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 午前中の試合が終わると昼休みとなり、午後の試合の為、午前中に失った魔力と体力を補おうと食事を取りつつ、グループで集まり、至る所でこの後行われる試合の対策を話し合っていた。


 特に午前の試合で良い結果を残せなかった一年生の気合いは凄まじく、試合直後の落ち込んでいた様子は一切見られない。

 次は無様な姿は見せないぞという気迫を感じる。



 そんな中で、やはりというかユイ達のグループは、口うるさいが責任感が強く真面目な性格のイヴォを除き、まるで旅行に来ているように気楽に昼食を食べていた。



「ライルの唐揚げおいしそう。私もAセットにすれば良かったかな」


「じゃあ一個上げるからユイちゃんのハンバーグちょっと頂戴」


「うん」


「夕食はクロの好きなプリンが付いてくるらしいよ」


「何!?それは楽しみだ」



 周りは笑顔もなく真剣に対策を話している中、楽しそうに雑談するユイ達に、イヴォが吠える。



「お前らぁ、少しは周りを見習って緊張感を持て!」



 午前中の試合は知能も低い魔獣相手で、ユイが罰の嫌さに戦いに参加したおかげでなんとかなったが、午後は上級生入り混じっての生き残り戦。

 経験の差から言って苦戦は必至。

 周りのようにしっかりと作戦を練るべきなのだ。


 そんな真面目なイヴォの心配は美味しいご飯の前では意味をなさなかった。



「えーいいじゃん、ご飯は楽しく食べないとね」


「そうそう、イヴォも早く食べないとご飯冷めちゃうよ」


「昼にデザートはないのか?」


「ゼリーがあったから、ついでにクロのも取ってきたよ。

 売り切れ寸前だったから」


「さすがだユイ。俺の気持ちが分かるのはお前だけだ、同志よ」



 試合の心配よりご飯の心配をされ、後半の菓子好き二人はイヴォに耳を傾ける素振りすらない。

 イヴォは話し合いを諦め、がっくりと席に崩れ落ちた。




 昼休憩を終えると、再び広間に生徒達が集合する。



 バーグから午後の説明が行われ、それと共に腕時計のような道具が配られた。

 違いは時計の部分に替わり、白っぽい丸い硝子が付いていて、そこに小さな魔法陣が描かれている事だろうか。



「午後に行う試合は二回。

 今配った魔具は、ある一定のダメージを受けると硝子が自然と壊れるようになっている。

 壊れた者は試合場から直ちに出るように。

 そして、最後まで残った者のグループが勝者だ。

 上級生下級生隔たり無く分けているので自分の今の実力を計れる良い機会だ、頑張りなさい。

 では最後に、何か質問がある者は…………」



 そう言い終わる間も無く、これまで全然やる気を見せなかったユイが勢い良く手を上げたのを見て、バーグはやっとやる気になってくれたかと喜ぶよりも、訝しげに眉をひそめる。



