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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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73話



「うーん……別にやんなくてもいいんですよね……?」


 おれは冒険者ギルドのカウンターで手元のクエスト票に目を落とす。


――――――――――――――――――

 クエストランク【S】『ミズラフ島調査』

 成功条件:ミズラフ島に棲む敵勢の調査と調査報告書の提出

 条件:『森林化調査と森の掃討戦』に参加し勲章を得たユニオンもしくは冒険者

 依頼主:アルガスト王国

 報酬:ユニオン:500万リン 個人150万リン

    エリクサリー×5(HP・MP・異常状態の全回復)

――――――――――――――――――


 冒険者ギルドからユニオン宛に手紙が来て、おれたちはこうして冒険者ギルドに来ていた。


「やらなくてもいい、と言えばそうなのですけれど……。ユニオン結成初クエストということで、いかがでしょう? 凶悪犯マクセルを捕まえた功績も、冒険者ギルドでは話題になっているのですよ。そんなカザミ様たちに是非……どうでしょう?」


 困り顔で担当者のアナヤさんは笑う。

 いつぞやの大規模クエストと同じで、依頼主は王国――。


 おれが断るとアナヤさんもそれを報告する必要があるから困るのか。

 けど、おれたち以外にもあの作戦に参加して勲章をもらったユニオンはいるだろう。


「ユニオンランクに反映される、功績も結構高くてですね……」

「ちなみに、そのミズラフ島ってどこにあるんですか?」

「あ、はいっ、これをご覧ください」


 おれが興味を持ったことが嬉しかったのか、アナヤさんは素早く地図を取り出し広げる。

 アナヤさんよりも早く、右隣に座るリーファが指差した。


「ここよ。ここから南西約二〇〇キロに位置する孤島。これがミズラフ島。……どうして今さらこんな島を調査したいのかしら……」


 同感らしくおれの左隣に座るクイナもうなずく。


「今までは放置されていたはずですが……。軍の戦略拠点として必要になってくる、ということでしょうか?」

「はい。クイナ様のおっしゃる通りです。最終的に、サン・ベリルク神国に対する前衛拠点を確保するのが目的でもあるそうです」


 前衛拠点の確保、ねえ。

 戦争でもはじめるつもりなのか?


