思わぬ幕切れ
「あっ、ユイの順番が来たみたいよ」
「それじゃ、ちょっと行ってくるね」
ユイはさっさと終わらそうと心に決め歩いていく。
ガーゼスと向かい合うように立ち位置に立つと、案の定こちらを睨むガーゼス。
なにか不穏な空気を感じ取ったのか、トラヴィスが心配そうにユイに声をかけてきた。
「おい、カーティス大丈夫か?
お前はリーフェなんだから、後で追試を受ける事になるが試合の棄権が出来るぞ」
もちろんそのつもりでいたユイは、棄権すると言おうとしたのだが……。
「逃げるのか?やっぱり裏で何かしてたんだろ。
そうそう、お前オブライン兄弟の妹らしいな。
バルカスかと思ったが大会の時はあの二人が裏で手を回してたんじゃないのか。
あの二人は王子とも親交があるから裏で操作するぐらい簡単だろ」
口の端を吊り上げガーゼスが挑発するように吐き出した言葉に、ユイは溢れそうになる怒りを手を握り締め抑える。
状況は全く分からないが、流石に王族に対し無礼と取れる発言にトラヴィスがたしなめようとするが、先にユイが口を開いた。
「……トラちゃん、早く開始の合図して」
「はっ?棄権しないのか?」
「しない」
棄権すると思っていたユイから発せられた言葉が全く違ったもので、トラヴィスは思わず聞き返すがユイの気持ちは変わらない。
挑発と分かってはいるが何度も大事な人達を侮辱されて大人しくしていられなかった。
「えっ!今ユイちゃん棄権しないって言ったよね。
そんなのだめだよ、止めないと!」
相手はAクラスで去年の大会で上位にまで残った人物で、無属性以外使えないリーフェのユイが勝てるような相手ではない。
ましてや相手はユイに対し、並々ならない敵意を抱いているのだ。
マルクはユイがぼろぼろに叩きのめされる光景が目に浮かびオロオロと動揺する。
「バカだなぁ、あいつ」
「バカってそんな言い方ないじゃないか!
ユイちゃんが心配じゃないの!?」
マルクはゲインの心無い発言に怒りを露わにした。
いつも大人しいマルクに怒鳴られたゲインはたじろいだ。
「ちょっとマルク落ち着いて」
慌ててルエルが止めに入る。
「バカって言ったのはユイにじゃなくてガーゼスにだよ」
「へっ、ガーゼス?」
「ユイは棄権するつもりだったのにガーゼスが挑発してユイを怒らせてバカだなって事だよ」
「でも相手はAクラスだよ。
それにユイちゃんはリーフェだしボロボロにされちゃうよ!」
マルクはユイの事を言ったわけではないと理解したが、心配が無くなったわけではない。
「見てれば分かるよ」
フィニーにそう言われ、しぶしぶ始まる試合に目を向ける。
「俺が身の程というのを教えてやる」
「カーティス、本当に良いんだな?」
トラヴィスが確認を取るとユイは頷き肯定を示す、その間もユイが睨み付けた視線を外すことはない。
「はぁ、分かった……では、始め!!」
何かあれば直ぐに止めようと思いながらトラヴィスにより開始の合図がされた次の瞬間……。
「……はっ?」
「えっ」
「っ……」
トラヴィスも試合を見ていた者達の多くが我が目を疑った。
試合開始の合図直後にユイは詠唱を口にしたが、それは普通の詠唱の詩とは明らかに短く、ガーゼスが行動を起こそうとする前には詠唱を終え魔法が発動していた。
そのため、開始数秒でガーゼスは何も出来ぬまま吹っ飛ばされそのまま気絶したのだ。
誰もがリーフェであるユイが直ぐに負けると思っている中、実力のあるガーゼスに一瞬で勝利を決めたユイに多くの者が唖然として固まった。
「トラちゃん、判定」
トラヴィスも例外ではなく固まっていたが、ユイに声をかけられ我に返る。
「あ…ああ、カーティスの勝ちだ……」




