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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第三章 俺の回復魔法がどう見ても聖女の劣化版な件について。
121/181

なら俺が俺がッ!

ブクマ評価、300万UA感謝ですm(_ _)m



 「あぁごめんねー。今日はもう皆部屋が一杯でねぇ」


 「あ、そうですか……」


 一体これで何件の宿を回ったのだろうか。


 宿屋を探し始めてから俺たちは未だに今日一泊する宿屋を見つけられずにいる。


 その理由としては大体が人数が多すぎて空きがない、というのがやはり一番多い。


 そしてなんと次に多いのが、ニアが獣人であるということが既にバレている場合だ。


 どうしてかというと宿屋のお客さんにあの時俺がニアを競り落とした瞬間を見ていた人がいたりして、その結果宿屋にも泊まれなくなる、ということが続いている。


 「うーん……。どうするかぁ……」


 当初の予定であった俺とブロセル、そしてトルエの三人とあと一人程度であるならば泊まれる宿屋も多いのだが、そこにニアや獣人の子供たちが続けば泊まれる宿屋はほとんど皆無だろう。


 都中を探し回れば一件くらいは俺たちが泊まれる宿屋が見つかるかもしれないが、正直面倒で仕方ない。


 「はぁ……」


 俺は何回目かわからない溜息をこぼすのだった。





 「あーっ!!見つかんねぇーーっ!!」


 それからも数件俺たちは黙々と宿屋を回った。


 しかし宿屋は見つからなかった!


 「うーん、確かに少し疲れてきたねー」


 そして俺の横でのうのうとそんなことをのたまうのはニア。


 とても奴隷契約をした時のような重苦しい空気はどこに行ったのやら、今では口笛を吹き出しそうな勢いすらある。


 「…………」


 まぁ獣耳が可愛いからイイけどっ!!


 「けど本当にそろそろ見つけないとヤバイな……」


 ブロセルが空を見上げながらそう呟く。


 釣られて俺も空を見上げてみれば、確かにだんだんと暗くなりそうな雰囲気が出てきているかもしれない。


 「けど泊まれる宿屋がないからなぁ……」


 何か泊まれるようないい宿屋はないだろうか。


 欲を言えば、ニアたちが獣人だとバレても泊まらせてくれるようなところが望ましい。


 「んー…………ん?」


 ふと視界の隅に大きな建物が映った。


 それはつい今日エスイックとあった場所、そう――――王城だ。


 「……あー……うん。泊まる場所多分決まったからついてきて」


 恐らく先に泊まる場所を教えたら驚いて余計に時間がかかると思った俺は、軽く後ろを振り返りながらみんなに聞こえるようにそう言う。


 「りょうかーいっ」


 すぐにニアが反応し、その後ろでは獣人の子供たちがコクコクと頷いている。


 それを確認した俺はゆっくりと王城へと脚を運び始めた。






 「…………それでここにやって来た、と?」


 「は、はい……」


 俺は今、王城の門の前で正座させられていた。


 後ろではニアたちが何事かと窺っている。


 そして今俺の目の前にいるのは王女兼聖女のルナ。


 どうしてこんなことになっているかと言うと、俺が王城に泊めてもらおうと思ってここに来るまでは良かったのだが、当然の如く門番に止められた。


 てっきり朝会った人だと思い近づいて言ったら全然違う人だったらしく、結局王城に入ることができないという事態に陥っている時、偶然通りかかったルナに発見されたというところだ。


 因みに俺が保護(、、)した獣人たちと一緒に泊まらせてくれないか、という旨は既にルナには伝えてある。


 「はぁ……仕方ないですね。お父様に聞いてみましょう」


 ルナはそう呟くと俺たちを先導するように王城の玄関へと向かった。


 今度は門番も特に何か言ってくるようなことはなく、背筋を伸ばして持ち場に戻っていく。


 「っしょっと。じゃあ行こうか」


 俺は長かった正座を崩し、後ろで唖然としているブロセルたちにそう声をかける。


 皆は納得がいかないような顔を浮かべながらも俺についてくるのだった。





 「……それで……?」


 「…………」


 俺は今、ルナによってエスイックのいる部屋まで連れてこられていた。


 視線の先には椅子に座っている国王のエスイック、そしてエスイックの目の前にはルナ(、、)が正座させられている。


 「また一人で外に行っておったな……?」


 エスイックはルナへと確認するようにそう聞く。


 二人の会話を聞いているとどうやらルナが護衛もつけずに城の外へと出て行っていた、ということらしい。


 実は既に俺たちが泊まる許可は貰えており、ブロセルやトルエ、そして他の皆も部屋に移動したのだが、どういうわけか俺はこの部屋に残されているのだ。


 「……」


 当然俺が口が挟めるようなことでも無いので大人しくしているのだが、一体どうして俺が残されたのだろうか。


 「どうして護衛をつけたがらないのだ?」


 黙り込んでいるルナに対し、エスイックは疲れたように質問する。


 「……私はもっと色々なことを体験したいのです」


 すると今まで黙っていたルナがとうとう答え始めた。


 「護衛の方たちが頑張ってくださっているのは分かりますが、私はもっと自分で色々とやってみたいのです」


 これにはエスイックも「うむ……」と唸る。


 確かにルナの言うことは俺にも分からないでもない。


 「しかしさすがに誰も連れて行かないというのは……なぁ?」


 ん……?


 「ですが誰か良さそうな人がいるわけでもないでしょう?……ねぇ?」


 んん……?


 エスイックとルナは難しそうな声を出しながら、最後に何故か(、、、)こちらに確かめてくる。


 「…………」


 その時俺はどうして一人だけこの部屋に残されたか、今になってようやく理解した。


 恐らくエスイックとルナは、ルナの護衛を俺にたのもうとしているのだ。


 これが最初から仕組まれていたものなのか、それとも即興で考えただけなのかは俺の知るところではないがこれはきっと泊まる代わりに、ということだろう。


 正直ルナは王女でもあり聖女でもあるから、護衛は相当大変なはずだ。


 もちろん自分から「あ、なら俺が俺がッ!」なんて言うつもりはないが、向こうからちゃんと頼まれたら断ることはできない。


 「はぁ……」


 俺はこちらを見て笑みを浮かべている二人を横目に一体今日何度目だろう溜息をつく。


 仕方ないから今度ルナか誰かに、エスイックのちょっとした趣味でも教えてあげればいいか、と俺は一人高い天井を見上げながらそう思った。


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