All You Need Is Dungeon (没ネタ)
サブタイに括弧でついているように没ネタです。
時系列は気にしないでください。
見上げれば、どんよりとした曇り空。
振り返れば、ダンジョンの入り口が私たちを迎える。
現在、初級ダンジョン――メガロマに来ている。
私は知らなかったが、そこそこ有名なダンジョンのようだ。
内部構造の複雑さ。
トラップの配置と危険度。
敵の種類・強さ・再出現の早さ。
これらが絶妙に整い、中級クラスへの登竜門らしい。
それでいて、死亡率が恐ろしく低い。
初心者クラス並の死亡率と受付嬢は話していた。
難易度から考えるとあり得ないくらい低く、研究者までいるようだ。
この付近の冒険者は、まずこのメガロマを第一目標とすると聞く。
メガロマをクリアする前後で顔つきが変わってしまうという話まである。
クリア前とクリア後で、恐ろしいほどの変化を遂げたという噂まで聞くほどだ。
私もすでに極限級と冒険者の最上位になってしまったが、これはシュウあってのことだ。
今の私の力を試すため、今回はなるべくシュウの助けなしで挑むことにしてみた。
『じゃあ、今回は雑談以外で口出ししないからね』
おう、私の力を見せてやろう。
雑談もなくていいぞ。
剣もシュウではなく、近くの町でそこそこの剣を買ってきた。
『別に剣なくても蹴りだけで倒せるでしょ……』
やかましい。
私が、私の力だけで切り抜けようと思うところが重要なんだ。
『その台詞、自分で言っちゃ駄目なんじゃ……。第一、能力プラスがあるんだから、メル姐さんの力だけどころか、ほぼチートだよ』
シュウの助けなし、とは言っても能力プラスは外せないため、これ以外を外している。
『それにボスだって初心者クラスなら、三人以上のパーティー組まないとめっちゃ厳しいじゃん。ソロで挑むの?』
それは不可抗力だから仕方ない。
能力プラスのアップ分はそこの不利で相殺ということで……。
『人間、得手不得手があるんだから、今さらなんちゃってソロで力試しやらなくてもいいじゃん』
うるせぇな。
いいから行くぞ。
『おー……』
こうして私はダンジョンに足を踏み入れた。
・Start
よし! 攻略開始だ!
まずは地図を確認する。
ダンジョンの全体図と進むルートを決める。
攻略にあたり、これが一番重要だと言っても過言ではない。
……薄暗くて地図が見えねぇ。
普段はよくわからんチートで暗くても見える。
そもそもシュウが地図を覚えてるから、私が見ることなどほぼない。
初っぱなで躓いてしまった。
あれだけ言っておいてシュウに聞くのも抵抗がある。
灯りも持ってきてないし、もちろん魔法で照らすこともできない。
……まあ、地図を見なくてもなんとかなるだろ。
『「これが一番重要だと言っても過言ではない」とは何だったのか』
なんかぶつぶつ言っているが、無視して先に進む。
分かれ道に辿りついた。
右も左も奥は暗く先は見通せない。
地図を覚えていない私にはどちらが正解かわからない。
わからないから迷う必要もない。
なんとなく左に決め、先へと進んでいく。
シュウが何も言わないところをみるにこれは正解のようだ。
数多くのダンジョンを攻略した私の無意識が道は左だと決めたのだ。
これは成長と言って――うおっ!
突如、足場が消え前のめりに倒れる。
地面に手を突こうにも、その地面がなくなっていた。
しばらく浮遊感を覚え、すぐに全身に衝撃がきた。
起き上がってみると、一段低い位置にいた。
どうやら落とし穴に嵌まったらしい。
浅くて助かった。
『成長とは、いったい何なのか?』
……ちょっと油断しただけだ。
すぐに穴から出て、道なりに進んでいく。
モンスターもいるが、こちらはさすがに問題ない。
シュウほどではないが、普通の剣でも楽々斬り伏せられる。
『斬る? 叩くの間違いじゃない?』
……うむ。
最初は斬っていたのだが、徐々に切れ味が落ちてしまった。
今は、どちらかといえば剣で叩いていると言うのが正確だろう。
よく考えたら、剣じゃなくてメイスのほうが良かった気がしないでもない。
何度かトラップに嵌まり、分かれ道も通って奥へ進んだ。
その結果――、
『行き止まりですなぁ』
道は先すぼみとなり、これ以上は進めなくなっている。
おとなしく引き返し、別のルートを進む。
『まぁたまた行き止まりですなぁ』
シュウが必死に笑いを噛み殺しながら告げてくる。
『もう諦めたらぁ?』
ここでやめれば、それこそ笑いものだ。
私は何も言わずに、来た道を引き返して別のルートを試す。
そして、またしても行き止まりに辿り着いた。
またまたまたまた、引き返して岐路に立つ。
…………はて?
