好きな人
食堂に姿を見せたセシルとカルロは、次から次へと一緒に食べないかといった誘いを男女問わず周りから何度も受け、それを軽く受け流しながらユイ達の元に来た。
「待たせたね」
「いいえ。それより……なんて言うか凄いですね。いつもこうなんですか?」
諦めきれないのか、断られた人はセシルとカルロと一緒に食事をすると思われるユイ達に、羨望や悔しげな眼差しを向けている。
「まあ大体ね」
セシルも困ったような笑みを浮かべる。
貴族で能力も高く、王子たるフィリエルとも仲の良い二人は将来的にも有望視されており、学生の今の内に繋ぎを取ろうとする者や将来の妻の座を狙う者が沢山いる。
ご飯を一緒に取るという理由を作る機会があるこの昼休みの時間が一番近付きやすいのだ。
「取りあえず食べようぜ、ユイは何が良い?」
「Aセット」
「よし、お前等も早く決めろよ」
カルロはちゃっかりユイの隣の席を確保し、給仕を呼んだ。
この辺りもユイ達がいつも使う食堂とは違う。
「給仕までいるのかよ」
自分達との差別とも言える違いにゲインは怒りより呆れが先立つ。
「元々は他と同じで自分で取りに行く形式だったみたいだけど、ここは貴族や金持ちの家が多くて、平民の家の生徒を使いっパシりにして取りに行かせる者が多くてね。
それは問題だろうと給仕の者を雇うことにしたらしい」
その理由に全員が納得する。
皆が皆そうではないが、貴族や金持ちの家の子の中には親の力を自分の力と勘違いした傲慢な性格の者が少なからずいるからだ。
「で、お前等の中にユイを好きな奴いるのか?」
注文を終え料理が来るまでの間にカルロが前触れなく男三人に聞いた。その顔はじつに楽しそうだ。
しかし、レイスと同じような質問をするカルロに、ゲインとフィニーは悪夢の再来かと顔を青ざめなから首を横に振って強く否定した。
一方のマルクは答える前に顔が赤くなり、それを見たカルロはニヤリと笑った。
「そうかそうか、よぉく分かった」
そう言いながらマルクの背中をバンバンと叩いた。
レイスのように暴走する事もなかったカルロに、ゲインとフィニーはほっと息を吐く。
妹大事だが常識はあるようだ。
これがレイスだったならマルクの命が危なかっただろう。
ちなみにこの時、ユイはセシルに耳を塞がれていたのでこの会話は聞こえていない。
「セシル兄様、何で耳塞ぐの?」
「何でもないよ」
耳から手を離され、不思議そうにセシルに聞くが笑顔ではぐらかす。
「そういうカルロさんは彼女いないのか?」
ゲインが仕返しとばかりにカルロに聞いた瞬間、周囲は妙な静寂に包まれた。
浮いた話し一つない双子の恋愛事情を聞けるかもしれないこの事態に、こっそり聞き耳を立てていた女子達が聞き逃すまいと話を止め、そしてその雰囲気に押された男子達までもが話すのを止めて異様な雰囲気を作っている。
「フッフッフッ、それはな」
「それは……?」
女子達も今か今かと息を呑み言葉を待つ、そしてカルロが口を開いた。
「言うわけないだろが!」
「人には聞いといてそれかよ」
「セシルさんは?」
「秘密」
セシルは爽やかな笑みを浮かべながらさらりとかわさす。
「じゃあ、ご飯食べよう」
「うん」
その答えに、聞いていた者達は一気に脱力し異様とした雰囲気も普段のザワザワした食堂に戻った。




