継承問題
その日、王宮の王の謁見の間では多くの貴族と王の側近、高官達が集められていた。
玉座に座るのはガーラント王、ベルナルト・シルヴァ・ガーラント。
数々の功績を残した先王と比べると秀でた所の無い凡庸さと、美しい息子達と比べると平凡な容姿といった、凡人さの目立つ王ではあるが、凡庸だと己をきちんと自己評価出来ているベルナルトは、大国の王という地位に酔いしれる事無く臣下達の話にも良く耳を寄せ、真面目な性格が現れた良い統治を行っている。
ベルナルトは集まった者達を見回し口を開く。
話す内容は近年頭痛の種となっていた問題だ。
「皆、よく集まってくれた。
皆を集めたのは他でもない、ここ数年問題となっていたアレクシスとフィリエルどちらを次の王にするか、という話だ」
王の言葉を聞き、ざわざわとざわめきが起きる。
騒がしくなった広間にベルナルトが手を上げるとざわめく声が一瞬で止んだ。
「まずフィリエルだが、過去を振り返っても類を見ない強い魔力を持っている。
その力はこのガーラントに仇なそうとする国にも抑止力となりえるだろう」
王の言葉にフィリエルを次の王にと推していた貴族達の顔は喜色を露わにし、アレクシスを推していた貴族達は悔しげな表情を浮かべる。
しかし、次の王の言葉で一変する。
「だがしかし、それは王である必要はない。
むしろ別の場においてこそ、その力は有効に活用出来るはずだ。
何よりフィリエル自身がアレクシスを補佐する側になりたいと、王になる事を拒否している」
一気にフィリエル派の貴族たちの顔が強張る。
「アレクシスは以前から王に成る為にと多くの事を学んできた。
本人も学園卒業後からは積極的に王である私に付いて仕事を手伝ってくれている。
人柄、判断力、能力的にも王となるに申し分ない」
そしてベルナルトは玉座から立ち上がり、大国の王に相応しい威厳のある声で宣言した。
「よって、次の王にはアレクシスを指名し、ただ今をもってアレクシスを王太子とする!」
王の宣言に慌てたのは先程まで優勢と思っていた、フィリエルを推していた者達だ。
すぐさま口々に言い募る。
「お待ち下さい!!」
「今はザーシャやフランドルなど力を付けてきた国があります。
やはりここは強者が上に立ってこそ牽制出来るはずです!」
「その通り、お考え直し下さい!」
「静まれ!!」
広間全体に響き渡る王の声に今まで騒いでいた者達の声はピタリと止まる。
「そなた達の言い分も一理ある」
「ならばっ」
「フィリエルは良くできた子だし人柄も問題ない、もし相応しい王子がフィリエルだけならばそうしたが、アレクシスという存在がいる。
それに他国からの脅威が迫った時、必然的に魔力の高いフィリエルが軍を率いる事になるだろう。そうなれば国内の政に加え軍事もではフィリエルの負担はかなりの物だ。
それならば政はアレクシスに、軍事はフィリエルにそれぞれ任せる事が一番良いと判断した」
王の言葉に多くの者は納得したが、フィリエル派の貴族は王の考えを改めさせようと必死で反論する。
「それでは、負担がかかるなら補えば宜しいのではないでしょうか」
「ほう……補うと?」
「ええ、その通りです。
フィリエル殿下の御為ならば、微力ながら私達が手助けをさせていただきます。」
「そうですとも」
だからその負担をアレクシスと分けると言っているのに、分かろうとしないのか、分からないほど頭が弱いのか……。
口では最もらしい事を言ってはいるが、いやらしい笑みを浮かべ自分達の為だと言うのがありありと見える。
「つまり、フィリエルに代わりそなた達が判断をして政治を掌握すると?
それは手助けではなく、傀儡にするという事であろう」
「いいえ!傀儡にするなど……!」
「ではなんだ!?
フィリエルより王に相応しいアレクシスがいるにも関わらずフィリエルに押し付けようとする理由はなんだ!」
貴族達は慌てて弁解するも王の鋭い視線に押し黙る。
そもそも継承問題は一部の貴族が勝手に言い争っているだけであって、アレクシスとフィリエルの二人はいたって仲の良い兄弟で、跡目を巡って争う気は全く無く、フィリエルは早くから軍に入り兄を補佐すると公の場で何度も発言しているのだ。
本来ならば継承問題など起こりようはずもないのに、これだけの問題に発展させた一部の貴族達にベルナルトは怒り心頭だった。
「父上、そのような茶番はそろそろ終わりにしませんか?
これ以上無意味に時間を浪費する事もないでしょう」
「なっ無意味とはどういう事ですか、アレクシス殿下!」
アレクシスは王族が持つ緑の目と青みがかった黒い髪をし、王子らしい穏やかで気品を感じるさせる雰囲気を持った、フィリエル同様見惚れるような美しい王子だ。
アレクシスは長々と続く無駄な議論に辟易し早く終わらせようと口を開く。




