表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/114

98話


「ジンタ様、ジンタ様、起きてください」


 体を揺すられて、おれは目を覚ました。

 ベッドの脇にはクイナが立っていて、心配そうな表情をしている。

 何度か見たことのある寝間着に、上着を羽織っていた。


「……クイナ? おはよう……どうした?」

「おはようございます。……リーファさんが、どこかへ外出したのです。行き先は教えてくれなかったのですけれど、悲しそうな顔をしていたので……」


 昨日の話が脳裏をよぎった。

 おれはベッドから飛び降りて上着を羽織り、剣を佩いた。


「リーファどっちに行った?」

「何か、あったのですね?」

「うん。……ごめん、説明は後でちゃんとするから」


 夜明け前のこんな時間にわざわざ一人で外出するなんて、例のこと以外にないだろう。

 おれは急いで屋敷を出て、クイナが教えてくれた方角へ走った。

 さっきのことらしいから、そう遠くへは行ってないはずだ。

 城門の門兵にリーファを見なかったか訊くと、ちょうどさっき通したという。

 城門はまだ開けられないから、専用の小さな扉から外に出してもらいった。

 まだ薄闇の残る平原はどこか寂しい。

 その中で、ゆっくり動く背中を見つけた。


「リーファ――――!」


 立ち止まったリーファは、おれを見るとうつむいた。

 走って追いつくと、息を整えて訊いた。


「どこ行くつもりなんだ?」

「天界に戻らなきゃいけないから。わたし帰るって言ったのに、全然信用してくれなくて。……だからもうすぐ、少し先の丘に迎えの神様がやってくるの。天界でね、上司だった神様なの」


 明るい口調が痛々しくて、おれは聞いてられなかった。


「どうしてだよ。嫌だって言って泣いてただろ?」

「それは…………でもどの道、わたしが帰らなきゃ、この世界で捜索がはじまる。女神の力があるからすぐ見つかっちゃう。…………それに、みんなが大変な目に」


「――なんかあんだろッ! リーファが帰らなくてもいい方法!」


 リーファは苦しそうに首を振った。


「もう、女神の力が戻ったときから、これは決まっていたことなの」


 おれは両手を広げた。


「行かせられない」

「ダメよ、そんなの」


「ちょっとくらい話は聞いてくれるだろ? それがダメなら、まあ、やるしかないけど」


 覚悟を決めているのか、リーファはもう昨日みたいに泣かない。


「そもそも神様相手に人間は戦えない。ゲームで言えば建物やNPCに攻撃するようなものなの……。倒せもしないし傷つきもしない。神っていうのはそんな相手なのよ!?」


「相手が誰でも関係ねえ! 助けるに決まってんだろッッ!!」


 夜明け前の平原におれの声がやたらと響いた。


「……じゃあ何で――、何で昨日おれにあんなこと言ったんだよ!?」

「わたしの、最後の我がまま。……ジンタには、知っておいてもらいたかったの、わたしの気持ち。何がどうなろうとも、天界に行ってもそれだけは変わらないから。……わたしをこのままにしておけば、みんなが大変な目に遭う。それだけはどうしても避けたいの」


