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げんきにしてほしいな

ブクマ評価感謝ですm(_ _)m

 「うわぁ……汚いなぁ……」


 「ほんとだねぇー!」


 俺は埃だらけになった我が家に思わず唸る。


 そう、今俺たちは久しぶりに自宅へと帰ってきていた。


 無駄に広い我が家は、かなりの間放置していたせいで、いたるところに埃が溜まってしまっている。


 「これは掃除だなぁ……」


 俺はこれからの大変な重労働に、思わずため息を吐いた。





 「ふむ、家に帰りたい、と」


 「あぁ、最近帰ってなかったからさ。直ぐに帰ってくるから良いだろ?」


 俺はエスイックにそう頼み込んでいた。


 「掃除とかもしないといけないからさ」


 「……むぅ、確かになぁ」


 「な? 良いだろ?」


 まぁ、本当の理由はまた別なのだが。


 本当の理由、それは『気分転換』である。


 他意はなく、純粋に気分転換をしたかったのだ。


 最近俺は回復魔法を覚えなおすために色々と努力しているが、どれも上手くいっていない。


 そのせいでだんだんとストレスが溜まってきているのが分かる。


 今まだ良いが、それが何時爆発するか分からない。


 それなら出来る時に、ゆっくりと気分転換などでもしておく方が得策だろう。


 ただ、それをエスイックにいうのは何だか恥ずかしい。


 自分の弱いところを見せるのは、その、情けない。


 「まぁ別に引き止めておく理由があるわけでもないし、戻ってきてくれるなら帰宅の許可をしよう」


 「おぉ、ありがとう」


 「ただ」


 「……?」


 俺はエスイックの勿体ぶるような言い方に、思わずその顔を見る。


 「できればニアという娘だけは城に残しておいて欲しいのだが」


 「……あぁ」


 それは仕方ない。


 今回、無事に獣人との戦争を切り抜けた俺たちだったが、人間や魔族の中に、獣人に対しての苦手意識や敵対心などが無いとは言い切れないのだ。


 そんな今、獣人であるニアを城から出すのは確かに危ないかもしれない。


 「……うーん、でもなぁ、一人だけっていうのも」


 ニア一人だけを残していくのも可哀想な話である。


 何かいい案は無いものだろうか。




 「ネストぉー? ここにいるのー?」




 「え?」


 その時、部屋の扉が勢いよく開かれた。


 「……り、リリィ?」


 リリィは何やら怒っているらしく、ずんずんと俺の方へと近づく。


 「むぅ! 遊ぼうって言ってたのに!」


 「……あ」


 言われてみれば確かに、今朝方、そんなことを言った憶えがある。


 「あ、でも俺今少し忙しくて……」


 エスイックの方をちらりと見やりながらリリィに答える。


 もちろんその目配せの意味は「何か助け舟をだせ」というものだ。


 「や! リリィと遊ぶのー!」


 「そ、そう言われてもなぁ」


 ほらエスイック、早く助けてくれ!


 「……それではこういうのはどうだ?」


 「?」


 「リリィとお主だけで、一度家に帰ればいいのではないか?」


 「……む、確かにそれなら」


 一瞬何を言っているのかと思ったが案外それも悪くないかもしれない。


 それならばニアに特別寂しい思いをさせることもないだろうし、一石二鳥だ。


 「何のはなししてるのー?」


 そんな俺たちに、リリィが首を傾げながら聞いてくる。


 「えっと、リリィ?」


 俺はこれからの少し長くなりそうな話を大人しく聞いてもらうために、リリィの頭を撫ではじめた。





 「うわぁー! きったなーい!」


 「……本当に汚い……」


 俺たちは口元を布で覆いながら部屋の掃除を開始していた。


 まずは全ての部屋の窓を開ける。


 通気性が良くなっただけでも、少しは空気が軽くなった気がした。


 「……ごほっ」


 しかしやはりそうは言っても、埃は宙を舞っている。


 「……よし、じゃあ本格的に始めるか」


 俺はリリィに呼びかける。


 まず初めに掃除するのは――――リビングだ。





 「……はぁ、今日は疲れたなぁ」


 「そだねー……」


 時は夜、既にあたりは暗くなっている。


 俺はベッドの中でリリィと二人、大人しく横になっていた。


 今はもう指一本動かすのも辛い。


 働きすぎた。


 以前であれば回復魔法で一発で治していたのたが、それも使えない今、こうやって疲れと向かい合わなければならない。


 「……はぁ」


 でも、案外こういうのも悪くないような気がしてきた。


 回復魔法のない生活、それはきっと俺が思っているほど、本当は大変じゃないはずで、ただ、俺が欲張りなだけかもしれない。


 「…………」


 それに、こんなに頑張って全く使えないのならいっそ、諦めてしまうのも仕方ないのではないだろうか。


 「……疲れたぁー」


 リリィが声をかけてくる。


 俺はリリィの方へと向けた視線だけで返事をする。





 「…………早く、げんきにしてほしいなぁ」





 「ッ!!」


 俺はその瞬間、頭を何かに殴られたような気がした。


 そうだ、俺は一体何を考えていたのだ。


 回復魔法が使えなくても、いい?


 そんな訳無い。


 俺には、回復魔法が必要なんだ。


 自分のために、皆のために。


 「……頑張らないとなぁ」


 俺はこれからの回復魔法の訓練を思いながらそう呟いた。


 ただ、まだ掃除が終わったわけじゃないので、明日はそれを終わらせられるように頑張らないといけないのだが。


 明日は、アウラの部屋の掃除だ。


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