私はどちらから来ただろうか?
左の道から来たから、次は右だろうか?
うむ。
たぶん右だろう。
『左。左の道に進む』
シュウが口を出した。
あのさぁ、今回は――、
『「私だけの力で攻略する」とでも言いたいんだろうけど、メル姐さんじゃ無理』
いや、でも、準備が――、
『準備に、注意力に、技術、それと記憶力――ありとあらゆる何もかもが足りてない。本気で攻略する意志が感じられない』
言い返したいが、あまりにもそのとおりなので何も言えない。
『しまいには剣も折れたでしょ』
癖でついつい蹴ってしまったら、刃毀れした剣は根元から折れた。
『左の道ね』
何も言えない私に、シュウは道順だけ言ってくる。
為す術もなく、シュウの案内に従い、先へと進んでいく。
その後、ボスも倒し出口に来た。
通ったルートも、ボスの形も思い出せない。
ただただ情けなさが私の中に残る。
ダンジョンが好きで仕方ない私が、一番ダンジョンを馬鹿にしていた。
もしチャンスがあるのなら、もう一度やり直したい。
『そんなことはできないよ。わかってるでしょ?』
ああ、わかってる。
初攻略は一度きり、だからこそおもしろい。
私は失敗してしまった。せめて次に失敗をしないよう気をつけるしかない。
そう心に決め、私はダンジョンの出口をくぐった。
・2
よし! 攻略開始だ!
『……ん?』
まずは地図を確認する。
ダンジョンの全体図と進むルートを決める。
攻略にあたり、これが一番重要だと言っても過言ではない。
『え……、あれ?』
……薄暗くて地図が見えねぇ。
普段はよくわからんチートで暗くても見える。
そもそもシュウが地図を覚えてるから、私が見ることなどほぼない。
『ウェイウェイウェイ、ウェーイ!』
なんだよ。「うえーいうえーい」うるせぇな。
『うえーいじゃなくてWait――待って、どういうこと……?』
……?
なにが?
意味がわからず聞き返すが、シュウは答えない。
自分で聞いといて、私の質問には答えないってどうなの。
まあいい。私も攻略を開始しよう。
――とは言っても、初っぱなで躓いてしまった。
あれだけ自信満々に言っといてシュウに聞くのも抵抗がある。
灯りも持ってきてないし、もちろん魔法で照らすこともできない。
……まあ、地図を見なくてもなんとかなるだろ。
『これはまさか、やり直せちゃった……のか?』
シュウはさっきからぶつぶつ言っているが、無視して先に進む。
分かれ道に辿りついた。
右も左も奥は暗く先は見えない。
地図を覚えていない私にはどちらが正解かわからない。
わからないから迷う必要もない。
なんとなく左に決め、先へと進んでいく。
シュウが何も言わないところをみるにこれは正解のようだ。
数多くのダンジョンを攻略した私の無意識が道は左だと決めたのだ。
これは成長と言って――うおっ!
突如、足場が消え前のめりに倒れる。
地面に手を突こうにも、その地面がなくなっていた。
しばらく浮遊感を覚え、すぐに全身に衝撃がきた。
起き上がってみると、一段低い位置にいた。
どうやら落とし穴に嵌まったらしい。
浅くて助かった。
『そうすると、ループ条件は……』
なにか言われると思ったが、まだなにか思案中のようだ。
さっさと穴から出て、道なりに進んでいく。
モンスターもいるが、こちらはさすがに問題ない。
シュウほどではないが、普通の剣でも楽々斬り伏せられる。
『「斬る? 殴るの間違いじゃない?」……だったかな?』
……だったかな?
『気にしないで』
気にしないで、と言われたから気にしないことにする。
何度かトラップに嵌まり、分かれ道も通って奥へ進んだ。
その結果――、
『行き止まり』
道は先すぼみとなり、これ以上は進めなくなっている。
おとなしく引き返し、別のルートを進む。
『またまた行き止まり』
シュウが静かに告げる。
笑われるならまだしも、落ち着いて言われると心に刺さる。
『もう諦めたら?』
あまりにも冷静な物言いに一瞬とまどった。
しかし、ここでやめれば私は立ち直れなくなる気がして、何も言わず先に進んだ。
そして、またしても行き止まりに辿り着いた。
またまた、引き返して岐路に立つ。
はて?
