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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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78話

 食卓につくと、食べ慣れたリーファの料理が五人分出てきた。


 シャハルは、ひとまず千年経ったことと、おれが不当に剣を奪ったわけじゃない、というのは信じてくれた。


「シャハルさんは、これからどうされるおつもりですか?」


 スープを飲みながら、クイナが直球に尋ねた。


「そう、だな……。この島から出られぬし、もし出ても皆に迷惑をかけてしまう……」


 わけがわからずにおれたちは首をかしげた。


「海に番人がいたであろう? ばかでかい、海の魔物ぞ。ザイードが去ったあとしばらく、魔神が妾を訪ねてきたのだ。仲間にならぬか、と。当然断った。すると、去り際にまた来ると言って、あの魔物を島近海に放ったのだ。島から出ようとすれば妾を攻撃してくる……」


 来るとき見かけたあの魔物は、魔女の召喚獣じゃなくて、クソ迷惑な魔神の置き土産だったらしい。


「シャハルさんを島から出さないように、ということでしょうか?」

「だとすれば酷い奴ね……」


 迷惑をかけてしまう理由を、シャハルは説明してくれた。

 魔女がどういう存在かということ。

 万一、自分が利用されれば混乱をもたらすこと。


 魔神が欲しがるくらいだ。

 世界に影響を与えるほどの力を魔女は持っていると思っていい。


「ザイードのことは、残念だが……待たなくていいと思えば、この胸のモヤモヤも晴れた。だから妾は死ぬまでこの島にいようと思う」


 シャハルはあっさりそう言った。


 その言い分は十分に理解出来る。

 けど、何でだろう、うわ言で勇者の名前を呼んで、夢を見て(たぶん)泣いてまでいたのに、ずいぶんと理性的なんだな、と思った。


 おれが勇者の剣を持っているってわかったら、ブチギレしてたのに。

 もっと泣き叫んで取り乱すもんだとばかり。


 諦める準備は出来ていた、みたいな。

 そんな感じで、すごくあっさりしていた。


 それが、なんとなくおれの中では違和感になっていた。


 少し重い空気の中、みんなが食事を食べ終える。

 それを見計らっておれは切り出した。


「シャハルは、勇者のことが気になったりしないの? 島で会っただけの相手なんだろうけど、その後何をして、どこでどう人生を終えたのか、とか。結構長い間、想い続けていたわけじゃんか」


「それは……。だとしたらどうした。今さら知ったところで……」


「本当にそう思っているんなら、悲しい顔するなよ……」


 ああ、わかった、違和感の正体。

 本心を隠しきれてないんだ。


 平然とした態度の合間合間に本心が顔を出している。


「おれは、魔焔剣のことをこれからも調べていく。たぶんそれは勇者のことを調べていくことに繋がると思うんだ。だから……島を出ないか? おれたちと一緒に来ないか?」


「…………」


 一瞬、明るい表情を見せると、すぐに困ったようにシャハルはうつむいた。


 そして、あの顔をする。

 わかったような顔で、諦めたような顔をする。


「……出られないと言ったであろう? 番人が海にいてあ奴が島の出入りを見張って」


「――じゃあ、そいつを倒したら島から出るのか?」


「ふ、ふふ、あはは……出来るわけがない。あの魔神が、力の一部を海に与え出来あがった異形の魔物ぞ。魔焔剣を持っているとはいえ、勇者でも何でもないそなたが敵うはずがない」


 くす、とクイナが笑う。


「シャハルさん、ジンタ様はやります」

「うん。ジンタはやるわよ。色々と覚悟しておいたほうがいいと思うわよ?」


 楽しそうに女子二人は「ね?」と顔を見合わせる。

 やっぱり仲良いよな、リーファとクイナって。


「もし、わたくしがシャハルさんでしたら、有無を言わずにジンタ様について行きます。好きな人のことは、何から何まで知っておきたいですから。そう、ジンタ様の髪の毛の本数まで把握しておきたいです!」


「クイナ……髪の毛の本数は気持ちわるいの……」


「うん、髪の毛の本数はさすがにキモい……。わたしもそのタイプ……かも。その人が、どんなことで笑って、怒って、泣くのか、知りたい」


 シャハルは何か言おうとしたが、押し黙った。


 やっぱり、勇者のことを知りたいんじゃないか?


