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ライル

「は~い、そこまで」



 睨み合う中、前触れもなく横から口を挟まれた。

 一触即発の空気に水を差され、呆気にとられた全員の視線が突然現れた人物に向けられる。



「何のつもりだカミュ」



 ガーゼスにカミュと呼ばれた人物は茶髪で鼻筋の通った、女性が好きそうな容姿をしている。

 貴族が多く、制服をしっかりと着用している中で少し着崩している生徒は目立つが、それが彼らしいと思えるほど違和感はない。



「何のつもりも何も、野郎が女の子を苛めてるから助けに来たのさ!」



 何が楽しいのかヘラヘラとしながら答える。



「お前には関係ない、第一苛めではなく身の程知らずに己の立場を教えていただけだ」


「そうかそうか、女の子に優しくしない奴は敵だな。

 俺が怒る前にとっととどっか行ったほうがいいよ~」


「だからお前には関係ないと……」


「聞こえなかったのか、行けよ」



 引き下がろうとしないガーゼスにカミュと呼ばれた人物は先ほどまでのヘラヘラした表情を消し去り、地を這うような低い声を出し牽制した。



「くそっ」



 刺すような視線を向けられ、ガーゼスには先ほどまでの勢いはなくなり、そのまま踵を返し去っていった。




「大丈夫だった、ユイちゃん?」


「ありがとう、ライル」



 ユイは彼をライルと呼び、とても親しそうに話す。



「知り合い?」



 親しく名前で呼び合う二人にマルクはルエル達に聞いた。



「彼はライル・カミュ。マルクも名前ぐらい聞いたことあるんじゃない?」


「ライル・カミュって、大会で準優勝したあの!?」



 フィニーから名前を聞き、驚いて目を丸くする。



「そうそう、こいつとはクラスは違ったけど同じ中等学校で、よく連るんでたんだよ」


「凄い人と知り合いなんだ」



 最下位のクラスにいるマルクから見たらAクラスの人と関わる機会など皆無で、その上八強まで残る実力者ともなれば憧れの対象とも言える。

 しかし、ルエルはそれを一蹴する。



「マルク、八強だからって夢見ちゃだめよ。

 ライルの中身はただの女好きなだけなんだから」


「ルエルちゃんは相変わらず手厳しいな~。

 女好きじゃなくてフェミニストと呼んでくれたまえ」



 いつもこうなのか、ルエルの軽蔑を含む視線にも軽く返す。



「それより助かったよ、あの馬鹿のせいで一触即発って感じだったからね」


「合宿に出れなかったのは自分が弱いだけだってのに」


「まあ自分が合宿に出れないだけが理由じゃないと思うけどね~」



 ライルの言葉に全員が注目する。



「どういう事?」


「ガーゼスは去年の大会の時、次に勝ったら準々決勝で八強入りってとこで、こてんぱんに負けちゃってさ。

 ガーゼスに勝った相手が次の準々決勝の時に試合開始直後の戦う前に降参しちゃって~。

 その対戦相手がユイちゃんでさ、ユイちゃんは一度も戦わずに準決勝に行ったことになるから勝手に敵意持ってるみたい」



 つまりは間接的な要因による逆恨みにあっていたようだ。

 全くもって理不尽な理由に被害者であるユイ達は脱力する。

 どう考えても恨むならユイではなく戦わずユイに降参した人物だろう。



「何よそれ、つまりは自分に勝った相手が戦わずに降参したからその相手のユイに怒りをぶつけてるだけじゃない!」



 ガーゼスの理由を聞いてルエルの怒りが再燃する。



「ルエルちゃんの言う通りなんだけど、

 そもそも関わりないないだろうに、何であいつ突然言い掛かりつけてきたの?」


「ユイが試合であいつとあたるんだよ」


「それはご愁傷様」



 誰に向けたものなのかライルは憐れむ言葉を口にした。



「ライル君、まだ~?」



 ちょうど話が切れた時、離れた所から女の子数人がライルを呼んだ。



「おっと、女の子達待たせてるからまたね~。

 ユイちゃんは合宿で会おうね」



 それだけ言うとライルは足取り軽く女の子達の所に行ってしまった。




「相変わらずハーレム作ってんだな。

 あんなチャラ男が強いなんて詐欺だよな」


「全くだわ。過去に負けた人達も納得いかないでしょうね」


「でもライルはかなりモテるよ」


「顔だけは良いから」


「格好良かったもんね」



 などと話し合っている内に食堂の入口が少しザワザワしているので顔を向けると、セシルとカルロが来ていた。






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