きっと俺は泣いてしまう。
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―――リリィを手放したくなかったから。
俺がリリィを匿っていたのは、きっとこれが理由だと思う。
「……」
メイドさんは俺の言葉を黙って聞いていた。
その無表情からは、メイドさんが一体何を考えているのかは見当がつかない。
「……まぁ、もう無理な話なんですけどね……」
そうだ、今更そんなことを言ったって、既にリリィは俺の下から離れてしまっている。
そして俺はというと、ちょうど今魔王城を出ようとしている真っ最中なのだ。
「…………」
俺が変に自嘲的な感じを出してしまったせいで、俺たちの間を再び沈黙が支配してしまう。
「あ、あれって、玄関、ですよね?」
そんな気まずい状態の時、幸いにも視線の奥の方に、玄関だと思われる場所を見つけることが出来た。
「……はい、あちらが玄関になっております」
やはり、どこか不機嫌とまではいかないまでも、なにかそういうあまり機嫌がいいようには見えない。
ちらちらと、メイドさんを伺うも、やはりよく分からなかった。
「えっと、案内してくれてありがとうございました」
とうとう玄関の扉の前までやってきた俺は、となりにいるメイドさんに向かってお礼をいう。
「いえ、仕事ですので気にしないでください」
お礼をいう俺に対し、メイドさんは淡々とそう告げる。
というかやっぱり、仕事だからここまで案内してくれていたらしい。
案内してもらっている時に、少々変な話題も出てきたりしたけど、まぁそれは魔王城での数少ない良い方の思い出としてとっておけばいいだろう。
「アウラ様方は外でお待ちになっておられると思われますので」
俺が扉に手を掛けたとき、メイドさんが教えてくれる。
「……じゃあ、さようなら」
多分これからはもう会うこともないだろうメイドさんに別れの言葉を告げながら、俺は今からアウラたちにどんな顔をすればいいのか、多少の憂いを含みながら扉を開け、魔王城から出た。
「……」
一歩、魔王城から出ると、来るときには感じなかった肌寒さを感じることが出来た。
「えっと……」
メイドさんの言うとおり、アウラたちは玄関の外で俺を待ってくれている。
二人とも俺と同じで少し肌寒いのか、軽く身を寄せ合っていた。
「……」
何か言わなければいけないと思いながらも、逆にこの状況でなにを言えば良いのかも分からず、結局俺は何も言うことが出来ないでいる。
「……リリィ、は……?」
アウラが、いつもなら有り得ないような、か細い声で俺に聞いてくる。
「……」
その問に対し、俺は今しがた出てきたばかりの、魔王城に視線を向けることしかできない。
「……」
それだけでアウラたちも察してくれたのか、それ以上は聞いてこようとはしなかった。
「……じゃあ、行こうか……」
しばらくの間、俺たちは魔王城の玄関を出たあたりで、ただ立ち続けていた。
しかし何時までもそうしている訳にもいかないので、俺は必要最低限の言葉をいうだけで、アウラたちを先導することにした。
既に俺の中で、目的地は決まっているが、それをアウラたちには言っていない。
今はできるだけ、しゃべりたくなかったからだ。
それでもアウラたちは何も言わず、俺についてきてくれている。
「……」
魔王城からしばらく歩くと、次第に街の人が多くなってきた。
そこには都と同じように、たくさんのお店があり、そして数多くの品を売り買いしている人たちがいる。
普段であれば、楽しそうに見えるソレだが、今となってはその賑わいでさえも、俺には耳障りの一つにしか感じられなくなってしまった。
肩がぶつかりそうになる人がいるならば、思わず睨んでしまいそうになる。
使い魔のモンスターが足元にいるならば、思わず蹴り上げてしまいそうになる。
「……」
「……っ……」
俺は無言で後ろを歩いていたアウラたちの手を強く握り締めた。
握った瞬間、二人の身体がビクッと揺れるが、俺は決してその手を離さなかった。
人ごみの中で、決してその手を、二人を手放さないように――。
「ご主人様、少し痛いです……」
「あっ、ごめん……」
いつの間にか、強く握り締めすぎていたようで、俺はすぐに手を離す。
「ヒール」
そしてすぐさま、トルエの手に回復魔法をかける。
「ごめん、気が回らなくて……」
やっぱり、リリィが居なくなってしまったことで、俺は動揺してしまっているのかもしれない。
今だってまた、トルエたちに悪いことをしてしまった。
いきなり手を繋いだりして気持ち悪いとか思われていたりしたら、きっと俺は泣いてしまう。
「……あ、着いた」
そんなこんなしていると、俺たちは目的の場所の目の前までやって来ていた。
「……ここ、ですか?」
トルエが戸惑いがちに俺に聞いてくる。
「……あぁ、都に帰るときのために、ここで待ってくれている人がいるんだ」
そう、今俺たちは、御者のおばちゃんが待っているはずの、宿屋の前にまでやって来ていた。




