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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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59話


 朝食を済ませたあと拠点の守備をゴーレムに任せ、おれたちは大精樹のいる場所へむかう。


 森で一番大きな樹がその大精樹らしい。

 そこまでひーちゃんで飛んでもいいけど、魔物を倒すのもクエストのうちだ。


 だから、地上からちまちまと進むことになった。


 一応、敵でもあるためアステイルは縛ったままだ。けど、全然文句を言わない。

 やろうと思えばいつでも千切れるからだろう。


「アステイル、森が変になっているって思わなかった?」

「アステでいいにゃ。変とは思わなかったにゃ。冒険者たちと戦うためにみんな殺気だっているとは思っていたけど」


 アステは攻撃対象に入ってないようで、殺伐としているなあ、という感想だったらしい。

 狂暴化してるのに、そのへんの区別ってつくもんなのか?


「しかし、ザガの森は環境が非常に厳しいと聞いたが、意外とそうでもないのだな」

「シルヴィさん、それは違いますよ? 森の中に拠点を一瞬で作ったり、お風呂を作ったりする方がいたり、敵を屈服させて道案内させるような方がいたり、大量の食糧を『召喚』してしまう方がいるから、単純に森の難易度が下がっているのです。何よりも戦闘では一番頼りになりますから」


「なるほど。やはり、カザミはとんでもない御仁なのだな」


 とか何とか、後ろでシルヴィとクイナがしゃべっている。

 リーファマップも難易度を下げることに一役買っているんだけどな。


「ボスのところに行くのは……久しぶりにゃ……」

「毎日顔を合わせたりするわけじゃないんだ?」

「小さい頃はべったりで、ウチを鍛えて強くしたのもボスだったにゃ」


 明るくて屈託のないアステだけど、ボスの話になると少し言い淀むことが多い。


「森林化のこと、何か教えてくれたらいいな……」

「人間には意思疎通は出来ないと思うにゃ」

「マジかよ」

「ボスの魔力を肌で感じられれば何を考えているかわかるにゃ。だから、それがわかるウチが通訳してあげるにゃ」


 昨日の脅しが予想以上の効果を発揮したのか、アステはなかなか協力的だった。

 それがわかれば、「森に入り込んだ冒険者たちは帰る」って教えたのも効いたらしい。


 出現する魔物を難なく倒しながら、アステの案内に従って森をさらに奥へと進んでいく。

 どことなく、アステの顔が強張っているような気がする。


「緊張してる?」

「す、するにゃ……。ぼ、冒険者なんて連れて行ったら、相当怒るかもしれないにゃ……。また怒られるのは……カンベンしてほしいにゃ……」

「また?」

「にゃ。森を出たいってこの前言ったとき、怒られたにゃ……。大反対されてワシを倒せたら森を出ていくことを許すだなんて言いはじめて、ウチも本気出したにゃ。森を揺るがす戦闘に発展してしまったにゃ」


 ああ。要は、喧嘩したあと会うのは、今日がはじめてだから緊張してるのか。

 アステが本気出しても倒せないほどのやつなのか……。


 おれの背中にくっついているひーちゃんが訊いた。


「アステはどうして森をでたいの? ここはここで、たのしそうなの」

「決まっているにゃ。冒険者になって外の世界を旅するのにゃ!」


「へえ。……でも今はその冒険者を退治している、と……?」

「うにゃ……ジンタくん、イジワル言わないで欲しいにゃ……。森やボスには、育ててもらった恩があるにゃ。だから、ケンカしたあとよく考えて、もうちょっとボスのそばにいることにしたのにゃ」


