45話
戦利品は、魔砕槌、ゴーレム、あとその他地下遺跡に落ちていたアイテムや武器防具。
破砕槌は売らないって決めたし、ゴーレムもこのまま手元に置いておきたい。
道具屋で持ち込み予定のアイテムを鑑定してもらい、永晶石もついでに売っておく。
道具屋のおじさんに泣きながら売ってくれとお願いされたけど、今回はお断りした。
食事をする予定の酒場でみんなを待たせて、おれはガチャ屋へむかった。
【アイテム賭場】店内に入ると、あのイカサマお姉さんを見つけた。
「いらっしゃいませ……、あら、カザミ様。どうされたのですか? 何か聞きそびれたことでも?」
「いえいえ。帰ってきました。ベージャ地下遺跡、でしたっけ。そこまでちょっと」
「ベージャ地下遺跡と言いますと……早馬で2日はかかります。冒険者でない私でもそのようなことは存じております。からかわないでください」
依頼されたのが今日で今は夕方。普通ならまだ遺跡にむかって移動中だ。
「あぁ、馬じゃなくてドラゴンで飛んでいったんで、すぐでしたよ?」
「ど、ドラゴンっ――!? どら。ど、ど、どら、ど」
「ドラゴンです、ドラゴン。確か未踏破って話でしたけど、最下層まで行ってきました。結構な値打ちものがたくさんあって――」
「ベージャ地下遺跡は、最下層は地下7階だと探索ユニオンの方から聞いております。そう難易度の高い遺跡でもありませんし……本当に値打ちモノでしたら、もうないと思うのですが……」
疑わしそうなお姉さんに、おれはドヤ顔をする。
「あっれぇ、知らないんです? 最下層って地下10階なんですよ。あれー、誰も行ったことないのかなー。ちなみにこれなんですけど、拾ったの」
おれは鑑定書と【R 古代の剣】をお姉さんに見せる。
「――っ!? こ、これは……」
目を白黒させながらおれと剣を交互に見やる。
「学者の人とか、喜ぶと思うんですけどねえー。欲しかったらいっぱいガチャしてくれると思うなー」
「失礼いたしました。カザミ様、奥へどうぞ」
事務室に入り、おれは拾ってきたアイテムを机の上に鑑定書と一緒に並べる。
現物と鑑定書を確認するお姉さんに言った。
「どうでしょう。全部で、そうですね……200万で」
「ありがとうございますカザミ様、買い取らせていただきます」
早っ。いいのか、そんな簡単で。
訊くと、どうやらこの店舗はこのお姉さんが店長らしい。
「あのぉ、おれが言うのもあれなんですけど、鑑定書を書かせたっていう可能性ありますよね? これ、全部ガラクタかもしれないですよ?」
「国家鑑定士が、鑑定書を偽造するというのは始祖王ラプランドを冒涜するということでもあります」
そのシソオウだかなんとかは神様くらい大切にされている昔の王様らしい。
だから、裏切り行為にあたる虚偽や偽造はありえないんだとか。
国が公式に認めているイコール国への忠誠を認められた、という部分もあるそうだ。
『だから裏切り行為はありえない』って言われても、おれみたいな無宗教の人間にはちょっとわかりにくい感覚だった。
お姉さんはごそごそ、と金庫を漁り、束のお金を2つ机の上に置いた。
おぉ……、こ、これが200万……。
「……しかし、この程度の額で買い取ってしまってよろしいのですか?」
「かなり高額だと思いますよ? でも、品と額が見合ってなくてもいいんです」
「?」
「今回は、色々と迷惑をかけちゃったこのガチャ屋とお姉さんのために持ってきたんで、そのへんはプライスレスってことで」
おれが微笑むと、
「はぅんっっっっっっ――」とお姉さんは後ろにのけぞった。
「ちょ、大丈夫ですか!? うわっビクンビクンしはじめたっ!? 水揚げされた魚みたい! 起きてください!」
おれは慌ててお姉さんの肩を揺する。
「…………はぁ、はぁ、ハァ。すみません、少々取り乱しました」
「取り乱すとこうなるんだ……」
「こほん。プライスレスというのは、基本的に愛情以外考えられません……それにあの屈託のないステキな笑顔……。カザミ様は私のことを愛しているという認識でよろしいですね?」
「よろしくないです」
……なんかお姉さんの視線が熱っぽい。
「おれは、お金これで十分ですから。もし景品を持て余すなら他のガチャ屋にも分けてあげてください」
おれはそそくさとお金をアイボに放り込んで、席を立つ。
扉を開けたところで呼び止められた。
「カザミ様、私、ライラと申します」
「ああ、はい。そうですか……な、なんですいきなり」
「次お会いするときは、敵同士です。【アイテム賭場】の人間と【ガチャ荒らし】」
「そうならないと良いんですけどね」
「いいえ……私たちは、戦うことを宿命づけられていたのです。例え愛し合っ」
「じゃ、失礼しまーす」
話が長くなりそうなので、早々に退室しておいた。




