36話
「リーファ、浄化スキルって離れてても使える?」
「数メートルくらいならいいけど、それ以上はたぶん、届かない……」
スキル発動までに少し時間がかかる。しかも火竜の近距離で――?
広範囲の強力なブレスと尻尾や爪での攻撃があるんだ。
それに巻き込まれればリーファの耐久、HPじゃ持たない。
「要するに……おれが大人しくさせればいいんだな。リーファの仕事は最後の最後の仕上げのときだ」
「うん」
「クイナ、それまでリーファを頼む」
「わかりました」
ひーちゃんが二人を乗せて離れていく。おれは改めて火竜と対峙した。
キングゴブリンと同じかそれよりも大きい。
大人しくさせる、てなると、近づいて頭をぶん殴るくらいしか思い浮かばないな。
火竜が低く唸り、大木みたいな爪を振ってくる。
ステップを踏んで回避した。
続いて放たれたブレスも【灰燼】で斬り裂く。
広範囲のブレスと尻尾。上に左右に振られる両手の爪。攻撃はこの3パターン。
怪我も出来るだけさせたくないし……麻痺させる魔法かなんかあれば良かったんだけど、強すぎる能力ってのも考えもんだな。
ひーちゃんママじゃなけりゃ、今頃塵なのに。
せめて足があれば――。
「がる――ッ」
ひーちゃんがこっちにむかって走ってくる。
おれは躊躇せず飛び乗った。
「がう!」
「一緒に助けよう」
ダダダダダ、と思った通りの方向へひーちゃんが疾走する。
降ってくる大きな爪を俊敏に回避。
ォオオンと重い音をあげた尻尾。
「がるぁ!」
ひーちゃんが翼を動かし跳躍する。
敏捷性ではこっちのが上なんだ。
それなら――、一気に行くぞ――
態勢を低くし、一直線に突っ走る。火竜の頭が空をむき胸元が膨らんだ。
「ガルァアアアアアアアアアアアア――ッ」
ブレスだ。
おれが【灰燼】を発動させると同時だった。
「がぁあああああ――ッ!」
ひーちゃんが幼い声で吠え、こちらもブレスを放った。
ドラゴンのブレスとブレスが激突。
ドガァン!
小さな爆発を起こしたが、勢いもパワーも火竜のほうが段違いに上だった。
けど、ひーちゃんの足でその場を離れるには十分のタメを作った。
それ以上に、良い目くらましだ。
おれたちは火竜へ迫る。
煩わしそうに火竜が一度吠えた。
ブゥン、という鈍い音がした次の瞬間、風圧が襲った。
ブウン。
鈍かった音は、すぐに軽やかな音に変わる。
バサリ、バサリ――。
風がやんで、ようやくおれが正面を見ると火竜はそこにいなかった。
バサリ、バサリ――。
音に空を見上げる。火竜は翼をはためかせながら、こちらを見おろしていた。
「ガゥウウウウァアアアアア――」
そういやそうだった。飛行スキルあるんだった。
翼をたたんだと思いきや、こっちに滑空してくる。
爪を回避し、さらに牙からも逃げ切る。
ついでとばかりにブレスも吐きやがる。
それは【灰燼】で切ったけど、こう攻撃を連発されると反撃できねえ。
って、もう空にいんのかよ。華麗なヒットアンドアウェイだこと。
あ、いや、ヒットはしてないけど。
「がる、がる!」
興奮気味にフシーと鼻息を吐いてひーちゃんが山を駆けおりる。
「おいおいおい、どうしたんだよ。敵は上だぞ!」
「がうっ」
わかってるの、とでも言いたげだ。
じゃ、なんで――?
さらに、さらにさらに、加速していく。突っ走る先には崖がある。
「がるぅううううう――っ!」
あ……もしかして――?
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種族:竜族(幼少)
Lv:27
HP:4510/4880
MP:135/455
力 :410
知力:320
耐久:400
素早さ:250
運 :35
スキル
咆哮
ブレス
飛行 【←NEW】
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