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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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82話


 おれたちは高級街と呼ばれる貴族たちの居住区を進む。


 シルヴィが足を止めると、門前にいる兵士たちはビシッと気をつけする。


「お嬢様、お帰りなさいませ」

「お嬢様はよせと言っているだろう。……ここが私の屋敷だ」


 門を過ぎ、丁寧に整った前庭を通り、大きな扉を開いて屋敷の中へ入る。

 メイドが一人駆けつけると、シルヴィが用を伝える。


 すぐに部屋を人数分用意してくれるそうだ。


「あ。シルヴィのお父さんに挨拶しないと。しばらくご厄介になるんだし」

「わかった、では、お父様の執務室へ案内しよう」


「シャハルさん聞きましたか、お父様にご挨拶ですって」

「うむ。婚姻の前段階でよくやる、アレか」


「違ぇーよ」


 こそこそ話しているエルフと魔女の頭に軽くチョップする。


 ぁん、と嬉しそうな声を出したクイナ。


「ジン君は叩く趣味もあるのか……」と分析をはじめるシャハル。


「か、カザミ! き、君は、そっ、そのような挨拶をするつもりだったのか」

「だから違うっての」


 慌てるシルヴィを落ち着かせて、執務室へむかう。

 中に入ると、口ひげを整えた上品な男が羽根ペンをひらひら動かしていた。


 おお。いつぞやの豚領主とは全然違う、貴族然とした貴族だ。


「お父様。少々よろしいでしょうか」

「おお、どうかしたか。今は職務中ではなかったか? 後ろの方々は?」


 シルヴィが簡単におれたちのことをお父さんに紹介する。


「はじめまして。風見仁太と申します。シルヴィさんとは先日、ザガの森で一緒に魔物と戦った仲でして。そのご縁で今回ご厚意に甘えて、しばらくこちらに滞在させていただくことになりました」


「カザミ……? おぉ、おぉ! あのカザミ君か! ずいぶんと娘が世話になったようだな。私からもお礼を言わせてくれ。ありがとう」


 シルヴィパパは立ちあがって、おれの手をぐっと握った。

 いえいえ、とおれが謙遜していると、シルヴィパパ――略してシルパパは首を振った。


「騎士として、頼りなくて不出来な娘であることは私がよく知っている。それが、行かずともよいクエストの検分官に名乗り出たかと思えば、手柄を立てて少したくましくなって帰ってきた。訊けば、カザミジンタという、ひとかどの冒険者に助けられたと言うではないか」


「いやいや、おれは普通の冒険者ですから。おれたちだって、シルヴィさんには助けられることが多かったですから、おあいこです」


 確かに、へっぴり腰だったり、お漏らししたり、パンツを追いかけて敵中に突っ込んだり、色々あったけど、パーティの安定感が増したのはシルヴィのお陰でもあった。


「そうか、合点がいった。他家からの婚姻の話がきても頑として受け入れようとしないのは――」


 シルパパはおれを一度見て、それからシルヴィに目を移した。


「――お、お父様、もうよろしいですかよろしいですね、か、カザミ、い、いくぞ」


 ぽかんとするおれの腕を取ってシルヴィは慌てて部屋を出る。


「ま、まったく、お、お父様は、け、見当違いもいいところだ。そ、そう思うだろ、カザミも」

「え? ああ……うん」


 よくわからないまま曖昧に返事をすると、シルヴィはちょっとだけしゅん、と肩を落とした。


 リーファがシルヴィの肩を叩く。


「シルヴィ、わかるわよ、その『ちょっとくらい否定して欲しかったのに』っていう気持ち。もう、『ジンタあるある』だから、それ」


 慰めてんのか、それは。

 なんだよ『ジンタあるある』って。


 それから、メイドさんにそれぞれ部屋を教えてもらった。


 思い出したようにシルヴィが声をあげた。


「ああ、調べ物をしたいのであれば図書館がある」


 シルヴィは懐から紙を出しペンでサインする。


「簡単にではあるが便宜を図るように記した。私の署名入りだから、信頼してくれていい」


 おぉ……。なんだ、このデキる女。


「シルヴィ……ずいぶんと出世したんだなあ。ザガの森では魔物にパンツ脱がされたり、お漏らししてたりしたのに」

「やっ、やめろっ、もうそれは言うなっ」


 早速図書館にむかうことにして、屋敷を出る。


「騎士長なんだよな、今は」

「最近就任したばかりだがな。近衛騎士をまとめる隊長のような役割だから、私の他にも数名王都にいる」


「でも出世してるんだ。すごいじゃん」


「そ、そんなことはない。あの森での経験のおかげでもある」


 あのときはどうなるかと思ったけど、こうしてきちんと出世している姿を見ると、なんだか他人事なのにおれも嬉しくなった。


「そうだ、カザミ。勇者のことを知っているか?」

「勇者ザイードのこと?」


 唐突な質問におれは怪訝に首をひねる。


「いや、そちらではなくて。最近、王都を中心に活動する冒険者がいて、彼女が勇者の再来だと言われているのだ。勇者と呼ばれるだけあって、相当強いらしい。クエストをかなりの数こなして、もう今ではSSランクになっているそうだ」