私はどちらから来ただろうか?
左の道から来たから、次は右だろうか?
自信がないが、たぶん右だろう。
『左。左の道に進む』
シュウが口を出した。
いや、あの――、
『「今回は私だけの力で攻略する」と言いたいんだろうけど無理』
いや、でも――、
『準備に、注意力に、技術、それと記憶力――ありとあらゆる何もかもが足りてない。本気で攻略する意志が感じられない』
言い返したいが、あまりにもそのとおりなので何も言えない。
それどころか、私の言おうとしていることを先読みして発言を潰された。
『左の道ね』
何も言えない私に、シュウは道順だけ言ってくる。
為す術もなく、シュウの案内に従い、先へと進んでいく。
その後、ボスも倒し出口に来た。
通ったルートも、ボスの形も思い出せない。
ただただ情けなさが私の中に残る。
ダンジョンが好きで仕方ない私が、一番ダンジョンを馬鹿にしていた。
もしチャンスがあるのなら――、
『もう一度やり直したい。でも、そんなことはできない可能性のほうが高い。わかってるよね?』
ああ、わかってる。
初攻略は一度きり、だからこそおもしろい。
私は失敗してしまった。せめて次のダンジョンで失敗しないよう気をつけるしかない。
『さて、どうなる?』
「どうなる?」とは、と聞き返しながら私はダンジョンの出口をくぐった。
・(3)
よし! 攻略開始だ!
『イザ○ミだ』
まずは地図を確認する。
ダンジョンの全体図と進むルートを決める。
攻略にあたり、これが一番重要だと言っても過言ではない。
『出られるのかなぁ』
……薄暗くて地図が見えねぇ。
普段はよくわからんチートで暗くても見える。
そもそもシュウが地図を覚えてるから、私が見ることなどほぼない。
あと、さっきからぶつぶつうるさいぞ。
『メル姐さん、いったん町に帰ろう』
いやいやいや、今入ったばっかなんだけど。
『入ったばっかで、いきなり躓いてるでしょ』
まあ、そのとおりなんだが……。
『地図を読むための灯りもない。このまま進んで後悔するのはメル姐さんだよ』
確かに灯りもない。
しかし、まだ後悔するかどうかなんて、『ダンジョンを馬鹿にしてるの?』
――息が止まった。
心臓をわしづかみされた感覚。
私の存在そのものに直結する質問だった。
『いや、そこまでじゃないないと思うけど……。とにかくね。今回はメル姐さんの力だけで攻略する。そうでしょ? それなのに今の準備不足のまま、ダンジョンに挑むってことは――』
違いない。
今のままではいけない。
それはダンジョン攻略に対する冒涜だ。
許されざる行為だ。そんなことは、私が私で在る限るあってはならない!
『一周目と二周目の本人に聞かせてやりたいよ』
ん?
『いや、気にしないで』
うむ。
いったん町に戻るぞ。
『帰ろう、帰ればまた来られるから』
お、おぉ……、良いこと言うじゃないか。
『まあ、俺の言葉じゃないからね』
だろうな。
おっ、と思う台詞を言うときは元の世界からの引用が多い。
『ふっふーん』
なんだか誇らしげだ。
別に褒めてないんだけど。
そんなこんなでいったん町に戻ることと相成った。
・4
よし! 今度こそ攻略開始だ!
『町に戻れてよかった……』
うむ。
準備もきっちりすることができた。
灯りに加え、進行予定ルートも地図に朱入れし万端。
武器も刃毀れする剣ではなく、シンプルに叩けるメイスに変えた。
足を進めるとさっそく分かれ道に到着。
右と左に分かれているが、どちらからでもボスに辿り着くことができる。
左は敵の数が少ないが、罠が多い。
一方、右は罠が少ないが、敵の数が多い。
罠を見抜く力が私にはないため、敵の数が多い右に進む。
右へと進む直前、遠くから音が響いてきた。
経験から察するに魔法の炸裂音だろう。
『他の冒険者も来てるみたいだね』
そうだな。
ギルドにも明らかに初心者のパーティがそこそこいた。
『メル姐さんも自然に混ざってたね』
はははっ、こやつめぇ。
『地面に突き刺すのはやめてもらえませんかねぇ。前が見えねぇ』
地図を確認しつつ道を進んでいく。
敵もメイスで叩けば、あっさり倒せる。
『順調だね』
シュウのいうように順調だ。
罠も少ないと言えど、そこそこある。
地図でだいたいの場所がわかるので、注意深く進める。
『注意深く進んでも罠にかかるってどうなのよ』
いやぁー、どうにも罠を見抜くのは苦手だ。
シュウは、ここの罠はかなり見分けやすいというが私には難しい。
能力プラスがあるから罠にかかってもさほど問題はない。
『そこ』
どこ?
