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黒マントを羽織っている馬鹿

「おいおい、まじかぁ……」


 俺は今、謁見の間にいる。


 ただいつもと違うのは、今回は謁見する側ではなく、王様の近くで控えているということだ。


 昨日、武闘大会は無事に終了した。


 そして今日はその成績優秀者五名が、国王様に謁見している真っ最中なのだ。


 しかし一つだけ問題がある。


 その問題のせいで俺だけでなく、その場にいるほとんどの人が困惑を隠しきれていない。


 成績優秀者、その五名の中に、いるのだ。


 黒のマントを羽織っている馬鹿が。


 いやいやちょっと待て。


 一体どうしてこうなった。


 俺はここ数日に渡って執り行われた武闘大会のことを思い出してみる。


 まず黒マントを着て出場しているやつは他にもいた。


 ただその中で一人だけが順調に勝ち進み、一回の敗北もなく成績優秀者に選ばれてしまったのだ。


 今この場にいる人の中で、本当の漆黒の救世主の正体を知っているのは恐らく二人だけ。


 俺と国王であるエスイックだけだ。


 他にも知っているひとは数人いるが、その人たちは今この場にはいない。


 そして今回、目の前にいる漆黒の救世主を模した誰かは、かなりの実力を見せてしまった。


 つまり、この場にいるほとんどの人が目の前の黒マントを、本物の漆黒の救世主として見てしまっているのだろう。


 中には目を輝かせている人もいるから恐ろしい。


 ただこの場で「俺が本物だ!」といったところでそれを証明する手立てがない。


 今のところ俺は回復魔法が使えない。


 というかこれから使えるかも正直分からない。


 もちろんエスイックが何か口添えしてくれるかもしれないが、それでも心から俺が本物だと信用してくれる人は少ないだろう。


「…………」


 そこで気が付いた。


 何で俺は漆黒の救世主であることを他の人に知ってもらおうとしていたのだろうか。


 特に目立ちたいわけではないというのに。


 そこまで考えて、考えるのをやめた。


 今考えるべきなのはもっと別のことだろう。


 目の前の黒マントを着ているのは一体だれかということだ。


 もしかして俺が知っている人なのか、それともはたまた、俺の全く知らない人なのか。


 どうにかして知る手段はないだろうか。


「…………うん、ないな」


 早々に諦めた。


 やはりここは大人しくしておいた方がよさそうだ。


 俺はそれからエスイックの近くで控えながら、事が進むのを待ち続けた。





 謁見が終わり、部屋からぞろぞろと人が出て行く。


 そして残されたのはエスイックと俺の二人。


 事情が分かっているからこそ、静寂がその場を支配する。


「……なぁ」


 俺は小さく声をかける。


「さっきの五人って、人間の代表として戦ったりするんだよな……?」


 さっきからずっと考えていたことを、聞いてみる。


「あぁ、そうだ。それぞれの種族が五人ずつ出し合って交互に戦っていく予定だ」


「だよなぁ……」


 思わずそんな声がでる。


 そうなのだ。


 ただでさえ目立っている漆黒の救世主の偽物は、これからもっと目立つ予定なのだ。


 さすがにそれはまずい。


 あまり人目に映らない状態で行動していた俺だったが、それでもここ最近では、漆黒の救世主の噂をよく耳にしたりする。


 あれは死ぬほど恥ずかしい。


 それが、人目に映るところで、さらに活躍でもしてみろ。


 街中、都中で、その噂で持ちきりになるだろう。


 そんなことになったりしたら、きっと俺は恥ずかしさで死んでしまう。


 それだけは何とかして避けたいところだ。


「これで皆も漆黒の救世主の凄さを味あわせることができるな!」


「なんでだよ!?」


 思わず怒鳴ってしまう。


「だってこのお陰で皆からの支持が高まるではないか!」


「嬉しくねぇよ!?」


「自分のことなのにか!?」


「それ俺じゃねぇええええええええ!!」


 一体エスイックは何を考えているのだろうか。


 俺の言葉に対して「おぉそうだった」などと頷いているし、ちゃんと考えてくれているのだろうか。


 正直心配で仕方がない。


「なぁ、ちゃんとあまり目立たないようにしてくれよ?」


「うむ、わかった」


 しかしやはり現状で頼れるのはエスイックただ一人。


 今回はどうにかしてもらうしかないだろう。


 ただ、自分でも何かできることがあればやっていくつもりだ。


 それは少しずつでも考えていこう。


「あ、そういえばだが」


「ん?」


 思い出したように口を開くエスイック。


「数日後に、私と魔王と獣王で話をすることがあるから、皆のことを見てやっててくれ。私たちの方に護衛がたくさん来るので、そちらが手薄になってしまうのだ」


「ん、そういうことなら」


 こちらも色んなことを頼んでいる身だ。


 少しくらい言うことを聞かなければ、申し訳ない。


 確かに俺は回復魔法が使えない


 だからといって、色んなものを切れなくなったりしたわけでもない。


 それだけでもある程度の敵であれば対処できるはずだ。


 それにエスイックたちの話がそんなに長くなるとも思えない。


 長くても半日ほどで終わってくれるだろう。


 たったそれだけの間に、ルナたちが誰かに襲われる可能性のほうが小さい。


「ではまた改めて詳しいことは教える」


「了解。じゃあ俺は獣人たちのとこに戻るから」


 俺はエスイックに小さく手を振ると、皆の出ていった扉をゆっくりと開けた。



 

長い間更新停止しており申し訳ないです……

ようやく私事も少しずつ落ち着いてきたので、また更新していこうと思います。

よろしくお願いします。

気晴らしに書いてた新作もあげておきます。

本当、長い間申し訳ありませんでしたm(__)m


新作1: http://book1.adouzi.eu.org/n5367dl/

『 僕らの恋は、画面の中で。』


新作2:http://book1.adouzi.eu.org/n5374dl/

『 Re:birth 』


突発的に書き始めた新作3:http://book1.adouzi.eu.org/n5405dl/

『召喚されてペットになったけど、魔王様が可愛いです』

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