66話
盗賊を追い払った翌日、おれたちは領主のアルバ・バルケーロに呼び出された。
「何で呼び出されたのかしら?」
「さあ。盗賊撃退のお礼かなんかじゃないのか?」
道を歩きながらおれとリーファ、クイナは互いに首をかしげる。
使いの人に訊いても何も知らなかった。
ひーちゃんだけは、粗相があったら困るので町長宅で待機だ。
領主の館はザガの町の中にあり、小高い丘に建てられていた。
赤いレンガのいかにもな洋館だ。
門には門兵がいて、用件を言うと通してくれた。
玄関の前でおれたちを待っていた執事が一礼する。
「お待ちしておりました。こちらへ」
応接室に案内され、ソファを勧められて座る。
執事が部屋を出ていってしばらく、やってきた例の領主サマがむかいのソファに座った。
四十過ぎくらいの金持ち風の小太りなおっさんだ。整えられた口ひげが印象的だった。
おれたち三人は挨拶と簡単に自己紹介した。
「呼び立てしてしまって済まない。私の自己紹介はいいだろう。君が、噂の【ガチャ荒らし】でいいのかい?」
「はい、おれのことです」
「先日はザガの森でなかなかの成果をあげたそうではないか。で、今回、この町にやってきた理由は?」
「理由って……。それは、あなたが一番よくわかっていることじゃないんですか?」
「フン。質問を質問で返すのは感心しないな」
「心当たりないですか? ……警備兵が『足りず』、町が盗賊に荒らされてしまうそうなので、自警団の手伝いに来ました」
「ふむ、町が荒らされてしまうのは致し方ないことだろう。頼りない自警団にはもっと頑張って欲しいところだ」
「――アンタのせいでもあるだろ。資金援助もしない自警団に責任なすりつけんなよ」
「ちょっと、ジンタ……」
「ジンタ様、お気持ちはわかりますが落ち着いてください」
町のみんなの話を聞いてると、どうにもこの人が憎らしく感じてしまう。
恋人や娘がさらわれたり、食料を奪われたり、来るたびにやりたい放題されてるんだ。
領主がそれを知らないはずがない。
「それで、ご用件は何ですか?」
「ああ。単刀直入に言おう。この町は、私の町だ。警備兵を配置するしないを決めるのは私で、よそ者のましてや冒険者の君がしゃしゃり出てもらっては甚だ迷惑なのだ。今日中に町から出ていきたまえ」
……は? 言うに事欠いて出ていけ?? 何言ってんだ、このおっさん。
「あのですねえ……」と、おれはそもそもの話をこのアルバのおっさんにした。
警備兵や自警団の話。冒険者にクエスト依頼を拒んでいること。盗賊が手強いこと。
色々含めて、もう一回だけアンタの職務怠慢だ、と言ったんだけど――。
「そのうち兵は手配する。これでいいだろう?」
うるさそうにそう言うアルバのおっさん。
同じ返事を町長にして、結局警備兵を配置してないから今こうなってるんだろうに。
「リーファとクイナ、と言ったかな。君達、私の妻にならないか? なるのなら、不自由のない暮らしを与えようじゃないか。どうだ? ん? 美しい君達はそんな低ランク冒険者とは釣り合わないだろう?」
ウチの女神と巨乳エルフ何口説こうとしてんだ。
リーファとクイナはお互いを見合わせて、タイミングを合わせたみたいに出されたアツアツの紅茶をアルバのおっさんにかけた。
「あづッ!? な、何をする――」
「ジンタが釣り合わない? 笑わせないで! この世界でわたしと釣り合う人なんてジンタだけなんだから!!」
「ごめんなさい、わたくし、畜生の豚とは結婚できませんから。それに、わたくしの全てはジンタ様の物です。今後二度と視界に入れないでください」
「貴様らぁ――!」
アルバが立ちあがろうとした瞬間、おれがローテーブルを前に蹴りだすとスネを打った。
「ほぉぅっ!?」
ゴンッと弁慶の泣き所を思いっきり打って、そのままテーブルの上に倒れ込んだ。
相当痛かったらしく悶絶している。
「ほ、ほぉぅって、何だよ、ぷくく……、ほぉぅ、て、ぷはは……っ!」
