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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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52/114

52話

ガチャ荒らしVSガチャ屋の一幕です。(簡単に言うとギャグ回です)

 何だかんだあったけど、おれの警備クエストも今日で無事終わり、冒険者ギルドで報酬を受け取った帰り道。


『今日はジンタのお疲れ様会するんだから、まっすぐ帰ってきてよね?』


 てなことを、今日家を出るときにリーファに言われた。

 どうやら、ご馳走を作って帰りを待ってくれるらしい。


 リーファが作るご飯は普通に美味しい。だから、今日は結構楽しみだったりする。


「最近リーファさんのほうがお嫁さんみたいで、わたくし、とても嫌なのです、ジンタ様……」


 しょんぼりと隣を歩くクイナは言う。

 同じクエストで勤務先も帰る場所も同じだから、自然と一緒に帰ることになる。


「クイナも料理頑張ったらそれっぽくなるんじゃないのか?」

「はい……」


 元々森住まいのお嬢様は小さくため息をついた。

 天界で一人暮らししていた(らしい)リーファと家事スキルに開きがあるのは仕方ないことだろう。


 道の途中、長蛇の列を見かけて足を止めた。

 すげー列が出来てんなあ。なんの列だ?


「これは……ガチャ屋から続いているようですね」

「ガチャ屋か。ちょっとだけのぞいてみるか」


 寄り道だけど、のぞくだけだしセーフだろう。

 にしてもすげー列だ。おれが売ったアイテムの効果かな?


 客層は学者みたいな人が2割くらい、残りは装備がしっかりしているガチ冒険者たち。

 装備品や古いアイテム目当てなんだろう。


「ジンタ様がアイテムを売ったおかげですね。ガチャ屋全店はジンタ様に感謝すべきです」


 景品を見てみる。


 虹色石:特賞 ベヒーアームス(胴、籠手、ヘルム)


 あ。あれってもしかして、おれがあげたベヒモスセットを加工した防具なんじゃ?


「……ジンタ様、わたくし、ガチャします――」

「どうした、クイナ?」


 いつになくシリアスな声を出すクイナを見ると、景品表の真ん中あたりを凝視している。


「欲しいです……! なんとしても……!」


 赤色石:4等 完璧チートお料理4点セット


 なるほど。道具でどうこうなるとは思わないけど……ん、注釈が……。



 ※セット内容(鍋・フライパン・包丁・食堂のおばちゃん)



 食堂のおばちゃんついてくんのっ!?


 庶民の味を再現するプロじゃねえか! そりゃチートでしょうね!

 いやてか、どちらさんだよ。


「並びましょう、ジンタ様」

「でも今日は早く帰ろうって話だったろ?」

「では、ジンタ様だけお帰りください。わたくし、やらねばならぬことがありますので」


 リーファのときみたいに、一人になったところを狙われたりしたら危ないし……。

 用心に越したことはないか。


「わかった。じゃおれも、久しぶりにやろうかな」


 最後尾に並んで、順番待ちをする。

 ぶつぶつとクイナは血走った目で何かつぶやいていた。


「これでもうリーファさんには負けませんチートなおばちゃんがわたくしとリーファさんのパワーバランスを一気に覆して身も心もジンタ様はわたくし一色になって――」


 ……聞かなかったことにしよう。


 おれとクイナが最後の客みたいで、後ろには誰も並ばなかった。

 しばらくすると列も短くなっていき店内に入る。


 おれを見るなり、店員たちに緊張が走るのがわかった。


「あ、あれは【ガチャ荒らし】――」

「俺にはわかるぜ……あの目は……、奴め今日はやる気だ……!」

「店長はどちらに!? 店長を呼べ、早く!」

「店長――っ! 店長ぉおおおお――ッ!」


 カウンターの内側で店員たちがバタつきはじめた。

 クイナがお札を握りしめる。


「クイナ・リヴォフ行きます――この一撃(ガチャ)にすべてを懸ける――ッ!」


 かっこいいセリフを吐いて店員にお金を渡す。


 別の場所が空いたのでおれがそちらにむかうと、女性店員は涙目で後ずさった。


「ひぃぃ……っ」

「持ち堪えろ――ッ、店長が、すぐ店長がいらっしゃる!」

「は、はぃぃっ!」


 店長への信頼すげーのな。あのイカサマお姉さんことライラさん。


「くっ、ここからでもわかる……なんという重圧(プレッシャー)だ、これが【ガチャ荒らし】か――」

「おいお前、新人か? 肩の力を抜け。そんなんじゃあ、1分と持たんぞ」

「しかし遅い――店長は何をしている!?」

「店長は『ついにこの時が来てしまったのね』と厨二発言を繰り返してしている模様――」


 なんかおれ、怪獣扱いされてんですけど。何このノリ。

 普通にやってくれないですか……?


