39話
だから最終回ではないと何度言えば(ry
家からログロへ買い物にやってきたついでに、久しぶりにガチャ屋へ立ち寄った。
【アイテム賭場】店内に入ると、店員たちが緊張気味にじろじろとこっちを見てくる。
相変わらずのマークっぷりだなあ……。
欲しい景品もなかったから、おれはガチャをしないことにした。
だから今日は、リーファたち三人の幸運を祈るだけの簡単なお仕事。
『ジンタ様、久しぶりにどうでしょう』
こんなことをクイナが言いだすから、リーファが勢いよく食いつき、それに乗っかってひーちゃんも興味を示した。
それぞれ1万リンのお小遣いをあげている。
「いい景品を当てたら、ご主人様、頭をなでてくれるって言ったから、ボクがんばるの」
「わたくし、なんなら景品以上にそれが欲しいのですけれど……」
「そ、それなら…………、私も、がんばろう……かしら……」
泣きの一回はなしだからな?
おれが三人の様子を見守っていると、この前のイカサマお姉さんと目が合った。
こっちを見ながら手招きをしている。
え? おれ?
「カザミ・ジンタ様。少々よろしいでしょうか」
何の用だろう。この前のイカサマを謝罪する、とか?
いや、ガチャ荒らし認定されてるし、それはないか。
おれがお姉さんのところへ行くと、そのまま奥へ連れていかれた。
高額景品の受け渡しをする事務室に入る。
ソファをすすめられて座ると、お姉さんもむかいに座った。
「先日は、どうも」
「こちらこそ、お世話になりました」
「アナタのせいで、あの後大変だったんですから」
いや、それは自業自得だろ。
あの後、割引キャンペーンや限定イベントなどをして、どうにか客足も戻ったらしい。
「それで今回は、少々ご相談がありこの部屋に来ていただきました」
「相談、ですか?」
「はい。カザミ様は、ベヒモスを倒した凄腕冒険者という一面をお持ちだとか」
「ああ、はい。けど、まだ冒険者ランクGなんですけどね」
うんうん、と確認するようにうなずくお姉さん。
「だからこそ、今回の相談をするにはうってつけの方だったのです。【アイテム賭場】は、武器屋防具屋、道具屋、その他の持ち込みアイテムを買い取り、景品にしているのはご存知でしょうか」
そういやリーファが前にそんなことを言ってたっけ。
「景品の出所はそこだけではなく、探索ユニオン等に依頼しアイテムを持ち込んでいただいたり、武器を扱う商会から仕入れたりもしているのです。……先日のキャンペーンの反動で良い景品が少なくなってしまって……」
「良いアイテムがないから、ガチャをするお客さんが減っている?」
「徐々に減ってきているのが現状です。……と言うのも、定期的に景品の武器や道具を仕入れていたアルダディース商会の本拠地が、何者かによって吹き飛ばされ取引が滞っているせいでもあるのです。輸送予定だった目玉景品になる武器も塵になってしまい……」
「……………………へ、へえ、そ、そりゃ……たいへん、ですね……」
お、おれかなぁ……? 犯人。
いやいや、あれから時間も経っているし、再建した後やられたっていう可能性も……。
「二週間ほど前の明け方のことです。ドーンと大きな音がして、塵になった、と」
「……………………」
「そのときいた商会の人に事情を訊いても『オレは何も知らない』『もうこれ以上訊かないでくれ』と、そのようなことをガクブルして言うので……」
――すみません、おれです犯人。
「収益も下がりはじめ、探索ユニオンに渡す報酬も出せなくなってしまい困っているのです」
「それで、Gランク冒険者でベヒモスを倒したおれに、依頼を……?」
「はい。ランクが低い冒険者なら、クエスト報酬の設定も低額で済みます。もちろん、集めてくださったアイテムに関しては、査定し買い取らせていただきます」
「相談っていうのは、このことですか。アイテムをどこかから集めてきて、それを買い取りたい、と」
お姉さんは静かにうなずく。
