大切な落し物
連れてこられた先は学園の屋上だった。
ユイには全く覚えはないのだが、三人は何故か敵意むき出しでユイを睨み付けている。
人通りのない屋上なのでヤバそうだったらすぐに逃げようと、逃げ道の屋上の扉を確認、扉に背を向けて取りあえず話を聞いてみる。
「それで、何の用ですか?」
「ノレ様の事よ!」
「ノレ?」
ユイが思ったのは誰?だった。
思い出そうと記憶を巡らすが全く心当たりがない。
「ノレ・バッツ様の事よ」
「あなた彼から告白されたにも関わらず振ったそうじゃない」
「しかも彼に跳び蹴りして怪我までさせて、あなた何様なのよ!」
三人の女子生徒が次々と騒ぎ立てる。
あまりのうるささに耳を塞ぎたくなりながら逡巡する。
跳び蹴りと聞いて漸くユイは思い出した。
数日前授業中に言い寄り、断ると逆上してルエルに跳び蹴りをかまされた男だ。
しかし、何故それでこの人達に呼び出されなければならないのかと疑問に思ったが、フィニーがノレは一部には人気があると言っていた。
「好意を持っていた人が私に告白したのが気に食わないって事ですか?」
「なんですって!?
ノレ様に告白されたからっていい気にならないで!」
激高する女生徒に面倒臭い事になったとげんなりする、今すぐ回れ右して帰りたかった。
「そんなつもりではないです。
そもそも彼に好意は持ってないので付き合う気はありません、安心して下さい」
「貴女程度の女が彼を振るなんて身の程知らずだと思わないの!?」
「……私に彼と付き合って欲しかったんですか?」
「違うわよ!貴女如きが彼から好意を向けられる事自体が問題なのよ!」
「(じゃあ、どうしろと…………)」
振るのは身の程知らず、かと言って付き合うなど以ての外。
付き合っても振っても文句を言うならどうすれば納得するのやら。
ノレ同様、話の通じない彼女達に辟易する。
跳び蹴りされたのも、ノレが強引にユイを引きずって行こうとしたのが原因なのだが彼女達はそれが分かっていないようだ。
全く持って迷惑な話だが、結局は自分達が相手にされないからその不満をユイにぶつけているだけなのだ。
ユイは本当に面倒臭いと思いながら、思わず小さなため息を吐く。
しかしそれが彼女達に聞こえたようで怒りに触れてしまう。
儚げで誰かに守られなければ何も出来なさそうに見える子は、上級生三人で威嚇すれば直ぐに泣き出すと思っていたのだ。
しかし、予想に反し冷静な様子のユイの態度が、尚更怒りに拍車をかけていた。
「貴女私達をバカにしてるの!?」
「いいえ、そうじゃなくて……痛っ……」
そうですと言えるわけもなく否定したが、話の途中で突然一人がユイに掴みかかり突き飛ばした。
その瞬間、首に掛け制服の中にしまっていたペンダントが外に飛出し、鎖が女子生徒の指に引っかかり鎖が切れて足元に落ちてしまった。
「あっ!」
今までの冷静だった口調とは打って変わって慌てた声色に、ペンダントを拾い上げた女子生徒達は歪んだ笑みを浮かべた。
「ずいぶん慌ててるのね、そんなに大事なのかしらこれ」
「…………」
「そう………」
何も答えないユイに、ペンダントを手に持っていた女子生徒の一人が柵の方に近づき、そこからペンダントを勢いよく外に投げ捨てた。
「ーーーつっ!!」
いきなりの事に一瞬固まるユイだったが、
すぐさま柵に近付き下を覗いたものの、屋上から投げられたらペンダントは下に落ち、目視では確認できない。
「あはは、いい気味だわ」
動揺を見せているユイに漸く気が晴れたのか口々に笑う三人をユイは睨み付けた。
「何よその目は、あなたが悪いんでしょ!!」
「これに懲りたら二度と刃向かうんじゃないわよ!」
彼女達への怒りが込み上げるが、すぐにペンダントの行方が気になり、急いで屋上を後にした。
すぐに先程いた屋上の真下辺りに来て辺りを見回すが、それらしい物は見当たらない。
「どうしよう、見つからない!」
その後何時間も周囲を探したが見つからず、辺りが暗くなってきてしまい仕方なく中断して明日また出直す事にした。
***
「おーいルカ」
「ジークか、お前何を持ってる」
「ああこれか」
ジークと呼ばれた赤毛の髪を後ろで一つに結んだ男は、手に持っている物をよく見えるように、青みがかった灰色で肩までの長さの髪を毛先を真っ直ぐに切りそろえた男、ルカに見せた。
「それは……何故お前が持ってる」
「さっき拾った、あいつが落としたんだろ」
「そうか、なら早く届けた方がいい。
いつも肌身離さず持って大事にされているものだし」
「ああ、そうだな」
拾ったペンダントを持って二人はそろって学園を後にした。




