触りたい、女の子の獣耳を。
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「…………あれ?」
頭を下げていた俺は、周りの反応がないことを不審に思い頭をあげた。
「…………」
顔をあげた先に居たのは、こちらを目を見開きながら見てきている女の子と、何故か戸惑っている奴隷商。
「……あれ、何でも良かったんじゃ……?」
俺は少し前に奴隷商に教えてもらったはずだ。
わざわざ確認までしたのだから間違っているはずはないと思う。
「……あ、はい。大丈夫ですよ?」
ようやく我に返ってくれたらしい奴隷商は、慌てながらそう教えてくれる。
「契約したあとならば、の話ですがね」
しかし、奴隷商はそう付け足した。
「……あ、確かに」
普通に考えたら分かるようなことなのだが、どうにも女の子の獣耳を見てから興奮してしまっていたようだ。
きっと二人が固まっていたのは、そんな一般常識のようなことを俺が忘れていたからだろう。
俺は少し恥ずかしさを覚えながらも、特に気にしていない風を装い奴隷商の次の言葉を待った。
「で、では契約に移りたいと思います」
そして奴隷商は契約の説明を始める。
「まず、今回行う奴隷契約は犯罪奴隷専用の契約です。やり方はお互いの血を数滴、ここに付けて頂ければそれで大丈夫ですのでお願いします」
そう言いながら奴隷商は俺の前に一枚の書類のようなものを差し出してきた。
俺にはさっぱり分からないが、恐らくこれが契約書のようなものになるのだろうなぁと思いながら、俺は懐からナイフを取り出し自分の指の先を軽くなぞる。
そして指から出てきた血を数滴その書類に垂らした。
俺がやらないといけないことは、恐らくこれ意外にはないはずなので、俺は持っていたナイフを獣人の女の子に手渡す。
「……え」
何やらナイフを渡した時に驚いたような声をあげられたが、女の子もすぐに自分の指を切ると、書類に血を垂らしてくれた。
「……はい、これで契約は完了です」
それから少し経ち、特に何か変わった様子があるわけでもないが、奴隷商はそう告げてくる。
「…………」
俺はその時ふと、黙って下を向いている女の子に目を向けてみた。
「……っ……」
するとどうやら向こうもこちらを見ていたようで、目が合う。
女の子は俺と目が合うと慌てて視線を逸らすが、俺はその時女の子の手からまだ血が垂れていることに気がついた。
「ちょっと見せてみて」
俺はそう言うと、優しく女の子の手を握りすぐに回復魔法をかける。
「おぉ、これは……」
俺が治療を終えると、奴隷商は感心したようにそう呟き、納得したかのような顔を浮かべていた。
まぁそんなことはどうでもいいんだってっっ!!
大事なのはこれで何でもできる、ということだ。
俺は触りたい、女の子の獣耳を。
「そ、それじゃあ――」
そして、俺が満を持して女の子の獣耳を触らせてもらおうとした時――
「すみませーん。お客様のお連れの方がお見えになってますが……」
――後ろの扉が、開いてしまった。
「ご主人様……」
「……と、トルエ……」
恐る恐る振り返った先には、なんとトルエが立っていた。
そしてどうしてかトルエは泣きそうな顔をしている。
ま、まさか俺が獣耳を触らせて貰おうとしたことがバレたのだろうか……?
い、いや別に何かやましいことがある訳ではないぞ?
「あぁ、ネストこんなところにいたのか」
そんな時、新たに部屋の中にブロセルが入ってきた。
「あ、あぁ……」
どうやら少なくともブロセルにはバレていないようなので、ひとまず少し安心する。
「……」
しかしやはりトルエは今も暗い顔のままだ。
「あぁ、実はネストが高い金だして奴隷を買ったから、もう自分は要らないんじゃないか、って心配してるんだ」
「え……」
どうしてトルエがこんな状態なのか、ブロセルが訳を教えてくれたが俺は思わず言葉を失う。
まさかそんな理由だとは思っていなかったために、驚いてしまった。
「……トルエ」
俺はトルエを安心させてあげるために声をかける。
「……っ……」
声をかけられたトルエの僅かに揺れる肩に手を置く。
「大丈夫、トルエは要らない子なんかじゃないから、絶対」
俺はゆっくりとトルエを慰めた。
「……うん」
俺の言葉が功を奏したのか、トルエの表情も少しは元に戻った気がする。
「まぁネストがそんなことをするとも思ってなかったけどな」
トルエの後ろに立っていたブロセルもそうやってトルエを慰めている。
「どうせ俺の妹の手がかりにでもなると思って、そうしてくれたんだ」
そして、そんなことをのたまった。
「当たり前だろ?」
もちろん俺はというと、その言葉に乗っからせてもらう。
元々そんなことなどすっかり忘れていたのだが、言い訳を探していた俺にしてみればありがたい。
「え、しかしお客様先ほど――」
「…………」
「い、いえ何でもございません」
そこで要らないことを言おうとしてくる奴隷商を目で黙らせた俺は、奴隷契約も済んだのでさっさとこの部屋から出ることにする。
既にお金は払ってあるので、もう帰ってもいいはずだ。
そのことを奴隷商に確認すると、別にいいということだったので俺たちは獣人の女の子を連れて、部屋から出たのだった。
俺は今、獣人の女の子の手を引いて歩いていた。
ちらり、と横目で女の子の耳を盗み見る。
ピクピクと動くその二つの耳は、やはりブロセルのものとは違う何かがあり、すごく魅力的だとしか言い様がない。
しかし俺のとなりにはトルエが歩いているために、女の子の獣耳を触らせてもらうわけにはいかず、我慢している。
そして少しでも気を紛らわす為に、俺は何気なしに自分の耳を触るのだった。