 だから、わかって。とリーファは訴える。


 大変な目に遭うっていうのが何なのかさっぱりわからないけど、リーファにとってもおれたちにとっても最悪の事態なんだろう。


「何かおかしいだろ。どうして? リーファはこの世界に来て神様に適用される法律でも犯したのか? そうじゃないだろ?」


「おかしいのは最初から。……女神はここにいるべき存在じゃない。間違っているのは、わたしたちなの……」


 正しい在り方に戻ろうとしている。

 それだけなんだ、とリーファは言う。


「どいて、ジンタ。わたしが帰らないと、みんなが、みんなが死んじゃう――――ッ」


 そういうことかよ。

 おれたちを人質にされたのか。

 戻らない、戻りたくないリーファを動かすために、そんなことを……。


「なんだよ、神様ってのは結局そんな程度なのかよ。ずいぶん傲慢なんだな」


 それで、ウチの女神様は私情を殺して天界に戻ろうと覚悟を決めた、ってところか。


「神の力を持っている存在が下界にいてはいけない、ってのはわかる。でも、いたとして、何か弊害があるのか?」


 リーファはおれから目を逸らして考える表情をする。

 訊けば何でも即答していたのに、こう答えに詰まるところをみると、たぶん、知らないんだ。

 もしくは弊害なんてものはなくて、ただルールとして決まっているとか、そんなところか。


「……どいて。じゃないと神光(ハロ)を撃つから。わたし、本気だから。今の力なら、当たれば一瞬で蒸発するわよ」

「やってみろよ。おれはどかない」


 何でそんなことをわざわざ宣言するんだろう。

 もうリーファはおれ以上の戦闘力を持っている。

 戦わなくても、おれを避けて目的地に行くなり何だって出来る。

 鋭い白光が視界を刺す。

 神光(ハロ)がすぐそばを通過する。

 耳の近くで炸裂音が連続で聞こえて、風圧でおれは簡単にぶっ倒された。


「次は当てる。本当なんだから! わたし、もうジンタ以上に強いのよ!? どうして止めようだなんて真似するのよ!」


「おまえが、昨日泣いてたから。だから止める」

「だったら何よ……! みんなが死んじゃうんだから。ジンタはそれで満足なの? でも、わたしが帰れば全部丸く収まる。もう、それでいいじゃない!」


 リーファが放った神光は、おれの反応速度を上回っている。

 一歩動く前に凄まじい音をあげて直撃した。


 面白いように吹き飛ばされ、宙を舞って、高い位置から地面に叩きつけられた。

 全身に痛みが走る。


 一瞬息が出来なくなり、おれは思わずせき込んだ。


「ジンタが止めるって言うんなら、わたしは、クイナやひーちゃん、シャハルを守るために、ジンタを倒さなくちゃいけなくなる――」


 何回同じことを言うつもりなんだよ、この女神様は。

 おれは歯を食いしばり立ちあがる。


「イヤならイヤって言えよ……! いつもはすぐ言うくせに。肝心なところでどうして隠そうとすんだよ」


「……何も言わないままいなくなれば、わたしは後悔すると思った。きちんとジンタに話して、それでようやく決心がついた。…………でも、昨日、あんなことを言うべきじゃなかった。こんなことになるんだったら、わたしは、嫌だなんて言ってあなたの前で泣くんじゃなかった!」


