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呼び出し

「えっ!?どういうことですか?」



 今日の試験が終わった後、職員室に来たユイはトラヴィスから話を聞き、珍しく表情を露わにし驚いていた。



「だからな、今度夏休みに行われる合同合宿にお前も参加する事が決まったって言ってんだよ」


「合同合宿ってあれですよね、ダイン、セレスト、ラストールの三校で、中でも特に優秀な学生を集めて普段学園では出来ないような特別授業したり、卒業後の為に偉い人達が優秀な生徒を下見に来たりもするっていうあの合同合宿?」


「ああ、その合同合宿だ」


「何でですか?

 私Hクラスの上、リーフェなんですけど……」



 普通、合同合宿に参加出来るのは優秀なAクラスの中でも上位の生徒がほとんどで、Hクラスのしかも無属性しか使えない落ちこぼれと揶揄されるリーフェのユイが、何故参加する事になるかが分からなかった。



「確かにそうだが、お前だって去年の中等の時の大会で八強まで勝ち抜いただろう」


「……そういえばそうですね」



 トラヴィスに言われその事を思い出した。



 中等学校の大会とは、魔法を使用し、相手を降参または戦闘不可にした者が勝ちという一対一の対戦試合だ。


 まず、各学校で予選が行われそれを勝ち抜いた者が本戦に進むことができる、中等で学んでいる者が参加する大規模な大会だ。

 大会には王族や軍、ギルド、教会のお偉方も観戦に来る。


 大会の上位者には魔法学校の推薦も得られるとあって、毎年白熱した戦いが繰り広げられる。

 リーフェのユイが魔法学校に入れたのも、この時八強に残った事で推薦を獲得したおかげだ。



「基本Aクラスから選ばれるが、一年生の場合は八強に選ばれたやつは全員参加が決まりだ」


「………でも先生、私一度も戦ってないんですけど……」


「……………」



 ユイの言葉にトラヴィスも言葉に詰まる。


 ユイは大会で八強にまで残ったがそれまでの試合では、対戦相手が急病で棄権・試合開始直後に降参といった事が続き、準々決勝まで一度も戦っていないのだ。



 大会の時、あまりにも棄権・降参が続いたので裏で何かあるのではと疑われ、大会の運営の者に話を聞かれたり、周りから疑惑の目を向けられ陰口を言われたりと大変な思いをした。


 もちろん対戦相手の話からすぐに疑いは晴れたのだが……。


 周りは落ちこぼれのはずのリーフェが上位にまで残った事が信じられないのか、中々信じて貰えず何度も色々な人が代わる代わる話を聞きに来て、やっと疑惑が晴れた時にはぐったりとなっていた。



 当時の嫌な出来事を思い出しユイは眉間にしわを寄せる。



「病欠って事にして下さい。

 あの時みたいに色々言ってくるのがいるし……」


「そうしてやりたいが、お前の参加は決まりだからなぁ」



 大きな大会だった為、トラヴィスもその時の事は話に聞いていたので出来ればそうしてやりたかったが、なにぶん合同合宿は学園ではなく国のお偉方が生徒の実力を確認する為に設けた催しだ。


 学園内の催しと違い簡単に行かないという訳にはいかないだろう。


 それに顔を覚えられれば勧誘が来るかもしれないのだ、普通なら病気だろうと這いずってでも参加する。

 行きたくないユイの気持ちも分かるが行かなかったのが自分のクラスの生徒だと知れたらネチネチ文句を言ってくる輩が出て面倒臭い事になるなと、トラヴィスは自分の為にもユイを参加させないわけにいかなかった。



 どうにかして行かない方法はないか悩んでいるユイに、トラヴィスは最終兵器を使うことにした。



「よく聞けカーティス、合宿が行われるのはリザの森の近くだが、そこから遠くない所にバーハルの街がある。

 その地方は牛乳やバター、果物の名産場所でな、バーハルの街ではおいしーいお菓子の店がたくさんあるぞ。

 もちろん合宿中には自由行動の時間もある、お菓子を食い放題だ!」


「行きます」



 ユイは即答した。



「よし、よく言った!

 合宿は二週間もあるから存分に食ってこい!」


「はい!」



 ユイはご機嫌で職員室から出て行った。



「(ちょろいな)」



 トラヴィスはその様子を見て一人ほくそ笑んでいた。



 ***




「(帰りに本屋に寄ってバーハルのスイーツのお店が載ってる本を買いに行こう)」



 ユイが職員室を出た後、バーハルの街でどんなお菓子を食べようかと考えながらご機嫌で廊下を歩いていると突然声を掛けられた。



「ねえ、ちょっといい?」



 声のした方を振り返ると、上級生と思われる三人の女生徒がいた。

 ネクタイはBクラスの色に三の数字があるので、三年生のBクラスの人のようだ。


 しかし、ユイには三年に知り合いはいないので呼び止められたことに疑問が浮かぶ。



「私ですか?」


「あなたユイ・カーティスよね?」


「はい」


「話があるのよ、ちょっと来て」


「今からですか?」



 先程までのご機嫌だった気分は急下降する。

 なにせこの後本屋に寄りたいのだ、こんな所で道草を取りたくない。


 ハーバルのお菓子が私を呼んでいる!



「当たり前でしょ!いいから着いてきなさい!」



 ユイは逃げようかと思ったが後々面倒臭い事になりそうなので、しぶしぶ着いていく事にした。




「(うぅぅ、本屋が~)」 





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