 勇者、か……。

 何か知ってたりすんのかな。


 勇者という単語に前傾姿勢になったシャハルだったけど、「何が勇者の再来か」と鼻白んだように口にした。


「で、それがどうかした?」

「もしかすると、カザミの前にも現れるかもしれない」


「どうして、おれのところに?」

「私は人となりを知っているから、一笑に付すことが出来るのだが、君の風評は、良いとは言えない。いや正直な話、すごく悪く言われている。だから……」


「おれをやっつけに現れるかもしれない、ってこと?」


「ああ。それに、強い冒険者を戦っては倒すようなことを繰り返しているようなのだ」


 何で悪く言われてるんだろう。

 まあいいか。王都近辺でいつも活動しているわけじゃないし。


 忠告してくれたシルヴィは仕事があるから、とおれたちとわかれた。


「ご主人様のことを悪く言うなんて、ボクゆるさないの」

「ひーちゃんさんに同意です」

「しかし、どうしてジン君は悪く言われているのだろう……?」


「ガチャでやりたい放題しちゃったからじゃない?」


 リーファの説にうなずかざるを得ない。


「その悪印象に、尾ひれも背びれもついて出来あがった人物像ってことか」


 人相書きまで書かれて張り出されたからな。

 おれも、やんちゃしてたころがありました。


 おれは全然気にしてないのに、クイナとひーちゃん、シャハルはひどく気分を害したらしい。

 ぷんすこ怒っている。


「まあいいじゃねえか、言わしたいやつには言わせておこうぜ? ――どわっ」


 曲がり角で誰かにぶつかって、おれは二、三歩あとずさる。


「すみません、大丈夫ですか?」


 声をかけると、ぶつかった男が顔をあげる。

 二〇半ばくらいのイケメン眼鏡男子だった。


「いえ。こちらこそすみません、だいじょ――うぶ、です――」


 驚いた顔をして、懐をまさぐっておれの人相書きを取り出す。

 何度も手元の人相書きとおれの顔を見て――


「ほ、本物だ――」


 と、こぼした。

 やっぱりおれ有名なんだ。

 悪名なんだろうけど。


「あ、あの……っ」


 おずおずとした態度。眼鏡を忙しなくあげさげする仕草。何度もチラ見してくる目線。

 言いにくそうに、何度も何かを言っては口をつぐむ。


 ……なるほど、そういうことか。


 おれはアイボからペンを取りだして、人相書きをちょっと借りる。


「名前、入れましょうか、この人相書きに」

「え?」

「いや、だから。サイン。誰誰さんへって、宛名、どうします?」

「え?」

「サイン……欲しいんじゃ……」

「え?」

「…………」

「…………」

「「――え?」」


 なわけないでしょ、とリーファが言った。


「ご主人様、顔真っ赤なの」

「ひーちゃんさん、しぃー」

「ジン君、どのような気分ぞ? ファンだと思ったら全然違っていた気分。妾、島から出てきたばかりでわからないのだが?」


 くそ、シャハルのやつ煽りやがって――覚えとけよ。


「で、ですよねえー。は、はははは――」


 おれは人相書きをくしゃくしゃに丸めて適当にポイッと捨てた。


 イケメン眼鏡氏は、半身に構えて眼鏡を一度クイッとした。


「僕は――今日この角で君とぶつかることを知っていた」

「嘘つけ。てか、じゃあ避けろよ」


「だが、まさか本物に会えるだなんて……」

「知ってたんじゃねえのかよ」


 長くなりそうな気配だったから、おれはみんなに先に図書館に行くようにと伝えた。

 結局、リーファだけが残って、みんなは先に行ってもらった。


「この人、なんか変じゃない?」

「そうか?」

「……心なしか、頬を染めているようにわたしには見えるんだけど」


 バカな。

 おれは男でこの人も男で――。


 ちらっと見ると、はにかんだような笑みを返された。


「そんな、熱い視線をむけられると、僕としてもどうしていいのか、わからなくなるな……」


「…………」

「ね?」


 おれの第六感が告げる。

 ――こいつとは関わるな。


「リーファ、行こうか」

「ええ」

「ま、待ってくれたまえっ。『ガチャ荒らし』の君に会ってもらいたい人がいる――」

「待たねえよ。おれは別に会いたくないから、その人にヨロシクって伝えといて」


「そういうわけにはいかない。ずっとずっと恋焦がれてきて、今日、奇跡的にここで出会ったんだ」


 わー。

 やっぱ面倒くさそうな人だ。


