屋上
ユイが向かったのは先ほど外に見えた屋上。その屋上を見た時に見知った人影が見えたのだ。
屋上の扉を開け見渡すと、ユイが思った通りの人物がいた。
「やっぱりエルだ」
「ユイ、どうした?」
フィリエルは突然現れたユイに目を丸くする。
「屋上に人がいるのが見えて、何となくエルだと思って見に来たの」
ユイは、驚くフィリエルの隣に座る。
「いつも此処でサボってるの?」
「ああ、大体サボる時は此処にいる」
「なら、私も今度からちょこちょこサボリに来ようかな」
「良いのか?それにもう直ぐ授業始まるぞ」
「Hクラスだから、ちょっとぐらい問題無いよ」
ユイはふぅと溜め息を吐く、その疲れたような様子にフィリエルが問う。
「どうしたんだ、随分疲れてるみたいだな」
「うん、さっき色々あって……」
先程あった出来事を話すとフィリエルは肩を震わせて笑った。
それを見てユイは不機嫌になる。
「笑い事じゃないよ、本当に面倒臭かったんだから」
「ごめんごめん。
あの教師は俺もよく知ってる。
俺達が入学したての頃、セシルにけんか売ってたからな」
その話を聞いた瞬間ユイに戦慄が走った。
「よりにもよってセシル兄様にけんか売ったの!?
でも明らかに自分より弱い相手しかしないはずじゃあ」
「ああ、あいつ見た目は温厚でおとなしそうな優等生だからな、反撃して来ると思わなかったんだろ。
セシルのやつ完膚無きまでに反撃した後、ファンの女生徒使って大勢の前で恥をかかせて、それ以降セシルを視界に入れるだけで逃げていくんだ。
……あの時ほどあいつを怒らせないようにしようと思った事はなかった」
なんと言うことだ………。
セシルはその見た目に反して怒らせると本当に怖い。
無駄に頭が良い分相手の嫌な所をついて、徹底的に潰しにかかるのだ。
「また何かあったらセシルの妹だと言えば大丈夫だろ。
でもまぁ、魔王が父親だと知ったら二度と突っかかって来ないだろうが」
「うん」
フィリエルの言ったようにあの魔王相手に喧嘩を売る度胸はないだろう。
「それよりエルは何で此処の屋上?
北棟からは少し離れてるでしょ」
「…………………」
フィリエルは何故か言葉に詰まる。
「エル?」
「………あー、何て言うか………此処ならユイの所にも近いからな、もしかしたら少しぐらい様子が見れるかと思ったんだよ」
言いづらそうに話しながら片手で顔を隠す、その顔はほんのり赤くなっている。
姿を少しでも見たくて遠くからこっそり眺める。それはまるで………
「………エル、乙女だね、それかストーカー?」
「ぐっ……」
その言葉にフィリエルはショックを受ける。その様子が可笑しくて、クスクスと笑う。
フィリエルも自分と同じように会いたいと思ってくれていた事に嬉しくなる。
ユイはその場で体を倒し寝転び、フィリエルはそんなユイを穏やかに微笑みながら見つめる。
「もう直ぐ夏休みだね」
「ああ」
「休みに入ったらこうして会えなくなっちゃうね」
「学校では会えないが、休みに入ったら二人でどこか出掛けよう」
どこか寂しげなユイにフィリエルは優しく笑いかける。
「……今度は絶対ね」
「絶対だ、それにユイは合同合宿に行くんだろ?
俺も行くからその間は一緒にいられる」
ユイは勢い良く起き上がる。
「エルも行くの?」
「ああ」
「本当!?じゃあ一緒にバーハルの街回ってね」
「それは良いが、王子の俺と仲が良いとユイの周りで騒ぐのが出てくるかもしれないぞ」
ユイがフィリエルと仲が良いと分かると王族と繋ぎを取りたい者がユイにわらわらと近寄って来る可能性がある。
「騒がれるのは好きじゃないけど、悪い事してる訳じゃないし。
それに、ルエルちゃんとフィニーが撃退してくれるから大丈夫!」
あえてゲインを入れなかったのは役立たずと思っている訳ではない。たぶん…………。