 なるほど、そういうことだったのか。意外と義理堅いのな。

 大精樹や他の魔物と違って人間の世界で生活出来ないわけじゃない。

 だから、森の外に憧れを持つこともあるんだろう。


 クイナが何度もうなずいている。

 森暮らしだったから、共感する部分があったみたいだ。


「あ。永晶石落としたわよ?」

「ああ、ありがとう」


 リーファが拾ってくれたのは、アイボの中に入れ忘れていた永晶石のひとつだった。


「ねえ。何でこれヒビ入ってるの?」

「ん? 最初からこうだぞ?」


 むむ、とリーファは思案顔をする。


「外部から強い魔力に干渉さると傷がついたりヒビが入ったりするんだけど……容量以上の魔力を流されたりとかね?」


 永晶石ってのは、魔物が落とす魔力の結晶体でもあるって話だよな。

 強い魔力……容量以上の魔力干渉でヒビが入る……。じゃここの魔物はみんなそうってことか。


 アステを一度見て、リーファは声を潜めた。


「大精樹のことなんだけど……根が長くて、広大って言えるくらい根を広げるの。植物って根から養分を吸収するじゃない。けど大精樹の場合、逆に放出することもあるの」


 放出するってことは、他の森の生物に養分を分けるってことになる。

 大精樹一本あれば森は安泰って言われるほどの影響力を持つらしい。

 だから、森にとってはこれ以上ないくらい大切な樹になるみたいだ。


 リーファの言いたいことはだいたいわかった。


「もしかすると、ボスが魔力的な過干渉してるかもしれない?」

「うん。可能性だけの話だけど……」


 魔物の魔力に影響を与えるくらいなら、普通の植物にだって影響が――。

 あ……。


「シルヴィ、森林化って正確にいつ頃からはじまったのかわかる?」

「あの被害が出たのが10日ほど前。森に呑まれた村の者が言うには、森に異変があったのはさらに2日ほど前だそうだ」


 アステがボスと会ってない期間が2週間って話だ。

 何かあったとしたら、その後ってことになる。


 アステがおれのほうを不安げに見つめてきた。


「ボスは、森のことを大切に思っているにゃ……だから森の魔物たちは、みんなボスのことを慕っているにゃ……本当にゃ」


 もしかすると、おれとリーファのひそひそ話が聞こえていたのかもしれない。

 おれは安心するように頭をなでた。


「まだ決まったワケじゃない。もしそうだったとして、きっと何か事情があるんだろう」


 こくん、とアステはうなずく。

 ゾルゾル、という何かを引きずるような音がする。それもかなりの数だ。


 現れたのは樹魔の大群だった。

 大盾と長槍を構えた樹魔がゾルゾルと足を引きずるように歩いている。


 そいつは正面だけでなく右にも左にも現れた。全部で10体以上はいそうだ。

 ――ってまだ増えんのかよ。


 ひーちゃんがドラゴン体に戻りおれたちも武器を構えた。


「……みんな、どうしちゃったにゃ……?」

「アステ、どうした?」

「声が聞こえないにゃ……」


 大精樹とも意思疎通が出来るってことは、他の魔物とも意思疎通出来ても不思議はない。


「にゃ――」


 猫みたいな声を出すと、ぐぐぐぐぐぐ、と体が大きくなり縛っていた紐を千切る。

 アステが昨日見た二足歩行の巨体の狼に姿を変えた。


「ヴォオオウ」


 何か話かけているのか?

 身振りを交えて意思疎通を図るが、一斉に鋭利な枝が数本アステに伸びた。


 身軽にそれをかわして、アステは悲しそうに首を振る。


 もう戦うしかないだろう。

 どんどん樹魔の数は増えていっている。


「もう少し行けば、ボスのところに辿り着けるにゃ!」


 って言われても、ひしめく樹魔で先が見えない。

 そのゴツい恰好で「にゃ」って言われると、違和感すごいな。


「前衛をおれとひーちゃん、中衛をシルヴィ。後衛をクイナとリーファ。――いつも通りでやるぞ」


 みんながそれぞれうなずく。

 心配だったシルヴィも、戦闘慣れしてきたのかもうテンパるようなことはしない。


【黒焔】のスキルを発動させる。

 あまりMPを消費し過ぎないように力はセーブ。


「【黒焔】!」


 振り抜いた魔焔剣から黒い焔弾が放たれる。

 正面にいた十数体の樹魔が一瞬で塵に変わった。

 それどころか、後ろの森一帯も消し飛ばし、魔法の足跡を残した。


 相変わらずすげースキル。


 一瞬だけ通り道が出来るが、すぐに樹魔で埋め尽くされてしまう。


 後ろでは、飛んでくる枝をひーちゃんがブレスで燃やしている。

 接近されると咆哮で敵をビビらす。

 その隙に、シルヴィ、クイナの攻撃で敵を撃退していっている。


 リーファはというと……ん? 何してんだ? 目なんてつむって。

 リーファの周囲が銀色の魔力で色づき、足元に白い魔法陣が広がった。


「【神光(ハロ)】――」


 杖を振ると、リーファの頭上に円状の光が浮かぶ。

 そこから複数のレーザー光線のようなものが敵の群れへと伸びた。


 ジガガガガガガガガガガッ


 樹魔たちに直撃し、さらに貫通していく光線。


「「「「グらァアアあァアあ――」」」」


 断末魔をあげて攻撃魔法を受けた樹魔は倒れていく。


「は、はぃぃぃいいいいいいっ!? なんじゃそれぇえええええ――ッ!?」


 そ、そういや、最近リーファのステータス確認してなかったな。


――――――――――

種族:神族

名前:リーファ

Lv:53

HP:7300/7300

MP:11000/11600

力 :170

知力:900

耐久:150

素早さ:85

運 :11


スキル

浄化魔法 治癒魔法 女神ぱんち

混乱防御 7/10

神光(ハロ) (神族のみ使える聖攻撃魔法)

――――――――――


 なんかスゴそうなスキル覚えとるぅううううううううううっ!?


 …………り、リーファのくせに……。


 女神ぱんちのときみたいに『攻撃スキル(笑)』っていうオチになるんじゃないのか……。

 ガチの攻撃魔法じゃねえか。


 今までは、リーファが攻撃する前にほとんど倒してたからなあ……。


 何だかんだで、みんな成長している。


 唖然とするおれに気づいたのか、リーファは今世紀最高のドヤ顔を見せつけてくる。


「だから言ったじゃない。特訓して強くなったって」


 それからくすっと微笑んで、おれにむけてピースした。


「えへへ……ぶいっ」




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