 涙が出ないだけで、リーファは今でも十分泣いている。

 見ているだけで胸が痛くなる。


 どうにか出来ないのかと自問したとき、ふっとおれとリーファの間に人間が現れた。


「遅いと思ったら……こんなところで何をしているんだい? リーファ」


 リーファの表情が硬くなる。


「ジルエル様――」


 ジルエルと呼ばれたそいつは、中性的な顔立ちで声も男とも女とも取れる不思議な声だった。

 長身ですらりとした体には、リーファが前に着ていたようなゆったりしたローブをまとっていた。

 迎えの神様がこいつか。

 クソ、ステータスが見えねえ。


「お別れはもう済ましただろう? さあ、天界に戻ろう」

「…………」


 ぽん、と肩に手を置かれたリーファは、唇を噛みしめてうつむいた。


「……さあ」


 促すようにジルエルが言うと、細い肩をギュッと力を入れて掴んだ。


「おい。リーファが嫌がってるだろ。それ、やめろよ」


 おれが顎をしゃくって言うと、冷たい眼差しがこちらにむいた。


「風見仁太………フン、貴様か。リーファを巻き込んで転生した男は」

「だったら何だ」


 高慢に顎をあげてジルエルは笑う。


「悪事には罰が必要だ。迷惑料として貴様の命をもらおう」

「は、話が違います、ジルエル様――ッ。わたしが帰るならそれでよかったはずです!」


 つまらなさそうな顔でジルエルはリーファを見おろす。


「話は、そうだな、確かに違う。だからどうした。致し方ないだろう。なぜなら私の気が変わってしまったのだから。それとも何か、かばうつもりか?」


 神様からすれば、おれたち人間の命ってのはそんなレベルなんだろう。

 気が変わった程度で消されるものらしい。

 でも、リーファは違ったぞ。

 いつだって対等だったし、人間だからっておれを見下すことはなかった。


「約束を反故にするのであれば、わたしも態度を変えざるをえません。神の力を持つ者同士が争えば」

「よほど大切な男と見える。よいよい、リーファと戦えばこの世界が滅んでしまう。……クククク」


 何かを思いついたように、ジルエルは嫌みな笑い方をする。


「しかしここで見かけてしまった以上、何もせず見逃すということは出来ない。……罰として、風見仁太の中にあるリーファの記憶を消すこととしよう。それでよいだろう」


「え――? それはどういうこと、ですか……? わたしのことを、ジンタが忘れる……?」

「ああ、言葉通りの意味だが」


 おれの記憶、しかもリーファに関するものをピンポイントで狙ってくる。

 陰険なやつだ。


「なぜ顔色を変える。よいではないか。どうせもう二度と会うことがないのなら、この風見仁太が覚えていようがいまいが、お前に関係ないだろう」


「それは、でも……」


 リーファの明るい笑顔。いつも作ってくれた料理。一緒に魔物と戦ったこと。みんなと楽しく過ごした今までの日々。


 全部全部、ジルエルの気分が変わったからって、それだけで消されるってのか……?

 何だよそれ、何の冗談だよ。


「リーファ。おれは正義の味方でも悪の化身でも何でもないフツーの人だけど……少なくとも、おれはおまえの味方だ」


 少し嬉しそうな顔をしたリーファは、すぐ複雑そうな表情をして首を振る。

 そのまま両手で顔を覆ってしまった。

 小さく肩を震わせて、泣いている。

 そんな様子を愉しんでいるのか、ジルエルが小さく笑うのをおれは見た。


「風見仁太。神の事情に無関係な上、こうして私に罰を下されようとしている。解せない。打算でもあるのか? 不思議なこともあるものだ。どうしてそこまでして我らと関わろうとする」


 何言ってんだ、とおれは怒りを抑えながらまっすぐ睨んだ。



「リーファが泣いている――それ以外に何か理由要んのかよッッ!!」



 傑作だ、と言いたげにジルエルは哄笑している。


「……リーファ、ちょっと待ってろ。このクソ傲慢なエゴい神様、ぶっ飛ばすから」

「アハハハハ! だったらどうする。人間風情が私をどうこう出来るとでも? ハハハハ――!」


 おれは瞬時に魔焔剣を抜いた。


「人間の斬撃が私に届くとでも――? ハハハハハ」

「【灰燼】」


 可能な限りのMPを剣に喰わせてやる。

 今まで見たことがないほど剣は黒く黒く燃えあがった。

 手加減も容赦もしない。

 ジルエルは笑いをひきつらせると、眉をひそめた。


「……な――何だ、それは、何が入っている――!?」


 神同士が争えば世界が滅ぶ――。


 要するに、神クラスの力があれば渡り合えるってことだ。


 リーファは、天界に魔焔剣の詳しい情報はないと以前言っていた。ステータスに書いてある情報が全部なんだ、と。


 それなら、こいつも詳しく魔焔剣のことは知らないんだろう。



「魔神だって、神様みたいなもんだろ?」



「――何だそれは貴様ぁあああああああああ!」


 空間を喰らったような真っ黒な炎に、ジルエルの表情に怯えが走る。

 高をくくっていたジルエルは、おれの攻撃から逃れられなかった。

 油断大敵とはよく言ったもので、おれが放った渾身の一撃は、夜明け前の景色を両断する。

 轟々と燃え盛る黒い炎でジルエルを叩き斬った。


 届く。


 この剣なら。


 神にも届く――――ッ!



「……おい神様。あんま一般人、舐めんなよ――?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