「なんだ、カーティス」


「午前中の自由時間無しの罰みたいに、今回は最後まで残らなかった場合の罰はありますか?」



 午前中の試合中、制限時間間際になっての罰の発表があった事で今回も何かあるのではと、ユイはかなり警戒していた。


 そして、ユイの言葉でその可能性があると気付いた生徒達も真剣にバーグを見つめる。

 一年生に取っては自由時間が無くなっただけでも泣きそうなのに、これ以上増えたらたまったものではない。



「安心しろ、今回はご褒美だけで罰はない」



 その一言で安堵する生徒達だったが、本来の目的は合宿で実力を見学者に認めてもらう事なので、決して表には出さなかった。

 が、そんな事知ったこっちゃないユイは、あからさまにほっとした表情を浮かべた。



「じゃあ負けても街には行けるんですよね、良かった……」


「お前はこの合宿に何しにきたんだ。美食の旅だとでも思っているのではないか?」



 はいと即答しようとしたが、周囲に冷ややかな視線を浴びせられ、寸前で飲み込み、全く思ってもいないが言葉を取り繕った。



「とんでもありません、偉い人に認めてもらいに来ました」


「棒読みだ、馬鹿者!」



 怒号を響かせたバーグは、胃の辺りを押さえながらユイの担任でなくて良かったと心底思った。



 ***



 試合開始直前、話に出ていた勝者のご褒美が発表された。



「ご褒美の内容は、午後の試合で勝ち残った二グループの者に、元帥とギルド総帥が直々に特別授業をして下さるとの事だ」



 それを聞いた生徒達の間から悲鳴や雄叫びのような声が上がる。

 元帥や総帥から教えを請うなど中々出来る経験ではない。

 ご褒美を勝ち取ろうと会場内は異様な気迫と熱気に包まれた。



 興奮覚めやらぬ中始まった前半の試合には、セシルとカルロのグループが参加していた。


 しかし、そこに同じグループのルカとジークの姿はあったがフィリエルの姿はなかった。

 王族という事で、フィリエルには手を出しづらいだろうとの配慮でフィリエルは見学となったのだ。

 それによりセシル達のグループは一人少なくなったわけなのだが、その程度では全くハンデにすらならなかった。


 開始すぐに、風属性を得意とするセシルが、カルロとルカとジーク以外の参加していた全ての生徒に向けて、高位の術者でも難しい広い範囲に効果をもたらす広域魔法をぶっ放した。


 セシルが使用した風の広域魔法により、参加した生徒達に風圧がのし掛かかる。


 風魔法は目に見えない上、広域魔法などという難度の高い魔法を使える者がいると思っていなかった為、それを誰一人防ぐ事が出来ず、まるで岩でも落ちてきたかのような衝撃に襲われ、試合開始から瞬く間に全員の魔具の硝子が破裂。

 残ったのは無傷のセシルとカルロとルカとジークだけという、圧倒的な強さを見せた。



 高難易度の魔法に会場は大盛り上がりとなったのだが、これはただの試合ではなく、一番の目的は生徒の実力を見学達に披露する発表会の場なのだ。

 しかし、瞬殺などされては生徒達の実力を見せられず、ただの敗者で終わる。


 このままでは、生徒達の将来に関わってきてしまうと慌てた教師陣は直ぐに話し合い、急遽セシル達を除いた第二試合を設ける事になった。



 再試合が行われると、負けた生徒達もこれ以上の失態は出来ないと実力を大いに発揮し、最後まで残った三年生を倒し、四年生のグループが最終的に残るという普通の試合展開に終わり、教師陣はほっと安堵の息をついた。



「無事終わったな」


「彼等も可哀想にね。まさか、学生が広域魔法使うなんて誰も思ってないから、防御が遅れても仕方がないよ」


「ここの兄妹はどうなってんだ……?」


「兄も妹も規格外過ぎるよね」



 四人はちらりと、兄同様規格外の強さを持つユイを見る。

 その目は信じられない不可思議なものを恐々見るような目だ。



「何よ……イヴォだって、広域魔法ぐらい出来るでしょう。

 兄様の事どうこう言えないじゃない」


「確かに出来るが、広域魔法は効果範囲の広さに術者の実力で幅がある。

 会場全てを効果範囲に入れるほどの広さの魔法をあれほど早く発動など出来ないし、俺なら威力も弱くなる。

 とても実践で使えたものじゃない」



 イヴォはそう言うが、普通で考えれば一年で広域魔法を使えるだけで十分イヴォも規格外の一員なのだが。




 続いて始まった後半戦。


 後半戦は前半戦のように一瞬で硝子が壊されるような事にはならず、試合場のあちこちで戦闘が行われ、ある者は個人である者は連携を取りつつ、壊したり壊されたりを繰り返していた。


 そんな中で、何故かユイの周りだけはぽっかりとした空間が出来、誰もユイに手を出さなかった。


 普段からリーフェは落ちこぼれと認識している者達が殆どである。

 一番先に標的となりそうなのだが、午前中での試合で一気に魔獣を倒したユイを目の当たりにした後から、生徒達はあきらかにユイを見る目が違ってきていた。

 弱者と侮るものから力有る者を警戒する目へと。



 それでもやはり、長年の固定観念はそうそう覆るわけではなく、あれはまぐれだと結論を出す者がほとんどだった。


 だからと言って、勇み足で真っ正面から攻撃する程ユイの弱さを信じ切れず、誰もが今は様子見で手を出すのを躊躇っていた。



 そしてユイも、特別授業というご褒美に魅力を感じるどころか、むしろ要らないと思っていた為、精力的に動くような事はせず、壁際で大人しく棒の付いた飴を咥えながら終わるのを眺めていた。


