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デート

 王宮から戻り、日常生活に戻った。


 ユイは王宮でレイスを諫める為に約束したデートの為、ケーキ屋に来ていた。



 この日の為に、忙しいはずのレイスはユイの好きそうなケーキの美味しい店を調べに調べ、この店に決めた。

 ユイを喜ばせたいからとは言え、宰相の仕事をこなした上でよくそんな時間が取れたものだ。


 余程ユイと二人で出掛けるのを楽しみにしていたのだろう。

 しかし………。



「今日は待ちに待ったユイとデートの日………。

 なのに……なのに、何故あなた達もいるのです!」



 レイスが体を震わせ怒鳴りつけているのはセシルとカルロ。

 ユイからデートの話を聞きつけた二人はレイスに内緒で先に店で待っていたのだった。



「良いじゃんパパぁ、俺達だってユイと遊びたいしぃ」



 カルロは猫なで声で甘えたように話す。



「ええい、気色の悪い。

 いい年した男にパパなど言われたくありません。鳥肌がたつでしょうが!」


「でも、ユイはパパって呼んでるだろ」


「ユイは可愛いから良いのです」



 言い合うレイスとカルロの横では………。



「ほらユイ、こっちも美味しいから食べてごらん」


「美味しい、はい兄様も」



 ユイとセシルがお互いのケーキを食べさせ合っていた。


 それを見たレイスはすかさずユイに近付く。



「セシル、なんと羨ましい事をしてもらっているのです。

 ユイ、私にも下さい」



 口を開けるレイスにユイは自分のケーキを一口分すくい、差し出す。

 それを嬉しそうに食べるレイスに、セシルとカルロは呆れた表情で見ている。



「………俺、ユイに一番危ないのは父さんじゃないかと思う時があるよ」


「ユイ、身の危険を感じたら直ぐに兄様達か、ジョルジュさんに助けを求めるんだぞ」



 レイスは二人をキッと睨みつけた。



「何を馬鹿な事を言っているのです。私が愛しているのは、いつだってシェリナただ一人。

 ユイは純粋な父性愛です!」



 当然それはユイ以上にシェリナに甘いレイスを知る者は誰もが分かっている事なので、セシルもカルロも冗談で言っているのだが、何も知らない他人が見れば疑いの目で見るに違いない。


 血の繋がらない連れ子をここまで溺愛できるのは、単に懐が大きいからなのか、それとも………。



 ***



 ケーキを堪能したユイ達は、次に貴族御用達の高級店が立ち並ぶ場所に来ていた。


 理由はユイの誕生日のプレゼントと通信用の魔具を買うため。



 先日提供した魔法の構築式の報酬を王からレイス経由で渡されたのだが、ユイはその金額を渡された瞬間、その重量感に驚いた。


 それは一般家庭が三年は遊んで暮らせそうな金額で、これは多すぎるので返して貰おうとしたのだが、レイスによると、ユイの魔法は今後の研究にも価値のあるものなので、これは正当な報酬金額であり、むしろ少ないくらいだと言う。