 カツン、とヒールの音が鳴り全員が奥を振り返る。


「お待たせいたしました、カザミ様」


 髪をかきあげ、クールな微笑をおれに投げかけるライラさん。


「「「「ぉおおおおお!! 店長――!」」」」


 店員の士気がガンとあがる。テキパキとライラさんは指示を出す。


「厳しかった特訓の数々を思い出しなさい! 今がその成果を見せるとき――総員、第一種戦闘配置!」


『テステス、テステス。あーあー、当店はただいまより【ガチャ荒らし】迎撃のためガチャシステムを変更いたします。一般のお客様はお下がりくださいませ。繰り返します――』


「ノーマルガチャボ、パージOKです、いつでもいけます!」

「ガチャボニイゼロ、換装状態グリーン、こっちもいけます!」


 何だかんだゴチャゴチャ言っているけど、キビキビとみんな動いている。

 無駄なこのやりとりをしなかったら、もっと早いんだろうなあと思いました。


 バサッと布が払われて、いつぞやのでかいガチャボが姿を現した。

 あ。バージョン1.20だから、ニイゼロか。


 こいつは、以前倒したことがあるガチャボだ。別の細工がしてあるのか?


「換装開始!」

「「イエス、マム!」」


 ガチャボのキャスターのロックを解除。店員はそれぞれのガチャボを押す。


 きゅるきゅる……。


 換装って何するかと思ったら……移動させるだけ!?


 ぱちん、とまたキャスターをロックする店員。

 うんうん、そういうの大事だよね、細かいけど。何かあったときに事故に繋がるからね。


「迎撃システム稼働――80、81、90、93、100――システムオールグリーン」


 ライラさんも含め、店員の全員がうなずき合う。

 改めてこっちに向きなおった。


「…………ついに、この時が来てしまったのね」


「それ、裏で何回も言ってたんですよね? そのセリフ練習してたんですか?」

「ちっ、ちがっ、違いますっ! こほん。……さあ、勝負の時間です、カザミ」


「ガチャボは以前のままですけど、あれで良いんですか?」

「ええ。あれで構いません」


 そう言ってライラさんは不敵に笑った。


 ……まさか、何か策があるのか?

 おれが警戒していると、お決まりのセリフが飛んでくる。


「ガチャをしないのであれば、とっととお帰りいただけますか?」

「ガチャするために結構待ちましたし、ここまできて帰りませんよ」


「仕事が終わるのを待っていただけるのですか。では一緒にディナーに行きましょう」

「ディナーも行きません。そういう意味の帰らないじゃないですから」


「――っ」


 ざわざわ、と後ろがざわつく。


「て、店長が動揺している――」

「ガチャ荒らしめ……揺さぶりをかけているのか」

「店長はあのセリフを何度も練習していたのに――! 恥ずかしがらず、噛まずに言えたのに――、なぜOKがもらえない……! なぜだ!」

「……クソ、これが実戦か――」


 外野がうるさい件。


「カザミ様、何回ガチャをまわしますか?」

「1回で、お願いします」


 1000リンを渡して、ニイゼロの前へ促される。

 以前に比べて、何て言うか、当たりを引かせまいとする熱がない。


 何だこの違和感は……。

 何かおれは、大きな思い違いをしているんじゃないのか……?

 いや、でもガチャボは以前見たタイプだ。何か新たな仕掛けがあるというわけじゃない。

 すべて単なる杞憂か……?


 ガチャのハンドルを握り、ぐりり、と回す。ぽとん、と出てきたカプセルを開ける。


 虹色の石が入っている。


 クク、クフフフ、フハハハハハ――!

 杞憂だ。杞憂だったんだ!


「どうだ、おれの剛運はッ!」


 ダン、とカウンターに虹色石を叩きつける。


「おめでとうございます、カザミ様」


 ライラさんはぺこりと頭をさげる。


 ビクンビクン、しない、だと――!?


 普通だ――望んでいたはずの、普通の対応。


 でもなぜだ……。どうしてこんなに釈然としないんだ。


「では、これをどうぞ」


 ライラさんが取り出したのは、ベヒーアームスじゃなく、紙切れ。

 おれはそれを受け取った。


「ベヒーアームスですよね、虹色石は」

「ええ、『前回』は、そうでした。今回は――」


「『前回』って、なんだ――!? 今回? は? 何を言って――」


 ライラさんは景品表を指差す。



 虹色石:特賞 ライラとの楽しいディナー券



「かっ、変わっとるぅううううううううううう――っっっ!?」


 汚ぇ! 何で変わってんだよ!


