56話
シルヴィ活躍回です!
「それで、偵察してみて様子はどうだった?」
丸太に座って朝食のパンをみんなで食べる中訊いてみた。
ひーちゃんはおれの膝の上でパインゴを一生懸命食べている。
「情報にあったように、魔物が凶暴化しているようだった。戦いはしなかったが、害のない魔物でもどこか殺気立っていた」
シルヴィの報告にリーファが付け加えた。
「魔物たちは、ジンタから見るとだいたい通常より5レベルはあがってるかも。他のユニオンも森に入っているみたいで、ときどき爆音がしたり魔物の鳴き声がしたりしていたわ」
「魔物討伐以外にも、今回は森林化の原因調査もクエストに入ってるんだよな……。クイナ、森林化って何かわかったりしないか?」
エルフなら何かわかるかも、とクイナに尋ねてみた。
「申し訳ありません、ジンタ様。わたくしにもそれはわからないのですけれど、ただ、こういった現象は、普通だと徐々に広まるものではないでしょうか」
普通はそうなんだよな、普通は……。
森林化した村は一晩にああなったらしいし。
とにかくおれたちは、魔物を倒しながら森を探索することにした。
「キャンプを無人にしておいて帰ってきたら荒らされてたってのも困るから……ゴーレムに守らせるか」
「カザミは、剣だけでなく傀儡魔法にも長けているのか。うむ。冒険者ギルドが単独で指名するのもうなずける。個人で指名されているのは君だけだからな」
リーファがまた遠い目をしながら、シルヴィの肩をぽんと叩く。
「一般的な傀儡魔法で操る人形っていう意味のゴーレムじゃないわよ、シルヴィ。……モノホンのゴーレムだから……」
「うん。傀儡魔法なんて使えないぞ? それに、命令したら言うこと聞くから」
「ほえっっっっっっ??」
口をあけたままシルヴィ。まったく理解が追いついてないらしい。
まあ、見たほうが早い。
アイボの口を広げてゴーレムを呼ぶと、のしのしと巨体を現した。
「――――」
「ほほほほほほ、本物のゴーレムっ!? かかかか、カザミ、ききき、君は、こここ、古代兵器を召喚したというのかっっ!?」
「召喚っていうか……持ってるっていうか、出したというか……まあ、召喚でいいよ」
アイボの説明面倒だからそれでいいや。
さっそくゴーレムにキャンプを守るように指示を出すと、のしのし、と外壁の内側を巡回しはじめた。
「お、おそれいった……カザミ、君は一体何者なのだ……?」
「いや、低ランク冒険者だけど?」
「嘘だっ。そんなはずがない。……わかった。本当は名のある冒険者の仮の姿なのだな?」
「なんもわかってねえ……。違うから。本当に単なる一般人だから」
「騎士の私にも正体は明かせないというのか! 一般人などと……どうしてそのような見え透いた嘘を!」
「正直に言ったんだが!? ……もう、何でもいいよ……」
今は何言っても信じてもらえなさそうだ。
拠点の守備をゴーレムに任せておれたちは森に入る。
シルヴィは意地を張るのをやめて、おれと同じように防具は胴当てと籠手だけにしていた。
昨日の偵察のときに、あの装備には懲りたらしい。
だから、でっかい盾もキャンプに置いてきている。
進んでいると、ガサという物音とともに、鋭い枝のようなものがこっちに伸びてきた。
「――ッ」
即座に抜剣し枝を切り飛ばす。
みんなが一斉に武器を構えた。
攻撃のあった茂みをみると、ずりずり移動する樹の魔物が姿を現わす。
――――――――――
種族:樹魔
状態:狂暴化
名前:ドミヌス
Lv:43
HP:5000/5000
MP:6700/6700
力 :400
知力:680
耐久:550
素早さ:70
運 :5
スキル
ドレイン
幹棒(根、枝を鞭のように使う物理攻撃スキル)
甘樹(魅惑の樹液。甘い匂いで対象を魅了する)
――――――――――
「樹魔……? 大人しい魔物なのに……ジンタ、やっぱり変よ」
「狂暴化の異常状態らしい! やるぞ!」
「任せて! こっそりひーちゃんと特訓した成果をここで見せてあげる!」
「それなら、ここはわたくしの出番です。遠距離からの攻撃で蜂の巣にしてやります」
「いや、ここは私に任せてもらえないだろうか」
「いや」「いやいや」「いや、ここは私にだな」「だからわたしがするって」「適任はわたくしです」「騎士たる私の実力を」
「「「いやいやいや……」」」
「譲り合えよっ! 素敵なチームワークだこと」
「「「……す、素敵だなんて、そんなぁ……」」」
「何で照れたし!? 皮肉だよ褒めてねえよ!」
こいつらダチョウの人を知らないな?(当り前か)誰も「どうぞどうぞ」ってやらない。
ギュン、と伸びてくる敵の枝を、ぺしんと手の甲で弾くおれ。
「みんなで戦います。異論は認めん」
「ご主人様が戦うまでもないの」
ぴかり、と光ってひーちゃんがドラゴン体に戻る。
「ガルァアアアアア――ッ!」
咆哮を森に響かせた火竜。ビクッ、と樹魔が固まるのがわかった。
ぐるぐる、と腕を回しているひーちゃん。なんだ、この動き。
レベルがあがってスキルを覚えたのか?
