37話
飛行スキル!
今回の戦闘でレベルがあがって覚えたのか。
小さく吠えるとひーちゃんが地面を蹴り、まだ小さい翼を羽ばたかせる。
ふわっと一瞬の浮遊感があった。
直後、ゴォォ、と耳元で風が激しく鳴る。
そのときにはもう地上をはるかに離れていて、目の前には火竜がいた。
これなら、戦える。
【灰燼】を発動させたまま、剣を横に構える。
ひーちゃんのブレスが空を焦がす。
けどそれは、火竜が翼を動かし強風を巻き起こすとかき消されてしまった。
やっぱ、ひーちゃんと火竜じゃ勝負にならない。
「がる。がるう」
何を言っているかさっぱりわからんぞ、ひーちゃん。
「……。わかった! 死角に回り込んで一撃だな」
適当に言ってみた。
「があ♪」
あ。当たってた。
そんなことをしている間に、むこうもブレスを放射した。
ギュン、とひーちゃんが一気に降下。攻撃を回避する。
ガァアアン! と爆音がして振り返ると、山に直撃し小規模な火災を起こしていた。
リーファやクイナのいる付近だったけど、二人が無事なのはここからでもわかった。
おれたちの上空には火竜がいて、ちょうど腹が見える位置に今いる。
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種族:人間
名前:風見仁太
Lv:40
HP:8400/8400(4400)
MP:2800/3750(750)
力 :2550(580)
知力:1830(330)
耐久:290
素早さ:200
運 :999999
スキル
【黒焔】8/10
【灰塵】9/10
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こっちの攻撃力は、むこうの耐久を上回ってる。けどスキル自体の威力もある。
さすがに手加減しないとどうなるかわからない。
おれは【黒焔】を発動させる。
セーブしてセーブして、セーブして、魔法を撃つ。
ドゴォゥウン、と【黒焔】が直撃。黒煙を巻きつけた火竜はグラっとバランスを崩す。
セーブしまくったけど、十分効いているみたいだ。
ふらふらしならも、高度を下げて追いかけてきた。
速度はそれでもこっちより速い。
対ブレス用に【黒焔】を撃つ準備をしていたけど、吹きつける気配がない。
――それなら。
「【黒焔】!」
さっきと同じ量のMPを消費し、魔法を撃つ。
回避しようとした火竜の左翼を魔弾が命中した。
「ガルァアアゥウウアアアア――ッ!?」
二発目の命中弾もやっぱりダメージになっている。HPも減っている。
……でも絶対にゼロにしちゃだめだ。【逆鱗】ってスキルもある。早く大人しくさせないと。
火竜の速度が落ちると同時に、こっちの速度も下がりはじめた。
「がる……、がるう……ッ」
まだ慣れない飛行に、ひーちゃんがバテはじめている。
「もうちょっとだ、ひーちゃん。頑張れ」
首をなでて励ます。火竜がじわじわと距離を詰めてきていた。
……。
イチかバチかやってみるか。
おれは剣を鞘にしまって、ひーちゃんからジャンプした。
コンマ1秒もあれば、火竜はおれだけに追いつく。
乗っていたひーちゃんはもうはるか遠く。
「がうっ――!?」
慌てた声が後ろで聞こえるのと同時に、予想外の行動に驚く火竜の顔が正面にきた。
「――ッ!?」
歯ぁ、食い縛れよ!
おれは剣を上段に振り被り――。
「――っらぁああああああああああああああッッ!!」
全力で頭に振りおろした。
ゴォォォオオン――、
赤かった瞳が白目をむく。グラッと巨体がかたむき地上へ落ちていく。
当然……おれも落ちていく。
「がる――!」
ひーちゃんが急旋回しこっちに戻ってきた。
落下していくおれは、またひーちゃんの背中に帰ってきた。
「ありがとう、助かった」
「がるう!」
ズシィイイン、と地響きがして下を見れば、火竜が落ちたところだった。
ビクともしないけど、HPもちゃんと残っているし、どうやら気絶しているだけらしい。
「よし。次はリーファの出番だ」
へろへろだったひーちゃんも徐々に高度をさげていき、ゆっくり着地した。
もう一歩も動けないのか、ひーちゃんはへたりこんでしまった。
昨日からの長距離移動に、今回の空中戦のドンパチ。
相当疲れただろう。
「ジンタ!」
リーファとクイナがこちらに駆けつけた。
「浄化を頼む。今、気絶しているみたいだから」
「うん――」
祈りの言葉を紡ぎはじめたとき、クイナが長い耳をピクりと動かした。
「ジンタ様、何か聞こえませんか?」
「何かって、何……?」
「がるッ! がるッ!」
ひーちゃんも何か吠えている。リーファも言葉を止めて耳を澄ました。
ゴ――、と小さな音がして。
足元に石がいくつも転がってきた。
ゴ、ゴ、ゴ、ゴ――ゴゴゴゴゴ……ッ!
地響きとともに今度は岩が上から転がってくる。
土が、樹が、巨大な岩石が、土砂が、津波みたいにこっちにむかってきていた。
「うそ……土砂崩れ――」
リーファが青い顔でつぶやく。
このままここにいたら呑まれれちまう。
「――早くこの場を脱出しましょう」
クイナの提案におれは首を振った。
気絶している火竜だって当然ここを動けない。
たぶん、土砂崩れは火竜のブレスが山に当たったせいだろう。
下のほうから悲鳴が聞こえた。
……なんだよ、傭兵のやつらまだ山をおりてなかったのか。
発動させた【灰燼】で転げ落ちてきた岩石を粉砕する。
地震みたいな揺れが起きる。土砂が波みたいに迫ってくる。
「みんな、ちょっと下がってろ」
おれの後ろにはみんながいるんだ。
土砂崩れ相手に手加減して、力が足りませんでした、じゃシャレにならない。
全力で撃つぞ――。
残MPをすべて注ぐ。
剣を構えると、足元に赤黒い魔法陣が広がった。
バヂ、バヂ、と黒い雷がおれの周囲で爆ぜる。
ずしんと体が重くなって、頭の中で何かが聞こえた。
――踏ミ 躙レ 其ハ 破壊ヲ 司リシ 者ナリ




