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授業

 魔法の授業は消耗も激しい事から基本的に午前中に教室での授業、午後から移動して魔法の授業となっている。



 授業が始まり午前中は順調に終え、昼休みを挟んだ午後からは魔法の実践授業が始まる為、授業する場所に移動していた。



 他のクラスメートは今日はどんな魔法を使うのだろうとお互いに話し合って楽しそうにしているのだが、その中でユイだけが憂鬱そうな表情を浮かべていた。



「いつもの事だけど元気出せよ」


「でも仕方ないよね、毎回見てるだけって退屈だし」


「もういっそ午後は授業しないで帰りたい。

 パン屋の手伝いしてる方が絶対に良い……」


「まあまあ、ほらお菓子あげるから元気出して、授業の間こっそり食べるのよ」


「ありがとう!」



 中等学校からの付き合いで、ユイの扱いを心得たルエルがお菓子を渡すと一転して嬉しそうに顔を綻ばす。



「じゃあ私達は行くから大人しくしてるのよ」


「うん」



 ルエルはまるで子供に言い聞かせる母親のように言うと、ゲイン、フィニーと一緒に他のクラスメートが集まっている場所に向かった。



 ユイはクラスメートから少し離れ、段差のある場所に座り込んだ。


 先生の話を聞いた後、教えられたら魔法を使い楽しそうに授業をしている生徒達を遠目にしながら、ユイはただ見ているだけの退屈さに魔法学園に入ったのは失敗だったかなと思っていた。


 少しすると、ユイの所にくせっ毛の金髪に金目の男の子が歩いてきた。



「一緒していい?ユイちゃん」


「うん」



 彼はIクラスのマルク・レノン、魔法の授業ではIクラスと合同になることが多く、彼もユイと同じ見学組みだ。



 時々話をしながら、しばらくは始まった授業の様子を見ていたのだが、その間マルクがチラチラと何か言いたそうにユイ窺っている。


 見られているのを気付いていたが、ユイは話を振ることなく放置していると、漸く決心がついたのか意を決したように話し始めた。



「あのさ!」


「……何?」


「あの……僕ってユイちゃんに何かしたかな?」


「??」



 ユイには何かされた覚えもした覚えも無い。マルクが何のことを言ってるのか分からずキョトンと目を丸め首を傾げた。



「あの…だって、ユイちゃんがいつも一緒の三人といる時は、なんて言うか……楽しそうって言うか…。

 だけどこうして僕と話してても全然楽しそうじゃなくて、笑ったとこも見たことないから。

 僕何かしちゃったんじゃないかって……」



 不安になってきたのか、語尾が段々と小さくなっていくマルク。


 しどろもどろになりながら話すマルクの言いたい事が分かりユイも漸く納得した。


 確かに入学して三ヶ月、見学仲間のマルクとはほぼ毎日顔を合わせている事になるが、笑って話したような記憶は無い。


 しかし、それはマルクが何かしたとかユイの機嫌が悪いとかではなく、ユイにとってはそれがいつもの表情なのだ。



 昔から表情が乏しい事はユイ自身も理解していた、それが原因で以前は友人が出来なかったものだ。

 過去多くの人が、笑わないユイに影でコソコソ陰口を言っていたり、気持ち悪いだのと悪口を言われたりしていた。

 悪意無く面と向かって何故と聞いてきたのはユイにとって初めての友人となったルエル達だけだった。


 マルクにも悪意は感じられない、ただ純粋に笑わないユイに自分が何かしたと不安になっているようだった。


 あまり自分の事は話さないユイだったが、このまま誤解させたままでは可哀想だと口を開いた。



「全然そういう事じゃないよ。

 笑わないのはマルクが何かしたとかじゃなくて、私元々表情に出にくいだけだから気にしないで」


「でも三人といるときは違うよね、笑ってるのよく見るし、さっきだって……」


「ルエルちゃん達とは中等の時からの付き合いだからね。

 私だって家族や親しい人の前では普通に笑ったりするよ。

 まあ、普通の人より少ないと思うけど……。 

 これでもね、大分ましになったの。

 ルエルちゃん達に会った頃は一番酷くて、私も友達なんて要らないって感じだったし、でもしつこいぐらい仲良くしてくれて、今では多少表情が出るようになったって言われるんだけど……」


「……そうだったんだ、ユイちゃんごめん!嫌な事聞いちゃって!」



 昔の話をするユイの表情が陰を見せ、マルクは慌てて謝罪する。



「ううん、むしろ嬉しい。

 表情に出すの苦手だから今まで誤解させて色々言われたりしてたから。

 でもマルクは悪意あってとかじゃなく、ただ自分が何かしたんじゃないかって心配してくれただけでしょう?

 だから、ありがとう」



 そう言ってユイはほんの少し笑みを見せた。


 初めてユイの笑顔を見たマルクは顔を真っ赤にした。



「ぼ…僕頑張るよ!ユイちゃんがお腹抱えて笑えるぐらい笑わせてみせるよ!!」


「うん、ありがとう」




 少し離れた所では、HクラスとIクラスの面々、その上、担当の教師がその様子を興味深々に盗み見ていた。



「ねえ、向こうでなんか青春してるよ~」


「ふっ、さすがユイね、入学して三ヶ月しか経ってないのにマルクを仕留めたわね」


「また哀れな被害者が出たか」



 などとフィニー、ルエル、ゲインが口々に話している。

 他にも、若いっていいなと言って遠い青春時代に思いを馳せる先生や、キャーと楽しそうに悲鳴を上げる者や、やるなぁと感心する者など授業中断で楽しそうに騒いでいた。







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