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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第三章 俺の回復魔法がどう見ても聖女の劣化版な件について。
140/181

笑い続けていて欲しい。

ブクマ評価感謝ですー!

もうすぐ三章も終わりますので、お付き合いくださいm(_ _)m

あと、三章が終了した後は隔日更新から三日に一度の更新とさせていただきます。またそのことは活動報告などでも詳しく載せると思いますのでご確認ください。


 「では皆の無事を祝福して乾杯ッ!!」


 「かんぱーいッ!!」


 エスイックの掛け声と共に、俺たちは手にもつグラスを真上へと掲げた。


 今、俺たちは戦争終了の祝賀会を行っている。


 だが祝賀会をしているからといって、別に俺たち人間と魔族の同盟軍が戦争に勝利したわけではない。


 あの日、あの時、俺は力を手にした。


 その結果として今回の戦争での戦死者は両軍共に一人もいない。


 エスイックたちが口にした夢物語を実現することができたわけだ。


 本来であれば俺は力の代償として、何かを支払わなければならないはずだった。


 しかし今のところ別に何かが失くなったような感覚もない。


 魔王様にも聞いてみたが、どうやら自分も使ったことがなかったようなので首をかしげていた。


 それを俺に渡してくるあたり、やっぱり魔王なんだなぁと感じたりしなくもないのだが……。





 「そういえばネストさんはどこに行ってたんですか?」


 後ろからの声に振り返ると、いつの間にか俺のすぐ近くにルナがやって来ていた。


 「あ、あぁ……」


 恐らくルナは戦争の時の話をしているのだろう。


 ルナは俺が後方支援に組み込まれているということを知っていたので、もしかしたら探していたのかもしれない。


 「えっとぉ……そ、そう!トイレ!あ、あの時お腹痛くてトイレに行ってたんだ」


 自分でも苦しい言い訳だとは分かっているが、今は他に言いようもない。


 「あ、そうだったんですね。大丈夫でしたか?」


 さすがルナというべきか、ちょろい。


 こういう時は世間知らずのままでいてくれてありがとうと言うべきだろう。





 「ネストさん、少しいいですか?」


 その時ふと後ろから声をかけられた。


 ちょうど先程のルナと同じような状況だが、その声色は落ち着いていてルナとはまた別だ。


 「あ、大丈夫ですよ」


 俺はそう答えながら振り返る。


 そこには俺が予想していたとおり、アスハさんがこちらを見つめながら立っていた。


 そしてそのままアスハさんに連れられて俺は人気の少ない廊下へと向かった。




 「まず、無事に帰ってきてくださってありがとうございます。安心しました」


 廊下に連れられて、アスハさんと向かい合う。


 すると開口一番アスハさんは軽く頭を下げてそんなことを言ってきた。


 「い、いやいや、お礼を言われることじゃないですよ。しかも俺後方支援だったんで……」


 本当は少しだけ無茶なことをやっているがここでは言わなくてもいいだろう。


 「……嘘ですよね?」


 「はい?」


 俺はアスハさんのつぶやきに思わず聞き返す。


 「戦争を止めたのはネストさんですよね?」


 「…………」


 ば、バレてるぅー。


 「……は、はい。そうです」


 よく考えてみたらアスハさんは俺が漆黒の救世主の正体であるということを知っている数少ない人物の一人だった。


 恐らく黒マントが空から降ってきたとか聞いたのかもしれない。


 「……どうしてそんな無茶したんですか?」


 「……」


 責めるような目を向けてくるアスハさんに、俺は思わず黙り込む。


 自分でもあれが無茶だったということは自覚せざるをえない。


 途方もない高さの崖から成功するかも分からない回復魔法を唱えながら飛び降りる。


 そしてついでとばかりに戦争も止める。


 今考えても鳥肌が立つ。


 「……ごめんなさい」


 だから俺は言い訳をするつもりはない。


 「でも、俺は誰にも傷ついて欲しくなかった」


 そして後悔もしない。


 「別に回復魔法使いの一人だからとかじゃなくて――」


 俺はアスハさんの目を見つめる。


 アスハさんも俺から目を逸らしたりせず、ただ俺と目を合わせている。


 「俺がただそう(、、、、、、)したかったんです(、、、、、、、、)


 「……」


 「だって、俺の手が、俺の回復魔法が届けられるなら、せめてその人たちには皆笑っていて欲しいじゃないですか」


 アスハさんにも、リリィにも、トルエにも、アウラにも、そしてニアにも。


 俺は皆には笑い続けていて欲しい。


 これからもずっと。





 「……」


 アスハさんは俺の話が終わるまでずっと黙って聞いてくれていた。


 一度も目を逸らしたりもせずに、だ。


 自分でも結構恥ずかしいようなことをつらつらと並べてしまったような気がするが、まぁ今更仕方ない。


 「……はぁ、分かりました。でもこれからはあまり無茶だけはしないでくださいね?」


 アスハさんは最後に念押しするようにそう言うと、先に一人で今来た道を戻っていった。


 「はぁ……」


 俺はようやくの緊張からの解放に思わずため息をつく。


 やっぱり最初からだけどアスハさんの前だと少し緊張するんだよなぁ……。


 俺はそんなことを考えながら、リリィやアウラが待っているはずの会場へと戻り始めたのだった。

 


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