 王はこれより高い報酬額を用意していたのだが、まだ学生という身分を考慮してこの金額になったそうだ。



 これで少ないのか……と、ユイは色々思う所はあったが、正規の金額であるなら断る理由もなかった。


 ユイはこの大金をどうするかと悩んだ結果、前々から欲しかった通信用の魔具を買おうと思ったのだ。



 兄達もフィリエルも持っているので欲しかったのだが、魔具は半端なく高かった。

 レイスに頼めば迷わず買ってくれるだろうが、既に沢山の物を買い与えてくれるレイスに強請るには気が引けて諦めていたのだ。



 その念願の魔具を買うため、魔具専門店に赴く。

 魔具は高価な物が多く、店の入り口や店内には厳つい警備員が複数立っている。


 初めて入る魔具の店に興味津々で店内を見回していると、ユイ達の元に店員とおぼしき男性がやってきた。



「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」


「ええ、この子が通信用の魔具を探していましてね、良いのは入っていますか?」


「勿論でございます。各種揃えておりますが、通信用の魔具はお値段によりましてかなり形が違って参ります。

 ご予算はお決めになられておられますか?」


「この店で一番ランクの高いものを見せて下さい」


「パパ?」



 通信用魔具の大体の金額を知らないユイは、取りあえず全ての報酬の金額を示そうとしたが、先にレイスが話し始めてしまう。


 あまり高すぎたら払えないのに、という目でレイスを見上げると、レイスはユイの頭を優しく撫でる。



「もし、上限を超えたら私が出しますから心配しなくて大丈夫ですよ」


「でも………」


「魔具は長く使う物ですから、妥協せず一番自分に合う物を使うべきです。

 お金なら心配いりませんよ、これでもかなり稼いでいますからね」



 そう諭されれば、ユイには何も言えずしぶしぶ頷いた。


 今までにこやかに対応していた男性は、レイスの上限なしと取れる発言に、上客と判断したのか、より一層笑みを深くした。



「かしこまりました。

 この店で選りすぐりの品をご用意致しますので、少々お待ち下さい」



 男性は商品を取りに行く為、一旦奥に下がっていった。



「それにしても、いくら価値のある魔法だからとは言え、国の研究者でもないただの子供に大金渡すなんてよっぽど嬉しかったんだろうな」


「凄く喜んでたって、テオ爺言ってたからね」


「……テオ爺って……あなた達、まさかあの方と連絡を取り合ってるのですか?」


「ああ、時々だけど、学校の話とかユイの話とかしてるぞ。

 今回の件もフィリエルだけじゃなくて、テオ爺からも詳しく聞いたし」



 未だ影響力衰えない先王をテオ爺と軽々しく呼べるほど親しくしているのは初耳だったレイスは、何とも言えない表情を浮かべた。




 その時、カルロは何か思い出したようにユイに尋ねた。



「そう言えばユイは大丈夫だったか?」


「………何が?」



 特に今回の一件で心配されるような事は無かったはず。

 そう思っていたユイは、次のカルロの言葉に色々思い出してしまった。



「だって、ずっとフィリエルと同じ部屋で数日暮らしてたんだろ? 

 フィリエルもお年頃だし、襲われたりしなかったか?