「いや、ちょっとおれたち仕事があるから……」


「僕と仕事! どっちが大事なんだいっっ!?」


「仕事だろ! なんで初対面のあんたと釣り合うと思ったんだよ」


「この熱い想いが君に伝わると思ったからだよ!!」

「何で伝わると思っちゃったんだよ!?」


「届け――! この僕の想い――君に――!」

「こっちに手をかざすのをやめろッ」


 ぺしん、と伸ばされた手を払うおれ。

 はあはあ、とツッコミに疲れて息を切らしていると、


「ジンタ、ここはわたしに任せて」


 リーファがおれとイケメン眼鏡の間に割って入る。

 おお。

 リーファがいつになく頼もしい。

 でもこれ、だめなフラグ――。


「ちょっと、何なのよ。ジンタに用があるの?」

「女は黙ってろっ!」


「ひうっ。……ジンタ……怒られた……」


 涙目でおれを振りかえる女神様。

 きちんとフラグ回収してきやがった。

 よしよし、と頭を撫でておく。


「ただ僕は、君に想いを伝えたいだけなのに――ッ」

「いや、伝える分には十分伝えたと思うんだが」


「……。僕はただ、君に会わせなければならない人がいるのに――ッ」


「……主旨、今思い出したんだ……」


「言うことを聞いてくれないなら、強引にでも連れていく」


 イケメン眼鏡は数歩さがって、上着をばさっと放り投げた。


 ……それから拾って、丁寧に畳んですぐ隣においた。


 ――じゃ最初から放り投げんなよ。


――――――――――

種族:人間

名前:ジェラール・バラルド

Lv:69

HP:23000/23000

MP:20000/20000

力 :350

知力:1800

耐久:200

素早さ:90

運 :10


スキル

火炎魔法 風魔法 氷水魔法


真・歓喜(男性からHPダメージを受ける回数に応じて知力上昇。戦意高揚)

――――――――――


 こいつ、魔法使いだったのか。

 三種類の属性が使えるし、ステータス数値も結構高い。


 なかなか侮れないやつだ。


 いや、待て。

 特に『真・歓喜』――。


 どう見ても……ただの変態だ。


「わ、わたしのほうが、お、想ってるんだからっ! 変態なんかに負けない」


 リーファもやる気だった。


――――――――――

種族:神族

名前:リーファ

Lv:66

HP:21000/21000

MP:30000/30000

力 :180

知力:1900

耐久:200

素早さ:60

運 :12


スキル

浄化魔法 治癒魔法 女神ぱんち 混乱防御 神光(ハロ)

――――――――――


 久しぶりに見るリーファのステータス。

 最近、シャハルの召喚獣と特訓しているからか、レベルがあがって強くなっていた。


 にしても、見事な知力特化型だなあ。


「そんなペッタンコな君の胸なんかより――」


 ぽちぽち、とシャツのボタンをはずしていく変態。

 細マッチョな体があらわになった。


「え、やだ、ちょ、何で脱ぐのよ――!?」


「僕のこの、すこしだけゴツッとした胸板のほうが、ジンタ君は喜ぶよ?」

「喜ばねえよ」


 どこをどう調査した結果だ、それは。


 おれはぽりぽりと頭をかいた。


「なんか、盛りあがってるところ悪いけど――」


 軽く『移動』してみせる。

 すぐ目の前に、変態イケメン眼鏡ことジェラールの驚く顔があった。


 その顔面にむかって、鞘入りの魔焔剣をフルスイング。


「あぁぁぁああ~っ」


 悲鳴にも似た嬉しそうな声をあげてジェラールは白目をむいてぶっ倒れた。


 強くなったのは、リーファたちだけじゃない。

 魔神の置き土産を倒したおかげか、おれもレベルがあがってるんだ。


―――――――――――

種族:人間

名前:風見仁太

Lv:66

HP:33000/33000

MP:18000/18000

力 :3400

知力:2600

耐久:1050

素早さ:600

運 :999999


スキル

黒焔 灰塵 真・恫喝


ホモキラー 【←NEW】

(ホモを魅了するスキル)

―――――――――――


 ――不要なスキル覚えたんだが!?


 ……魅了どころか、物理的にキルしたい。

 幸せそうな顔でビクビク痙攣しているイケメン眼鏡を見て、そう思いました……。




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