53話
おれが冒険者ギルドへやってくると、受付のアナヤさんが会釈した。
「こんにちは、カザミ様」
「あぁ、アナヤさん。どうもです」
さっそくカウンターの席に着く。
今回冒険者ギルドにやってきたのは、一通のとある手紙がおれの家に届いたからだ。
差出人は冒険者ギルド。内容は、クエスト絡みで連絡したいことがあるんだとか。
「カザミ様、聞きましたよ。ラウル・ハードハートを倒したんですって?」
「あー。そういやこの前そんなことがありましたね」
アナヤさんいわく、それが割と噂になっているんだとか。
「ふふ、ずいぶんと簡単なおっしゃりようですね。すごいことなのですけれど」
道理で最近おれを見てひそひそ話す人が多いのか。
いつぞやガチャ屋が作った人相書きのせいで顔バレしてるからな……。
今度から人相書き見つけたら剥がしておこう。
「はじめてその話を聞いたときは、まさかとは思いましたけれど、妙に納得してしました」
にこにこ、と楽しそうにアナヤさんは言う。
ちやほやしてくれるのは嬉しいんだけど、本題本題。
「ところで、クエストのことで連絡事項があるって手紙が届いたんですけど、何のことです?」
「ああ、そうでした。カザミ様に、冒険者ギルド本部より指名クエストがきております」
アナヤさんは、いつもよりも上等なクエスト票を取りだして広げた。
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クエストランク【A】『森林化調査と森の掃討戦』
成功条件:村の森林化原因調査とザガの森にいる魔物を可能な限り掃討
条件:冒険者ギルド指名のユニオン、冒険者
依頼主:アルガスト王国
報酬:ユニオン:300万リン 個人70万リン
エリクサリー×5(HP・MP・異常状態の全回復)
活動評価により勲章
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「おれに、これを? 依頼主が国なのか……」
「はい。……詳細は裏にございます」
森に一番近いザガの町にまずむかうことや、森の情報が裏面に載っている。
森の場所、全体の地図、出現することが予想される魔物とおおよその数。
「可能な限りってありますけど、数は決まっていないんですね。総数約二千ですか」
「王国から検分官として騎士の方たちがお見えになられるようで、言ってしまえばその方々の判断次第でもあります。活動評価も同じく」
「勲章って、何か役に立つんです?」
「今回の掃討戦に参加し活躍した、という証ですので、名誉としての報酬です」
なるほど。勲章なんてものに興味はないけど、今後リーファがいない非常事態に備えてエリクサリーは持っておきたい。
「何でおれなんかに、こんな高ランククエストが……?」
「ベヒモス撃破の噂に続いて、Sランク冒険者【朱甲】の撃破――これが冒険者ギルド本部長の耳に入ったようです。カザミ様だけなんですよ? 今回個人で指名されているのは」
はあ、そりゃ光栄というか、なんというか。
「ちなみに、仲間って連れていけますか?」
「そうですね……連れていってはいけない、とは記載されておりませんので、問題ないかと思います。ただ、魔物も凶暴化しているとの情報もありますし、厳しい環境下でのクエストとなります。報酬も出ませんので、それはご留意くださいませ」
ザガの森なんて言われても全然ピンとこないけど、一般的に相当キツい森なのか。
みんなを危ない目に遭わせたくないし、今回はおれ一人のほうがいいのかもしれない。
断る理由も特になかったので、正式にクエストを受けることを伝えて、おれは馬車で家に帰った。
「ご主人様、おかえりなさいなの」
「うん、ただいま」
ぱたぱた廊下を走ってくるひーちゃんがおれに飛びついた。
すると、すぐにクイナとリーファが顔を出す。
「ジンタ様、お帰りなさいませ。……冒険者ギルドからのお手紙は一体何だったのです?」
リーファも訊きたいことは同じらしく、こっちをじっと見てくる。
「ああ……まあ、ちょっとしたクエストの話」
「ジンタだけに?」
リーファは不思議そうに首をかしげているけど、クイナは不安そうに眉尻を下げている。
クエスト内容を説明したら、絶対についていくって言いそうだ。
それに、ひーちゃんなしでザガの町にむかうのなら、すぐ出発しないといけない。
「その件で、おれ、ちょっと家を空けることになるから、留守を頼む」
「え? どうしてそんな急に――」
「ボクも一緒にいくの」
「今回はおれだけなんだ」
「ジンタ様、ザガの森のことではないのですか? 詰所で少し話を耳にしました。選ばれたユニオンが大規模クエストに参加する、と。……正式な手紙が冒険者ギルドから送られてくることなど、そう多くありません。だから、もしかすると、と思っていました。ジンタ様は先日【朱甲】に勝ちましたし、声がかかっても何の不思議もありません」
「何だよ、バレてたのか」
おれがバツ悪そうに頭をかくと、クイナが小さく笑った。
「はっきりわかっていたわけではないのですけれど、オンナの勘、というやつです」
「クイナ、ひーちゃん、わたしたちも準備しましょ?」
「待て待て。これは指名クエストで、おれにしか報酬は発生しないんだぞ? それに、結構危ないって話だ。環境もキツい。だから、今回はおれ一人で行く」
「わたし、やっぱり……足手まといだった?」
「がう……」
「そうじゃない。でも危険は多いし、みんなに報酬は出ない。……これでも結構堪えたんだ、リーファがさらわれたとき。心配したし、このまま居なくなってもう会えなくなるってのは嫌だったから。それはもう繰り返したくない」
「それはわたくしも同じです。心配しました。でもそれがジンタ様だとしたら、わたくしはその数千倍は心配します。夜も眠れません。御身にもし何かがあれば、わたくし、即座に死ねる自信があります」
クイナの目がマジだった。
「クイナのあいが重いの……」
「おっ、重くありませんっ」
するすると器用によじ登ってきたひーちゃんは、ひしっとおれの首にしがみついた。
「ボクはご主人様のことがすきだから、ずっと一緒にいたいの。それだけなの」
「この前ジンタ言ってくれたじゃない? 『仲間なんだから』って。私たちのことを心配してくれるのは……嬉しい。どんなにジンタが強くても、私たちも同じで心配するし、ええっと……だから、何であれジンタの力になりたいの」
「……わかった、わかったよ。おれの負けだ。……行こう、みんなで!」