罠があるの?
思わず足を止めて聞き返す。
『違う。能力プラスがあるから罠にかかっても大丈夫ってとこ』
ああ、そっち。
それがなに?
『このダンジョンは死亡率が低いって話だけど、それはどう考えてもおかしい。能力プラスがなかったら死んでてもおかしくないのがいくつかあった』
言われてみればそうかもしれない。
落とし穴でも打ち所が悪かったら死ぬだろう。
毒や麻痺を持っているやっかいなモンスターもいた。
『うん。それにボスも倒すのに工夫がいるし、初見殺しもある』
聞いたところボスは確かに面倒そうだった。
……初見殺し? そんな話あったか?
『おっと、これは失言。今のは忘れて。忘れるの得意でしょ』
確かによく忘れるけど、そう言われるとむかつく。
死亡率の低さについては、研究してる人もいると聞いてる。
まだ原因はわかってないらしいが、やっぱり秘密でもあるんじゃないか?
『うん……まあ、あるんだろうけど、気づくのは難しいかもね』
そうだな。
気にはなるが、一日二日で見つかるもんじゃないだろうな。
『どうだろうね』
なんだか意味深な回答だ。
おいおい。まさか秘密に気づいたのか?
『……どうだろうね』
回答はやはりぱっとしない。
自信があるようには聞こえないが、ないとも言い切れない声色だった。
『俺もまだよくわかってない』
シュウにわからないことを私がとやかく考えても無駄だろう。
そう結論づけ、止めていた足を動かし、先へと進むこととした。
何度か罠に嵌まりつつも、ついにボス部屋の前にやってきた。
到着したときに、ちょうどボス部屋が閉まるところだった。
先に潜っていたパーティーがボスに挑んでいるのだろう。
仕方ないので、前の組が終わるのを扉の前で待っている。
『二人組だったね』
そうみたいだな。
二人組が扉に消えるところを見た。
片方は杖を持っていたからきっと魔法使いだろう。
もう片方は魔法使いに隠れてよく見えなかったが確かにいた。
『魔法使いの前にいるんだから、近接系だろうね』
そうだろうな。
二人とも魔法使いというのはおかしい。
そうすると片方は魔法使いを守る役目になるのが一般的だ。
『他の冒険者の音が聞こえないところを考えると、最初の分岐で聞いた魔法の音はおそらく今ボス部屋に入ってる魔法使いの発した音だろうね』
……うん?
そういえば、そんな音も聞いたな。
攻略中も何度か魔法の炸裂音が聞こえた。
姿も魔法の痕跡もなかったから、私たちとは別のルートを通って来たのだろう。
『最初の分岐で聞いた魔法の音はかなり奥のほうから聞こえてきた。でも、ボスの到着はほぼ同時だったね』
慎重に進んでたんだろう。
私はかなり速く進めていたし、初心者クラスならこんなものじゃないか。
で、それがなんなのよ?
『ここのボスは何?』
出たよ。
お得意の質問に対する質問返し。
普段ならさっさと答えさせるが、今回は事前準備が万端なので私が答える。
ここのボスは……あっ。
『初心者クラスが二人、しかも片方は魔法使いじゃ厳しいね』
ああ……、そうだな。
一気に気分が重くなった。
ボス部屋では退くことができない。
ボスに勝てないというのは死ぬと言うこと。
死体は消えてなくなるが、装備品だけはしっかり残る。
遺留品はもらってしまってもいいが、ギルドに提出することが暗黙の了解となっている。
なによりも、私は――残った装備品を見るのが好きじゃない。
しばらくして――扉からロックの外れる音が聞こえた。
・5
よし! 今度こそ攻略開始だ!
『……うそだろ』
ほんとだ!
今度こそ攻略を進めるぞ!
『死亡率の低さってそういうことか……』
なに馬鹿言ってんだ。
いくらお前が賢いって言ってもまだ入ったばっかだぞ。
そんなことわかるわけないだろうが。
ほら、冗談言ってないでさっさといくぞ!