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


 おれが立ち上がり部屋を出ようとすると、ひーちゃんもついてきた。


「ボクも行くの」


「わたしは、洗い物でもしておこうかしら」

「では、お手伝いします」


「――何故だ! そなたらはこやつが心配ではないのかっ! 魔神が作った魔物ぞ! 仲間なら手助けしてやるものではないのかっ!」


 うーん、とリーファが少し考えて笑う。


「だってジンタ、全然心配させてくれないんだもの。するだけ無駄よ?」


「そんなに心配ならシャハルさんが手助けしてあげてはいかがです?」


 心配してもらえないのは、それはそれでちょっと寂しいような。


「がうっ、ご主人様には、ボクがついているの!」

「うん、ありがとう」


 頭を撫でると「がぅ~」とひーちゃんは気持ち良さそうに鳴いた。


「妾のことは、放っておいてくれ。妾に関わったところで、よいことなぞ何もない」


 おれがやっているのは、ただのお節介でありがた迷惑だってのはわかっているつもりだ。


 待ち人は来ず、しかも二度と会うことは出来ない。

 シャハルもその可能性を考えていなかったわけじゃないだろう。


 だからあんなふうに、わかっていました、みたいな顔をするんだ。

 本当はそんなこと、望んでいなかったくせに。


「島の外に出る勇気が出ないのならそれでいい。出るつもりがないのなら、それでもいい。……けど、その番人って奴だけは倒す。いつか――シャハルが勇気を出したとき、邪魔しないように」


 リーファとクイナは、なぜか満足そうにうなずいている。


「困った女の子は放っておかない……さすがジンタ様です」


 女の子っていうと語弊があるだろ。

 たぶん、男だって助けると思うぞ?