 或いは、ご褒美の内容が、夕食にチーズケーキが付いてくるとかであれば、我先にと戦闘に参加し、セシル同様に開始直後に全員沈めていたかもしれない。

 そういう意味では教師陣のご褒美の選択は正しかったが、戦闘に参加しないユイにバーグは怒りも失せ、諦めの境地に至っていた。



 試合も佳境に入り、残るは三つのグループを残すのみとなった。

 一つは二人、もう一つは四人残った、どちらも四年生のグループ。

 そして、最後はユイ達のグループだ。


 全く作戦は話し合っていなかったが、イヴォとライルとクロイスが息の合った連携を取り、なんとか上級生の中に食い込んだ。


 しかし、逆に何も話し合わなかったのが良かったのだとユイは思う。

 自分を含め、皆良くも悪くも個性が強くマイペース。

 話し合って下手に行動を決め制限するよりは、行き当たりばったりでその時に自分に合った行動を起こすのが一番良い。


 それぞれ各自の性格を良く分かっているので、次にどういう行動に動くかも大体予測が付くので、自分の役割も理解し易い。


 とは言え、イヴォ達の疲労はかなりのもので、三人共息を切らし余裕は全く無さそうだ。


 四年生の二つのグループ六人は、疲れ切ったイヴォ達ならばすぐに片付けられるとふんだのか、お互いに視線を交わすと示し合わせたようにイヴォ達に矛先を向けた。



 前に後ろと、いつの間にか囲まれていると理解したイヴォ達は顔を引きつらせる。



「絶体絶命ー!これ無理じゃない?」



 ライルは弱気な発言をするが、その目には負けるという弱さなどは見えない。

 それはイヴォとクロイスも同様で、表情を引き締め、攻撃に備える。



 一人がイヴォ達に向け火を放つと壁のように燃え上がり、それをイヴォ達は散り散りになって避ける。


 彼等はそれが狙いだったようで、それぞれに二人ずつ四年生が付く。

 連携を取られるより各個撃破するつもりのようだ。



「後輩虐めはダメですよ、先輩方」


「世の中の厳しさを教えてあげるよ、後輩君」



 向かい合うライルと男女の生徒二人。

 張り詰めた空気が漂う中、最初にライルが動いた。


 なりふり構わず突撃するライル。

 四年生二人は追い詰められた上の最後の悪足掻きかと、考え無しのライルの行動に呆れと失望を感じながら、女子生徒の方が詠唱をすると、地面から土の固まりが現れる。

 それを突撃して来るライルに向け放つ。



 目の前に迫る土の塊。


 当たれば確実にダメージを受けると誰でも分かるそれに、ライルは一切防ぐ事無く女子生徒に飛び込んでいく。


 避けようともしないライルに、当然塊は命中した。

 ………したはずなのだが、体にぶつかる寸前に何かに弾かれ、土の塊は粉々に砕け散った。



 それを見た女子生徒は驚きに目を見開く。

 ライルには防御魔法がかけられていた気配も、寸前で詠唱をして魔法を使った様子も無かったので、この一発で終わると思っていた。


 予想外の事に女子生徒が動揺している隙に、目の前まで来ていたライルが風魔法を纏わせた拳で硝子を叩き、硝子を破壊した。

 一人は撃破出来たが、出来た事でほんの一瞬気を抜いた瞬間を一緒にいた男子生徒の方に攻撃され、あえなくライルの硝子が砕け散った。




 土の塊が弾かれたのは、ユイがライルに防御魔法を張っていた為で、体の周りギリギリ、体にぴったりと纏わせるようにしていたので防御魔法が使われていると分からなかったのだ。


 そして突撃する前に一瞬ライルがユイに視線を向け、そして土の塊が何かに弾かれる直前にユイが何かを小さく呟いていたのを目聡く見ていた一人の生徒が声を張り上げる。



「リーフェだ!後ろのリーフェを先に狙え!」



 即座にその言葉に反応した生徒がユイに向かって魔法を放つが、その攻撃が届く前にユイはその場から忽然と姿を消す。



「えっ………」



 その生徒が呆気に取られ隙だらけになっているのをイヴォは見逃さなかった。


 一人がユイに向かった為イヴォに付いていた生徒が一人となり、その一人もユイが消えた事で注意がそちらに向かい、難なく視界から外れる事が出来、呆気に取られている生徒へ後ろから風の魔法を放った。