 一体いつだ。おれが店内に入ったときはまだベヒーアームスだったはず。

 ……まさか。ガチャボ交換やその他の演出は、おれの目をそらすためのブラフ――!?


「……私、今夜は予定がないのですけれど」

「さっそくアピールしてきた!?」


「……誘いを断られた場合の、二段構え」

「特賞に設定し、引き当てることを逆算しての作戦――さすがだぜ……!」

「クール美人な店長とのディナーに行かない男なんて――」


「要らねえよ、こんなのッ!!」


 てい、とおれは床にディナー券を投げ捨てる。

 がくり、とライラさんがorzの態勢になってうなだれた。


「「「「貴様ぁあああああああ!」」」」


 どうなってんだよ、クソ。

 よーく景品表を見てみる。平面的じゃなく立体的なんだけど――、


「うわっ、景品表ぶ厚っ! 日めくりカレンダーみたいになっとる!?」


 一体何枚重ねてんだ。ミルフィーユか!

 めくってみて景品を確認する。


 ライラとデート券、添い寝券、ハグ券、ほっぺにちゅー券、膝枕券、同棲券――ライラとライラとライラとライラと――全部ライラと! しかも特賞!


「自分推しがハンパねえ……っ!」


「……カザミ様、ガチャ、どうされますか?」


 ライラさんが若干ショックを受けている顔をしている。

 あ。ディナー券投げ捨てたからか。


 そもそも特賞だったベヒーアームズは何等なんだ……?


「って、載ってねぇのかよ!! 詐欺だ!」

「詐欺ではありません。……ディナー券が欲しくてガチャをしたのでは?」


 おれの確認不足だと言われれば、そうと言わざるを得ない部分もある……!


「くそっ……次、ベヒーアームズがある景品表でお願いします」

「ご心配には及びません」


 バリッ、と一番上の景品表を千切ると、青色石のところにベヒーアームズがあった。

 よし、これなら安心してガチャ出来る。


「ジンタ様ぁ……、あたりません……」


 そういえば、クイナの存在を忘れていた。

 悲しそうにこっちを見てくる。

 クイナのガチャボはおれとは違うノーマルタイプ。


 お料理セットが欲しかったんだっけ。


「すべてを懸けて挑んだのですけれど……。これで最後になってしまいました」


 懸けたっていうか、賭けたのが正しい気がする。


 有り金全部突っ込んだのか……リーファへの対抗意識は相当なもんだな。

 グリグリ回して、ぽとん、とカプセルが落ちてくる。


 中を確認したクイナは、はぁ、と大きなため息をついた。


「ジンタ様……やはりダメでした……赤色ではなかったです……」


 クイナが見せてくれたのは、青色の石だった。


 …………。


 大事なことなのでもう一度言う――クイナが青色の石を当てた。


 ノーマルガチャボだから、クイナのほうは青色くらいなら出やすいのか。


 そうかそうか……。


 ダンッ、とおれは青色石をカウンターに叩きつけた。


「詰めが甘かったですね、ライラさん。……交換――してもらえますよね?」


 ニヤリとおれが笑うと、わなわなとライラさんは震えはじめた。


「想・定・外――っ」


 白目をむいて、電流が走ったみたいに体をビグンビグンッとびくつかせた。


「「「「店長ぉおおおおおおおおおおお!?」」」」


 店員たちに支えられたライラさんは奥へ連れていかれた。

 フッ。悪は去った……。


「クイナ、ありがとう」

「? わたくしは、全然良くないのですけれど……」


 一応当てたのはクイナなので、クイナがベヒーアームズをもらった。

 お礼として1万リンをあげたけど、やっぱり納得いかなさそうだ。


――――――――――――――――

【SR ベヒーアームス】

ベヒモスの鱗、牙、角で作られた対魔法力に優れる防具。


力 +100

知力 +50

耐久 +300


スキル

エレメンタルガード(各属性の攻撃魔法のダメージ5%減)

――――――――――――――――


 色は黒銀。竜騎士みたいなデザインでなかなかカッコイイ。

 ヘルムも籠手も胴も、全部身につけてみるとぴったりだった。

 ただ、さすがにずっと着ているわけにいかないので、すぐに脱いだ。


「ご主人様~」


 ひーちゃんがこっちにむかって走ってきた。


「あれ。今日はリーファと留守番だろ? どうした?」

「遅いからむかえにきたの。ご飯が冷めるってリーファが言っていたの」


 そうして迎えにきてくれたひーちゃんに乗って家へ帰った。

 帰ってからリーファに小言を言われたのは、まあ仕方ないことだろう。



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