「行ってきます」

「「行ってらっしゃい」ませ~」


 二人に送り出され、おれとひーちゃんは魔女の家を後にした。




 森を進みキャンプまで戻ってきた。


 シャハルが離れてついて来ているのには気づいていた。


 ひーちゃんがちらりと後ろを見てから言った。


「なんだかんだで、ご主人様のこと、心配しているの」


 バレてないつもりなのか、シャハルは木陰からこっちの様子を見ている。


 月が浮かぶ暗い海は、魔神の置き土産が潜んでいるなんて想像も出来ないくらい穏やかだ。


 シャハルが諦めるってことは、当然シャハルよりも強いってことだ。


「シャハル本人が直接戦うんじゃないから、召喚した魔物が敵わないってことなのか……」

「ご主人様なら、ちょちょいのちょいなの」


 ふふん、とひーちゃんは興奮気味に鼻を鳴らす。

 リーファもクイナもひーちゃんもそれなりに信頼してくれているらしい。


 言ってなかったけど、おれにはひとつだけ心配なことがあった。


 ひーちゃんがドラゴン化し、おれはその背に乗る。

 夜空を飛んでいると、すぐに海が盛り上がっていき、例の魔物が現れた。


 すぅぅ、とひーちゃんが大きく息を吸う。


「ガルァアアアア――――ッ!」


 咆哮とともにブレスを吐き出す。

 真っ赤な火炎が放射状に伸び、夜の中敵を浮かび上がらせる。


 気づいた敵は防御もせず、のっそりと首を回すだけだった。

 ブレスは敵に当たったけど、避けるように左右に割れて海面に直撃した。


「がる……?」

「あ。言うの忘れてたけど、あいつ、炎攻撃効かないから」

「……が、がるぁ……」


 ま、まじか、みたいな顔をしておれのほうを見てくるひーちゃん。


 にゅるる、と複数の触手がこっちに伸びてくる。

 攻撃速度はそんなに速くない。

 この程度なら回避は可能だ。


 ひーちゃんが触手を置き去りに空を駆ける。


「ヲヲヲ……ッ」


 ラハブが呻くと、星と月の見えた夜空が見る見るうちに曇っていく。

 ぽつり、と頭に水滴が落ち、すぐに土砂降りの雨になった。


 視界が悪過ぎてほとんど真っ暗だ。

 ひーちゃんがブレスを照明代わりに吐いてくれたおかげで、敵の居場所を確認できた。


 ……あれ。敵がさっきよりもでかくなってないですか。


「ヲヲォオオンッ」


 海上を見ると、鋭く尖る無数の氷が、切っ先をこちらにむけていた。

 海のほぼ一面がそうなっている。


 活けられる花ってこんな気分なのか。

 って、のんきなこと考えている場合じゃねえ。


 ザン、とすべての氷の槍が海上から空中に飛び出してくる。

 狙いはもちろんおれたちだ。


 三六〇度、全方位から攻撃が迫ってくる。


「がる!? がるがるがるがるう!」


 ひーちゃんがテンパっている。

 落ち着かせるため首を何度か撫でてやった。


「【黒焔】ッ!」


 進行方向から迫る槍を燃やし尽くし、その他方位の攻撃は、【灰燼】で叩き切った。

 ひーちゃんが右に左に、上に下へと回避し続けどうにか攻撃を凌いだ。


「ヲヲヲヲ…………ッッ!?」


 ラハブが何かに反応して、動かしている触手を止めた。

 体の中心部から全身に行き渡る黒い光が、脈を打つみたいにチカチカと輝き出した。


 ん? どうしたんだ?

 まあ何でもいい。

 とにかく、おれの攻撃が効くのかどうかだけど――。


 魔焔剣を見ると、ラハブと同じように刀身が黒く輝き、呼応するように明滅を繰り返していた。


 黒い光が点いたり消えたりするタイミングが、まったく同じだった。


「?」


 どうなってんだ、これ。

 おれが首をかしげていると、ラハブが砂浜のほうへ触手を伸ばす。


 その先には、シャハルがいた。

 まずい――。

 シャハルは召喚魔法を使おうとしているけど、間に合いそうにない。


 ひーちゃんが最大戦速で飛行。

 ビルみたいに太い触手を【灰燼】を発動させたままの剣で両断した。


 よし――【灰燼】は通じる!


「シャハル! おれたちのことはいいから戻れ!」

「そなたが帰るというのなら妾もそうしよう」


「このままじゃ死んじまうぞ!」


「それでもいい――――っ!」


「いいわけあるか!」


 つか、ひーちゃんのブレスはだめで、おれの【灰燼】は通用するってどういうことだ。

 おれはシャハルを攻撃しようとする触手を切り落としていく。


「余計なことはやめよ! 島は出ぬと言っているだろう。妾のことはもう忘れよ……! 関わったところで益なぞないのだぞ……!? 魔女は独りで死んでいくのだ」


 シャハルはまた目を伏せた。


「だったら悲しい顔すんのをやめろ! おまえ、泣いてただろう! また独りに戻るのか!? 『二人はあったかい』んじゃねえのかよ!?」


「だ、だとしたらどうした! 万一があれば皆、妾を恨むこととなる。だからここにいることに」


「――わかったような顔して勝手に折り合いつけてんじゃねえッ! 悲しい思いしてたのも後悔してたのも泣いてたのも、全部全部おまえだろうがッ! そんなおまえが最初に諦めてんじゃねぇえええええ――ッ!!」


