リーフェ
授業を見学しながらルエルから渡されたお菓子を二人で頬張る。
「ねえ、マルクはリーフェなのにどうして魔法学園に入ったの?」
「僕は教会に入りたいんだ。
昔からリーフェって事でいじめられてたから、弱い自分が嫌で見返してやりたいって不純な動機なんだけどね。
教会ならリーフェの人も何人かいるらしいから、魔法を勉強して教会に入ることが出来たら見返せるんじゃないかって思って。
僕は回復魔法と筆記試験の出来が良くて魔法学園にはなんとか入れたけど……まさかこんなに見学ばっかりとは思わなかったな……」
マルクは人差し指で頬をかき、苦笑を漏らした。
魔法には火・水・風・地・無の属性を持つものがあるが、現在使われている魔法のほとんどが、無以外の四つの基本属性で構成されている。
しかし、原因は定かではないがリーフェと呼ばれる体質の人にはそれら四つの属性の魔法を発動できない。
魔法には他に、治癒・転移・増幅などの補助的な魔法である無属性があり、この属性ならばリーフェでも扱える。
だが、この無属性の魔法は魔力の制御が非常に難しく扱いづらいという欠点があった。
四属性と違い、無の魔法は使えなくても困らないものが多く、使う者も少ないのであまり重要視されていない。
治癒魔法のように多くの場で使われる重要なものもあるのだが、水属性の中にも治癒魔法があるので、わざわざ扱いづらい無属性で覚える必要はないのだ。
基本的にリーフェは魔術師として落ちこぼれと認識されており、魔法以外を勉強する他の学校がある中、魔法をわざわざ学ぼうとする者も少ないので魔法学校にリーフェは学園全員を合わせても十人に満たない。
その為、基本の四属性を勉強する授業がほとんどで無属性の授業が行われず、ユイとマルクの二人はいつも見学する羽目になっている。
「二年になれば選択授業で無属性の授業があるけど、あまり力入れてないみたいだし、結局独学でなんとかするしかないかな……はぁ…。
ユイちゃんはどうして魔法学園に?」
すっかり意気消沈してしまったマルクは気を取り直し、今度は同じリーフェであるユイに聞き返した。
「私は推薦が取れて、ルエルちゃん達も行くし、それなら行こっかなって」
マルクは目を見開いて驚きを露わにする。
「えっ、推薦!?
推薦はかなり優秀な人じゃないと貰えないのにどうやって!?」
「うん、それは……」
ユイが答えようとすると……。
「おい」
話を途中で遮られ、誰だとユイとマルクが視線を向けると……。
目尻の吊り上った見るからに偉そうな態度の上級生の男が後ろに数人引き連れ立っていた。
学年とクラスは制服のネクタイの色とそこに書かれている数字で分けられいて、そこから直ぐに三年のAクラスだと分かった。
「お前がユイ・カーティスか?」
「そうですけど何か?」
あからさまな高圧的な話し方に気分が悪くなり眉をしかめるが、一応上級生という事でユイは敬語で話した。
「へえ、噂通りだな、俺はバッツ男爵家のノレ・バッツだ。
お前、今日から俺の女にしてやるよ」
「「……………はっ?」」
ユイとマルクは耳を疑い唖然となった。
きっと聞き違いだそうに違いない。
「嬉しいだろ、俺が直々に付き合ってやるって誘いにきてやったんだ」
だが、残念ながら聞き違いではないらしい………。
「……え……遠慮しておきます」
初対面から告白、しかも上から目線というあまりに突然の話に呆気にとられながらも、ユイは何とかその言葉だけ絞り出した。
「恥ずかしがらなくて良い」
「いやいや、恥ずかしがってるんじゃなくて……」
「そうか、きっと俺が男爵の家だから身分不相応だと思ってるんだろう?
気にするな俺は懐の広い男だからな」
ノレは全く話を聞いた様子もなく見当違いな事を言う。
おそらくユイが断るなどとは微塵も思っていないのだろう。
「ねぇどうしようマルク、話通じないんだけど」
「うーん困ったね、完全に自己陶酔に浸ってるみたい。
ここまで話を聞かない人も珍しいよね、びっくりだよ。
というか今授業中なのになんでいるんだろ?」
「サボリじゃない?」
「三年の先生にサボって女の子口説きに来てますって言ったら引き取ってくれるんじゃないかな」
二人は相手に聞こえないようコソコソと話す。
「おい、聞いてるのか!」
「…………聞いてますよ。
取りあえず、あなたとは付き合わないです。
先に初対面の人に対する礼儀を学んできて下さい、っていうかサボって何してるんですか?」
これ以上話しても埒があかないので、ユイはバカにも分かるように、ゆっくりはっきりと言った。
バカと話をするのは疲れるから早く終わらせたかった。
「なんだと!
男爵の俺が庶民と付き合ってやると言ってるんだ来い!」
「いたっ、やめて!」
「ユイちゃん!」
断られると思っていなかったのだろう、一瞬呆気に取られた後、意味を理解する。
ユイにはっきりと断られたばかりかサボリを指摘されてしまい、プライドが傷ついたのか顔を真っ赤にし逆ギレすると、ユイの手首を引っ張り無理矢理連れて行こうとした。
すぐにマルクが止めに入ろうとしたが、ノレが連れていた取り巻きらしき生徒に突き飛ばされ行く手を阻まれた。
「ふん、リーフェごときが勝てると思ってるのか!」
その時、
「ちょっとあんた、ユイに何するのよ!!」
不穏な気配を察知したルエルが恐ろしい速さで走ってきてノレに跳び蹴りを食らわした。
「ぐへっ!」
ノレはそのまま吹っ飛ばされ壁に激突、ルエルの方はスタッっと綺麗に着地。
「「「お見事」」」
華麗な跳び蹴りに見ていた全員が思わず拍手した。
「なっ何をする!俺は男爵の」
「だったら何だって言うのよ!?
大体貴族だって言うんだったらもっと紳士的に口説きなさいよ!
そんな上から目線であんたの女になる訳ないでしょ!
自分はモテるって勘違いするのは良いけど、他人に…特にユイに迷惑かけるんじゃないわよ!!」
ルエルのあまりの迫力にノレは完全に腰が引けているが最後の意地か、口だけは回った。
「こんな事してただで済むと思っているのか!」
「ありきたりな返しね、もっと気の利いた捨て台詞吐いたらどうなの」
「くっ、この庶民がっ!」
「あれ~、そんな事言っても良いのかな」
「なっなんだ」
横から人の良い笑みを浮かべたフィニーが現れ、及び腰のノレの耳に近づき何かを小さく話す。
その何かを聞いたノレはユイの方に視線を向けると、次第に顔が青ざめブルブルと震えだした。
すると、勢い良く立ち上がり、そのまま怯えて逃げるように立ち去ってしまった。
ノレが連れていた生徒も慌てて後を追う。
「何言ったの?」
「ナイショ」
自分の顔を見て怯えて去った事を不審に思い理由を聞いたがフィニーは答えない。
こうなると何を言っても無駄だと、付き合いの中で理解していたユイは、聞き出すのは諦め助けてくれたルエルにお礼を言う。
「ありがとう、ルエルちゃん」
「いいのよ、ユイが無事なら」
ユイの無事を喜び抱き付くルエルに、行動を起こす前に先にお姫様を救出された男2人は……。
「男前だねルエルは」
「だな」




