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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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76話



 シャハルの言葉に、みんなが状況を理解する。

 どう説明してあげればいいんだろう。


 クイナやリーファが言うには、魔女は勇者に恋をしていた。

 その相手はもうおらず、それどころか、ずいぶんと時間が経っている。


 もう、時間の概念も感覚も麻痺してなくなるほど、シャハルはここで待っていたんだ。


 現実を突きつけないといけないのか?

 不死じゃないんなら、このままずっと本当のことは言わないまま、勇者を待ち続けたほうがシャハルにとって、幸せなんじゃないか。


 待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って――


 永遠に近い時間を待ち続けて、何も知らないまま死んでいく――。


 ……おれにはわからない。


 そんなに強く長く、誰かを想い続けたことなんてない。

 だから、わかるわけもなかった。


 こういうのは、同性のほうが気持ちはわかるんだろうか?


 リーファとひーちゃんが気の毒そうに目を伏せる中、クイナが口を開いた。


「シャハルさん。聞いてください」


「……何だ? あ奴のことを知らないのであればそう言ってくれ」


「では、お答えします。知っているか知らないかで言えば、知っています。ただ、わたくしやここにいる方々は、勇者ザイードを直接は知りません」


「ふむ、だとすればどうした?」


「わたくしが知っている――いえ、世間が語る『勇者ザイード』について、お話させていただきます。彼は、貴女もご存知の通り、様々な仲間とともに魔神と戦い、そして勝利し、人類の明日を守りました」


 誰もが知っているだろう、その英雄譚の一節を聞いただけで、シャハルの顔がぱあっと晴れた。


「であったか。あの魔神を倒したか、うむ、妾が見込んだ男だけある。――こ、これは、能力を認めているというだけであって、す、すすす、好いておるという意味ではないからな」


 おれが後を継いだ。


「シャハル……勇者が魔神を倒して、もう千年が経っているんだ。信じられないかもしれないけど」


「ふ、ふふふふ、あはははは、何を言っている! 千年? 馬鹿なことを言うのはやめよ」


「本当の、マジな話だ。最後に他人と会話をしたのって、いつだ?」


 おれたちの真剣な顔を見て、シャハルは笑みを引っ込めた。


「あ奴が、誰かにやられるわけがないとは思っていた。ここへの訪問方法はあ奴も知っている。それ以外にここに来ない理由――妾のことを忘れてしまったのか、それとも来られない事情があるのか、それとももう――」


「シャハル、人間は、千年も生きられないの……」


 悲しそうに言うリーファの言葉が刺さったのだろう。

 シャハルは「嘘だ……」と一歩、二歩と後ずさる。


「妾を騙そうとしているのだろう、そうであろう? 嘘だ、千年などそう易々と経つはずがない――」


 証拠になる物って何かないか。

 ……そうだ、魔焔剣。

 今他人のおれが持っているということが、勇者がもういないことの証明になるんじゃないか。


「シャハル、この剣を見て欲しい。今、おれが使っている剣だ」


 もしかすると、勇者がここに来たときは持っていなかったかもしれない。

 けど、そんなことはないらしい。

 シャハルの視線が、魔焔剣に吸い込まれていく。


 目を剥いて、ギ、と奥歯を鳴らした。


「どうして、そなたがその剣を持っている……! それは、ザイードの剣。炎精霊(イフリート)に打ってもらった世界で唯一無二の魔剣ぞ――! 自分以外に使うことの出来る者はいないだろう、と自慢げに言っておったぞ――そなた、よもや奪ったのではないだろうな――!?」


 魔力の風が吹き荒れはじめ、ゾワゾワと鳥肌が立った。

 やばい……怒ってる。


「が、がう……」


 震えるひーちゃんがおれの後ろに隠れた。

 クイナもリーファもゆっくりシャハルから距離を取る。


「ジンタ、まずいわよ――」

「わかってる!」


 どうにか落ち着かせないと。


「シャハル、聞いてくれ! 勇者の持ち物だったとして、おれが奪えるわけがないだろ!? 単なる一般人が勇者の剣なんて奪えるわけないだろ!?」


「そなたは『使っている剣』と言ったな――使い方を聞き出したのか――そうか――そのときにあ奴からこの島のことを聞いたか――ここの訪問方法も聞き出したのか――そうかそうかそうか――そして世間を知らぬ妾を騙し利用しに来たか――この――人間風情がッッッッッッ!!」


 殺る気満々ってツラになったじゃねえか、クソ!

