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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第三章 俺の回復魔法がどう見ても聖女の劣化版な件について。
112/181

俺はまだ死にたくない。

ブクマ評価感謝です。


 「これ、マズイ……」


 俺はブロセルの料理を味わうと、そう呟く。


 今までのブロセルの家事が完璧だったために、今回のは少しばかり落差が激しい。


 「……」


 俺は手を膝の上に置き、目の前にある料理を眺める。


 やっぱり見た目はとても美味しそうで、盛り付け方もなんか上手い気がする。


 「……」


 眺めているうちに、不味かったのは俺の勘違いだったのではという考えにたどり着いた俺は恐る恐る、もう一口だけ食べてみた。


 「……マズイ……」


 やはり、美味しくない。


 しかし、不味いといっても食べられないほどではないことに気がついた。


 既にリリィの作った料理を食べているからそう思ってしまうのかもしれないが……。


 「…………え?」


 ふと、俺の前に座っているブロセルに目を向けてみると、そこには何と美味しそうに料理を食べるブロセルがいた。


 「今回のは上出来だな……」


 しかもブロセルの口からはそんな言葉が溢れている。


 「……」


 俺は改めてその料理を見てみるが、やはり次の一口を食べる気は起きず、結局、申し訳ないが残りはブロセルに食べてもらうこととなった。


 因みにブロセルは、俺の分もおいしいと呟きながら、完食していたのだった。







 「……おなか減った……」


 俺はお腹をさすりながら一人机に突っ伏している。


 さっきはブロセルの料理を食べることができなかった。


 自分でも作ろうと思ったが、どうしてもやる気が起きず、今に至っている。


 「……というか、ブロセルの味覚大丈夫なのか……?」


 俺はふと頭に浮かんだ疑問を声に出す。


 しかし、もちろん誰かがその答えを返してくれるわけでもなく、結局は自分で考えなければならない。


 「うーん……」


 たぶん、可能性としては二つ。


 まず、ブロセル自身の味覚がおかしい、という可能性。


 俺としては、これが最有力候補だと思っている。


 そしてもう一つは、人間と獣人の味覚に差があるという可能性だ。


 本当にあるのかは分からないが、もしかしたらそういう可能性もある、ということも考えられる。


 「……ん、待てよ……?」


 そんなことを考えていたその時、俺はあるひとつの重要なことを思い出した。


 「……味覚がおかしいなら、トルエの料理も、いけるんじゃないか……?」


 そうそれは、トルエの、あの料理のことである。


 この際、人間と獣人の味覚に差があるなんてことはどうでもいい。


 今は、ブロセルがトルエの料理を食べて、どうなるかが重要だ。


 すっかり腹の減りも気にならなくなった俺は、そろそろ帰ってくるだろうトルエの為に、料理を始めるのだった。





 「えっと、じゃあ作るよ……?」


 今、俺の目の前には、料理を作ろうと意気込んでいるトルエがいる。


 いつもであれば、そんなことをさせまいとする俺だが、今日はブロセルの味覚を確かめるために、仕方なくやっているのだ。


 そう、仕方なくやっているのだ。


 断じて、美味しくない料理を食べさせられた腹いせなどではない。


 「……お、俺は向こうで待ってるから」


 しかしさすがにトルエが料理しているところを見る勇気も起きず、俺は大人しく椅子に座って待つことにする。


 因みにトルエが帰ってきたのは意外にも夕方ごろで、ちょうどブロセルも夕食を作ろうと貸している部屋から出てきたときだった。


 料理をしようとするブロセルに、トルエが作るから大丈夫だと伝え、今は一緒にトルエの料理を待っているという訳だ。


 『カタンカタン』


 その時ふと聞こえる野菜を切る音。


 普段ならどこか、うとうとしてしまいそうになるその小さな音も、俺にはまるで死の宣告が足音を立てながら近づいてきているような音に聞こえて仕方ない。


 「……」


 ブロセルはというと、トルエの料理の恐ろしさを知らないために、別段気にした様子もなく、ただ料理ができるのをうずうずと待っているだけだ。


 「……はぁ……」


 自分でこんなことをやろう言い始めたが、既に俺は、若干の後悔を胸に抱いていたのだった。





 「できたよ……?」


 そう言いながら皿に盛り付けた料理を持ってきてくれるのは、どこか不安そうな顔をするトルエ。


 因みに皿はブロセルの分だけである。


 トルエには悪いが、俺はまだ死にたくない。


 「ん、じゃあもらおう」


 目の前に置かれた料理を、ブロセルが口に運ぶ。


 そして数回、咀嚼するような仕草をしたかと思ったら、ブロセルが――――固まった。


 「…………」


 固まる一瞬前に目を見開き、少し口を開けたまま、固まっているのだ。


 ……あ、これはさすがに厳しかったか?


 俺はさすがにトルエの料理を食べさせたことを申し訳なく思いつつ、すぐに回復魔法をかけようと試みる。


 「…………う」


 その時、ブロセルから微かに反応があった、気がした。


 まさかトルエの料理を食べて、ここまで耐えることができるとは、と感心しつつブロセルを見てみると、口元が少しだけ震えているのがわかった。


 「……?」


 何かをぼそぼそとつぶやいているようだが、よく聞こえない。


 「…………まい」


 俺はブロセルが何を言っているのかを確かめるために口元に近づく。


 「……うまいッッ!!!」


 「うわっ!?」


 しかし俺が近づいたその瞬間、いきなりブロセルが叫んだ。


 ありえない言葉を口にしながら。


 「う、うまい……?」


 俺は恐る恐る、ブロセルに声をかける。


 「あぁ、うまいっ!これはうまいぞッッ!!」


 その問いに大きな声で即答しながら、ブロセルは再びトルエの料理を口に運び始めた。


 「……」


 俺はここで一つ確信する。


 ブロセル、もしくは獣人そのものが、味覚がおかしい、と。








 あ、俺の飯…………

                                    

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