いい加減、邪魔
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ネストの嘘つき―――。
俺は一瞬、リリィが何と言ったのか意味が分からなかった。
ただ、自分が予想していたモノと違った、という理由ではなく、もっと別の何かのせいで身体に力が入った気がした。
「……」
俺は壁と扉に挟まれて何もすることもできないが、そのせいでリリィには俺がここにいることは気づかれていないはずだ。
それでもリリィは俺の名前を口にした。
「……俺が、嘘つき……」
俺は誰にも聞こえないような声で、ただポツリと呟く。
そして同時に考える。
俺はリリィにどんな嘘をついたのか。
俺は必死に自分の記憶を辿る。
しかし、いくら考えてみても思い当たるようなことはなかった。
「……っ…ネストのうそつきっ……っ!!」
またリリィの叫びが聞こえてくる。
リリィがいう、俺の嘘、とは一体何なのだろうか。
―――ダメだ。
本当に思いつかない。
俺はそのもどかしさに、苛立ち歯ぎしりせずには居られなかった。
「……うそ……っ…つき……っ…!」
その間も、リリィはそうつぶやき続ける。
「……リリィ、一体何があったんだい?」
そんな時、魔王様がついに意を決したのか、リリィに聞いていた。
それは俺からしてみれば大変ありがたく、今の何も分かっていない現状を少しでも抜け出せる気がする。
「…………」
リリィからの返事は、まだない。
返事までの、このわずかな時間でさえも俺にはとても長く感じた。
目の前にある扉も、どこか少し重くなったような気がする。
「―――おひめさま」
そしてついにリリィはそう呟いた。
「……?」
しかしはっきり言ってそれだけでは何も分からない。
それが一体どうしたというのだろうか。
「お姫様、とは?」
魔王様も同じことを思ったらしく、リリィに聞いてくれる。
「……」
そして再びの沈黙。
自然と手に力が入るのが分かる。
「……ネストは―――」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
ようやくリリィの小さな口が、開いた。
「―――おひめさまに、あこがれてるんだって」
―――え?
俺が、何だって……?
リリィは、それだけを言うとまた黙り込んでしまっている。
思わず、リリィがいるだろうあたりの扉を見つめる。
「……だから、だからっ、リリィはこうやっておひめさまになったのに……っ!!」
その時、リリィの声が再び耳に入ってきた。
俺は、リリィの言葉を頼りに自分の記憶をもう一度たどってみる。
―――あった。
リリィが言っているのは、恐らくこれだ。
それは、リリィがいなくなる前の日の夜。
『……まえにもきいたんだけど、ネストはおひめさまにあこがれてるんだよね……?』
『……あぁ、憧れる、よ……?』
寝ぼけていた俺に聞いてきたリリィに、そうやって応えた。
……実はさっき記憶をたどっていた時には、このことを思い出していた。
しかしまさかこれが理由だとも思わず、気にしないでそのまま流したのだ。
誰だって、そんなことが理由だとは思わないだろう。
けれど、リリィにとっては『そんなこと』ではなかった。
ただそれだけのことだ。
「……ははっ……」
思わず自嘲的な笑いが出る。
俺は一体何回やらかしたら済むのだろうか。
だから何回もいわれてるじゃないか。
リリィの気持ちを考えろ―――って、
その時に気付けなかったのは、今更言っても仕方ないことくらい分かってる。
けど、ならどうして今、そのことに気づけなかったのか。
こうしてリリィが自分の口から言ってくれなければ、そんなことにも気づけなかった自分が、嫌になる。
「―――リリィ、いらない子、なのかな」
―――ッッ。
ダメだ、そんなことを言ったら。
「ここでおとなしくしてたほうが、いいのかな……」
リリィが悪いんじゃないんだから。
「たぶん、そのほうがいいんだよ、ね?」
それ以上言わないでくれ……。
「ネストは、リリィのこと、きらい、なんだよね……?」
リリィの掠れ声が、嫌に俺の耳に入ってくる。
その時、俺の中で何かが、何か熱いモノが、胸のあたりで渦巻いていたモノが、込み上げてきた。
「ふっざけんなッッ!!!」
気がつけば、俺は叫んでいた。
別にリリィに言ったわけじゃない。
パルフェクト姫にいったわけでもなければ、もちろん魔王様でも魔王様の奥さんでもない。
ただ、リリィの気持ちに気づけなかった『自分自身』に――。
ただ、リリィにそんなことを思わせてしまった『自分自身』に――。
ただ、リリィにここまでさせてしまった『自分自身』に――。
そしてなにより、リリィを泣かせてしまった『自分自身』に――。
「いい加減、邪魔、だッッ!!」
俺は、全力で今の挟まれている状況から抜け出そうとする。
「ヒールッ!!」
疲れたならばすぐに回復魔法を使い、ひたすら抜け出すことだけを考える。
ギシ―――。
そのすぐ後、少しだけだが動いたような気がした。
だけど、それ以降どれだけ押して見ても一向に動く気配がない。
カタ、カタ―――。
そんな時、ふと誰かの足音が聞こえた。
それでも俺は気にすることなく、ただ抜け出そうと色々し続けている。
「―――ぇ?」
ふとそんな時、目の前の扉だったものが誰かに、持ち上げられた。
「―――ネスト?」
ようやく扉と壁の間から解放された俺の目の前にいたのは、目を見開いてこちらを見ている―――リリィだった。