足を進めるとさっそく分かれ道に到着。
右と左に分かれているが、どちらからでもボスに辿り着くことができる。
左は敵の数が少ないが、罠が多い。
一方、右は罠が少ないが、敵の数が多い。
罠を見抜く力が私にはないため、敵の数が多い右に進む。
右へと進む直前、遠くから音が響いてきた。
経験から察するに魔法の炸裂音だろう。
『誰かが死んだ時点で巻き戻るなら、一・二周目はなんだったんだ……』
なんだか思い悩んでいる。
年頃なんだろう。
地図を確認しつつ道を進んでいく。
敵もメイスで叩けば、あっさり倒せる。
『順調だね』
シュウのいうように順調だ。
罠も少ないと言えど、そこそこある。
地図でだいたいの場所がわかるので、注意深く進める。
『次は壁の模様の違いに注意するといいと思う』
注意深く進んでも罠にかかる私への助言らしい。
助言であれば、私も謙虚に聞き入れるしかないだろう。
『さっさと進もう。足を止めないでね』
了解だ。
何度か罠に嵌まりつつも、ついにボス部屋の前にやってきた。
『そろそろかな』
なにが? と聞き返す前に後ろから音が聞こえた。
振り返れば二人組がこっちにやってくる。
女の二人組だった。
片方は細身で杖を持っている。魔法使いで違いない。
もう一人はと見れば、片手剣にやや大きめの盾を身につけた戦士と前衛仕様だ。
前衛が敵を留めて魔法使いが敵を仕留めるという形だろう。
うーむ。
前衛がもう一人いてもいいんじゃないか。
モンスターに挟まれたらどうするつもりなんだろう。
あるいはどちらでも戦える弓使い兼剣士を持ってくるとか。
他にも、盾の傷の少なさや鎧の安っぽさを感じる。
「やあ」
ガタイのいい女戦士が挨拶をしてくる。
魔法使いも軽く頭を下げる。
ああ、どうも、と私も返しておいた。
どうにも初対面での挨拶は苦手だ。
「挑まないのかい?」
キリッとした顔つきで戦士が問いかける。
あ、ああ。お先に失礼。
そう言って扉を開けて入る。
『さーて、どうなるかな』
そう言えば、こいつはえらく静かだった。
普段だったら女を見れば馬鹿みたいに騒ぐのに。
……。
…………。
………………ボスは倒せた。
三人以上での撃破が推奨されるだけある。
ソロでは厳しい、というよりも滅茶苦茶めんどうだった。
能力プラスでごり押しをしてしまった。
『そうだねぇ。……これもループ条件なのかなぁ』
撃破は撃破だ。
あとループ条件ってなによ。
まあ、いいや。ダンジョンは攻略した。
目前に迫った出口から日の光が差し込んでいる。
そう言えば……さっきの二人組はボスを倒せるのだろうか。
そんなことを思いつつ出口をくぐった。
・6
よし! 今度こそ攻略開始だ!
『……まあ、そうなるな』
なんだよ、その「知ってた」みたいな口ぶりは。
確かにさっきは準備不足だった。
だが、今回は万全だ。
なにしろ灯りに加え『それはもういいから。さっさと進もう』
せっかくの準備解説は打ち切られた。
『やれやれ、これは難題だ』
何が難題なのかはわからないが、私はただ攻略するのみ。
いろいろあって、ついにボス部屋の前にやってきた。
『後ろ』
後ろ? と振り返れば二人組がこっちにやってくる。
女の二人組だった。
片方は細身で杖を持っている。魔法使いで違いない。
もう一人はと見れば、片手剣にやや大きめの盾を身につけた戦士と前衛仕様だ。
前衛が敵を留めて魔法使いが敵を仕留めるという形だろう。
途中で魔法の音が聞こえたのは、この二人によるものだろう。
しかし、うーむ。
前衛がもう一人いてもいいんじゃないだろうか。
『はい、メル姐さん良いところに気づきましたね』
やっぱりそうだよな。
モンスターに挟まれたら困るし。
「やあ」
ガタイのいい女戦士が挨拶をしてくる。
魔法使いも軽く頭を下げる。
ああ、どうも、と私も返しておいた。
どうにも初対面での挨拶は苦手だ。
「挑まないのかい?」
キリッとした顔つきで戦士が問いかける。
あ、ああ。お先に失礼。
『そもそもボスは何だったでしょう? メル姐さん思い出してみてください』
扉を開けようとした私の手は突然の質問で止まった。
ボスの名前はペンデスート。
剣、杖、護符、杯をそれぞれ持った四体の人形。
剣は接近して攻撃。
杖は遠距離から魔法を唱える。
護符は中距離から他三体にサポート魔法をかける。
最後の杯は他三体を回復及び復活させる。
この四体で構成される。
初級ということもあり、一体一体はさほど強くない。
問題は倒し方だ。
四体をほぼ同時に倒さなくてはいけないらしい。
同時に倒さなかった場合は全てが復活する。
ただし復活するときに少しサイズが縮み、弱くなる。
何度も倒して弱体化させ、そのあとでまとめて倒すというのも一つの手段である。
三人以上での攻略が推奨されるのは、単純に数の不利とボスの連携プレイによる。