「わがままを言っていいのでしたら、なるべく珍しいアイテムであればこちらとしては大助かりなのですが……」
なるほど、事情はだいたいわかった。
色々と……断れない。
「わかりました。おれに任せてください」
あ。そういや、コレ全然使ってない。目玉景品がないって話だったよな。
おれはアイボからベヒモスセットと鑑定書を取りだす。
「これ、よかったらどうぞ、景品にしてください」
「これは……ベヒモスの……。よろしいのですか?」
「はい、今まで忘れていたくらいなんで」
「買い取り額なのですが……なにぶん資金不足なので、相場よりも下回ってしまいますが……」
「いえいえ、差し上げます」
こんなに困ってるのは、おれのせいなところもちょっとあるし。
お姉さんは神様を見るような目でこっちを見てくる。
「カザミさまぁぁぁぁぁ……。今夜わたし、カザミ様に体を許すことに」
「ならねーよ」
「今夜わたし、またカザミ様の前でビクンビクンして――」
「聞けよ」
それから、お姉さんはぎこちなく微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。依頼の件とベヒモスの素材。……い、以前からお礼を言おうとしていたのですがなかなか機会がなくて……」
「え? お礼、ですか?」
「ログロやホヒン周辺に頻繁に現れたゴブリンたちを根こそぎ倒してくれたのが、カザミ様だとお聞きしまして」
あー。そういや、移送中の道具を奪ってたんだっけ、あいつら。
「本当にありがとうございました」
ペコリとお姉さんは頭をさげる。
そんなに感謝されると心が痛む……。
「冒険者ギルドへは後ほど、正式に指名クエストとして依頼をさせていただきます」
「わかりました」
ふうん、こんなふうに直接クエスト依頼されることもあるのか。
店内に戻ると、ひーちゃんが駆け寄ってくる。
「ご主人様、ご主人様 ほらっ、あたったの!」
ちっちゃな手に握り締めていたのは【N パインゴ】の引き換え券だった。
「パインゴが当たるとは、なかなかないことなの」
知ったような顔で、うんうんとひーちゃんはうなずく。
ひーちゃんそれ、来る途中のお店にあったよね、100リンで。
「よ、よかったな」
「と、見せかけて――じゃぁーんっ、もうひとつあたったのっ!」
隠していたらしい【N パインゴ】の引き換え券(二枚目)を見せてくれた。
まぶしい、喜ぶその笑顔がまぶしい……っ。
「おどろいた? おどろいたの? ボクが一番いいアイテムをあてたの!」
こ、ここは驚いてあげないとひーちゃんがガッカリしちまう。
「う、うわー……、ひーちゃん二枚も当てたのかーすごいなー」
まるでダメな演技。棒読み丸出しだった。
様子を見ていたクイナがくすりと笑う。
「うふふ、ジンタ様。別にそんな景品珍しくとも何ともない、とお考えなのがみえみえです」
「おれの努力と気遣いを返せ」
「そういうクイナは何を当てたのよー? どうせ私と似たり寄ったりのゴミアイテムでしょー?」
リーファは安定してゴミを当てるなあ……。
「……わたくし、今回は調子が悪かったのです。大した物が当たらなかったのはそういうことなのです」
「じゃ、私も調子悪かった」
「じゃ、ってなんだよ。おまえは年中だろ」
「フン。見てなさいよ、いつか私の前にひざまずかせて今の言葉を謝罪させるんだから。……ところで、店員さんに呼びだされていたでしょ? 何の話だったの?」
「ああ、そのことか」
店外にでて、おれはガチャ屋からの指名クエストの話をみんなにした。
「それでしたら、アイテムを集めればよいのですね?」
「うん、簡単に言うとそういうこと。リーファ、ちょうどいいダンジョンってあったりする? 珍しいアイテムとか、貴重な物がある場所でもいいんだけど」
「それなら……ベージャ地下遺跡なんてどうかしら?」
「ベージャ、地下遺跡……?」
「うん。最深部には誰も到達したことのない、未踏破ダンジョンよ」




