの部屋の方向を指差した。

 どうしてかわからないけど、ぶんぶん指を振っていた。


「鼻水と涙をまずはふくがよい。で、ジン君がどうかしたか?」


 思い出すだけでまた涙がいっぱい出てきた。


「ジンタが、ジンタがぁあ……クイナとぉお……ふえええええええ」


「なんだ、セックスでもしていたか?」


「違う! そそそ、そこまで、そこまでしてないっ」


「? 舐め合っていたとか?」

「そんな寸前じゃなくてっ」


「? ではなんだ。舐めていた?」

「わたしにレベルを合わせてよぅ……っ。そんな深く知らないのにぃ……」


 全然伝わっていないから意を決して言うことにした。


「――キ、キス――キスしてたのっ! たぶん、あれは絶対そうよ――っ」


 ああ、また思い出すだけで悲しくなっちゃう……。

 ぐすん、とわたしが鼻をすすると、シャハルがハンカチで乱暴に涙と鼻水をふいてくれた。


「だ、抱き合ってたの、ぎゅうって。こっそり二人で! ぎゅって!」


「キスは、たぶんなのか絶対なのか、どちらだ?」


「たぶんです……」


「もしそうだったとして、その程度でこのような大騒ぎ。リー、そなたは子供か?」


 シャハルは可哀想なものを見るような目でわたしを見てくる。


 な、なによぅ……おっきなため息なんてついちゃって……。


「はぁ……。よいか、リー。そんなこと、妾もひーもしているぞ?」


「へっ?」


 わたしがぱちくり瞬きしていると、ベッドに座って長い脚を組んだ。


「ジン君は朝なかなか起きぬだろう? それでな、目覚めのキスを少々。……だが、あの男のつまらぬところは、さっぱり起きぬところでな。慌てたり驚いたり、そのまま情事に流れ込むなりするであろう、普通は」


「最後の何!? 最後の! 朝からそんなことしないわよっ」


「いっこうに起きぬから、こちらが先に飽きてしまう。ひーも同じことを言っていた」


「ひ、ひーちゃんも!? だいたい、どうしてそんなことしてるのよっ」

「最近はしていないが。リーもしてみればよい。どうせ起きぬ」


 あはは、とシャハルは楽しそうに笑う。


「お、起きないからって、き、キスなんてしちゃダメよ……」


 …………。


 ほ、本当に起きないのかしら……?

 だったら、ちょっとくらい……。


 はっ。

 わたしは我に返ってぷるぷる首を振った。


「ダ、ダメダメ! そ、そういうのは、ちゃんとしたときに、ちゃんとするものなの! 寝ているときと起きているのじゃ、意味全然違うもの」


 しょぼーん、とわたしは膝を抱えて丸くなった。

 ジンタ、クイナのこと……好きなのかしら……。


「そもそも、その考えがおかしいと思うぞ、妾は」

「え、何? あ。口で言ってた!?」


「ジン君はみんなのものぞ。自分だけのものにしたいという独占欲があるから、そんなふうに考えてしまうのだろう?」


「う~。なんか納得出来ないような……」


 やっぱり、おっぱいが大きいから? お淑やかだし、うふふな感じだし弓も使えるし……。


 でも料理はわたしのほうが上手よ?

 家事だってテキパキ出来るし、おっぱいは……その、小さいけど……。


 ぽふぽふ、と胸元を触る。

 色んな意味で悲しいよぅ……。


「けど、シャハルはいいの? ジンタとクイナがキス、してても……」


「うん? よいか悪いかで言うと、あまりよくはないが、魔女の妾が尽くしてやってもいいと思えるほどの男ぞ。メスが群がるのは当然のこと」


 何でこんなに堂々としてるんだろう。

 女神のわたしはこんなにメソメソしてるのに。


 ひーちゃんが部屋にやってきた。


「リーファ、どうして泣いてるの?」


「あのね、ひーちゃん。もし、わたしとジンタがキスしてたら、ひーちゃんどう思う?」

「がう? なんなの、その質問」


 クスクスとシャハルが笑っている。


「そんな益体のないことを訊いてどうする、リー」

「いいの。放っておいて。……ひーちゃん、どう思う?」


「? どうも思わないの。ボクはご主人様が大好きなの、それだけなの。ずうっとそれは変わらず一緒なの」


「……」


 ひーちゃんが一番すごいかも……。


「ご主人様ほどではないけど、リーファも好きなの」

「ひーちゃぁあああん――」


 ひしっとひーちゃんの小さな体を思わず抱きしめるわたし。


「がう? どしたの、何なの? さっぱりわからないの」


「さて。行こうぞ。ジン君が心配する」

「うん…………」


 わたしの頭をぽんぽん、と撫でたシャハルは、ほんの少しの手荷物を持って部屋を出た。

 わたしも、ひーちゃんを見習おう。


「仕方ないから、手、繋いであげるの」

「ふふ、ありがとう、ひーちゃん」


 わたしたち二人は手を繋いで部屋を出て、待っていたジンタたちと合流した。



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