 強い風の音と共に腕の硝子が割れ、その生徒も漸く我に返った。



「あっ!」


「よしっ、いいぞユイ」



 そう言ってイヴォが視線を向けた先には、先程までそこに居たはずのユイが飴を咥えのんびりと手を振っていた。



「まさか、転移魔法!?」



 ユイを狙うように言った生徒が驚愕した表情を浮かべる。


 転移魔法は、見える範囲にしか移動出来ないという制限はあるが、リーフェでなくとも覚える者が多い無属性の魔法だが、魔力の制御が難しく、慣れない内は使えても発動までに時間が掛かる。

 学生の、しかも一年でユイのように一瞬で発動させて使える者はほとんどいない。


 しかし、使える事に驚きはしたが、他の属性が使えないリーフェならば、他の属性を勉強する時間分を無属性魔法に回すのだから、それぐらいは出来ても不思議ではないと解釈した彼等は気を取り直し試合を再開する。



 一人撃破で喜んだのも束の間、イヴォは背後から魔力の気配に気が付き横に避けると、今まで居た場所に火が燃え上がる。

 攻撃してきたのはクロイスを相手にしていた生徒だった。

 イヴォはクロイスはどうしたんだと、少し怒り気味で姿を探し周りを見渡すと、クロイスは既に場外へ下がっていたライルの隣にいた。



「クロー!何地味にやられてるんだー!」


「むちゃを言うな。ライルがやられたせいで一人俺の所に加わったんだ。

 四年生三人に、俺一人で勝てるわけないだろうが」


「くっ」



 状況は最悪だ。

 イヴォは四人の四年生と相対しなければならない。



「ユイ、戦う気はないのか?」


「戦闘狂の特別授業なんて絶対面倒臭い事になるから嫌」


「面倒臭いで済ませるな!しかも何だ戦闘狂って。

 元帥と総帥から教えを請えるんだぞ、滅多にない機会なんだぞ!」


「やだ」



 イヴォの必死の説得も、ユイは聞く耳持を持たない。


 しかし、イヴォとてこのままで終わらせたくは無かった。

 元帥と総帥が人に教えるなど、軍とギルドに所属していたとしてもめったに機会がある事ではない。

 それが目の前の四人を倒せれば叶うのだ。


 ライルとクロイスも場外からユイをその気にさせようと叫んでいるが、ユイは素知らぬ顔をしている。



「あのさぁ、もういいか?」


「ちょっと待ってくれ!」



 律儀に話し合いを待ってくれていた四人の内の一人が、呆れたように試合続行を聞いてきたが、どうやってユイを戦わせるか頭を高速回転させているイヴォはそれどころではない。



「くっ………これだけは使いたく無かったが………」


「クロりん?」



 心の底から悔しそうに顔を歪め、クロイスは懐から何かの紙を取り出し、ユイに向かって見せる。



「もし勝てたら………この王都高級料理店のスイーツビュッフェ優待券をやろう!!」



 その言葉にユイがぴくりと反応する。


 ユイには甘いお菓子。


 背に腹は変えられないとは言え、甘い物好きのクロイスに取っては物凄く辛い選択だ。

 クロイスの意図を理解したイヴォとライルも後に続く。



「行きたいって言ってた店のパンケーキ奢ってやるぞ!」


「パフェもつけるよ!」



 すると、今までどうでも良さそうにしていたユイからやる気がみなぎってきたのが分かる。


 イヴォ達は勝利を確信した。



「よし、試合続行だな」


「やっとか……けど本当に良いのか?

 戦えないリーフェに攻撃なんて、虐めるみたいで出来ればしたくないんだが………」


「問題無い。

 それに、あいつを甘く見てると痛い目見るぞ」


「そうか、じゃあ遠慮無く」



 試合が再開されイヴォに二人、ユイに二人といった不利な状況の中、攻撃が仕掛けられようとしたのだが、次の瞬間にはユイと相対していた二人が後方に吹っ飛び、衝撃により硝子が砕け一気に形勢が変わる。



「なっ!!」


「おいおい、何をしたんだ。

 詠唱もしていないのに……詠唱破棄か!?」



 二人は詠唱する間もなく飛ばされた。

 考えられるのは詠唱破棄だが、詠唱破棄など一年が出来るようなものではない。

 信じられないものを見るようにユイを見ながら茫然とする。



「いいえ、ただ魔力をぶつけただけです」


「ぶつけた………?」



 なんて事無い、ただ魔力を一カ所に集めて放出し、それを増幅の魔法で強めただけ。

 魔力を放出しただけなので詠唱も発動する時間も必要はなく、増幅の魔法は試合開始からいつでも発動出来るようにしていたので、知らない彼等から見れば突然奇襲を掛けられたようなもの。

