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食事の席に着くまでの間もぴったり寄り添い、時々愛を囁くレイス。
新婚だという事を差し引いても、見ている方が恥ずかしくなるような溺愛ぶりにロイクの顔が引きつる。
「レイスがやっと出来た奥さんと娘を溺愛してるのは知ってたが、コレほどとはな」
「まあ、でも仕方ないわよ、学生の時から二十年も一途に思い続けた人と漸く結婚出来たんだから」
「二十年?」
「学生の時から?」
食事を食べ始めているとロイクとリューイから気になる話にユイとシェリナが聞き返す。
「なんだシェリナは知らないのか?」
「ロイク!!」
レイスは話し始めようとするロイクを慌てて止めに入る。
レイスは喋らせてなるものかと必死だ。
「良いじゃねえか。
せっかくだからお前のへたれっぷりを暴露してやるよ」
「聞きたいわ!ロイクさんお願いします」
レイスは止めたかったが、その前にシェリナが間に入り、避けられないと分かり頭を抱えた。
「俺達が学生の時シェリナの先輩だったのは知ってるよな?」
「ええ」
「レイスはその時からシェリナさんに片思いしてたのよ」
「あら?でも学園で話したことなかったわよ」
「シェリナは学園でも人気あったし自分じゃ自信ないとか言って後込みしてやがったんだよ。
やっと話せたのは俺達が卒業した後にじーさんのパン屋に客として行って話したのが最初だ」
そうは言っても所詮は客と店員、ちゃんと話せたとは言えないような簡単な会話だけで、とても会話らしい会話はしていなかった。
その証拠にシェリナは全く思い出せない様子で、ロイクは呆れた顔で一瞬レイスに視線を向け肩をすくめた。
「告白もデートの誘いすら一々理由付けては先延ばし、やっと決心がついたが、いざってなったらあの嫌な伯爵家の跡取りにかっ攫われて………いでっ!!」
話の途中で横にいたリューイがロイクの横腹に肘鉄を食らわせた。
「何すんだよ!」
リューイは抗議するロイクを睨み付け、ユイの方をちらりと見た。
シェリナをかっ攫った嫌な伯爵とはユイの父親の事。ロイクはそれを思い出し、ばつの悪そうな顔をする。
「わりぃ、ユイの父親なのに無神経な事言っちまったみたいだな」
「まったくあんたって奴は、そんな無神経だから彼女が出来ないのよ!」
「それは関係ねぇだろ!」
「あの……気にしてないので大丈夫です」
別に気を使ってそう言ったわけではなく、ユイは本当に気にしてはいなかった。
ユイも幼い頃は、父親らしい事など一つもしなかった父親でも気に入られようと必死になった時期があったが、今ではもう父親だと思う事など出来なかった。
なのでロイクがどれだけ口汚く言ったとしても何とも思わない。
「ロイクさん、それで続きは?」
シェリナは少し悪くなった雰囲気を収めるように話の続きを催促する。
ただ、続きが早く聞きたかったというのもあるのだが。
「あ、ああ。
それでシェリナが結婚した後かなり荒れてさ、何でもっと早く告白しなかったんだー!って、酒を飲みまくって酔っ払うし、うぜえのなんのって。
その後も未練たらたらで沢山あった見合いの話も断って結婚もしないで二十年って訳だ」
「ロイク……覚えていなさいよ。
だいたい結婚してないのは貴方もでしょう!」
恥ずかしい黒歴史を暴露されて悔しそうにロイクを睨む。
しかし、付き合いの長いロイクは睨まれてもひょうひょうとしている。
「聞こえねえなぁ」
話を聞いたシェリナはそれ程長い間思い続けてくれていた喜びと、もし最初からレイスと結婚していたらという後悔が過ぎる。
「そんなに前から思ってくれていたなんて。
もっと早くにレイスの存在に気付けていたら……」
「シェリナが気に病む必要はないんですよ。
おかげで可愛い娘が出来たのですから二十年は無駄ではなかったのでしょう
今はこうして貴女と一緒になれて私は幸せです」
「レイス……」
二人は手を握り見つめ合う。
「またかよ」
「まあ、良かったじゃない。
一途に思い続けた気持ちが報われて」
二人の世界に入ってしまいユイ達は苦笑いする。
しかし、レイスのへたれっぷりを話したつもりが、いつの間にかそれ程思い続けた一途な男という美談になっていて、この結婚にいたるまでに沢山の迷惑を被ったロイクにとっては納得がいかない。