初心者クラスでは囲まれると何もできないうちに殺される。
『よくご存じですねぇ』
ふふん、ちゃんと準備したからな。
『――では、その点を踏まえて後ろのパーティーを見てください』
今一度、振り返る。
そこには変わらず二人組のパーティーがいた。
魔法使いは顔を青くし私を見つめ、戦士の凛々しかった顔には暗雲が立ちこめている。
「二人で、大丈夫なのか?」
思わず口から出てしまった。
『鋭い指摘ですよ!』
うるさく感じてきた。
『ソロでは厳しい、二人でも厳しい。そこへ、二人の片方がこう呟いた』
「ここで会ったのも何かの縁だと思う。どうだろう? パーティーを組まないか?」
『メルの心の暗闇に、光が射した気がした。
――女戦士は手を差し出してきた。
――続いて、魔法使いも自身の手をおずおずと差し出した。
――彼女たちの手には怪しい紋様が踊る指輪が嵌まっていた。
――メルも流れに身を任せパーティーリングを差し出した。
――三人の顔に知らずのうち笑みが浮かんでいた。
「これだ――これこそ私の求めていたダンジョン攻略だ!」
寄せ集め三人パーティーの――誕生だった』
そろそろ、その解説やめろ。
そんなこんなで私たちはボス部屋の扉をくぐった。
四角形の部屋の各頂点に一体ずつ人形が立っている。
私たちが部屋の中心まで来ると、人形の目がぺかーと光り動き始めた。
残りの二人はこの演出に目を惹かれている。
私はいろいろと見てきたので、ここの演出は地味だなぁと思う程度だ。
四体のボスがそれぞれ行動を始め、いよいよ戦闘開始だ。
それぞれの役割は決めてある。
さっき会ったばかりで連携は期待できない。
とりあえず戦士と魔法使いが剣人形を相手にする。
残りの三体中、攻撃をしてくるのは杖人形なので機動力を活かして私がこいつを抹殺。
次に復活をしてくる杯人形を即破壊、続いて護符人形、最後に剣人形だ。
戦士と魔法使いが先に剣を倒してくれれば、彼女たちも援護に入る。
……最悪、私だけでごり押しできるはず。
ボスの攻略条件は四体ほぼ同時撃破なので、最初は倒せない。
ただし、倒すごとに弱体化するので時間をかけてでも安全策でいこうということになった。
持久戦はあまり好みじゃないが、他二人を考慮すると仕方ないだろう。
――作戦はうまくいった。
杖人形は耐久力が低いようでメイスで簡単に撃破できた。
次の杯人形を破壊するまでに杖人形が復活してしまった、が、魔法使いが杖人形に火魔法を当て、ひるんだところに私も攻撃を加え撃破。
残りの二体は予定どおりだ。
護符人形をサクサクと撃破し、剣人形も剣士と挟み撃ちで簡単に倒せた。
剣人形が倒れると、部屋の四隅に人形が沸いて出てきた。
先ほどよりもサイズがはっきりと小さくなっているとわかる。
私よりもだいぶ高かった背が、今では私とほぼ同じになっていた。
今回も同じ様に倒していく。
ただ、先ほどよりもだいぶ楽になった。
杯人形が杖人形を復活する前に倒せたし、護符人形も魔法使いが倒してくれた。
剣人形も、剣士があと一撃というところまで追い詰めていた。
またしても部屋の四隅で人形が復活。
四体の人形は私の身長の半分まで縮小してしまっている。
そろそろ大丈夫だろう。
さっそく杖人形に向かい、腕を掴んで中央に投げる。
かなり軽くなっており、簡単に転がってくれた。
次に、杯人形を掴んで中央に投げつける。
こうして人形を一箇所にまとめる。
そして一網打尽にする。
……予定だった。
飛んでいった杯人形が杖人形にジャストミートして両方とも消滅した。
どうやら、弱体化した人形はものすごく弱くなっているらしい。
もう一周する必要が生じたが、次は余裕だという安堵が生まれた。
こうして全滅させて、部屋の四隅に人形が再出現。……飽きてきた。
サイズはさらに小さくなり、膝下サイズになっている。
きっと子供でも倒せるだろう。
私は杖人形に向かい、その腕を掴んで持ち上げ杯人形に向かう。
剣士が剣人形を壁隅に追い詰め、魔法使いも護符人形を杖で壁際に追いやる。
私も両手に持っていた二体を壁際に置いて、他の二体と合流させる。
小さい四体の人形がようやく集まった。
私と剣士が逃げないように四体を囲み、魔法使いがそこへ魔法を一発。
人形は全て消滅した。
少し待ってみたが、人形は復活する様子はない。
「やった?」
魔法使いが誰ともなく尋ねる。
「やったよな?」
剣士も尋ねる。
少し違和感があるが、クリアで違いないだろう。
出口の扉からガチャリとロックの外れる音が聞こえた。
二人の顔は充実感で満たされていた。
きっと私もそうだろう。
私たちは誰に言われずとも出口へと向かった。
「そう言えば、アイテムは?」
私が扉を開けようとしたとき、剣士がそう口にした。
あれ……?
