28話
今回と次回は日常回となります。
ログロの町に入って、道具屋で回収したゴブリンの永晶石20個を残してあとは売却。
ついでに、クエストに必要な永晶石20個分の鑑定書を書いてもらう。
隣にいるひーちゃんは背伸びして、不思議そうに道具屋のおじさんの羽根ペンを見つめていた。
そういや、ずっとリーファのローブ着たままだ、ひーちゃん。
「あの、子供服って置いてますか?」
「あぁ、あるよ」
おじさんはさらさらとペンを動かしながら、店の隅を指差した。
「ご主人様、ボクはこれでもいいの」
「おれが良くないの」
ずるずるローブを引きずっているし、町の人にもおかしな目をむけられることもあった。
とは言え、おれにファッションセンスなんてものはない。
「リーファ、クイナ、二人でひーちゃんの服選んでやってくれないか?」
店内にいる二人に声をかけると、すぐに来てくれた。
「いいわよ」
「ひーちゃんさんは、服は何が着たいですか?」
「がう……わかんない」
まあ、ドラゴン、普段服着ないしな。わからないのも当たり前か。
「じゃ、おれは鑑定書受け取りにいくから」
おじさんのいるカウンターに行こうとすると、ひーちゃんが手をきゅっと掴んだ。
「ご主人様に、えらんでほしいの……」
「おれに? いいけど、おれ、あんまわかんないぞ?」
「それでいい。がう」
じゃあ、それでいいなら選ぼうか。
既に売り場には、その気になっていた二人が服を手にとって見せ合っていた。
「私、ひーちゃんにはこういうのが似合うと思うの」
リーファが手にとったのは、ところどころにリボンをあしらった、ふわふわしたワンピースだった。
それを見てクイナが鼻で笑う。
「わかっていないですね、リーファさんは。なんです、その少女趣味丸出しの服は」
「しょ、少女趣味なんかじゃないわ! 女の子なんだから、そういう格好しないと」
「そういった考えがもう古いのです。あくまでもひーちゃんさんはドラゴンなのですから、スタイリッシュにしないといけません」
田舎育ちのお嬢様エルフが選んだのは、膝まであるロングコートとジーンズだった。
ひーちゃんは、二人の服を交互に見ておれを見て、服を交互に見て、おれを見て、を繰り返している。
どっちも、それなりに似合うと思う。
「ひーちゃんは、どっちがいい?」
「がう……ぅぅ……」
小難しい顔をして服を穴があきそうなほど見つめるひーちゃん。
「私のほうがいいわよね?」
「わたくしのほうがいいですよね、ひーちゃんさん」
「がう……わかんない。ご主人様、えらんで」
「結局こうなるのか。……ひーちゃんは、翼や尻尾があるからなあ……あまりピシッとしてないほうが、着心地がいいかもしれないから、リーファのほうで」
おれがリーファから服を受け取ると、うぐぐ、とクイナは悔しそうに唇を噛んで、リーファはどや顔を見せた。
「これはきっと、ジンタの私への信頼の表れだと思うの!」
「いや、そういうことじゃねえから」
「フン、今回はわたくしのほうは選ばれませんでしたけれど、ジンタ様のわたくしのおっぱいへの信頼は揺るぎませんので」
「いやそうだけど! ホントのことだけど言っちゃいけないことってあると思うんだ。これ、そういうヤツだから!」
リーファが半目でおれを見てくる。ひーちゃんもだ。やめろ!
「なによ、おっぱいおっぱいって……。ジンタなんか、おっぱいに包まれて窒息すればいいのよ」
「それはそれでなんか幸せそうだな!?」
「ではジンタ様、すぐに準備を」
「整えようとすんじゃねえよ。やったら絶対に苦しいだけだから」
「……ご主人様、ボクはまだおっぱい出ないの……がう……」
「ひーちゃん、そういうんじゃないから。いや、てか出るの、ドラゴンって??」
「おっぱいの話になると、リーファさんはすぐに食いつきますのね。劣等感ですか?」
「ち、違うよわ! ジンタが鼻の下伸ばすから!」
「小さいと隙間も引っかかりませんものね?」
「ぐう……ば、ばかにして! でも、需要はあるもん、需要は!」
「どこにあるのです? ツルペタ族ですか?」
「そんな一族いないわよ!」
そんな仲良さそうな(?)やりとりを聞きながら、ひーちゃんに服を渡して奥の試着室に促す。
「……どうやって着るの、ご主人様」
「え? どうやってって……」
そっか。服なんて着たことないから着方もわからないのか。
じゃあ、おれが着せて……。え、おれが着せるの――?
ひーちゃん、ローブを脱ぐと素っ裸なわけだから。
おまわりさん、おれです……。
――いや、そうじゃなくて。
「いいか、ひーちゃん。おれは都合上、一糸まとわぬひーちゃんを見ることは出来ない」
「できないの?」
「うん。だから、目をつむって服を着せる」
そのままかがんで、おれは目をつむった。
「がう。……おねがいします」
「はい。お願いします」
ワンピースだったから、頭からかぶせてしまえばそれでいいはずだ。
手さぐりでワンピースを掴み、前と後ろを確認する。
「ローブは脱いだ?」
「がう。ぬいだの」
ひーちゃんの頭を触って、場所を確認。
そのままワンピースをかぶせた。
「がうぅ」
目をあけると、ワンピースの中でひーちゃんがもぞもぞしているところだった。
頭を出しやすいようにボタンをひとつはずしてあげる。
赤い頭が出てきて、袖から腕が伸びる。
うん、きちんと着られたみたいだ。
最後に、外したボタンを止めてあげる。
「がう……」
ちょっと窮屈だったのか、背中から翼を出した。
竜の国の幼い姫様みたいな雰囲気が出ている。
「うん、似合っている。このまま買うことにしよう」
おれはひーちゃんをカウンターへ連れて行き、お会計を済ます。
靴も合わせて買って、全部で4800リン。
鑑定書と預けていたゴブリンの永晶石を受け取り、アイボへ収納する。
おじさんにお礼を言って店を後にすると、リーファとクイナも出てきた。
「あ、やっぱり似合ってる! 可愛い!」
「……これは……確かに、すごく良いです」
嬉しそうなリーファとゆっくりうなずくクイナ。
「だってさ?」
「がうう♪」
機嫌良さそうて鳴いたひーちゃんはぴょん、とおれの背に飛び乗る。
ぺろぺろ、とおれの頬を舐めた。
「わ、こら。やめろ、くすぐったいから」
こうして、おれの仲間は2人から3人になった。




