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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第一章 聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。
35/181

ちょっと空飛んでくるわ。

ブクマ評価感謝です。

 


 「ド、ドラゴンっすよ、これ……」


 そう、今俺たちの目の前にいるのは紛れもない『ドラゴン』。


 深紅の鱗に身を包み、絶対的な存在感を放っているドラゴンと俺たちでは、埋めることが出来ない壁があることが本能的に理解できる。


 薪探しに気を取られすぎていた俺は、既に手を伸ばせば届く距離にまで近づいていた。


 一刻も早くそこから離れようとしながらも、出来るだけ物音を立てないようにする。





 ……しかし、それがかえってドラゴンを不快にさせたのか、その大きな鉤爪を持ち上げ始めた。


 そして、その大きさからは想像もできないような速さで俺目掛けて振り下ろしてくる。


 かろうじて目で追える速さで振り下ろしてくるドラゴンの腕に対し、今度は俺の腕が反応し始めた。


 …………これならもしかして、ドラゴンも倒したりできるんじゃないか?


 独りでに動き出す腕はこれまでもたくさんのモンスターを殺してきたし……







 そう思っていたのも束の間。


 鉤爪と俺の腕が交錯した一瞬後、宙を舞っていたのは、『俺の腕』。


 その瞬間に俺は自分の考えが甘かったことに気がついた。


 まず『ドラゴン』を他のモンスターと比べること自体が間違いだったのだ。ただ、そこにいるだけで周りを圧倒するようなドラゴンと唯のモンスターでは天と地ほどの差があるというのに。


 「ネ、ネストっちッ!!」


 あまりの出来事に一瞬、呆然としてしまっていたが、ヴァイスの声で我に返ることができた。


 「ヒールッッ!!」


 すぐさま自分の腕に回復魔法をかけ、ただ逃げることに専念する。


 「ネ、ネストっち!?う、腕が生えてきてるっすよ!?」


 「あぁ、後で説明でもなんでもしてやるからひとまず逃げるぞ!!」


 今すべきことはドラゴンから逃げることだ。今も、あの巨体を揺らしながら俺たち向かって追いかけて、きて、る……?


 後ろを振り返るとそこにはなにもおらず、当のドラゴンは先程までと同じ場所で今もこちらを見ている。


 「あれ、追いかけてこないっすね……」


 空も暗くなってきている中で俺はドラゴンをジッと見つめる。


 「あのドラゴンって俺たちを追いかけてこないんじゃなくて、追いかけられない(、、、、、、、、)んじゃないか?」


 ドラゴンは立ち上がろうとしてはまた座り込む、の動作を繰り返しているように見えた。


 「そ、そうかもしれないっスね。た、助かったっス……」


 ヴァイスが緊張から解放されたのかその場に座り込む。


 しかし、はっきり言って今はそれどころではなかった。その時俺の頭の中を占めていたのは、ゲイルのある言葉だった。





 

 『あ、でも知性のある古龍が、恩人である冒険者を背に乗せて空を飛び回ったという話なら聞いたことがありますよ?』

 要するに――――――――――――――――





 ――――――――――――――――ドラゴンを治療したら、空を飛べるんだろ(、、、、、、、、)?


 あの後、少し気になってアウラに古龍とは何か、ということを聞いておいた。


 曰く、『古龍』とは長い年月を経て知恵を持ったドラゴンの別称のようなものらしい。


 ドラゴンなんて見たことは無かったが、それでも今回のドラゴンは明らかに大きすぎる気がする。


 恐らく、長い年月(、、、、)を生きてきたのだろう。


 たくさん生きているということは最低限知性も身につけているはずだ。






 ――――――――――――――――条件は、揃った。


 「ふふふ」


 もしかしたら空を飛べるかもしれない、という期待に口元が緩む。


 「ネ、ネストっち?どうしたんスか、いきなり」


 「俺、今からちょっと空飛んでくるわ」


 そう言い残し俺はドラゴンに向かって歩き出す。後ろからヴァイスの慌てたような声が聞こえるけど、そんなの今はどうでもいい。


 俺は、飛ぶんだッッ!!




 



 


 ドラゴンの近くまで行った俺は、ドラゴンの動きに注意しながら怪我をしているところを見てみた。


 どうやら、翼を怪我しているようで飛べないらしい。


 安心しろ、俺が今すぐ治してやるから……ッ!!


 「ヒィィルゥゥゥウウウウッッッ!!!!」


 ……もしかしたら、今までで一番魔力を込めたヒールだったかもしれない。


 けど、それで空が飛べるのなら万々歳だ!!


 ……ドラゴンが自分の身体の違和感に気がつき始めた。次第に翼も動かし始めている。


 ある程度確認し終わったのか、俺をじっと見つめてくるドラゴン。


 知性があるようだから、俺が治療したのが分かっているのだろう。


 ――そして、とうとう立ち上がる。


 そのまま数回翼を動かし、俺に背を向けた。


 「俺の背中に乗れってこギャぶッッ!!??」









 



 










 ――――――――――――――――俺は今、空を飛んでいます。


 ちょっと地面との距離が近い気がするけど、あまり我が儘は言いません。


 飛べれば、良いんです。


 ……例えそれが、ドラゴンの尻尾(、、、、、、、)に吹き飛ばされた(、、、、、、、、)から(、、)だとしても。






 楽しい時間も終わり、地面を転がる。


 すぐさまヒールをかけ、ヴァイスのいる元へと駆け出す。


 「アハハハハハッハッハハハハ」


 ―――別に方法なんてどうでもいいんだ。ドラゴンの尻尾に吹き飛ばされたからって、結局のところ、空は飛べたんだから―――








 「なわけねぇぇええええええええええええッッッッ!!!」


 あれのどこが空飛んだんだよ!?


 俺が言ってる空を飛ぶっていうのは、もっとこうあるだろ!?


 空を飛んで追いかけてくるドラゴンから逃げ切れたら、ゲイルを一回殴ろう。


 「チ、チクショォォォォオオオオオオオオッッッ!!!」


 俺は泣きながら暗闇を走り続けた―――。


 


 


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