「ふ、ふふふ、じ、ジンタ、笑い過ぎ……ふふっ」
「お、お前も人のこと言えねえだろ」
クイナも相当ツボに入ったらしく、抱えた膝の中に顔を埋めて、声を必死に押し殺してプススス、プスススと笑っている。
「はぁぁぁ……笑った……久しぶりにこんなに笑った……。さ、帰ろうか」
「そうね」
「はい、用はもうないでしょうし」
ちょっとでも話が出来る奴だと期待したおれがバカだった。
応接室を出るときに、一応アルバのおっさんに言っておいた。
「おれは知り合いから頼まれたことをやっているだけだ。それが邪魔だっていうんなら追い払ってみろよ。どんな奴を何人揃えてくれてもいい。そんときは、ちゃんと束になってかかってこいよ? あと――おれの仲間に手ぇ出したらぶっ殺す。……んじゃ、お邪魔しました」
歯ぎしりさせているアルバのおっさんに手をひらひら振って館を後にした。
「リーファさん、ジンタ様カッコ良かったですね」
「え。えっと……う、うん……っ」
貴族だからって、あんな奴でも領主になれるんだな。
生まれたときから勝ち組なんだなあ。そりゃ、パンがなけりゃケーキ食えって言うよ。
のんびり歩いていると、カランカラン、とまた鐘の音が鳴った。
っと、また襲撃か?
「おれ一人で行くから二人はいいよ。昼飯どこかで食べよう。町長さんちで待ってて」
二人に見送られておれは町の外へ出た。
「カザミさん! 今日は10人ほどです!」
と、物見台で見ていた自警団員が指を差している。
「よし、任せとけ!」
馬に乗って攻めてくる盗賊ども。
「で、出やがった! 【ガチャ荒らし】だ!」
今日はやられる前にやれ、という作戦だったのか、全員が炎魔法を放ってきた。
人間の顔より少し大きいくらいの火炎弾。
「【灰燼】――!」
飛んできた魔法を全部叩き切る。
「な――!? き、切った!? か、構うな! 撃て、撃てぇええ!」
バカのひとつ覚えみたいに魔法が飛んでくる。
町のほうに行きそうな魔法は切って、あとをかわす。
……あー。また固まってやがる、あいつら。
「【黒焔】ッ!」
MP消費を抑えておれは黒い焔弾を撃った。
敵はさらに密集隊形を作っていく。
昨日は五騎だったけど今日はその倍だ。
また防御魔法を使うつもりらしい。
人数をかければその分強固になるんだろう。
「舐めるな! 魔法障壁展開! 十人がかりの超多重魔法障壁に防げない攻撃など――」
【黒焔】が直撃した。
ドォオン――!
でかい音とともに盗賊も馬も例外なく吹き飛んだ。
「ギャぁあああああああああああああああああああああああああ!?」
「結局こうなるのかよ、ちゃんと情報共有しておけよ」
やれやれ。ん――? おれのレベルが上がっている。
ただ、ステータス以外にも変わった部分があった。
スキル欄。
チラ見だったからちゃんと見てなかったけど、スキルが増えてた!
ついに、おれ自身のスキルが――!?
―――――――――――
種族:人間
名前:風見仁太
Lv:56
HP:10800/10800
MP:6800/6900
力 :3000
知力:2200
耐久:650
素早さ:470
運 :999999
スキル
黒焔 灰塵
真・恫喝 【←NEW】
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っっっっざっけんな!! おれのワクワク返せッ!
初スキルが盗賊やチンピラと一緒!? ヘコむわっ!
何なんだよくそぅ。……おれ、そんな脅したりしてねえよな……?
しかも、頭に『真』てついてるんですけど。
ワンランク上の恫喝じゃないですかやだー。
【真・恫喝:発する「怒り」「戦意」でも相手を大きくひるませる】
自警団の皆さんに手伝ってもらいながら、黒焦げ盗賊を拘束した。
詰所にある魔法使い専用の檻にブチ込む。
全員、話を聞ける状態じゃなかったので、事情聴取はまた後日ということになった。
次回も3日後、4月5日更新予定ですー!




