実技試験 ゲインVS
筆記試験の発表から数日後、今日から実技の試験が始まる。
入学して初めての実技試験とあって、教室内にいる生徒達は落ち着きがなく、至る所で試験内容について話し合っている。
とは言え、下から数えた方が早い実力が集まるこのクラスでは、試験の緊張感はさほど無く、いたって気楽で寧ろ楽しそうにしている。
「全員静かにしろー!これから実技試験の説明するぞ」
トラヴィスによりざわついていた教室内が静かになる。
「実技試験は試合形式だ。
AからIクラスでランダムに選ばれ行われる、その為教師にも誰と誰が当たるかは分からん」
生徒の一人が声を上げる。
「それって俺達がAクラスと当たる可能性があるってことですか?」
「そうだ」
「えー、嘘だろー!」
「当たったら絶対ぼこぼこに負けるよぉ」
教室中のあちこちで非難と諦めの声が上がる。
自分達の実力に期待はしていないが、一つ上のクラスぐらいなら勝てる可能性はあれど、Aクラスともなればどれだけ運が良くても勝てる可能性はない。
流石に一方的にやられるような無様な姿は見せたくないと思う矜持はあるのである。
「静かにしろ!
まあ、勝てるのに越したことはないが、試合中の戦い方や判断力も見て判断するから負けたからといって悲観するな」
「それって何か結果残す前に瞬殺されたらどうすんの?」
「……自分の運の悪さを恨め」
生徒達は絶対Aクラスと当たらないように祈った。
「試験は一年生から五年生まで全員してるから自分の順番以外の時は他の学年の試験も見に行って良いぞ。
それじゃあ、順番に番号札取りに来い」
トラヴィスに促され番号の書かれた札を取りに行く。
「全員札は取ったな?
この試験が終わったら夏休みに入るから全員気合い入れて、当たって砕けてこい!」
いやいや、砕けちゃ駄目だろうと生徒達は心の中で突っこんだ。
トラヴィスの話が終わり、ユイ達は自分達の順番を確認しに教室を出る。
一年生の試験が行われるのは授業でも使っている場所で、そこに順番と対戦相手が掲示板に出される。
「私の番号は……あった、相手はBクラス!?」
「俺はEクラスの奴だな」
「あんただったらEクラスぐらいは勝てるから良いじゃない。
ねえ、ユイとフィニーは?」
ルエルがユイとフィニーの方を見ると、ユイは険しい顔をし、フィニーは不敵な笑みを浮かべていた。
「どうしたんだ2人共」
「…………った」
「えっ何だって?」
呟いたユイの声が小さくて聞き返す。
「僕とユイは相手がAクラスだったんだよ」
「えっ!マジ?」
ルエルとゲインは二人の番号と対戦相手を見る。
「ちょっと、しかもフィニーの相手は去年の大会の時上位までいった人だし、ユイの相手もAクラスの成績上位者じゃない!」
「どうするんだよ」
「どうするって、決まってるじゃないか、徹底的に潰してプライドをへし折るさ。ふっふっふっ」
「黒い……」
口の端を吊り上げ笑うフィニーに、ルエルとゲインは対戦相手の無事を密かに祈った。
「ユイはどうするのよ?」
「大丈夫、開始直後に降参するから」
「いや、ちょっとぐらい戦えよ」
「やだ」
即答するユイにがっくりと肩を落とす。
「こいつらを心配する必要なんてなかったな……」
「まぁ良いじゃない、ユイは降参が認められてるわけだし」
リーフェが唯一使える無属性には攻撃が出来る魔法が少ない上、授業も余りない。
その為、もちろん戦えるならばそのまま戦えるが、後日補習を受ける条件でリーフェには試合の辞退が認められてる。
「それより、ルエルちゃんとゲインはいつ頃試験?
私とフィニーは午後からみたいなんだけど」
「えっと……私達は午前中ね。
って、ゲインあんた最初の方じゃない!