 妄想飛躍しすぎだろ、おい。


―――――――――――

種族:魔女

名前:シャハル

Lv:89

HP:23000/23000

MP:∞

力 :1000

知力:9999

耐久:1300

素早さ:250

運:10


スキル

幽界の鍵と幻想従僕(ファミリア)

(魔女シャハルにのみ使える固有魔法 契約した存在を呼び寄せる)

―――――――――――


 MP無限かよ……! さすがは魔女様ってところか。


「みんなは下がってろ。おれがやる――! 正気に戻ったときのフォロー頼む!」


 おれは剣を抜いて構える。

 シャハルは仇を見るような鋭い視線をおれに浴びせてくる。


 ドMならきっと大喜びする目なんだろうなあ。

 おれにそんな性癖はないので、性的な意味では何とも思わない。


 単純にちょっと怖いくらいだ。


「幽界に住まう我が従僕よ――我が魔力を喰らい我が身を寄る辺とし現界に出でよ――蛇王(バジリスク)


 それらしい言葉を紡ぐと、突如空間に大きな門が浮かび、重苦しい音と共に扉が開いた。

 そこから、ずるずると真っ黒な大蛇が現れた。


 うわ……でか……。


 ビルに巻きつくことが出来そうなくらいでかい。


「ギィイイイイジャァアアアアアア!」

「――るっせぇえええええええええ!」


 おれが吠えると、ビクッ、と大蛇は体をすくませた。

 金縛りに遭ったかのような大蛇は、おれからどうにか目を逸らそうと必死だった。


 不本意ながらも身につけた【真・恫喝】の効果だ。


 まあいい、さっさと倒そう。

 そんで、シャハルに正気に戻ってもらおう。


「何をしておる。戦わぬかっ!」


 シャハルが一喝すると、大蛇は思い出したようにおれを真っ直ぐ見つめる。

 その視線に魔力を感じたおれは、目線から逃げるように横へステップを踏んだ。


 ガヂン、という物音がして振り返れば、おれがいた場所が石化していた。


 今度は大きな口から粘液をおれにむけて吐き出した。


「うわ、汚ねっ」


 さっとかわすと、今度は粘液のかかった場所が溶けた。


「ご主人様ぁーがんばるのーっ!」

「頑張って、ジンタぁ!」

「ジンタ様ぁ~愛していますぅーっ」


「応援はいいから離れてろ、危ないから!」


 くそ、ちょっと和んじまったじゃねえか。シリアスな場面なのに。


 それなりに嬉しく思ってしまうから困ったもんだ。


 大蛇がこちらに背をむけ、尻尾を叩きつけてくる。


「【灰燼】」


 真っ黒な焔を巻きつけた剣で、その尾をズバンと叩き切った。


「ギィイイガァアアアアアア――ッ!?」


 地響きとともに尾が地面に落ちた。


 痛くて苦しいだろうから、早く倒してあげよう。


「……何だ、その剣は……!? それが魔焔剣だとでも言うのか……!?」


 シャハルの言葉に意識が集中する。


「え――。それどういう意味だ」

「ジィイイイガァアア!」


 大口を開けておれを丸呑みしようとしてくる大蛇。


「――るせぇんだよッ! ちょっと黙ってろッッ!」

「じ、ジガァァ……」


 おれが真っ直ぐ睨むと、また金縛りにあったように動きを止めた。

 大蛇の目にうっすら涙が浮かんでいた。


 ぶんぶんと頭を振って自力で金縛りを解いた大蛇。

 また攻撃を仕掛けてくる。


「なあ、シャハル。もう一回さっきの話を――【黒焔】――聞かせてくれ!」


 敵を見もせずにおれは魔法を撃つ。

 あんなにでかい上に接近してるんだ。

 当たるだろう。


 大蛇の大きな悲鳴がして、轟々と燃え盛るような音がする。

 そっちを確認すると、大蛇は黒い焔に巻かれて徐々に姿を薄くしていった。


 そして、影も形もなくなった。

 ……倒したってことでいいのか?


 そんなことよりも。


「シャハル、剣の話を聞かせて――って、うわぁああ!? 大丈夫か、シャハル!」


 いつの間にかぶっ倒れているシャハルのところへ急ぐ。


 魔物と契約しているってことは、シャハルと何かのパスが繋がっているのかもしれない。


 ステータスを見てもHPは減っていない。

 MPが無限だからわかりにくいけど、もしMPを消費して呼び出しているのなら、その反動がMP――精神に来るのかもしれない。


 とりあえず息はしているみたいだ。

 おれが胸を撫で下ろしていると、リーファたちも駆け寄ってきた。


「どうしたの!?」

「契約した魔物が受けたダメージの反動があったみたいだ。詳しいことはわからないけど」


「こんなところで寝かすわけにもいきません。お家へ運びましょう」


 それもそうだ。

 おれはシャハルをおんぶして家に運んだ。



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