そう言えば、そうだ。
倒した喜びで忘れていた。
『今回も……、駄目そうだな』
沈黙を貫いていたシュウがぽつりと漏らす。
「っぁ!」
振り返って見えたのは、一番後ろに立っていた魔法使いが声にならない悲鳴とともに倒れる瞬間だった。
彼女の後ろには一体の人形。
人形の手には血に染まった大鎌が握られている。
その大鎌は振りかぶられ、いまだあっけにとられている剣士の首を刈った。
剣士の首はくるりくるくると宙を舞う。
落ちた後、私と目があった。
首は、何も言わなかった。
・Last
よし! 今度こそ攻略開始だ!
『……もう飽きた。ブラバ』
飽きたって、今から挑むんだけど。
だいたいブラバってなによ。
……返答なし。
地図によると、どうやらここが最後の分岐ルートの合流地点のようだ。
あとはボス部屋まで一直線ということになる。
お?
横道から物音がしたので見てみると、二人組のパーティーがいた。
「やあ」
ガタイの良いほうが挨拶をしてくる。
隣にいた杖をもった女も軽く頭を下げる。魔法使いだろう。
ああ、どうも、と私も返しておいた。
どうにも初対面での挨拶は苦手だ。
そして、目の前にはボス部屋の扉。
どちらから先に挑むかという話になり、
「同時に挑むのはどうだろう?」
という剣士の提案により、なんと――なんと!
この! 私が! パーティーを組むことに!
やばい、ただの力試しダンジョン攻略が私の求めていた理想のダンジョン攻略になった!
『ふーん』
シュウのリアクションは薄い。
なんだよ、お前。
もっと喜ぶか驚くところだろ!
こんなこと滅多にすらないぞ!
『あ、そう。浮かれてるようだから一つ、いや二つだけ言っとこうかな』
申せ、聞いてやろう。
『ボスのペンデスート。ペンデってのは数字の「5」。スートってのはマーク……役割とでも思っといて。つまり「五つの役」ね』
はぁ、そうなんですか。
……はて、でもボスは剣と杖、杯に護符の四つじゃ。
『それと、ギルドに戻るまでがダンジョン攻略だからね』
はい?
どういうこと?
返事はない。
寄り道するなってことだろうか。
よくわからないまま三人パーティーでボス戦となった。
素晴らしい戦闘と言わざるをえない。
それぞれが役割を持ち、ボスを追い詰めている。
すでに四回ほど倒されたボスは、足首サイズにまで縮んでいる。
小さくなりすぎて、かえってまとめて倒しづらい。
それでも四匹揃え、魔法で一網打尽にした。
様子をみるが、復活の兆しはない。
「やった?」
魔法使いが誰ともなく尋ねる。
「やったよな?」
剣士も尋ねる。
復活もしてこないなら倒したはずだ。
正解だと言わんばかりに出口の扉のロックが外れる音が響く。
よし、これでギルドに帰れる。
シュウの言うようにまっすぐギルドに行こう。
そこで手に入れたアイテムを……あれ?
