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「あなた方が騒ぐので、言い逃れできない証拠をお見せしましょう。

 まず、使われた毒物ですが、一滴で死に至る強い物でしたが、同時にとても珍しい物でした。

 おそらく効果を優先して毒の希少性は考慮しなかったのでしょうね。

 ですので、流通経路を調べればすぐに犯人に行き着きました。

 そして、愚かにも直接狙ってきた者も居ましたが、殿下に指一本触れる前に騎士達によって捕縛。

 元々忠誠心ではなく、金銭によって動くゴロツキのような者達だったので誰に頼まれたか聞けばあっさり喋ってくれましたよ」



 そしてレイスは暗殺未遂の件だけではなく、不正や汚職など他の罪状の証拠も、次々と並び立てて追い詰めていく。



 言い逃れ出来ない決定的な証拠の数々に、この場での追求はきちんと計画され実行されたものだと窺い知れる。


 実際、継承問題で騒ぐ貴族達を諫めず数年行動を起こさなかったのも、この機会に腐った貴族達を一網打尽にする証拠集めの時間稼ぎに過ぎなかった。


 そんな事など気付いていない貴族達は王が強く出ないのを良いことに、フィリエルを後継者にする為、色々な行動を裏で起こした。

 まさかそれが全て宰相に筒抜けで証拠集めに一役かっているとも知らずに……。



 貴族達は何とか突破口を見いだそうとするも、今まで多くの貴族を返り討ちにしてきた魔王だ、相手が悪い。

 完璧に集められた証拠に抜け道はなく、逃げ延びるのは難しいと次第に貴族達は諦めの色が濃くなる。



「全く、こんな穴だらけの失策で王族暗殺を企てるなど愚かとしか言えませんね。

 しかし、元々争う必要のない問題を騒ぎ立てるバカならそれも致し方ないでしょう、バカですからね」


「くっ……」



 レイスは侮蔑の言葉を口にしたが、貴族は悔しげに顔を歪めるも後が怖いので反論はしなかった。



「だいたい王族に手を出そうと思う事自体間違いなのです。

 私がいながら気付かれずに事を完遂出来ると本当に思っていた事が、あなた方の頭が足りない証拠ですよ」



 冷笑を浮かべ静かに怒る様は当事者ではない者達までぞくりと悪寒が走る。


 レイスの今までにない怒りに、王家に手を出した事への怒りだと思った周囲の貴族達は、これほど王に忠誠心を持っていたのかと感心した。


 しかし、ロイクやリューイ、王を始めとしたレイスを良く知る人物は「それは違う!」と大声を上げて否定したかった。


 何故ならレイスの怒りの理由は、貴族達の証拠集めに奔走するあまり仕事が終わらず家に帰れなかった為、このところ愛する妻と娘と過ごす時間を削られた事による八つ当たりだと知っていたからだ。


 忠誠心ではなくただ単に鬱憤を晴らしているだけだった。



「レイス、それぐらいにしておけ、これ以上の時間は惜しい」


「はぁ……仕方ありません、これぐらいにしておきましょう」



 まだ言い足りなそうなレイスだが、ため息を吐き後ろに下がる。



「この者達を連れて行け」



 王の言葉で兵達が貴族を連れ、次々と広間から退場して行く。


 捕らえられた貴族達が出て行った広間では、誰もが突然の予想外の出来事に息を殺し、しんと静まり返っていた。


 そんな誰も声を発しない中、突如男の笑い声が響いた。



「ははは、まったく恥知らずな者達だ。

 まあ、最初からあんな者達に負けるはずが無いがな!」



 笑い出したのはアレクシス派の貴族。

 反対勢力の多くが捕縛されたことで、自身達の勝利を確信し喜色を表す。


 しかし、これはあくまで次期国王を決める大事なもので貴族の派閥争いの勝敗を決めるものではない。

 下品に喜ぶアレクシス派の者達に周囲の貴族は冷めた目を送っていた。



「おっと、まだ話は終わっていませんよ」



 しかし、その雰囲気を壊すようにレイスが口を挟む。



「暗殺未遂があったのは何もアレクシス殿下だけではありません。

 フィリエル殿下の所にもアレクシス殿下同様、毒の混入や不審な事故が相次ぎましてね」



 フィリエルにも暗殺未遂があったとのレイスの発言に広間にどよめきが起きる。



「それならきっと先程の者達が仕組んだことであろう」


「いいえ、有り得ませんね。

 もしそれでフィリエル殿下に何かあれば王にして利益を得ることが出来なくなります。

 只でさえ不利な状況を悪化させるなど、いくらバカでもしないでしょう」



 次に喜んでいたアレクシス派の者達に冷ややかな笑みを向ける。



「フィリエル殿下に害意を与えたのは、彼を邪魔に思っていた人間……。

 アレクシス殿下を推していたあなた達ですね」



「私は知らん!」


「私もだ!」



 火の粉がこちらにも回ってきたことを悟り、視線を向けられた貴族は大声で反論する。



「学習能力の無い人たちですね、先程の人達を見ていなかったのですか?

 何の証拠もなしにこんな事をこんな公の場で言うわけ無いでしょう。

 調べはちゃんとついてます。もちろん、言い逃れなど出来ない証拠もです」



 有無を言わさぬレイスの迫力に、騒いでいた者達は肩を震わした後、ガックリと崩れ落ちた。





 その後、

 フィリエル派だけでなく、アレクシスを積極的に推していた貴族達のほとんどが、何かしらの罪に問われ捕まった。

 残りの一部もとばっちりを恐れ、表面上アレクシスを王太子にする事に反対する者が消え、正式にアレクシスが次期王位継承者となった。



 一見、アレクシスを推していた者達の勝利に思えるが、アレクシス派の貴族達もフィリエルの暗殺や不正などを行っており、多くの者が捕らえられ表立ってアレクシスにすり寄る事が出来なくなった。


 下手をしたら自分達も捕まった者達と仲間ではないかと疑いの目を向けられる事を恐れたからだ。




 こうして、数年続いていた継承問題は腐った貴族を一掃しつつ、アレクシス派の貴族達に必要以上に力を付けさせずに済み、終結した。




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