 話が退屈だったせいか、ひーちゃんはおれの膝の上でうとうとしている。


「そんなに大事なら、どうして今まで放置してたんだ?」

「そのことなのです、カザミ様」


 アナヤさんは周囲を見て、声を潜めた。


「前回の大規模クエストで、カザミ様を含め四〇ほどのユニオンが勲章を得ました。そのことごとくにクエストを断られているのですが……その理由です」


「わたし、知ってるわよ。たぶん、あのせいじゃないかしら。……『彼女』がいるから、でしょ?」

「ご存知でしたか。ええ、いるそうなのです」


 おれとクイナは顔を見合わせ「?」を頭に浮かべる。


「リーファ。いるって、何が?」


「魔女がいるの、その島。……魔法使いの女の子って意味じゃないわよ? 種族としての魔女が、その島にいるの」


 天界には確かにその情報があるんだろう。


「度々軍が調査隊を派遣しているのですが、島に近づくことも出来ず、船が海上で沈められほとほと困っているようなんです」


 コドラという小さな翼竜に乗る飛空部隊もあるが、島での滞在期間や必要物資、人員を考えると船で渡航するのが一番となる。


 ところが、その船団が島に辿り着くことなく、ことごとく壊滅。

 かなりの被害が出ているらしい。


 魔女が使役している魔物がいて、そいつが島へ近づこうとする船を攻撃するのだとか。


 それで今回、どうにもならなくなって冒険者ギルドへクエスト依頼をしたそうだ。


 きっと、魔女の噂や軍の失敗を小耳に挟んでいるから、どのユニオンもクエストを受領しないんだろう。

 船の手配に食料や水の運搬、現れる敵への対策――。

 海を渡ってそこでしばらく調査するっていうのは、前回の森でのクエストよりも段違いにハードルがあがる。


 他のユニオンマスターの気持ちもわかる。

 みんなを危険に晒すのは避けたい。


 けど、その点おれは、アイボに入れたいだけ荷物を入れられる。

 人だって何人でも入る。

 それに、ひーちゃんに乗れば海なんて関係なくひとっ飛びで島に行ける。


「ダメですよねえ……そうですよね……海を渡って、魔女がいるかもしれない島を調べるなんて、無茶ですよね……わかっていました、わかっていました……」


 あ。アナヤさんが拗ねちゃった。


 もし、おれたちがクエストを受領したとして、問題になるのは渡航や物資じゃなくて噂の魔女のほうだ。


「リーファ、魔女について教えてくれるか?」


 うん、とリーファが口を開こうとすると、


「魔女ですか! わかりました、すぐに参考資料を用意しますので――」


 ばっと立ち上がったアナヤさんが凄まじい速度で奥の部屋へ消えていった。


「……おれが興味を持ったのが、嬉しかったんだろうな」

「そうみたい。……魔女がいるかもしれない、なんて知っていたら、普通はわざわざ行かないしね」


 眠そうなひーちゃんが話題に入ってきた。


「まじょ……? 炙って食べるの?」

「ひーちゃん、魔女をスルメ扱いしないように」


 目をしょぼつかせて、おれの首にしがみつくひーちゃん。

 仕方ないので抱っこしてあげると、静かな寝息が聞こえてきた。


「リーファさん、わたくしも魔女のことは噂でしか知らないのですけれど、アナヤさんのあの様子ですと、本当に島にいるのですか?」


「うん、いるわよ。エルフ以上の長命な存在で、たぶん島にいる魔女も旧世暦以前からいたんじゃないかしら」

「ということは、魔神戦争時代から生きていた、ということでしょうか」

「たぶんね」


 二人の会話にさっぱりついていけない。


「旧世暦? 魔神戦争?」

「約千年ちょっと前、魔神と人間が戦ったことがあって、この通り人間が勝って今の時代を築いているわけなんだけど、勝利して以降を新世暦、それ以前を旧世暦って言うのよ」


 その戦いで大活躍した英雄が、かの勇者なんだそうだ。

 勇者様っていうと、この魔焔剣の初代持ち主だ。


「てことは、その魔女は千年以上生きているってことになるのか」

「そゆこと。各個体でそれぞれ超強力な固有魔法(オリジン)を持っていて、簡単に言えば存在を構成するすべてが魔力器官って思ってくれてもいいわ」


 魔力器官……。

 扱える魔力量の多寡と魔法能力の強弱を決める重要な器官ってやつか。


「魔法の申し子ってことか。もしかして……超強い?」

「そ。メチャ(つよ)なんだから。魔力量にしたって、人間が太刀打ち出来るレベルじゃないのよ」


「だから、クエストを受領してくれる方がいなくて困っているのでしょう。もし本当にいたとして戦うことになったら……と考えてしまうと、不安で堪らないから」


 魔女は、個人個人で島なり森なり沼なりに棲みつくため、基本的にはボッチだそうだ。


 ぱたぱた、とアナヤさんが分厚い本を何冊も胸に抱えて戻ってくる。


「お待たせいたしました! ええっと、魔女の記述がある部分なのですけれど――」


 目印を自分で付けているようで、ページをめくってはおれにあれこれ解説してくれる。


 やけに手際がいいことから、色んな人に同じように繰り返し説明したんだろう。

 記述を探し出すのにもほとんど手間を取られず、ぱっとそのページを開く。


 おれに興味を持ってもらおうと一生懸命だった。

 基本情報はさっきリーファが説明してくれたものと大差がなかった。


「魔女は長命なのです。ええと『リバリア旅紀』の、ここの記述をご覧ください、勇者がミズラフ島の魔女と接触したという記録があって――」


 ん? 勇者が魔女と接触?

 おれは思わず腰に佩いた魔焔剣に目をやった。


 剣の初代持ち主は勇者で、その勇者と魔女は会ったことがある……。


「リーファ、その魔女と今ミズラフ島にいる魔女は同一人物?」

「決めた住処から移動ってあまりしないから、おそらく同じ魔女だと思うわ」


 その魔女なら、剣のことについて何か知っているかもしれない。

 変な声が聞こえることがあるし、そもそもおれ以外の人が鞘から剣が抜けないなんて、おかしいだろう。


 もしかすると、勇者について何か知っているかもしれない。


 勇者が使っていたって話だけど、魔焔剣は当時からこんなんだったんだろうか。


 知りたい、この剣が何なのか。


 おれが確認するようにリーファとクイナを見ると、二人ともうなずいた。


「わたしは構わないわよ? 戦うことになっても、魔女なんて女神の敵じゃないもの」

「ジンタ様がお決めされたのであれば、わたくしはどこまでもご一緒いたします」


 それなら決まりだ。


「ええと、ええと、他にはですね、カザミ様――」

「アナヤさん、もういいですよ」


 はっと顔を上げると、アナヤさんは悲しそうにうつむいた。


「……やっぱり、無理ですよね……そうですよね……魔女がいたら大変ですものね……高い報酬が貰えたとしても命には代えられないですもの……」


「やります、このクエスト」

「カザミ様ぁぁぁぁ~あじがどうごじゃいますぅぅぅ~」


 アナヤさんはぽろぽろ泣きながら、おれの手を握ってぶんぶん振った。


「本当に、誰も引き受けてくれなくて困っていて……。クエストのことを一生懸命説明すればするほどみんな逃げていって……でもそれが、わたしのおちごとだしぃぃ~……」


 しくしく泣いているアナヤさんの頭を、いつの間にか起きていたひーちゃんが撫でた。


「ご主人様に任せておけばいいの」

「そうよ。ちょちょいのちょいで、すぐ帰ってくるわよ」

「ジンタ様にかかれば、魔女の調査なんてイチコロなのですから」


 ずいぶんと信頼してくれているらしい。


 魔女と戦うのが前提ってわけじゃなく、あくまで調査目的だから、話せばわかってくれる人という可能性もある。

 そうなれば、案外、クエストはあっさり終わるかもしれない。


「というわけで、任せてください」


 またアナヤさんはきゅっとおれの手を握った。


「カザミ様ならきっと出来ると、私信じてますからっ」

「ああ、はい、どうもです」


 魔女調査にむけて準備をするため、おれたちは冒険者ギルドを後にした。



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