 力の限り叫ぶと、びくっとラハブが動きを止めた。


「本当は島から出たいんじゃねえのかよ!? このままただ死を待って――おまえそれで本当に後悔しねえのかよッ!!」


 迷子の子供みたいな顔をするシャハルは、ぎゅっと唇を噛み締めた。


 もし望んでいるなら、おれはシャハルを島から連れ出してやりたい。

 こんなのは、お節介どころかおれのエゴでしかなくて、もしかするとシャハルにとっては迷惑もいいところなのかもしれない。


 けど。

 おれが一緒に行かないかって訊いたとき、一瞬だけ嬉しそうな顔をした。


 その表情に、嘘はないと思うから。


「……どうしたいのか教えてくれよ。魔女のシャハルじゃなくて、シャハル個人が何をどうしたいのか!」


 シャハルはうつむいたまま答えない。


「魔女がどんな存在で万一世界にどんな影響を及ぼすとか――――おれの知ったことか! そんなに心配なら――島から出たあと、おれのそばにいればいい!」


 はっと顔をあげたシャハルは唇を噛みしめ、ぽろぽろと涙をこぼす。


「ほ、本当は、行きたい……っ……知りたい……。独りは、もうイヤだ。だが、ダメなのだ……怖いのだ……もし死んだとき、取り返しのつかないほどの迷惑をかけて、好きになったそなたに恨まれるのは、イヤなのだ……!」


「もし死んだら、そんときは魔焔剣と一緒に誰も掘り起こせないような地下に埋めてやる。おれは魔女の力なんて利用しない。必要もない。何かあったら、おれが守ってやる。リーファやクイナ、ひーちゃんも守る。みんながいる……独りじゃねぇんだ――ッ!」


 うん、うん、と両手で顔を覆って声を震わすシャハルは何度もうなずいた。


「おまえの勇気は、誰にも邪魔させない。……だから、見てればいい。ついてくればいい。難しいことがあるんなら頼ってくれていい」

「がるがるーっ!」


 ひーちゃんも鳴き声で応えた。


 雨を吸い続けてさらに巨大化したラハブは、硬直が解けたらしくまたシャハルを攻撃しはじめる。


 ひーちゃんに器用に飛んでもらい、触手を両断していく。


【黒焔】を発動。

 MPの九割を消費させる。


 空中に赤黒い魔法陣が展開される。

 バヂバヂ、と黒い雷がおれの周囲で爆ぜた。


 ――護レ 蹂ミ躙レ 救国ノ 破壊ヲ 司リシ者 ナリ


 ……またか。今度は混ざってて何を言ってるのか全然意味がわからない。

 っと、そんなことよりも。


「ヲヲヲヲ……ッ!」


 海上にまた氷の槍が作られた。

 水氷系のさっきの攻撃だろう。


 穂先が一斉にこっちをむく。

 それが放たれたと同時だった。


「【黒焔】――ッ!」


 剣を振り下ろすと、膨大な魔力が剣先から迸る。

 それは黒い魔弾へと形を変える。


 大気を切り裂き波をねじ伏せ、着弾。

 直撃したラハブは、地獄から聞こえそうな重苦しい呻きを上げ、黒い焔に焼かれ蒸発していった。


 雨もやみ、すぐに雲が晴れていき、元の静かな海に戻った。


 永晶石が出てきたらしく、海に落ちる前に回収した。


【王の腹 (王の器を備えし者の腹部。王になるための資格の一つ)】


「またあれか」


 売ることも出来ないので、アイボに放り込んでおく。

 砂浜に戻ると、すぐにひーちゃんが人化しておれの背におぶさった。


 相当疲れたらしく、すうすう、とすぐに寝息を立てはじめた。


 MP消費が大きかったせいか、体が一気に重く感じる。

 とは言え、倒れ込むほどの疲労感じゃなかった。


 目を泣き腫らしたシャハルは、指で涙をすくって笑った。


「魔神が作った魔物ぞ……そなたは、無茶苦茶なことをする……」


 微笑んだ拍子に、また涙がこぼれた。


「後悔しても知らぬからな? 妾は、そなたのそばにいることとする」


「後悔なんてしねえよ。……? そばにいる?」


「そなたが申したことぞ。そばにいればよい、と。……うん? よもや忘れたとは言わせぬぞ?」


 シャハルはいたずら娘みたいに目を細めて、おれのほっぺをむにむにつついてくる。


 そういえば、言ったような。

 なんか、告白したみたいで今さらだけどちょっと恥ずい。


 それはともかく。

 シャハルは島から出る決意をし、おれたちと一緒に行動することになった。



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