――――――――――
種族:竜族(幼少)
Lv:54
HP:8200/8200
MP:900/900
力 :650
知力:450
耐久:550
素早さ:350
運 :35
スキル
咆哮 ブレス 飛行 人化
ドラゴンぱんち
――――――――――
なんか覚えとるぅうううううううううう!?
あ。リーファがさっき一緒に特訓したって言ってたな。
「おい、リーファ! ドラゴンぱんちって何だ! ひーちゃんに変なスキル教えるなよ」
「変なスキルって何よ! 失礼ねっ」
リーファのときみたいに、『ドラゴンぱんち(笑)』ってなるんじゃあ……。
「ガ―――ルゥッ」
ぐるぐる回した腕の勢いを使って、ひーちゃんが樹魔にパンチする。
ズガァァァアアア――ンッ!
樹魔が消し飛んだ。
わっ、笑えないガチの攻撃スキルでした……。
リーファは目を細めて、うんうんとうなずいている。
とりあえず永晶石を回収する。あまり高値で売れない青色だった。
けど、いつもドロップする永晶石と違ってヒビが入っている。
異常状態の影響か何かか?
「がるぅ」
こっちを振り返ってドヤァ、な顔をするひーちゃんである。
「ひ、ひひひぃいいいいいい、火竜が、火竜がで、出たぞ、どど、どこから、湧いて――みみみみみ、みんな、こ、ここは、私に任せて先に逃げるんだ――」
絶望感たっぷりの顔でシルヴィはへっぴり腰で槍をひーちゃんにむける。
そういや、シルヴィは幼女ひーちゃんの正体が火竜ってのを知らないんだっけ。
目にしても「夢か」って言って現実から目を逸らし続けていたからな。
にしても、腰が引け過ぎててちょっとオモシロい態勢になっている。
騎士なのに……。ぷすす。
「シルヴィ、落ち着いて、これはひーちゃんよ!」
「シルヴィさん、槍をおろしてあげてください」
「あっ、あわわ」
テンパり過ぎのシルヴィ。
槍の穂先はブレブレだし、呼吸も荒い。
まるで初めて戦う女の子みたいな……。
「がるがるぅ♪」
ひーちゃんがシルヴィに近づく。
「安心するのー」とでも言いたげにじゃれ合おうとしている。
それが逆効果だったらしい。すとん、と尻もちをついてしまった。
「はぁやぁん、もうヤだぁあぁあん、ふええん……っ、はぢめての戦いだったのにぃぃどうして火竜なんかとぉ……ぁぁん……っ、ふぃぃ……ん」
しくしく泣き出すシルヴィ。
じょわぁ、と下腹部は濡れていて地面にシミを作っていた。
涙と一緒に色々出てしまったらしい。
ひっく、と喉をしゃくらせるシルヴィ。
泣き過ぎて目が真っ赤だ。
持っていた槍の穂先を自分にむけた。
「もう駄目だ――死ぬ。今すぐ死ぬ。騎士である私がこんな醜態を晒してしまうなど。バルムント家の恥になる前にっ。父上様――志半ばで散るシルヴィをお許しください――」
「わぁあああああ!? 待て待て待て待て待てっ!」
「シルヴィさん、落ち着いてくださいっ」
「がる!? がるがるがー!」
「もぉ……、こうなったら――女神ぃいい、ぱんちっ」
ぽかり、とリーファがシルヴィにパンチする。
がく、とシルヴィは糸の切れた操り人形みたいに脱力する。
リーファがぐっとサムズアップ。
おれたちも親指を立てて無言でサムズアップ。
リーファ、GJ!
この隙に槍を取り上げておく。
すぐにシルヴィが正気に戻った。
「あ、あれ……火竜がいない? そうか、急に火竜が出現したのも夢だったからか……うむ、それなら説明がつく。それに齢17にして漏らしてしまうなど、タチの悪い夢……」
下を見て、自分の作ったシミを見つけたシルヴィは、また目に涙を溜めた。
「ゆめ、じゃない……っ。くすん……っ」
……このあと、全員でめちゃくちゃ励ました。