アイテム拾ったっけ、と振り返る。
映る影は三つ。
晴れ晴れとした顔の剣士。
抑えきれない笑みを浮かべた魔法使い。
手に大きな鎌を携え、不気味に嗤う大きな人形。
……五体目。
ペンデスート、五つの役割。
五体目は大鎌をすっと上段に構えた。
それを見て、同時に私は全力で足を踏み出した。
何も言わずいきなり走り寄ってきた私に腰を抜かす魔法使い。
魔法使いの頭まで迫っていた鎌の刃を、メイスでたたき落とす。
そこからはあっさりだった。
鎌を外したボスに殴りかかり、二発、三発だったかもしれないが、殴れば消滅した。
消滅したボスの場所には三つのアイテムが残っていた。
茫然としていた二人もゆっくりとアイテムを手に取る。
アイテムを手に取ったからと油断をせず、出口の扉をくぐった。
道の先には外の光。
油断はしていないが、光を見るとほっとする。
どうやら雲はもう消え去り、青空が広がっていそうな気配だ。
私たち三人は頷きあってその出口へ向かう。
本当に良いダンジョン攻略だった。
攻略完了の充足感で目から熱いモノが零れてきそうだ。
シュウの助けなしの私一人ではクリアできなかったかもしれない。
だが、いつもどおりに攻略していたら、きっとあっという間だっただろう。
驚きも、喜びも、苦労もなく、ただ淡々と攻略していた。
それはそれでおもしろいに違いない。
それでも今は――、
わき上がる思いを胸に、微笑みを浮かべダンジョンを出た。
・Final
よし! 今度こそ攻略開始だ!
『……ラストって――Lastって言ったじゃないですかぁ!』
うおっ!
いきなり叫ぶなよ。びっくりするだろ。
『何がFinalだ! いい加減にしろよテメェ! 馬鹿にしてんのかっ!』
ど、どうしたの?
『めっちゃ良い終わりだっただろ! これ以上どうしろってんだ! ダンジョンの果てで恋でも唄えってのか!』
お、落ち着いてシュウ。
見たこともないような剣幕に思わず宥める。
『あぁぁぁぁ! なにぬぼーとしてんのメル姐さん、早く俺を構えて!』
はぁ、いや今回は私だけ『そんなこと知るか!』
なんだかぶちぎれてる。意味がわからない。
さっきまで私にアドバイスをくれていた優しいシュウはどこへいった。
『ほらさっさとする! メイスぅ? そんなもん捨てちまえ!』
お、おう。
勢いに押されメイスを地面に置く。
せめてと地図を開く。
『地図! 必要なし! さっさと進むゥ! 駆け足!』
開いた地図をすぐ閉じて道なりに進んでいく。
有無を言わせる隙すらなかった。
気づけば私も走っている。
『右!』
分かれ道に着く寸前、方向が指示される。
疑問を抱く間もないまま進路を右に移す。
『ジャンプ!』
――ジャンプすれば、後ろの床が落ち。
『しゃがんで前進!』
――しゃがめば、頭の上を矢が通り抜ける。
『腕をまっすぐ伸ばす!』
――腕を伸ばせば、向かってきた敵がシュウに触れ消える。
あまりにも的確すぎる指示。
まるで構造を知り尽くしているようだ。
質問をする暇もなく指示が次から次へと飛んでくる。
そして、ボス部屋に来てしまった。
『入る』
いや、でも。
『入る!』
はい。
扉を押して、ボス部屋へ。
ボス戦もあっという間だった。
部屋をぐるっと回って四体を撃破。復活してさらにもう一週。
杯をもってるやつ以外を、杯の近くに投げつけ倒し、杯が他の人形を復活させたところをまとめてゲロゴンブレス。ボスは死んだ。
出口の扉がガチャリと開き、そのまま扉へ向かう。
『はい! ここで腕を広げて一回転!』
え?
『ハリアップ!』
仕方なく、言われたまま腕を広げてぐるり。
あれ? なんか斬った……。
手応えはなかったが、後ろに何かいたらしい。
光に消えて、アイテムが出てくる。
それを拾って出口をくぐる。
『ほらまだだよ! ホップ! ステップ! ジャンプ! GO!』
出口への通路を飛び跳ねながら駆け抜けていく。
こうしてそのまま外に出た。
『外だ……外だぁ! やったぁ! 素晴らしい空だね!』
空はまだ雲に覆われている。どんより。
『ほら攻略完了だぞ、泣けよ』
いや、でも全然攻略した感じがしないんだが……。
『それは、とても幸せなことですよ』
あまりにも――あまりにも朗らかな口調だった。
END




