聖女をやらせてもらっています
四章スタートです。
「はい、みんな静かにー」
俺の前に立っている年配の教師がそう言うと、途端にうるさかった教室が静かになる。
「今日は新しくこのクラスに加わる人がいますので注目してください」
教師の合図に従って俺は一歩前に出る。
「あ、えっと……、ネストって言います。よろしくお願いします」
…………。
どうしてこんなことになったのか。
それは少しだけ時を遡る。
「なぁ、これがやっぱり魔王様が言っていた“代償”ってやつなんですか?」
「あぁ、多分だけどそうだろうね」
「……やっぱそうですかぁ」
俺は、回復魔法が使えなくなった。
指先にあるちょっとした傷でさえ治すことができない。
そしてもう一つ。
今まで全くといっていいほど感じていなかった痛みが、今になって再び感じるようになったのだ。
つまるところ、今まで回復魔法が使えて痛みも感じなくて、そして色んなものが切れるという三つの特技があったはずなのに、今になってしまってはただ物を切ることしかできなくなったというわけである。
「……これって元に戻りますかね?痛みとかはまだしも回復魔法だけでも元に戻ってくれたら嬉しいんですが……」
「うーん、あの薬自体、君にあげた分の一つしかなかったからなぁ。戻るかもしれないし戻らないかもしれない、としか言い様がないかな……」
「……そうですか」
うーん、これはどうしたものか。
俺の異常な回復魔法がこれから戻るかもしれないし、逆にこれから一生使えないかもしれないのである。
さすがにそれは嫌だ。
痛覚が戻ってきたのは別に気にしていないけど、それでもやっぱり回復魔法だけはどうにかしないといけない。
これまで俺が生きてきた中で最も意味があるといっても過言ではないモノ。
それが回復魔法だ。
勘違いの末に少し普通とはかけ離れた回復魔法にはなってしまったけど、それでも俺は自分の回復魔法は嫌いじゃなかった。
切れたはずの腕を生やせる。
もちろん足だって生やせる。
しかし、今まで積み重ねてきた物がいきなり無くなってしまうのはやはり辛い。
どうにかして回復魔法を戻す手段はないものだろうか……。
「回復魔法の学校に行ってみるのはどうだろう」
今までずっと黙っていたエスイックが静かに口を開いた。
「回復魔法の学校?」
「……確かお主はこれまでずっと独学で回復魔法を学んできたと言っておったな」
「あぁ、そうだけど……」
「それならば一度、本物の回復魔法を学ぶことで何か得るものがあるかもしれんぞ?」
「…………なるほど」
確かにエスイックの言うとおりかもしれない。
今までずっと独学で学んできたために、回復魔法の種類なども全くといっていいほど知らなかった。
学校に行くことで何か回復魔法の真理に辿り着くことができるかもしれない。
「行ってみるか?」
「…………」
俺は、確かな決意を胸に静かに頷いた。
「それじゃあネスト君はあそこの席へ」
「あ、はい」
教室のあちこちから不思議そうなモノを見る目で見られている気がする。
そんな中で俺は教師に示された席へと向かった。
「あ、今日はもう一人このクラスに新しい人が加わります」
「もう一人っ!?」
教師からのその爆弾発言に俺だけでなく、他の面々も驚きの声を上げている。
一体誰が新しく来るのだろうか。
俺が学校に行くという話をアウラたちにしたら、確かに一緒に行きたいとは言っていた。
だけどあまりエスイックに迷惑もかけられないと思った俺は、珍しくこうやって一人で学校に来たのだ。
だからさすがに俺が知っている人とかではないとは思うのだが……。
どうしてだろう。
嫌な予感がする……。
「では入ってきてください」
教師のその言葉につられるようにして、その扉が開かれた。
「は?」
俺はきっと間抜けな顔をしているのだろう。
俺と目があったソイツは俺をみてクスリと微笑んでいる。
「では、自己紹介を」
そして俺と同じように一歩だけ前に出る。
「皆さん、初めまして。ルナと申します。一応聖女をやらせてもらっていますが、気にせず話しかけてくれたら嬉しいです」
凛と澄んだ声が教室の中に響き渡る。
そう、俺の視線の先には、微笑みを浮かべているルナが立っていた。
新連載始めました!
しゃもじの英雄~ごはんを食べて異世界最強~
http://book1.adouzi.eu.org/n7766db/
一読頂けたら幸いです><