 なんてな、はははっ……は…は…」


「………っ」



 冗談のつもりで笑っていたカルロだったが、表情には出ていないが頬を赤く染めるユイに気付き、語尾が段々声が小さくなっていく。


 そんなユイにセシルは目を丸め、レイスは顔を青ざめてユイに詰め寄る。



「ユユユ、ユイ、ままさか、本当に襲われたのですかぁぁぁ?」


「ち、違うよパパ。襲われては……ない……のかな?」



 いや、同意の上では無かったから、あのキスも襲われた内に入るのか?と、動揺していたユイは曖昧な答えを返してしまう。

 それをセシルは冷静に返す。



「ふむ……キス位ってとこ?」


「うえっ!……あ……えっと……」



 言い当てられたユイは、とっさに誤魔化す事も出来ず、素直な反応を返してしまう。

 はっきりとした返答はないが、そんなユイの様子で肯定だと三人は直ぐに理解した。


 ユイの目の前には、詳しく聞かせろと言わんばかりに興味津々の兄達とあまりの衝撃に廃人のように生気が無くなったレイス。


 この場をどう乗り切ろうか頭を高速回転させていると、タイミング良く店員が戻って来た。



「大変お待たせ致しました。………おや、どうかされましたか?」


「いえ、何でもありません!」



 店員はその場の微妙な雰囲気を察したがそれ以上は追求せず、ユイは兄達からの追求を逃れる為、次々出される魔具に集中した。


 廃人のようになっていたレイスは、次第にふつふつと怒りがこみ上げ、今にも王宮に乗り込みそうなほど怒りに燃えていた。



「やっぱり息の根を止めておくべきでしたかね」



 危険な発言をするレイスを放置するわけにもいかず、なんとか宥めようとするセシル。



「まあまあ、父さん落ち着いて」


「これが落ち着いていられますか!何故あなた達は怒らないのです」


「その辺の男なら怒ってただろうけど、相手はフィリエルだからね」


「むしろよくキスで抑えたと、誉めてやりたいよ。

 あいつが何年もユイを一途に思い続けてるのを俺達よく知ってるし、あいつがユイを傷付ける事は絶対に無いからな」



 ユイに過保護な二人が、一切フィリエルに怒りを感じる事なく、それを許容している。

 絶対にユイを傷付けないと疑いもしていない。


 二人から垣間見えるフィリエルへの信頼に、レイスはひとまず怒りを収める。



「まあ今回は多目に見ましょう。あなた達には感謝していますからね」


「ん?」


「どういう事?」



 突然のレイスの言葉に反射的に聞き返す。



「あらかじめ、あなた達から虫の話を聞いていなかったら、危うく虫を握り潰して魚の餌にしているところでしたからね」



 最初虫とは何だろうと首を捻った二人だが、すぐにフィリエルの事だと気が付いた。


 二人は以前、あまりにもユイを溺愛するレイスに、フィリエルの存在が何かのきっかけで知られたらフィリエルの身が危ないと感じた。

 突然知って暴走するよりは、あらかじめ教えておいた方が色々と安全ではと考えが一致した二人は、フィリエルだとは告げず、ユイには親しい異性がいる事を話していた。


 万が一会うことがあっても、ユイの為に冷静に対処してくれと念を押していたのだ。



 当然ユイにそんな人物がいると聞かされたレイスは烈火の如く怒り狂っていたが、先に発散していたおかげか、テオドールからユイを預かりたいと聞いても、二人の忠告を思い出したレイスは凶行に走る事無く冷静に対処出来た。



 もし、それを聞いていなかったらレイスがどんな行動に出ていたかと思うと、本当に恐ろしい………。



「(やっぱり、話してて良かった)」


「(感謝しろよ、フィリエル)」



「でもさぁ、そんなに悪い話じゃないって。

 よく考えてみなよ父さん、ユイが結婚したらさ……」


「ユイはまだ十五歳です、結婚の話など早過ぎます!!」



 考えたくないとばかりにレイスはその先を聞くのを拒否する。



「でもいつかは結婚するだろ。

 その時相手が貴族か一般人かは置いておいて、結婚すればその家に嫁ぐ事になるし、今みたいに簡単に父さんの家に戻る訳にもいかないから、そうそう会えなくなるよ?

 でも、もしフィリエルと結婚すれば、ユイが嫁ぐ先は王宮なんだから、そこで王に近い父さんなら毎日でもユイと会えるよ」


「…………」


「セシルの言う通りだぞ。

 しかもフィリエルは次期大元帥を約束されたようなものだから生活に困窮する事もないし、他人に触れないから浮気の心配もない。

 王族に加わる事になるからユイも公務を行う必要はあるけど、第二王子の妻だから王妃と違って仕事力も格段に少なくてユイへの負担も少ないから、比較的自由に生活できるはずだ。

 フィリエルは性格も温厚で、俺達に負けないぐらい昔からユイに優しい。

 こう言っちゃあなんだが、金も地位も性格も良い、かなりのお買い得物件だぞ」



 さらにセシルが畳み掛ける。



「テオ爺は勿論、今回の一件で他の王族方、特に王妃様がユイを気に入って下さっているってテオ爺が言っていたから、一番こじれやすい嫁姑問題も無くユイを可愛がって下さるよ」


