可愛いのではないだろうか。
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「ブロセルー、準備できたかー?」
俺は貸している部屋で、都に行く準備をしているブロセルに声をかける。
昨日、とうとう馬車を貸せるという連絡をもらった俺たちは、こうやって準備をしているわけだ。
では、どうして都に行くのか。
それは、居なくなってしまったというブロセルの妹を探しに行くためだ。
「あぁ、今終わった」
声をかけて少し経ってから、荷物を持ったブロセルが部屋から出てきた。
「トルエは先に馬車に乗ってるからブロセルも乗っててくれ」
「ん?ネストは乗らないのか?」
「あぁ、ちょっとギルドに挨拶しに行ってくる」
前回、何も言うことなくギルドで治療をするのを休んでいたので、今回はちゃんとギルドに行ってから、都へ向かおうと思っていたのだ。
ブロセルにそう言い残した俺は、ギルドの方へと向かった。
「お疲れ様でーす」
俺はそう言いながら扉を開け、ギルドの中へとはいる。
俺の登場に皆が声をかけてくれ、それに対して適当に返しながら俺は目的の人の所へと向かった。
「こんにちは、アスハさん」
「はい、こんにちはネストさん」
俺の挨拶に返してくれたのは、ギルドでいつもお世話になったいるアスハさんだ。
ギルドの受付であるアスハさんに、都に出かける旨を伝えたら、恐らく皆にも広めてくれるだろう。
「えっと、実はしばらく都の方に出かけることになったんで、ギルドでの治療はしばらく休みます」
「そう、ですか……」
俺の言葉に心なしかアスハさんの表情に暗さが増したような気がするが、多分気のせいだ。
「あ、でもアウラとリリィは残るんで、何かあったりしたらお願いしていいですか……?」
アスハがいるから、恐らくは大丈夫だろうとは思っているが、リリィとかあたりが何かやらかすかもしれない。
俺は少し遠慮がちにアスハさんに頼む。
「はい、それはいいですけど。……それってもしかして『獣人』の方も一緒だから、とかでしょうか?」
アウラたちのことを了承してくれたアスハさんは、察しがイイらしく、二人が残る理由をすぐに言い当てる。
「実はそうなんですよ。トルエは平気みたいなんですけど、どうにも他の二人は苦手みたいで」
特に隠すことでもないので俺は直ぐにそう肯定し、苦笑いを浮かべながら思わず頬をかいた。
「じゃあ皆にもよろしくお願いします」
それから少し世間話のようなものをした俺は、ブロセルたちを待たせていることに気がつき、その場を離れようとする。
「……あっ!」
その時、珍しくアスハさんが少し大きな声を出す。
ギルドにいた冒険者たちもこちらの方を何事かと見てきていた。
アスハさんもすぐに自分の声の大きさに気がついたのか、手のひらで自分の口を抑えている。
「ど、どうしました?」
アスハさんらしからぬその仕草に思わず見とれてしまうが、俺はアスハさんに聞いてみた。
「す、すみません。そういえば国王様からネストさんに手紙が届いているのを忘れてました……」
申し訳なさそうに頭をさげながら、おずおずと件の手紙を差し出してくる。
俺は、大丈夫ですよ、とアスハさんを励ましながらそれを受け取った。
「あ、そういえばアスハさんは『獣人』苦手ですか?」
手紙も受け取った俺は今度こそ馬車に戻ろうと思ったが、ふとそのことが気になったので、流れで聞いてみる。
「そうですね……確かにあの『耳』は少し苦手かもしれません」
少し考える素振りを見せて、アスハさんはそう答えてくれる。
「そ、そうですか……」
俺は、最後に皆に手を振りながら、馬車へと戻ったのだった。
馬車へ戻る途中、俺は歩きながら先ほどのアスハさんの答えを思い出していた。
「うーん、やっぱり苦手かぁ……」
そして何とはなしにアスハさんの姿も思い浮かべてみる。
いつものギルド職員の制服を着たアスハさん。
俺はその姿にある一つのものを付け足す。
それは『獣耳』だ。
皆は苦手だとか、気持ち悪いなどと言うかもしれないが、これは案外可愛いのではないだろうか。
今俺の頭の中には『獣耳』をつけたアスハさんがいた。
そんな普段とは違ったアスハさんが、猫のような仕草をしているのを想像してみる。
…………あ、鼻血が。




