44話
それはそうと、ゴーレムが護っていたらしい『精霊槌』だ。
ゴーレムがここにいるってことは……どこかに……。
あ、あった。壁に大きな槌が埋め込まれている。
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【SSSR 魔砕槌】
魔神を倒した際用いられた武器の一つ。
HP +6000
力 +2000
耐久 +2000
スキル
衝破塞
(消費MPにより威力増大。スキル発動まで時間要する)
牙城
(消費MP30 耐久上昇)
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お。トリプルS! 説明も魔神がどうのっていうあたり、魔焔剣と一緒だ。
ゴーレムはこれを護っていたのか。
「魔神を倒したときに使われた槌らしいぞ?」
「それでしたら、この槌はもしかして……」
クイナが槌の柄を握る。
「ひやぁんっ!?」
「どうかしたか?」
「……い、いえ、持ち手の部分から、ぬちゃ……、と言いますか、デュルっというような感触がして、少し驚いたのです」
クイナの両手には、白いゲル状のものがついていた。
ぬちゃってして、デュルってする?
白くてゲル状のものが?
………………………………。
「『デュル』ってしたの?」
「はい。わたくし、もう一度試して」
「――ちょ、ちょっと待て……もしかするとあまりよろしくない物体かもしれない」
槌をよく見てみると、クイナの言った通りだった。
『デュル』ってしてそうな白いゲル状の謎物体が柄の部分からトロトロと出ている。
「………………………………」
どうしてだろう――死んでも触りたくない。
持ち手のあたりにモザイク処理が必要なんじゃないでしょうか。
「魔神を倒したときに使われた槌となると、『ミョルニル』の可能性が高いです。……ですが、この槌は何を発射したのでしょう」
真面目な顔で、発射とか言うのやめてください。
「な、何よこれぇ……なんか嫌なんだけどっ! せ、生理的嫌悪を催すんだけどっ!」
リーファはじりじりと後ずさりしている。
「ぬるぬるしてて、さわったら気持ち良さそうなのー」
「ひーちゃん、ダメっ! 触っちゃダメ! あ、あ、あ、赤ちゃん出来ちゃうからっ!」
「そうだったとしても出来ねえよ」
ソレかどうか、まだ決まってないんだし。いやてか、もうソレにしか見えない。
リーファの反応で勘付いたのか、クイナがそっとリーファの服で手をふいている。
「ちょ、何してるのよっ! 私の服で拭かないでよっ!」
「ジンタ様……わたくし、汚されてしまいました……」
クイナがしくしく泣きながらおれに抱きつく。
「手だけだから大丈夫大丈夫」
「わたくしのこと、嫌いになりました……?」
「ならない、ならない」
よしよし、と頭をなでてあげる。
「がう……ご主人様に嫌われるのはイヤなの……」
おれの背中にくっついたひーちゃんもそう言いはじめたので、いよいよ誰も触ろうとしなくなった。
「ゴーレム、これ、持てる? てか、使える?」
「……………………………………………………」
おれから目をそらすゴーレム。なんか嫌そうだった。
護ってたのに、その反応なんだ。
「ゴーレム、この槌を持て」
「……………………………………………………」
のしのし、とゴーレムはこっちに歩いてくる。
『はいはい……命令だからやりますよ』感がすごい。
持ったのは、柄の部分じゃなく頭のほうだった。
こいつ、命令のグレーゾーン突いてきやがった。
槌を置くと、相当重いようでズシンと音が響いた。
……この白いゲル状の物体を我慢したら、使えるのか?
意を決して、柄の部分を掴む。
やっぱデュルってする……。これはアレじゃない、そう、ヨーグルトとかそっち系の物体だ。
そう思うことにして、持ちあげてみる。
「よいせ、――あ」
デュルンッッッ!
白い謎物体のせいか、持ち手はかなり滑りやすくなっていた。
ドシンと槌が落ちる。その反動で、白いゲル状の物体が飛んだ。
「きゃ!? 白くてデュルってしたやつが飛んできたっ!? はわっ、ちょっとかかっちゃった……」
涙目のリーファはハンカチで謎物体をふきとっている。
どうやら、みんなにかかってしまったらしい。
「ジンタ様、白いゲル状の物体を飛ばしてしまったのですね……」
「おれが出したみたいに言うのをやめろ!!」
「がう。ちょっと酸味があって甘いの」
「食べてるぅう!?」
お腹壊すかもしれないから、白いゲル状の物体を舐めるのをやめさせておく。
持っても滑って落としてしまうのなら、武器としては使えないだろう。
「レアリティはトリプルSだし、使えないけど一応持っておくか……すごい武器であることには違いない。柄からおかしなモンを出すけど……」
「ジンタ、これ見て。槌がはまっていた壁。何か書いてある」
リーファが指差す先を見ると、そこには精霊文字があった。
文法がアレだから読みにくいけど、要約するとだいたいこんなことが書かれていた。
『この文章を読んでいるということは、守護兵器であるゴーレムを倒し、槌を抜きとったようだね。おめでとう。魔砕槌は君の物だ。――白いゲル状の物体が持ち手から出るように仕組んでいるけれど、害はないから安心して欲しい。特に意味はないイタズラだ』
イタズラかよ! ちょっとしたパニックになったじゃねえか。
『精工物のひとつ、魔砕槌は強大な力を秘める武器だ。誰でも扱えると困るから、大地の加護を持つ者が所持すれば、せい……白いゲル状の物体は止まるようにしてある』
こいつ、書きそうになってんぞ。
『なんであれ、精霊文字を読みゴーレムを倒した手練れの君に、この武器を託したいと思う。――これを読んでいる君が、清廉な人物であることを祈って。 精霊・グノモス』
「……てなことが書いてある」
「ステータスに魔砕槌って書いてあるなら本物で間違いないわね。……絶対に触りたくないけど」
「ええ。精霊グノモス直筆のようですし、本物に相違ないでしょう。……もう二度と触りたくありませんけれど」
託されても使えないんだけどなあ。
精工物ってことは、ゴーレムみたいにどこか書き換えたら白いゲル状の物体を止めることが出来るんじゃないだろうか。
仕組んだって書いてあったし。
魔砕槌を見るけど、どこにも精霊文字はない。
強引に文字を書こうとしても、ナイフの刃が通らず傷ひとつ出来ない。
ゴーレムと同じく、槌の内側にそうなるように文字で指示されているのか?
ゴーレムは再生したから無茶出来たけど、これは壊れてしまえばそれまでだ。
槌の頭を持って、出したアイボに放り込んでおく。
持つだけならどうにか大丈夫だけど、これを振るのは相当なパワーが要りそうだ。
ゴーレムはアイボの中に入ってもらい収納。
持ってきていたお昼ご飯をそこで食べて、おれたちは地下遺跡を後にした。