「こんなに良い所が揃った嫁ぎ先なんてそうそうないぞ、父さん?」


「……………」



 レイスは暫し考え込む。


 確かに冷静に考えてみれば優良物件だ。

 何より結婚しても毎日ユイに会えるというのが一番良い。


 しかし、そんな事を考えている自分に気が付き、僅かに感じた気持ちを遠くへ放り投げた。



「騙されませんよ!どんなに優良物件だろうが、あの小僧にユイはもったいないです!」



(ちっ惜しい、あともう一押しだったのに)また何か方法を考えねばと、セシルとカルロは視線を交わした。




「でも、ユイのあの様子だとフィリエルは振られたみたいだね」


「まあ分かり切ってた事だろ。フィリエルも理由をちゃんと分かってる」


「そうだね、だからしきりにユイの様子を気にしてたんだろうし」


「…………どこまでユイを苦しめれば気が済むんだ、あの野郎っ」



 真剣に魔具の説明を聞いてるユイを見ながらカルロは、ここにはいない男に向け、吐き捨てるように呟いた。




 ***




「こちらが店で選りすぐった高品質の魔具になります。

 デザインに関しましても自信を持ってお勧め出来る代物です」



 そう言って並べられた魔具を一つ一つ確認する。


 通信用魔具と言っても、大きさだけでなく形まで様々なものがある。

 手の平ほどの大きさの長方形のものから、懐中時計のようなものや耳に掛けるイヤーフックのような装飾品のようなものまで。



「随分色々種類があるんですね」


「はい、今女性の方に人気なのは、この最新のイヤーフックですね。

 従来の手に持って使う物と違い、手は空きますし軽量。

 しかも本物の装飾品と変わらぬ美しいデザインになっておりますので、魔具としてだけではなく普段使われるアクセサリーとしても使え、お嬢様方に大変人気でございますよ。

 こちらにあるデザインが気に入らなければ、オーダーメイドも可能です」



 店員が言う通り、進められた品は宝石が使われている大人っぽい綺麗なものや可愛らしい装飾が施されたものなど、とても魔具とは思えない普通のアクセサリーのようだ。



 ユイは悩みに悩んだ結果、白い花をモチーフにした可愛らしいデザインのイヤーフックの魔具を選んだ。



「これにします」



 値段的にも報酬金額内で収まり、満足した買い物が出来た。



「お買い上げありがとうございます。

 最終調整もございますので、一時間ほどお時間を頂きたいのですが、店でお待ちになられますか?」


「えっと……パパ」



 ユイは確認の為、後ろを振り返り少し離れた所にいたレイス達を呼ぶ。 



「どうかしましたか?」


「調整に一時間掛かるからどうするかって」


「……一時間ぐらいなら店で待ちましょうか?

 店内の魔具を見ていたらすぐに時間が来るでしょう」



 ユイとしても、他の魔具が気になっていたのでレイスの提案は願ってもない事だった。

 もっとも、それを見越してレイスが提案したのだが。



「どうぞ楽しんでご覧下さい。

 店には最近出たばかりの新しい魔具も沢山ございますから。

 お手に取って見たい場合は近くの店員に仰って下さい」


「はい」



 店員が魔具を持って下がり、ユイは店内を見回していく。



 魔具は一つ一つがかなり高価だ。

 中には一般家庭でも手に出来る安いものもあるが、そういった物は安い分機能も簡単だったり粗悪品だったりする。


 高い性能や効果を求めるなら必然的に値段も高くなってくる。

 なので、今までのユイにはとても手に入れられるものではなく、一度も入った事の無かった魔具専門の中でも高級品を取り揃えているこの店内は、珍しさと驚きで見ていて楽しい。



 しかし、幾つかの魔具を見ていく内に、ふっとユイにある思いが過ぎる。



「どうかしたのかユイ?凄い難しそうな顔してるぞ」



 どうやら考え込んでいる内に眉間に皺が寄ってしまっていた。



「………ねえ、カルロ兄様。

 魔法学園って二年になったら選択授業で魔具の作り方を教えてくれるんだよね?」


「ああ、そうだぞ。俺とセシルも授業取ってるな」


「魔具ってどう作るの?」


「まあ、簡単に言うと、魔法を展開して発動前の状態の魔法を無機物に定着させるんだ。

 そうしたら魔法の機能が物質に刻まれる。

 でも学園で教えるのは簡単な機能の魔具だけだ。

 複雑な構築式の魔法になればなるほど、定着させるのが難しくなるからな。

 それがどうかしたか?」



 この場でこんな事を言って良いのだろうかと言いづらそうにしながら、声を落として話す。



「………うん、なんか魔具を見てたらね、私でも作れるのかなあって思ったの。

 カルロ兄様の話聞いたら、なんだか作り方は簡単そう。私でも出来そうかも」


「…………」



 こんな高級店の高額な魔具を作れそうなどと、店に喧嘩を売るような言葉、普通ならば「何馬鹿な事言ってるんだ」と突っ込むところだが、何せ相手はユイだ。


 国の研究者すら見つけられなかった魔法を作ったユイだけに否定する事が出来なかった。



「…………うん、まあ、来年選択授業で魔具の授業を勉強してからで良いんじゃないか?」


「そうだよね、じゃあ来年の為に今の内に作りたい魔具の機能と構築式を考えとこう」



 本当に楽しみなのだろう。

 あまりに嬉しそうに話すユイに、カルロは言えなかった。


 魔具の選択授業は初級・中級・上級・専門とあり、それぞれ一年ずつ。

 魔具の実践は上級からで最短でも四年生からという事を。







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