お金が、無い
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「獣人の奴隷を解放して欲しい」
「……は、はぁ」
俺は今、エスイックを挟む形で、獣王様と話をしていた。
内容は、ニアについてのこと。
グリムがニアを連れて帰る宣言をしてから少し経ち、俺はエスイックから呼び出されたのだが、どうやらグリムが、俺が獣人の奴隷を手酷く扱っているといるみたいなことを獣王様に告げ口したらしい。
「……ということを本当は言いたかったのだが、その様子じゃなあ……」
「…………」
俺は、すぐ隣でじっと俺の腕を掴んでくるニアに目を向ける。
どうやら大分、俺に懐いてくれているということが獣王様にも伝わってくれたのだろう。
「……むぅ、どうするか」
「確かに、これから同盟を結ぼうっていう人間が、獣人の奴隷を持っているのもマズイですよね……」
「そう、かもしれないな」
俺の言葉に、獣王様は頷く。
やはりそこが問題のようだ。
「……うーん、やっぱり、解放した方が良いですよね」
「そう、してくれると助かるがなぁ……」
「……っ」
ニアの俺の腕を掴む力がより一層強くなったような気もするが、致し方ない。
これは、俺たちだけの問題じゃないのだ。
これからの人間と獣人、その二種族間の同盟がかかっているかもしれないのだ。
「さすがに、何もせずに解放してもらうだけでは気が引ける。何かお礼をしなければな」
「お、お礼、ですか?」
「うむ、奴隷として引き取ってくれたことに対してのお礼と、これまでちゃんと守ってくれたことに対してのお礼だ。さしあたり、購入金額の、倍、でどうだろうか」
「…………」
相変わらず、人をお金でやりとりするという行為には慣れない。
しかし、ここではその選択が一番、手っ取り早いといえばそうなのかもしれない。
「わかり、ました」
「……ぅぅ」
隣のニアが、俺の腕をぎゅっと握ってくるけど、俺には何も出来ない。
「む、そういえば因みに、どれくらいだっだのだ?」
「えっと、一千五百万エンです」
「…………は?」
「一千五百万、エンです」
「そ、それは、真か?」
「はい」
別に嘘なんて一つもついていない。
「……むぅ」
「ど、どうしました?」
俺は獣王様が溜息を吐いていることに、思わずそう聞く。
「お金が、無い」
「え」
「まさかそんな大金が必要になるとはおもわなかったのでな、持ってきていないのだ」
「なるほど」
「えっと、それなら別に俺はお金とかは要りませんけど」
俺としては、そうすることで同盟がより円滑に進んでくれるのであれば全然構わない。
「む、そ、そうか?」
俺の提案に乗っかってくる獣王様。
俺は頷く。
「…………やだ」
「え?」
その時ニアが、ポツリと呟いた。
「……やだ、やだ……やだぁ!」
「ニ、ニア……?」
「やだもん! 何で私がご主人様から離れないといけないの!?」
「そ、それは少しでも、同盟を進めやすくするためで……」
俺はニアの勢いにたじろぐ。
相変わらず、ニアの手は俺の腕を掴んでいるために、離れることも出来ない。
「そんなの知らないもん! せっかく、っせっかく……! ご主人様といれるならって、寂しいの我慢してずっと部屋で待ってたのに……! どうして、離れないといけないの……どうして、一緒にいちゃ、いけないの……!?」
「そ、それは……」
ニアは、泣いていた。
俺の腕を、ギュッと握り締めながら、俺の目を、ジッと見つめながら。
「…………ネスト殿」
「え、は、はい」
突然の獣王様の呼びかけに対して、俺は焦りながらもちゃんと応える。
「その娘の主人は、君だ。これからもずっと。だから、よろしく頼む」
「……………………えっと……はい」
俺は、獣王様の言葉を、受け止める。
きっと獣王様は、今のニアを見てから、そう言ってくれたのだろう。
「…………ニア、ごめん」
酷いことを、言った。
俺はニアの頭を撫でながら、反省する。
ニアの意思を無視して、獣人のもとへと帰ってもらおうとしていた。
「……ごめんな」
俺は、謝り続ける。
俺は、撫で続ける。
「………………うん、もう、大丈夫」
結局、しばらくした後に、ニアがそう言ってくれるまで、それは続いた。
「あぁでも、さすがに同盟を結ぶ間くらいは、獣人のところで預かってもらっていた方が、良いですかね?」
結局ニアはこれからも俺のもとに居ることが決まったが、それでも少しの間くらいなら、獣人のところにいた方が安全だし、良いだろう。
「うむ、そうしてくれるというなら、ありがたい」
「じゃあ、ニア、それでいい?」
さっきと同じ過ちを犯さないためにも、今度はちゃんと確認をする。
「……私あのグリムって人、嫌いなの」
「……あぁごめん、俺も」
「…………すまない」
俺は、ニアの言葉に、獣王様がいることをすっかり忘れて同調してしまう。
しかし獣王様も息子のことはわかっているだろうから、許してくれるだろう。
「ん、ではこういうのはどうじゃ?」
今まで黙っていたエスイックが、声をあげる。
「その娘は獣人のところで預かってもらう。お主にはその娘について行ってもらって、獣人の護衛ということにする」
「おぉ」
「……まぁそれなら」
ニアは相変わらず嫌そうな顔をしているけど、渋々、頷いてくれる。
俺自身、やはりグリムは嫌いだけど、それでもニアのことをちゃんと近くで見てあげられるのであれば、それが一番良いのかもしれない。
俺は、これからの護衛生活に、少しだけ期待していた。