早く行かないと失格になるわよ!」
「げっ本当だ!やばい」
ゲインは慌てて試験場所に向かって走り、ユイ達も後を追う。
着いたときにはすでに最初の試合が終わって、一つ前の試合が始まっている所だった。
「おっあれってマルクだな」
「本当だ」
マルクが試合用に三十メートル四方にラインの引かれた中央に、対戦相手と向かい合うようにして立っている。
周りには同じようにラインが引かれた場所が他に三つある。
人数が多い為、四つが同時進行でそれぞれ試合を行っているようだ。
教師により試合開始の合図がなされ、同時に二人が動く。
しかし、マルクはリーフェなので基本魔法は一切使えない。
元々マルクは無属性の回復魔法が人より優れていたお陰でこの学園に入れたのだ。
その上、無属性の魔法の授業は入学してまだ一度も行われていないので、マルクには攻撃に対抗する術を持っていなかった。
相手の攻撃をなんとか避けつつ防御魔法で防ぐが逃げるだけの試合がずっと続くはずもなく、直ぐに相手の魔法により防御魔法が壊れ倒されてしまった。
「そこまで!
ちょっと待ってろ、直ぐに治してやるからな」
攻撃魔法をもろに食らってしまったマルクは多くの怪我を負ってしまっていた。
教師が直ぐに回復魔法をかけ、ユイ達がマルクに駆け寄る。
「マルク大丈夫?」
「あはは、みっともないとこ見せちゃったかな」
「馬鹿何言ってやがる、頑張ったな」
「ありがとう」
ゲインの激励にマルクは笑顔で答える。
「ねえ、マルクあんた何で直ぐ降参しなかったの?
リーフェは特例で、降参できるでしょ」
「確かに、お前回復魔法しか出来ないんだろ?」
「……何とかなるかなぁって……あははは」
楽観的なマルクに全員が呆れた視線を向ける。
どう考えても回復魔法と防御魔法だけで試合に勝つなど無謀だ、どこからその自信が出てきたのか不思議でならない。
***
続いてゲインの順番が回ってきた。
「よし、やってやる!」
ゲインが気合いを入れ試合場に入って行くと対戦相手のEクラスの女子生徒も入って来た。
「あなたHクラスでしょ。
悪いけど勝たせてもらうわね」
「随分やる気満々だけど、俺だって負けてないぜ」
お互い睨み合う中、合図がなされた。
「それでは始め!」
先手必勝とばかりに、女子生徒は直ぐに詠唱すると氷の塊がゲインを襲った。
ゲインはそれを難なくかわすと、詠唱して火の玉の魔法で応戦する。
その後も氷と火の魔法でお互い打ち合いが続き、もはや魔力が切れた方が負けという消耗戦。
しかし、氷が火によって溶ける事で辺りが水蒸気により段々と視界が悪くなってくる。
その時、ゲインが今までより強く魔力を込め魔法を放つ、すると女子生徒も対抗するために、より多くの魔力を込め魔法を放った。
放たれた大量の氷は、ゲインの火によって一気に蒸発し視界を奪う。
それにより、女子生徒はゲインの姿を見失ってしまった。
「しまった!」
次の瞬間、ゲインが目の前に現れ女子生徒は地面に倒される。
「そこまで!」
「勝ったぞ~」
ゲインは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねながら戻ってくる。
「はいはい、分かったから」
「水蒸気を利用したのか、ゲインにしてはよく考えたね」
フィニーに同意するようにユイがコクコクと頷く。
「凄い!凄いよ!カッコ良かったよ」
マルクは目をキラキラさせ、ゲインを尊敬の眼差しで見る。
気を良くしたゲインは得意げにふんぞり返る
。
「そんな褒めるなよ、照れるだろ」
「そうよマルク、ゲインは褒めると直ぐ調子に乗るんだからダメよ」
ゲインが終わるとユイ達はこれからを話し合った。
「ゲインが終わったから次はルエルだね」
「だけどルエルちゃんは午前中の最後の方だよ」
「それなら他の学年見に行きましょう。
四年生の見に行きたかったのよ」
「おし、それなら早速行こうぜ。
マルクも一緒に来いよ」
「うん」
先ほど褒められたのが余程嬉しかったのか、マルクと肩を組み歩いて向かう。