 なんの抵抗も出来ないまま一瞬で二人が脱落した。


 とは言え、今回使っていないだけでユイは詠唱破棄を出来るが、わざわざ手の内を話す必要もないのでそれは黙っておく。



「魔法ではなく魔力自体を増幅させる。無属性魔法にそんな使い方があるのか………」



 魔力をそんな風に使うユイに驚愕すると同時に感じる僅かな敗北感。

 魔力も魔法も使い方次第。

 例え無属性しか使えなかったとしても。


 リーフェを蔑んではいないが、弱いものと決めつけていた事に、四年生達は己の未熟さを痛感した。



「なるほど、午前中の試合は偶々じゃなかったって事か。

 甘くみると痛い目を見る………確かにな」



 二人はリーフェの認識を改る。



「なら、リーフェだろうが手加減はなしだ」



 これが模擬戦だと感じさせない、実戦さながらに向けられるすくみ上がるような威圧感に、彼等が最後まで残るほど実力のある人物だと実感する。


 次の瞬間、二人はイヴォではなく、行動に予測が付かないユイを先に倒そうと攻撃を仕掛ける。

 ユイが防御魔法を張るために詠唱をしようと口を開いたが、肉体強化をして速さも増した一人がユイに襲い掛かり詠唱の時間を与えない。


 ならばと、ユイは先ほどと同じ詠唱の必要ない魔力の放出を近付いてきた方に向かい放ったが、難なく相殺された。



「タネさえ分かれば、なんて事無い。

 同じように魔力をぶつければ相殺出来るさ」



 流石に四年生ともなれば実戦に沿った経験を沢山している分、同じ攻撃をしてやられる程甘くはなかった。

 迫ってくる相手をユイはとっさに避けようとしたが、肉体強化をした相手の方が早く、ユイの腕の硝子が砕け散った。


 肉体強化した四年生がユイを攻撃した一瞬を付いて、イヴォが逆に攻撃を成功させお互い一人ずつ残ったが、直ぐに残ったもう一人の四年生により呆気なく地面に沈められた。



「残念だったな。まあ、お前達なら次は勝てるだろうから頑張れよ」



 勝利を確信し、敗者を労る彼だったが、返ってきたのは不敵に笑むイヴォとユイの顔。



「……それはこちらの台詞ですよ」



 その言葉に、今更何を言っているんだと訝しげな表情を浮かべた次の瞬間、パリンッという音をたてて、彼の硝子が砕け散った。



「………」



 何故割れたのか状況が理解出来ず茫然と佇む四年生の後方に向かってユイが手を振る。



「ばっちりよ、フィニー」



 その時になり、漸くもう一人いた事に気が付いたが、もう後の祭りだった。


 彼が後ろを振り向くとユイと同じ一年のHクラスを示すネクタイをした少年。

 この合宿でHクラスなどという下位のクラスはユイとフィニーの二人だけだ。



 ずっと姿が見えなかったフィニーだが、実はずっとユイ達の近くにいたのだ。


 周囲の景色と溶け込み見えづらくする結界魔法。

 それを使い、戦闘を避けながら機会を待っていた。


 しかし、あくまで周囲の景色に溶け込み見えづらくするだけで全く見えなくなるわけではない。


 魔力の気配で場所を感じる上、よく目を凝らせば視認出来る。

 まだ生徒が多く残り、そこかしこで魔法を使っていた時はフィニーの魔力の気配に気付くのは難しいだろうが、数人にまで減った状況ならば気付くのも難しくはない。


 実際にユイとイヴォにはフィニーのいる場所が分かっていた。

 それを計算した上で、ユイは自分に意識を向けさせる為に派手に振る舞っていたのだ。


 先程まで戦っていた四年生達の実力ならば気付けていたのだろうが、予想外のユイの実力で意識が奪われ、周囲にまで注意を向けてはいなかった。



 勝ったと思わせて、最後の最後で美味しいところを持って行く。

 勝利を確信したところで呆気なく奪われた者の悔しさはひとしおだろう。

 実に性格の悪いフィニーらしい作戦だ。




 最後まで残っていた四年生は、茫然としたまま、がっくりとその場に崩れ落ちた。









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